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第四十六話 異質な力
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エクシノ様の説明をするオーウェン様の表情は、相変わらず冷たいままだった。
せっかく昔の知り合いに会えたのだから、少しは喜んだりするものじゃないの? もし私が知り合いに会えたら、とても喜ぶと思うわ。
「今は家長になり、騎士団は退団したので、お間違えの無いように。それにしても、仕事で騎士団に行った際に、若い者達からあなたの話を聞き、まさかとは思いましたが……本当にこんな所で薬師のおままごとと、おもりをしていたのですね。名門ヴァリア家の名が泣いていますよ」
「お、おままごとって……」
この前のセシリアを思い出させるような煽り言葉に、思わず言葉を荒げてしまうところだったけど……相手は依頼者だ。ここはグッと我慢をしなきゃ。
「相変わらずのようですね。騎士団にいた頃、一度も俺に勝てなかったことを、未だに根に持っているのですか?」
「まさか。僕は心が広いのでね。同期で爵位も同じだからと、常に比べられていたことも、訓練で一度も勝てなかったことも、根に持つはずがないでしょう」
……それ、絶対に根に持ってそう……。
「ごほんっ……それで、依頼とはなんですか?」
「この薬屋は、仕事の話をする時に、こんな外で聞くんですか? 随分と斬新なやり方を採用しているようですね。頭が下がる思いですよ」
「………………どうぞ、中にお入りください」
「冗談ですよ。こんな小汚い小屋に入ったら、蕁麻疹が出てしまうのでね」
なんなのこの人、一々神経を逆撫でするようなことを言わないと、気が済まない性格なの? カーティス様やセシリアも嫌な人だったけど、この人はまた別の方向性でとても嫌な人だ。
「エクシノ殿。本当は依頼なんてないのでしょう?」
依頼がない? 一体どういうことなの……?
「さすがはオーウェン殿。その動物のような鋭い勘は、鈍っていないようですね。僕はそこの男とは違って、立派な貴族ですよ? そんな僕が、こんなところにある汚い薬屋に、依頼をするはずがないでしょう」
「なにそれ、意味わかんないよ! なら、なにをしに来たわけ!? わたし達、ヒマじゃないんだけど!」
「落ちぶれた無様な同期の姿を、この目に収めようと思いましてね」
……そうか。この人はオーウェン様に勝てなかったことを逆恨みしてて、自分が優位に立てそうだと思い、鬱憤を晴らすためにバカにしに来たのね。
そう思うと、私の中で何かがプツンッと切れるような音がした気がした。
「そうですか。よほど暇を持て余しているところに申し訳ありませんが、一秒でも早くお引き取りください。そして、二度とここに来ないでください。はっきりお伝えしますが、あなたとお話していると不愉快です!」
「まさか、彼を庇うつもりですか? 彼は守るに値しない人物ですよ。彼の家は、騎士のくせに大勢の民を犠牲にした大罪人ですよ」
「っ……!!」
「ああ、思い出しました。彼の父は、正義という皮を被った、愚かな人間でした。民を守るために自分の命をかけてクライムと戦い、自分の妻や、多数の犠牲者を出した大罪人です。その後に騎士団を追放され、無様にこの世を去った――」
「うるさい!!」
ペラペラとよく回る口を、大きな声で無理やり止めに入る。それと同時に、エクシノ様に溜められたストレスを発散させるように、ドンっと強く地面を踏んだ。
「あなたのような、騎士の風上にも置けないような最低な方に、オーウェン様やご家族を悪く言う資格は無い! オーウェン様が、一体どんな気持ちで過ごしてきたか……!」
「そうだそうだ! これ以上お兄ちゃんをいじめるなー!」
