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第五十三話 不思議な気配
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「ごちそうさまでした! 夕飯までご馳走になっちゃって、申し訳ない!」
「なに、気にするな。久しぶりに会えた記念さ」
しばらく三人と一緒にのんびりと過ごした私は、オーウェン様のおいしいビーフシチューに舌鼓を打った後、ヨハンさんのお見送りをしていた。
ビーフシチュー、とってもおいしかったなぁ……さっき食べたばかりなのに、もう次が食べたくなるくらい。短い時間で、お肉も野菜もトロトロで、優しい味付けでいくらでも食べられそうで……考えてたら、よだれがでそうだ。
「お仕事の詳しいご相談は、いつにいたしましょうか?」
「えーっと、実は五日後から、しばらく休暇をいただけるんです! なので、五日後にここで相談して、その次の日に出発でも良いですか?」
「私は大丈夫です。オーウェン様は?」
「問題ない。そうだ、五日後に一緒にパーチェのギルドに行って、依頼書を正式に出した方が良いな。その方が互いにトラブルが少ないだろう」
「承認してくれますかね~?」
私もそうしてくれた方が、正式なお仕事になるからありがたいけど、ヨハンさんは一度ギルドに依頼書を出すのを断られてるから、また出しても断られそうだ。
「俺が一緒に行く。依頼を受けてくれる人間がいれば、ギルドも依頼を通してくれるだろう」
「そういうものですかね?」
「どうしてもダメなら、その時は非正式の依頼になるが……何とかなるだろう」
何とかなるのだろうか……? 私なら、確実に説得できなさそうだけど、オーウェン様なら何とかしちゃいそうな気はするけど、ちょっと不安かも。
「ではその流れで行きましょう。五日後、お待ちしております」
「わかりました!」
ヨハンさんと約束をした私は、仕事をした後だというのに、元気に駆け足で帰っていくヨハンさんに、手を振ってお見送りをした。
最初から最後まで、ずっと元気な方だったわ。私も負けていられない……とはいっても、いきなりあれをするのは大変だから、ちょっとずつ頑張ろう。
「ふぁ~……ヨハンお兄ちゃんとたくさんお話してたから、疲れちゃった」
「ココ、ずいぶんとヨハンと仲良くなったんだな」
「うん! おしゃべりしてて楽しいし、元気を貰えるし、たくさん褒めてくれるし! わたし、ヨハンお兄ちゃんのこと大好きになったよ!」
「ふふっ、新しいお友達が出来てよかったわね」
「うん! いつか、教会のお友達とヨハンお兄ちゃんと一緒に遊べたらいいな~!」
疲れて眠そうだというのに、ココちゃんは楽しい未来に目を向けながら、キラキラとその目を輝かせていた。
「それじゃあ、今日はゆっくり休んで、また明日元気に頑張ろうね」
「うん! あれ、エリンお姉ちゃんは寝ないの?」
「私はちょっと調べ物をするから、それが終わったら寝るわ」
「そっかー。お兄ちゃんは?」
「洗い物があるから、それが終わり次第だな」
「じゃあ今日はわたし一人かぁ……」
ちょっと寂しそうに俯くココちゃんを見て、私はハッとした。
今日はオーウェン様とデートに行ったから、ココちゃんはずっと一人で寂しく過ごしていたんだ。自分から行ってきてと提案したが、絶対寂しかったに違いない。
だというのに、私はオーウェン様と結ばれたことに浮かれたり、あの葉っぱのことで頭がいっぱいになって、ココちゃんを蔑ろにして……。
「ココちゃんが寝るまでなら、一緒にいるわよ」
「いいの!?」
「もちろん。そうだ、何かご本を読んであげる」
「それじゃあそれじゃあ、これを読んで!」
ココちゃんが持ってきたのは、魔法の薬を作れる薬師の少女が、怖がられながらも色々な人と交流をし、認められて幸せになる物語だった。
「わかったわ。それじゃあいきましょう」
「うん! お兄ちゃん、おやすみ~」
「ああ、おやすみ」
私はココちゃんと一緒に地下の寝室に降り、ココちゃんをベッドに寝かせてから、絵本をゆっくりと読み始めた――
****
「こうして薬師の少女は、町の人達と仲良くなり、毎日幸せに過ごしましたとさ。めでたしめでたし――」
「すー……すー……むにゃ……」
ゆっくりと、そして優しい声色で読み聞かせをしていたら、終わる頃には、既にココちゃんは気持ちよさそうな寝息をたてていた。
ふふっ、いつも元気で可愛い子だけど、寝ている姿も何度見ても可愛い。願わくは、このまま健やかに成長してくれますように……。
