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第七話 結婚の約束
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「け、結婚の約束!?」
どうしよう、考えても全然思い出せません。きっとこの記憶も、私の何故か思いだせない過去の一端なのでしょう。こんな大事なものだというのに……!
そもそも、私には愛し合っめの結婚なんて、世界一似合いませんわ!
「レナード様、落ち着いてくださいませ。私のこの目を見てください」
「とても綺麗な赤い目ですね。まるでルビーのように輝いていて、思わず見惚れてしまいます」
「……こ、この目は私が悪魔の子と呼ばれる、恐ろしいものなのです! こんな私を愛するなんて、間違ってますわ!」
「悪魔? ははっ、ご冗談を。こんな美しい目を持つ君は、俺には天使にしか見えませんよ!」
「っ…………!!」
レナード様は、私の手を取ってニコッと笑ってみせた。
私のこの目を見て、恐れるどころか美しいと褒めてくれたのは、彼が初めてです。嬉しくて、思わず人様には見せられない、だらしない顔になってしまいそうです。
「君のその目については、もちろん知ってます。しかし、俺は君の目なんて気にしません。むしろ、その目も愛しているくらいです!」
「あ、ありがとうございます……えと、えっと……そうですわ、話を戻しましょう! さっき仰っていた、結婚の約束というのは?」
「俺達が幼い頃、君と交わした誓いの一つですよ!」
照れてしまっているのを隠すように、やや強引に話題を逸らすと、聞き捨てならない言葉が出てきた。
幼い頃……誓い……それってもしかしたら……。
「結婚とは関係ないかもしれませんが……それは、私が聖女として立派になり、一人でも多くの人を助けるというものですか……?」
「そう、それです! よかった、覚えているじゃないですか! その時に、再会したら結婚しようという話をしたではありませんか!」
私の聖女としての誓いを知っているということは、レナード様が私を支えていた誓いを立てたお方なの!? まさか、いつか会えればと思っていたお方に、こんなに早くお会いできるなんて! いえ、そもそもすでに存じ上げているお方だったなんて!
……でも、どうして……彼を見ても、彼のお話を聞いても、昔のことが思い出せない……。
「………………」
「サーシャ様? どうしてそんな悲しそうな顔をしているのですか?」
「……申し訳ございません。私、昔のことがほとんど思い出せないんです。原因は、私にもわからなくて……恐らく、その思い出せない記憶の中に、結婚の話も……本当に、申し訳ございません……」
怒られてもいい。殴られたってかまわない。だって全て、忘れてしまった私が悪いのですから……そう覚悟してから、レナード様に深々と頭を下げる。
そんな私の肩に、ポンっと優しく手が乗せられた。
「当時のことを俺が話したら、思い出すかもしれません。よろしければ、話をさせてもらえませんか?」
「はい、もちろん」
「ありがとうございます、サーシャ様」
そう言うと、レナード様は私の手を優しく引っ張ってソファに座らせると、その隣に腰を下ろしてから、私との過去の話を、優しく話し始めました。
「もう何年も前のことです。幼かった頃の俺は、とある事情があって、一人で世界中を渡り歩いていました。お金なんて当然無く、毎日野草や果実を採って食べ、時には盗みをしてまで生活をしてました」
「えっ……でも、レナード様はクラージュ家のご子息様ではありませんか。なのに、どうして?」
「実は、俺はこの家の人間じゃないんですよ。元々は、田舎の小さな村に住んでました。それから色々あって一人で彷徨い、この家の当主に拾われたんです」
てっきり私は、レナード様はこの家で生まれたお方だとばかり思ってましたが……私の想像なんて及ばないくらい、大変な過去を過ごしていたのですね……。
「世界を旅している時に、俺は体調不良と怪我が重なってしまい、森の中で動けなくなりました。俺の人生はここまでか。そう思った時、俺の前に、天使がやってきました」
「天使?」
