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第七十七話 エリン改めアトレ
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「エリン、エリン……そろそろ起きるんだ。到着するよ」
「…………?」
優しく体を揺すられる感覚に反応して目を覚ますと、そこにはオーウェン様の顔があった。
……あ、そうだわ。私、あれからまた眠ってしまったのね……ぐっすり眠っていたのか、体の疲れが取れているし、頭もスッキリしている。
これも、オーウェン様の愛情によるものだったりして……なんて、変なことを考えてないで、降りる準備をしないと。
「オーウェン様のおかげで、疲れが取れました。ありがとうございます」
「それならよかった。あっ、エリン。寝癖がついてる」
「えぇ!? やだ、恥ずかしい……どこですか!?」
「ジッとして。俺が直すから」
オーウェン様は、降りる準備をするために起き上がった私の寝癖を、何度も撫でることで直してくれた。
はぁ……倒れちゃったり、寝かしてもらったり、寝癖を直してもらったり……旅に出てから良いところが全くないわ。これでは、オーウェン様に愛想を尽かされちゃうかもしれない。もっとしっかりしないと。
「お客様、お待たせいたしました。間もなく到着致します」
「あ、わかりました!」
ここまで安全に連れて来てくれた御者の言葉通り、一分もしないうちに馬車は止まった。
「エリン、足元に気を付けて」
「はい」
オーウェン様の手を借りて馬車から降りると、そこには巨大な川と、沢山の人で賑わう町が広がっていた。
商売をする人、物を運ぶ人、買い物をする人、団欒を楽しむ人……本当に色々な人がいて、見ているだけでも楽しめそう。
「これがフラーブ川……まだアンデルクにいる時に、話には聞いていましたけど、こんなに大きいんですね! 向こう岸が見えないです!」
「世界的に見ても、三本の指に入るくらいの大きな川だからな」
「そんなに大きいんですか!?」
大きいというのは知っていたけど、まさかそこまでの規模だというのは知らなかった。
今まで薬の勉強ばかりさせられていたけど、もっとそれ以外のことも勉強しないといけないというのを痛感させられたわ。
「さて、どこかで連絡船の乗り場か受付があると思うんだが……失礼、アンデルクの西に行ける連絡船の乗り場をご存じありませんか?」
「それでしたら、あそこの建物がそうですよ」
「あの建物ですね。ありがとうございます」
オーウェン様は、丁寧な口調で近くを通りかかった男性に聞いてくれた。
知り合いでもない人に、あんなに簡単に道を聞けるなんて、オーウェン様のコミュニケーション能力は本当に凄いわ。
私なんか、初めてパーチェに訪れた時に、ギルドの場所を聞いたのだけど、とても緊張したのをよく覚えているもの。
「そうだ、行く前に話しておきたいことがある」
「はい?」
「ここはもう、アンデルクの領地だ。もしかしたら、エリンの素性を知っている人間に会う可能性がある」
「た、確かに……見つからないに越したことはないですよね」
「そういうことだ。だから、少々変装をしよう」
オーウェン様はそう言うと、私と一緒に市場に行き、度が入っていない、おしゃれ用の眼鏡を購入してくれた。
それに加えて、いつも私は薬を作る時に、金色の髪をお気に入りのシュシュでまとめてポニーテールにしているのだけど、オーウェン様の提案で、サイドテールにしてみた。
自分ではよくわからないけど、とりあえずこれで変装は大丈夫かしら?