「って、これじゃあ私が母親みたいね」
母親……母親かぁ。オーウェン様とお付き合いをしているんだから、いつかは結婚して、子供に恵まれることだってあるかもしれない。
なんだか、想像がつかないわ。私が母親になるだなんて。
「……ちょっと待って。子供って……それ、将来的にオーウェン様と……!」
ほんのちょっと想像しただけで、顔が沸騰しそうなくらい熱くなっている。
とりあえず、落ち付こう……あくまでこれは私の妄想だから。現実に起こることじゃない……うん、それはそれでなんか落ち込むかも……私って、色々な意味で面倒くさい人間なのかもしれないわ。
「さっさと調べ物をしよう。オーウェン様、裏の仕事場に行ってますね」
「わかった。気を付けてな」
「はい」
一階に上がった私は、心配をかけないようにオーウェン様に声をかけてから、裏にある仕事場の小屋に来ると、ヨハンさんから預かった葉っぱを見つめた。
「どうみても、ただの葉っぱね……」
試しに、葉っぱの端っこの部分をちぎってみたけど、特に変化はない。
「……こっちの植物に垂らすと反応のある薬を使っても、反応は至って普通の物だ。でも……やっぱり変な気配を感じる」
そう、これはどう見てもただの葉っぱ。そう結論づけられる……はずなんだけど、どうしてもこの気配が気になって仕方がない。
「一体あなたはなんなの……? 私の声に応えてよ」
『――――』
「え、なにか言ってるような……?」
『――――』
「ダメだ、全然わからない。私、疲れてるのかな……?」
「エリン、紅茶を入れたが、飲むか?」
「オーウェン様、ありがとうございます」
素晴らしいタイミングで、オーウェン様は紅茶を二人分持って、仕事場に来てくれた。
こういう気が効く優しいところが大好きなの。もちろん他にも好きなところはたくさんあるわよ。
「なにかわかったか?」
「いえ、これといって特徴のない葉っぱみたいです」
「そうか……」
「ですが、一つ不思議なことがあるんです」
オーウェン様には話しておいた方が良いと思った私は、ゆっくりと話を切りだした。
「この葉っぱから、何か不思議な気配がするんです。あと、なにか言っているような気もして」
「葉っぱから……? そんなことがあるのか?」
「本当なんです。オーウェン様は感じませんか?」
「俺には何も感じないし、声も聞こえないな」
「そうですか……」
やっぱり私の気のせい? それともアトレを開業してからずっと働いているから、疲れているだけ?
そんなことは……ないと思うんだけど、私以外の人が感じないと思うと、自分の感覚を信じられなくなる。
「そんな顔をするな。俺はエリンのことを信じているよ」
「オーウェン様……」
落ち込む私を慰めるように、私の手がオーウェン様の暖かい手に包まれた。
やっぱりオーウェン様は、本当に優しい方だわ。この方を好きになったのは、間違いじゃなかったと心の底から思える。
「患者を診ないと、わからないこともあるだろう。今日は早めに休んで、当日に備えておいた方がいい」
「そうですね。でも、もうちょっとだけ調べたいんです」
「それはエリンの自由にするといい。それじゃあ、俺は先に家に戻っているよ。根を詰めすぎないようにな」
「わかりました」
先に家に戻ったオーウェン様を見送ってから、椅子に座って葉っぱを再度見つめる。
……いくら見ても、さっきから感じているもの以外は何も変化がない。
「やっぱりオーウェン様の言う通り、実際に患者を診ないとわからないか……」
体が植物になる病気、か……今まで数えきれない数の薬や病気の本を読んできたけど、そんな症状の病気なんて聞いたことがない。
そんな未知の病気を相手に、私の薬で治せるのかしら……?
「ダメダメ、弱気になっても何も解決しない。オーウェン様に言われた通り、今日は疲れてるから早めに寝よう」
……? 寝る? よくよく考えたら、私はこの家に来てから、家の地下にある寝室で寝かせてもらっている。
その寝室には、大きなベッドと小さなベッドが置かれている。小さな方にオーウェン様が、大きなベッドに私とココちゃんが寝ている。
つまり、私は年頃の男性と、同じ屋根の下どころか、同じ部屋で寝ているということで……。
「ど、どうしようどうしよう! つい昨日までは、一緒の部屋で寝てても、あまら気にしていなかったのに……!」
恋人になったんだから、同じベッドで寝るべきなのかしら!? それも、抱き合って好きだよ……なんて言いながら寝ちゃったり!? それとも、ココちゃんにバレないように……!?
さ、さすがにそれは飛躍しすぎよね! まだお付き合いを始めたばかりだというのに!