「サーシャ様のことですよ」
「わ、私!? て、天使って……は、恥ずかしいですわ……」
「照れてる顔も美しいですね」
「う、うぅ~……!」
そんなに堂々と仰られると、先程から感じるときめきも相まって、顔が熱くなってきてしまいます。
「話を戻しましょう。当時のサーシャ様から、自分は近くの教会で、聖女の勉強をしてると教えてもらいました。彼女は俺のことを大層心配し、その素晴らしい聖女の魔法で、俺の怪我を治してくれました。ただ、俺の体調はすぐに治せなかったようで、何日もかけて治療を続けてくれました」
確かに私なら、目の前で苦しんでいるお方がいらっしゃったら、何日かかっても治すでしょう。だから、やっぱりその人物は私で間違いないのでしょう。
でも……いくら聞いても、やはり思い出すことが出来ない……。
「当時の俺は、ずっと他人を信用できずにいましたが、君の優しい気持ちに触れて、少しずつ君に心を開き、同時にどんどんと惹かれていきました。しかし、幸せな時間は長く続かなかった……俺は森を離れざるを得なくなってしまいました」
「どうしてですか?」
「その辺りも、事情がありまして……俺はあなたと別れることを決意しました。その別れ際にしたのが……」
「誓い、でしょうか?」
「その通りです」
まだ思い出せないけど、当時起きたことについては、大体わかってきましたわ。
「俺は君のことを愛している。必ず迎えに来るから、その時は結婚しようと伝えました。すると、あなたも俺のことを愛していると、快く結婚を受け入れて、結婚を誓ってくださいました。それを聞いた俺は、必ず君を守り、幸せにすると誓いました。そして俺は君と別れ、再び世界を転々とし……この家の当主に拾われて、今に至ります」
「…………」
「他にも、君は誓いを立ててくれました。それらに関しては、君も覚えているものです」
「はい。聖女として立派になり、一人でも多くの人を助ける……この誓いは、私の心の支えになっていました」
ずっと大変な生活をしている中で、つらいと思ったことは一度や二度ではありません。それでも頑張れたのは、レナード様との誓いがあったからでしょう。
「俺からの話は以上です。何か思い出せそうですか?」
「……申し訳ございません……」
「そうですか」
丁寧に説明をしていただいたのに、私は何一つ思い出すことが出来ませんでした。
こんな失礼な女、きっと愛想を尽かせただろう。そう思った私の気持ちなんて一切お構いなしに、レナード様は高らかに笑っておりました。
「それならそれで、問題ありません! 思い出はまた作ればいいですし、君の気持ちが俺から離れてしまったのなら、また俺が愛してもらえるように頑張ればいいだけです!」
「……お、怒っていらっしゃらないのですか? 私、大切な思い出を忘れてしまったのですよ?」
「怒る? ははっ、まさか! 俺との誓いを少しでも覚えていてくれただけで、十分ですよ! もちろん、全部忘れていても、怒るなんて選択肢はありませんが!」
大切な思い出を忘れてしまう薄情な人間なんて、怒られても嫌われてもおかしくありません。なのに、このお方は私のことを許してくれるのですね……。
どうしましょう。より一層レナード様に対して、胸がドキドキしております。やはり私……彼のことが……。
「あの、私……今のお話を聞いて、一つだけわかったことがあるのです」
「おお、それはなにより! それで、そのわかったこととは?」
「……こんなの、都合のいいお話と思われるでしょうが……あなたと再会した時に、凄く胸が高鳴ったんです。それから、ずっとあなたにときめいてしまっていて……これって、きっと心の奥底では、あなたへの恋心を覚えていたんだと思います……」
自分の顔が真っ赤になっているのを自覚しつつも、誠実に対応してくれたレナード様に、私も真っ直ぐな気持ちを伝える。
すると、レナード様はぽかんとした顔で数秒程固まってから、ソファから転げ落ちてしまいました。
「れ、レナード様!? どうされたのですか!?」
「……さ、サーシャが俺への恋心を覚えていてくれたなんて……か、感動で意識が保てない……」
それはさすがに、少々大げさなような気がしますが……。