「良く似合っている。新たな一面が見れて、俺は幸せだよ」
「大げさですよ。あっ……呼び方も気を付けた方が良いですよね?」
「それもそうだな……それじゃあ、しばらく人目がある時は、アトレと呼ぶことにするよ」
「それなら違和感が無いですね。よろしくお願いします」
改めて今後のことを決めてから受付に行くと、とてもがっしりした男の人が受付をしていた。
「失礼。アンデルクの西に行く連絡船に乗りたいのですが」
「かしこまりました。では、こちらが乗船料です」
受付の男性の提示した金額を渡すと、それと引き換えに乗船券を渡してくれた。
これをもって、船に行けばいいってことよね? 初めてのことだから、合ってるかちょっぴり不安だわ。
「たくさん船がありましたが、どの船が俺達の乗る船なのでしょうか?」
「この建物を出て、まっすぐ行ったところに船がございます。もし迷われてしまったら、作業員に聞けばお答えいたします」
「なるほど、ありがとうございます。アトレ、行こうか」
「は、はい」
まだ新しい呼び方に慣れていないせいで、ちょっとだけ戸惑いながらも、私はオーウェン様に手を引かれて建物を後にする。
確か、建物を出てまっすぐって言ってたわね。とはいっても……まっすぐ行ったところには、船が何隻もあるから、やっぱり聞かないとわからなさそうだ。
簡単に聞け言うけど、周りの人はみんな忙しそうに作業をしている。この状態で聞くのは、邪魔になりそうで気が引けるけど……このままボーっとしてるわけにもいかないし、オーウェン様に頼りきりも良くない。頑張って声をかけよう。
「あ、あのー……すみません。この乗船券で乗る船はどれか教えてもらえませんか?」
「お? どれどれ……その券なら、そこにある船だぜ。船長の元に案内してやっから、ついてきな!」
「ありがとうございます! オーウェン様、ちゃんと聞けました!」
「アトレがちゃんと誠意を伝えたからだよ」
「そ、そんなこと……えへへ」
傍から見たら、ただ船を尋ねた程度のことしかしていないけど、オーウェン様に褒められると、なんだか凄いことをしたんじゃないかって気がしてくるから不思議だ。
「この船ですね。わぁ、大きな帆船……!」
「アトレは船に乗るのは初めてなのか?」
「一回だけ乗ったことがあるそうです。例の連れていかれた時に乗せられたそうで……まあ、記憶には全然無いんですけどね」
「そうだったのか」
このことを教えてくれたのは、城にいた時、私の部屋の見張りを務めていた、数少ない信用できる人間であるハウレウだ。
あれからハウレウや、逃がす時に力を貸してくれた兵士のジル様の安否は、全くわからないままだ。
……二人はきっと無事よね。いつか再会した時に、無事に薬屋を開いてたくさんの人を助けているとか、大切な人に出会えたことを話したい。
そんなことを思っていると、これから乗る船から一人の男性が降りてきた。筋骨隆々な体に、迫力のあるその顔も相まってか、ちょっと近づくのが怖い感じの方だ。
「お二人さん、乗客か?」
「は、はい! 乗船券もあります!」
「おう、確かに。俺様がこの船の船長だ。もうすぐ出発するから、船に乗ってくつろいでいてくれ」
「わかりました」
船長様に促されて船に乗ると、既に何人もの乗客が談笑したり、のんびり景色を見たりと、各々が好きなようにして過ごしていた。
初めての船旅……一体どんなものになるのだろう。今から楽しみだわ!
「…………?」
優しく体を揺すられる感覚に反応して目を覚ますと、そこにはオーウェン様の顔があった。
……あ、そうだわ。私、あれからまた眠ってしまったのね……ぐっすり眠っていたのか、体の疲れが取れているし、頭もスッキリしている。
これも、オーウェン様の愛情によるものだったりして……なんて、変なことを考えてないで、降りる準備をしないと。
「オーウェン様のおかげで、疲れが取れました。ありがとうございます」
「それならよかった。あっ、エリン。寝癖がついてる」
「えぇ!? やだ、恥ずかしい……どこですか!?」
「ジッとして。俺が直すから」
オーウェン様は、降りる準備をするために起き上がった私の寝癖を、何度も撫でることで直してくれた。
はぁ……倒れちゃったり、寝かしてもらったり、寝癖を直してもらったり……旅に出てから良いところが全くないわ。これでは、オーウェン様に愛想を尽かされちゃうかもしれない。もっとしっかりしないと。
「お客様、お待たせいたしました。間もなく到着致します」
「あ、わかりました!」
ここまで安全に連れて来てくれた御者の言葉通り、一分もしないうちに馬車は止まった。
「エリン、足元に気を付けて」
「はい」
オーウェン様の手を借りて馬車から降りると、そこには巨大な川と、沢山の人で賑わう町が広がっていた。
商売をする人、物を運ぶ人、買い物をする人、団欒を楽しむ人……本当に色々な人がいて、見ているだけでも楽しめそう。
「これがフラーブ川……まだアンデルクにいる時に、話には聞いていましたけど、こんなに大きいんですね! 向こう岸が見えないです!」
「世界的に見ても、三本の指に入るくらいの大きな川だからな」
「そんなに大きいんですか!?」
大きいというのは知っていたけど、まさかそこまでの規模だというのは知らなかった。
今まで薬の勉強ばかりさせられていたけど、もっとそれ以外のことも勉強しないといけないというのを痛感させられたわ。
「さて、どこかで連絡船の乗り場か受付があると思うんだが……失礼、アンデルクの西に行ける連絡船の乗り場をご存じありませんか?」
「それでしたら、あそこの建物がそうですよ」
「あの建物ですね。ありがとうございます」
オーウェン様は、丁寧な口調で近くを通りかかった男性に聞いてくれた。
知り合いでもない人に、あんなに簡単に道を聞けるなんて、オーウェン様のコミュニケーション能力は本当に凄いわ。
私なんか、初めてパーチェに訪れた時に、ギルドの場所を聞いたのだけど、とても緊張したのをよく覚えているもの。
「そうだ、行く前に話しておきたいことがある」
「はい?」
「ここはもう、アンデルクの領地だ。もしかしたら、エリンの素性を知っている人間に会う可能性がある」
「た、確かに……見つからないに越したことはないですよね」
「そういうことだ。だから、少々変装をしよう」
オーウェン様はそう言うと、私と一緒に市場に行き、度が入っていない、おしゃれ用の眼鏡を購入してくれた。
それに加えて、いつも私は薬を作る時に、金色の髪をお気に入りのシュシュでまとめてポニーテールにしているのだけど、オーウェン様の提案で、サイドテールにしてみた。
自分ではよくわからないけど、とりあえずこれで変装は大丈夫かしら?