でも……でも……あうぅぅぅぅ! 私、これからどうすればいいの!?
「なに、気にするな。久しぶりに会えた記念さ」
しばらく三人と一緒にのんびりと過ごした私は、オーウェン様のおいしいビーフシチューに舌鼓を打った後、ヨハンさんのお見送りをしていた。
ビーフシチュー、とってもおいしかったなぁ……さっき食べたばかりなのに、もう次が食べたくなるくらい。短い時間で、お肉も野菜もトロトロで、優しい味付けでいくらでも食べられそうで……考えてたら、よだれがでそうだ。
「お仕事の詳しいご相談は、いつにいたしましょうか?」
「えーっと、実は五日後から、しばらく休暇をいただけるんです! なので、五日後にここで相談して、その次の日に出発でも良いですか?」
「私は大丈夫です。オーウェン様は?」
「問題ない。そうだ、五日後に一緒にパーチェのギルドに行って、依頼書を正式に出した方が良いな。その方が互いにトラブルが少ないだろう」
「承認してくれますかね~?」
私もそうしてくれた方が、正式なお仕事になるからありがたいけど、ヨハンさんは一度ギルドに依頼書を出すのを断られてるから、また出しても断られそうだ。
「俺が一緒に行く。依頼を受けてくれる人間がいれば、ギルドも依頼を通してくれるだろう」
「そういうものですかね?」
「どうしてもダメなら、その時は非正式の依頼になるが……何とかなるだろう」
何とかなるのだろうか……? 私なら、確実に説得できなさそうだけど、オーウェン様なら何とかしちゃいそうな気はするけど、ちょっと不安かも。
「ではその流れで行きましょう。五日後、お待ちしております」
「わかりました!」
ヨハンさんと約束をした私は、仕事をした後だというのに、元気に駆け足で帰っていくヨハンさんに、手を振ってお見送りをした。
最初から最後まで、ずっと元気な方だったわ。私も負けていられない……とはいっても、いきなりあれをするのは大変だから、ちょっとずつ頑張ろう。
「ふぁ~……ヨハンお兄ちゃんとたくさんお話してたから、疲れちゃった」
「ココ、ずいぶんとヨハンと仲良くなったんだな」
「うん! おしゃべりしてて楽しいし、元気を貰えるし、たくさん褒めてくれるし! わたし、ヨハンお兄ちゃんのこと大好きになったよ!」
「ふふっ、新しいお友達が出来てよかったわね」
「うん! いつか、教会のお友達とヨハンお兄ちゃんと一緒に遊べたらいいな~!」
疲れて眠そうだというのに、ココちゃんは楽しい未来に目を向けながら、キラキラとその目を輝かせていた。
「それじゃあ、今日はゆっくり休んで、また明日元気に頑張ろうね」
「うん! あれ、エリンお姉ちゃんは寝ないの?」
「私はちょっと調べ物をするから、それが終わったら寝るわ」
「そっかー。お兄ちゃんは?」
「洗い物があるから、それが終わり次第だな」
「じゃあ今日はわたし一人かぁ……」
ちょっと寂しそうに俯くココちゃんを見て、私はハッとした。
今日はオーウェン様とデートに行ったから、ココちゃんはずっと一人で寂しく過ごしていたんだ。自分から行ってきてと提案したが、絶対寂しかったに違いない。
だというのに、私はオーウェン様と結ばれたことに浮かれたり、あの葉っぱのことで頭がいっぱいになって、ココちゃんを蔑ろにして……。
「ココちゃんが寝るまでなら、一緒にいるわよ」
「いいの!?」
「もちろん。そうだ、何かご本を読んであげる」
「それじゃあそれじゃあ、これを読んで!」
ココちゃんが持ってきたのは、魔法の薬を作れる薬師の少女が、怖がられながらも色々な人と交流をし、認められて幸せになる物語だった。
「わかったわ。それじゃあいきましょう」
「うん! お兄ちゃん、おやすみ~」
「ああ、おやすみ」
私はココちゃんと一緒に地下の寝室に降り、ココちゃんをベッドに寝かせてから、絵本をゆっくりと読み始めた――
****
「こうして薬師の少女は、町の人達と仲良くなり、毎日幸せに過ごしましたとさ。めでたしめでたし――」
「すー……すー……むにゃ……」
ゆっくりと、そして優しい声色で読み聞かせをしていたら、終わる頃には、既にココちゃんは気持ちよさそうな寝息をたてていた。
ふふっ、いつも元気で可愛い子だけど、寝ている姿も何度見ても可愛い。願わくは、このまま健やかに成長してくれますように……。
「って、これじゃあ私が母親みたいね」
母親……母親かぁ。オーウェン様とお付き合いをしているんだから、いつかは結婚して、子供に恵まれることだってあるかもしれない。
なんだか、想像がつかないわ。私が母親になるだなんて。