「しっかりしてくださいませ、レナード様。その……昔のことを思い出せない、薄情な女ですが……あの時の誓いを果たさせてくださいませ」
「サーシャ様……ありがとうございます。では、改めて言わせてください」
レナード様は、何事もなかったかのように立ち上がると、私の手をそっと取りました。
「俺はあなたのことを愛しています。俺と、結婚してください」
「はい、よろこんで」
嘘偽りの無い、真っ直ぐな愛の告白が嬉しくて、間髪入れずに答えた私は、大喜びするレナード様に、強く強く抱きしめられました。
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「君のその目については、もちろん知ってます。しかし、俺は君の目なんて気にしません。むしろ、その目も愛しているくらいです!」
「あ、ありがとうございます……えと、えっと……そうですわ、話を戻しましょう! さっき仰っていた、結婚の約束というのは?」
「俺達が幼い頃、君と交わした誓いの一つですよ!」
照れてしまっているのを隠すように、やや強引に話題を逸らすと、聞き捨てならない言葉が出てきた。
幼い頃……誓い……それってもしかしたら……。
「結婚とは関係ないかもしれませんが……それは、私が聖女として立派になり、一人でも多くの人を助けるというものですか……?」
「そう、それです! よかった、覚えているじゃないですか! その時に、再会したら結婚しようという話をしたではありませんか!」
私の聖女としての誓いを知っているということは、レナード様が私を支えていた誓いを立てたお方なの!? まさか、いつか会えればと思っていたお方に、こんなに早くお会いできるなんて! いえ、そもそもすでに存じ上げているお方だったなんて!
……でも、どうして……彼を見ても、彼のお話を聞いても、昔のことが思い出せない……。
「………………」
「サーシャ様? どうしてそんな悲しそうな顔をしているのですか?」
「……申し訳ございません。私、昔のことがほとんど思い出せないんです。原因は、私にもわからなくて……恐らく、その思い出せない記憶の中に、結婚の話も……本当に、申し訳ございません……」
怒られてもいい。殴られたってかまわない。だって全て、忘れてしまった私が悪いのですから……そう覚悟してから、レナード様に深々と頭を下げる。
そんな私の肩に、ポンっと優しく手が乗せられた。
「当時のことを俺が話したら、思い出すかもしれません。よろしければ、話をさせてもらえませんか?」
「はい、もちろん」
「ありがとうございます、サーシャ様」
そう言うと、レナード様は私の手を優しく引っ張ってソファに座らせると、その隣に腰を下ろしてから、私との過去の話を、優しく話し始めました。
「もう何年も前のことです。幼かった頃の俺は、とある事情があって、一人で世界中を渡り歩いていました。お金なんて当然無く、毎日野草や果実を採って食べ、時には盗みをしてまで生活をしてました」
「えっ……でも、レナード様はクラージュ家のご子息様ではありませんか。なのに、どうして?」
「実は、俺はこの家の人間じゃないんですよ。元々は、田舎の小さな村に住んでました。それから色々あって一人で彷徨い、この家の当主に拾われたんです」
てっきり私は、レナード様はこの家で生まれたお方だとばかり思ってましたが……私の想像なんて及ばないくらい、大変な過去を過ごしていたのですね……。
「世界を旅している時に、俺は体調不良と怪我が重なってしまい、森の中で動けなくなりました。俺の人生はここまでか。そう思った時、俺の前に、天使がやってきました」
「天使?」
「サーシャ様のことですよ」
「わ、私!? て、天使って……は、恥ずかしいですわ……」
「照れてる顔も美しいですね」
「う、うぅ~……!」
そんなに堂々と仰られると、先程から感じるときめきも相まって、顔が熱くなってきてしまいます。
「話を戻しましょう。当時のサーシャ様から、自分は近くの教会で、聖女の勉強をしてると教えてもらいました。彼女は俺のことを大層心配し、その素晴らしい聖女の魔法で、俺の怪我を治してくれました。ただ、俺の体調はすぐに治せなかったようで、何日もかけて治療を続けてくれました」