「良く似合っている。新たな一面が見れて、俺は幸せだよ」
「大げさですよ。あっ……呼び方も気を付けた方が良いですよね?」
「それもそうだな……それじゃあ、しばらく人目がある時は、アトレと呼ぶことにするよ」
「それなら違和感が無いですね。よろしくお願いします」
改めて今後のことを決めてから受付に行くと、とてもがっしりした男の人が受付をしていた。
「失礼。アンデルクの西に行く連絡船に乗りたいのですが」
「かしこまりました。では、こちらが乗船料です」
受付の男性の提示した金額を渡すと、それと引き換えに乗船券を渡してくれた。
これをもって、船に行けばいいってことよね? 初めてのことだから、合ってるかちょっぴり不安だわ。
「たくさん船がありましたが、どの船が俺達の乗る船なのでしょうか?」
「この建物を出て、まっすぐ行ったところに船がございます。もし迷われてしまったら、作業員に聞けばお答えいたします」
「なるほど、ありがとうございます。アトレ、行こうか」
「は、はい」
まだ新しい呼び方に慣れていないせいで、ちょっとだけ戸惑いながらも、私はオーウェン様に手を引かれて建物を後にする。
確か、建物を出てまっすぐって言ってたわね。とはいっても……まっすぐ行ったところには、船が何隻もあるから、やっぱり聞かないとわからなさそうだ。
簡単に聞け言うけど、周りの人はみんな忙しそうに作業をしている。この状態で聞くのは、邪魔になりそうで気が引けるけど……このままボーっとしてるわけにもいかないし、オーウェン様に頼りきりも良くない。頑張って声をかけよう。
「あ、あのー……すみません。この乗船券で乗る船はどれか教えてもらえませんか?」
「お? どれどれ……その券なら、そこにある船だぜ。船長の元に案内してやっから、ついてきな!」
「ありがとうございます! オーウェン様、ちゃんと聞けました!」
「アトレがちゃんと誠意を伝えたからだよ」
「そ、そんなこと……えへへ」
傍から見たら、ただ船を尋ねた程度のことしかしていないけど、オーウェン様に褒められると、なんだか凄いことをしたんじゃないかって気がしてくるから不思議だ。
「この船ですね。わぁ、大きな帆船……!」
「アトレは船に乗るのは初めてなのか?」
「一回だけ乗ったことがあるそうです。例の連れていかれた時に乗せられたそうで……まあ、記憶には全然無いんですけどね」
「そうだったのか」
このことを教えてくれたのは、城にいた時、私の部屋の見張りを務めていた、数少ない信用できる人間であるハウレウだ。
あれからハウレウや、逃がす時に力を貸してくれた兵士のジル様の安否は、全くわからないままだ。
……二人はきっと無事よね。いつか再会した時に、無事に薬屋を開いてたくさんの人を助けているとか、大切な人に出会えたことを話したい。
そんなことを思っていると、これから乗る船から一人の男性が降りてきた。筋骨隆々な体に、迫力のあるその顔も相まってか、ちょっと近づくのが怖い感じの方だ。
「お二人さん、乗客か?」
「は、はい! 乗船券もあります!」
「おう、確かに。俺様がこの船の船長だ。もうすぐ出発するから、船に乗ってくつろいでいてくれ」
「わかりました」
船長様に促されて船に乗ると、既に何人もの乗客が談笑したり、のんびり景色を見たりと、各々が好きなようにして過ごしていた。
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