「……ちょっと待って。子供って……それ、将来的にオーウェン様と……!」
ほんのちょっと想像しただけで、顔が沸騰しそうなくらい熱くなっている。
とりあえず、落ち付こう……あくまでこれは私の妄想だから。現実に起こることじゃない……うん、それはそれでなんか落ち込むかも……私って、色々な意味で面倒くさい人間なのかもしれないわ。
「さっさと調べ物をしよう。オーウェン様、裏の仕事場に行ってますね」
「わかった。気を付けてな」
「はい」
一階に上がった私は、心配をかけないようにオーウェン様に声をかけてから、裏にある仕事場の小屋に来ると、ヨハンさんから預かった葉っぱを見つめた。
「どうみても、ただの葉っぱね……」
試しに、葉っぱの端っこの部分をちぎってみたけど、特に変化はない。
「……こっちの植物に垂らすと反応のある薬を使っても、反応は至って普通の物だ。でも……やっぱり変な気配を感じる」
そう、これはどう見てもただの葉っぱ。そう結論づけられる……はずなんだけど、どうしてもこの気配が気になって仕方がない。
「一体あなたはなんなの……? 私の声に応えてよ」
『――――』
「え、なにか言ってるような……?」
『――――』
「ダメだ、全然わからない。私、疲れてるのかな……?」
「エリン、紅茶を入れたが、飲むか?」
「オーウェン様、ありがとうございます」
素晴らしいタイミングで、オーウェン様は紅茶を二人分持って、仕事場に来てくれた。
こういう気が効く優しいところが大好きなの。もちろん他にも好きなところはたくさんあるわよ。
「なにかわかったか?」
「いえ、これといって特徴のない葉っぱみたいです」
「そうか……」
「ですが、一つ不思議なことがあるんです」
オーウェン様には話しておいた方が良いと思った私は、ゆっくりと話を切りだした。
「この葉っぱから、何か不思議な気配がするんです。あと、なにか言っているような気もして」
「葉っぱから……? そんなことがあるのか?」
「本当なんです。オーウェン様は感じませんか?」
「俺には何も感じないし、声も聞こえないな」
「そうですか……」
やっぱり私の気のせい? それともアトレを開業してからずっと働いているから、疲れているだけ?
そんなことは……ないと思うんだけど、私以外の人が感じないと思うと、自分の感覚を信じられなくなる。
「そんな顔をするな。俺はエリンのことを信じているよ」
「オーウェン様……」
落ち込む私を慰めるように、私の手がオーウェン様の暖かい手に包まれた。
やっぱりオーウェン様は、本当に優しい方だわ。この方を好きになったのは、間違いじゃなかったと心の底から思える。
「患者を診ないと、わからないこともあるだろう。今日は早めに休んで、当日に備えておいた方がいい」
「そうですね。でも、もうちょっとだけ調べたいんです」
「それはエリンの自由にするといい。それじゃあ、俺は先に家に戻っているよ。根を詰めすぎないようにな」
「わかりました」
先に家に戻ったオーウェン様を見送ってから、椅子に座って葉っぱを再度見つめる。
……いくら見ても、さっきから感じているもの以外は何も変化がない。
「やっぱりオーウェン様の言う通り、実際に患者を診ないとわからないか……」
体が植物になる病気、か……今まで数えきれない数の薬や病気の本を読んできたけど、そんな症状の病気なんて聞いたことがない。
そんな未知の病気を相手に、私の薬で治せるのかしら……?
「ダメダメ、弱気になっても何も解決しない。オーウェン様に言われた通り、今日は疲れてるから早めに寝よう」
……? 寝る? よくよく考えたら、私はこの家に来てから、家の地下にある寝室で寝かせてもらっている。
その寝室には、大きなベッドと小さなベッドが置かれている。小さな方にオーウェン様が、大きなベッドに私とココちゃんが寝ている。
つまり、私は年頃の男性と、同じ屋根の下どころか、同じ部屋で寝ているということで……。
「ど、どうしようどうしよう! つい昨日までは、一緒の部屋で寝てても、あまら気にしていなかったのに……!」
恋人になったんだから、同じベッドで寝るべきなのかしら!? それも、抱き合って好きだよ……なんて言いながら寝ちゃったり!? それとも、ココちゃんにバレないように……!?
さ、さすがにそれは飛躍しすぎよね! まだお付き合いを始めたばかりだというのに!
でも……でも……あうぅぅぅぅ! 私、これからどうすればいいの!?
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