確かに私なら、目の前で苦しんでいるお方がいらっしゃったら、何日かかっても治すでしょう。だから、やっぱりその人物は私で間違いないのでしょう。
でも……いくら聞いても、やはり思い出すことが出来ない……。
「当時の俺は、ずっと他人を信用できずにいましたが、君の優しい気持ちに触れて、少しずつ君に心を開き、同時にどんどんと惹かれていきました。しかし、幸せな時間は長く続かなかった……俺は森を離れざるを得なくなってしまいました」
「どうしてですか?」
「その辺りも、事情がありまして……俺はあなたと別れることを決意しました。その別れ際にしたのが……」
「誓い、でしょうか?」
「その通りです」
まだ思い出せないけど、当時起きたことについては、大体わかってきましたわ。
「俺は君のことを愛している。必ず迎えに来るから、その時は結婚しようと伝えました。すると、あなたも俺のことを愛していると、快く結婚を受け入れて、結婚を誓ってくださいました。それを聞いた俺は、必ず君を守り、幸せにすると誓いました。そして俺は君と別れ、再び世界を転々とし……この家の当主に拾われて、今に至ります」
「…………」
「他にも、君は誓いを立ててくれました。それらに関しては、君も覚えているものです」
「はい。聖女として立派になり、一人でも多くの人を助ける……この誓いは、私の心の支えになっていました」
ずっと大変な生活をしている中で、つらいと思ったことは一度や二度ではありません。それでも頑張れたのは、レナード様との誓いがあったからでしょう。
「俺からの話は以上です。何か思い出せそうですか?」
「……申し訳ございません……」
「そうですか」
丁寧に説明をしていただいたのに、私は何一つ思い出すことが出来ませんでした。
こんな失礼な女、きっと愛想を尽かせただろう。そう思った私の気持ちなんて一切お構いなしに、レナード様は高らかに笑っておりました。
「それならそれで、問題ありません! 思い出はまた作ればいいですし、君の気持ちが俺から離れてしまったのなら、また俺が愛してもらえるように頑張ればいいだけです!」
「……お、怒っていらっしゃらないのですか? 私、大切な思い出を忘れてしまったのですよ?」
「怒る? ははっ、まさか! 俺との誓いを少しでも覚えていてくれただけで、十分ですよ! もちろん、全部忘れていても、怒るなんて選択肢はありませんが!」
大切な思い出を忘れてしまう薄情な人間なんて、怒られても嫌われてもおかしくありません。なのに、このお方は私のことを許してくれるのですね……。
どうしましょう。より一層レナード様に対して、胸がドキドキしております。やはり私……彼のことが……。
「あの、私……今のお話を聞いて、一つだけわかったことがあるのです」
「おお、それはなにより! それで、そのわかったこととは?」
「……こんなの、都合のいいお話と思われるでしょうが……あなたと再会した時に、凄く胸が高鳴ったんです。それから、ずっとあなたにときめいてしまっていて……これって、きっと心の奥底では、あなたへの恋心を覚えていたんだと思います……」
自分の顔が真っ赤になっているのを自覚しつつも、誠実に対応してくれたレナード様に、私も真っ直ぐな気持ちを伝える。
すると、レナード様はぽかんとした顔で数秒程固まってから、ソファから転げ落ちてしまいました。
「れ、レナード様!? どうされたのですか!?」
「……さ、サーシャが俺への恋心を覚えていてくれたなんて……か、感動で意識が保てない……」
それはさすがに、少々大げさなような気がしますが……。
「しっかりしてくださいませ、レナード様。その……昔のことを思い出せない、薄情な女ですが……あの時の誓いを果たさせてくださいませ」
「サーシャ様……ありがとうございます。では、改めて言わせてください」
レナード様は、何事もなかったかのように立ち上がると、私の手をそっと取りました。
「俺はあなたのことを愛しています。俺と、結婚してください」
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