「ふむ、この僕にそんな態度を取れるとは……強気な女性は嫌いではありません。お二人共、そこの負け犬など捨てて、僕の屋敷で働きませんか? ああ、役職は薬屋ではなく、僕の慰め物ではありますが」
「黙れ」
再び私に向かって伸びてきた手を振り払おうとした瞬間、私達の間にオーウェン様が割って入ってきた。
その背中は、初めて助けてくれた時のことを思い出させる、とてもカッコいいものだった。
「エクシノ殿。俺のことを侮辱することはいくらでも構わないが、俺の大切な人や家族を侮辱することは、断じて許さない」
「負け犬の遠吠えも、そこまで殺気があると迫力がありますね。まあいい……今日はそろそろお暇させていただきます」
あれ、思ったよりあっさりと引いたわね……てっきり、もっと執拗に絡んでくると思ってたんだけど……。
「その前に、僕に刃を向けたお礼をして差し上げましょう」
「なに……!?」
振り向き際に、ほんの少しだけ口角を上げたエクシノ様から、なにか不思議な気配を感じた。それから間もなく、私達の足元から、太い木が突然生えてきた。
突然現れた木は、私達に当たることは無かったし、すぐにその場から煙のように消えてしまったけど……私とココちゃんは、驚いてその場で尻餅をついてしまった。
「なんだこれは!? エリン、ココ! ケガは無いか!」
「は、はい。なんとか……!」
「うっ……うえぇぇぇん! 怖いよ~!」
「くくっ……あの頃の僕は、もうこの世にいないのですよ。ではごきげんよう。負け犬の姿を見れて楽しかったですよ」
終始余裕を崩さないまま、エクシノ様は私達に凄まじい衝撃を残して、その場を後にした。
一体あの人はなんなの? それに今の木は一体? あの不思議な気配は? なにからなにまで、わからないことばかりで混乱してきた。
「お兄ちゃん……怖かったよぉ……!」
「もう大丈夫だ。二人共、ケガが無くて本当に良かった」
怖くて泣きじゃくるココちゃんを抱きしめて慰めるオーウェン様の表情は、困惑を隠さずにいた。
わからないことは多いけど、二人にケガが無かったことは、不幸中の幸いだった。また絡んでくるかはわからないけど、これからは少し用心しておいた方がいいかもしれないわね……。
せっかく昔の知り合いに会えたのだから、少しは喜んだりするものじゃないの? もし私が知り合いに会えたら、とても喜ぶと思うわ。
「今は家長になり、騎士団は退団したので、お間違えの無いように。それにしても、仕事で騎士団に行った際に、若い者達からあなたの話を聞き、まさかとは思いましたが……本当にこんな所で薬師のおままごとと、おもりをしていたのですね。名門ヴァリア家の名が泣いていますよ」
「お、おままごとって……」
この前のセシリアを思い出させるような煽り言葉に、思わず言葉を荒げてしまうところだったけど……相手は依頼者だ。ここはグッと我慢をしなきゃ。
「相変わらずのようですね。騎士団にいた頃、一度も俺に勝てなかったことを、未だに根に持っているのですか?」
「まさか。僕は心が広いのでね。同期で爵位も同じだからと、常に比べられていたことも、訓練で一度も勝てなかったことも、根に持つはずがないでしょう」
……それ、絶対に根に持ってそう……。
「ごほんっ……それで、依頼とはなんですか?」
「この薬屋は、仕事の話をする時に、こんな外で聞くんですか? 随分と斬新なやり方を採用しているようですね。頭が下がる思いですよ」
「………………どうぞ、中にお入りください」
「冗談ですよ。こんな小汚い小屋に入ったら、蕁麻疹が出てしまうのでね」
なんなのこの人、一々神経を逆撫でするようなことを言わないと、気が済まない性格なの? カーティス様やセシリアも嫌な人だったけど、この人はまた別の方向性でとても嫌な人だ。
「エクシノ殿。本当は依頼なんてないのでしょう?」
依頼がない? 一体どういうことなの……?
「さすがはオーウェン殿。その動物のような鋭い勘は、鈍っていないようですね。僕はそこの男とは違って、立派な貴族ですよ? そんな僕が、こんなところにある汚い薬屋に、依頼をするはずがないでしょう」
「なにそれ、意味わかんないよ! なら、なにをしに来たわけ!? わたし達、ヒマじゃないんだけど!」
「落ちぶれた無様な同期の姿を、この目に収めようと思いましてね」
……そうか。この人はオーウェン様に勝てなかったことを逆恨みしてて、自分が優位に立てそうだと思い、鬱憤を晴らすためにバカにしに来たのね。
そう思うと、私の中で何かがプツンッと切れるような音がした気がした。
「そうですか。よほど暇を持て余しているところに申し訳ありませんが、一秒でも早くお引き取りください。そして、二度とここに来ないでください。はっきりお伝えしますが、あなたとお話していると不愉快です!」
「まさか、彼を庇うつもりですか? 彼は守るに値しない人物ですよ。彼の家は、騎士のくせに大勢の民を犠牲にした大罪人ですよ」
「っ……!!」
「ああ、思い出しました。彼の父は、正義という皮を被った、愚かな人間でした。民を守るために自分の命をかけてクライムと戦い、自分の妻や、多数の犠牲者を出した大罪人です。その後に騎士団を追放され、無様にこの世を去った――」
「うるさい!!」
ペラペラとよく回る口を、大きな声で無理やり止めに入る。それと同時に、エクシノ様に溜められたストレスを発散させるように、ドンっと強く地面を踏んだ。
「あなたのような、騎士の風上にも置けないような最低な方に、オーウェン様やご家族を悪く言う資格は無い! オーウェン様が、一体どんな気持ちで過ごしてきたか……!」
「そうだそうだ! これ以上お兄ちゃんをいじめるなー!」
「ふむ、この僕にそんな態度を取れるとは……強気な女性は嫌いではありません。お二人共、そこの負け犬など捨てて、僕の屋敷で働きませんか? ああ、役職は薬屋ではなく、僕の慰め物ではありますが」
「黙れ」
再び私に向かって伸びてきた手を振り払おうとした瞬間、私達の間にオーウェン様が割って入ってきた。
その背中は、初めて助けてくれた時のことを思い出させる、とてもカッコいいものだった。
「エクシノ殿。俺のことを侮辱することはいくらでも構わないが、俺の大切な人や家族を侮辱することは、断じて許さない」
「負け犬の遠吠えも、そこまで殺気があると迫力がありますね。まあいい……今日はそろそろお暇させていただきます」
あれ、思ったよりあっさりと引いたわね……てっきり、もっと執拗に絡んでくると思ってたんだけど……。
「その前に、僕に刃を向けたお礼をして差し上げましょう」
「なに……!?」
振り向き際に、ほんの少しだけ口角を上げたエクシノ様から、なにか不思議な気配を感じた。それから間もなく、私達の足元から、太い木が突然生えてきた。
突然現れた木は、私達に当たることは無かったし、すぐにその場から煙のように消えてしまったけど……私とココちゃんは、驚いてその場で尻餅をついてしまった。
「なんだこれは!? エリン、ココ! ケガは無いか!」
「は、はい。なんとか……!」
「うっ……うえぇぇぇん! 怖いよ~!」
「くくっ……あの頃の僕は、もうこの世にいないのですよ。ではごきげんよう。負け犬の姿を見れて楽しかったですよ」
終始余裕を崩さないまま、エクシノ様は私達に凄まじい衝撃を残して、その場を後にした。
一体あの人はなんなの? それに今の木は一体? あの不思議な気配は? なにからなにまで、わからないことばかりで混乱してきた。
「お兄ちゃん……怖かったよぉ……!」
「もう大丈夫だ。二人共、ケガが無くて本当に良かった」
怖くて泣きじゃくるココちゃんを抱きしめて慰めるオーウェン様の表情は、困惑を隠さずにいた。
わからないことは多いけど、二人にケガが無かったことは、不幸中の幸いだった。また絡んでくるかはわからないけど、これからは少し用心しておいた方がいいかもしれないわね……。
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