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第十四話 完治

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 薬作りに没頭していたら、外はいつの間にか日が落ちて暗くなり始めていた。

 私ってば、随分と集中して薬を作っていたみたいだ。おかげでたくさん薬は出来たけど、同時に強い空腹感にも襲われた。

 そういえば、今朝においしくない野草を食べたっきり、何も口にしていなかった。それじゃあお腹がすくのも当然だわ。

「とりあえず薬は出来たから、オーウェン様に渡したら食料を探しに行こうかしら」
「え、エリンさん!!」
「オーウェン様、丁度今そっちに行こうと……そんなに慌てて、どうしたんですか?」

 まるで私が行こうとしたタイミングを見計らっていたかのように、オーウェン様は凄い勢いで階段を上がってきた。

「ココが、ココが……」
「ココ様がどうかしたんですか!?」
「目を覚ましたんです!」
「えっ……本当ですか!?」

 もしかして、ココ様の容体が急変したのかと思ったけど、私に聞かされたものはとても喜ばしいものだった。

 早く容体を確認して、この薬を飲ませてあげなくちゃ!

「ちょうど薬がたくさん出来たんです! ココ様にこれを飲ませましょう!」
「はい!」

 オーウェン様と一緒にココ様のいる地下に向かうと、そこにはまだボーっとした状態のココ様が、寝ぼけ眼で私のことを見つめてきた。

「お姉ちゃん、誰……?」
「ココ、この人はココの薬を作ってくれた薬師の方だ」
「はじめまして、ココ様。私はエリンと申します。お体の具合はどうですか?」
「……頭がボーっとしてる……」

 しばらく眠っていたのだから、ボーっとしてしまうのは当然のことだろう。意思疎通も出来ているし、シミの範囲も更に減っている。もう少し休めば動けるようになるわね。

「熱もかなり引いたみたいですね。このお薬を飲んで休んでいれば、元気になれますよ」
「うぅ~……お薬嫌い……」
「ちゃんと飲まないと元気になれないぞ」
「は~い……」

 オーウェン様に促されて、渋々ココ様は薬を口にすると、目をギュッと瞑って苦みに耐えながらも、なんとか薬を飲みほした。

 ココ様とお話をしている時は、兄としての側面が出ていて、なんだかとても微笑ましいわ。

「エリンさん、改めてお礼を言わせてください。ココを助けていただき、本当にありがとうございました」
「ありがとう、お姉ちゃん!」
「いえいえ、私は当然のことを――」

 ぐぅぅぅぅぅ……。

「…………」

 盛大にお腹の虫が鳴いた私は、無意識に口を固く閉ざしていた。その代わりと言っては何だけど、自分でも驚くくらい顔が熱くなった。

 こ、こんな大きなお腹の音を聞かれてしまうなんて……恥ずかしすぎて死んでしまいそうだ。

「昨日買ってきたパンでよろしければ、すぐにお出しできますよ。時間を少しいただければ、スープもお出しできます。ココの命の恩人にお出しするには、あまりにも粗末なもので心苦しいですが……」
「い、いえ! お気になさらず! 今のはその……喉が鳴っただけですから!」

 ちょっと待って。喉が鳴るってなに? 確かに鳴ることはあるけど、言い訳にしてはあまりにも苦しすぎる。もう少しまともな言い訳をすればよかった……。

「お兄ちゃん、わたしもお腹がすいちゃった!」
「わかった、それじゃあ栄養を摂れるように、スープを作るとしよう。エリンさん、俺は上で作ってくるので、ココのことをお願いできますか?」
「わかりました」
「では、よろしくお願いします」

 そう言い残して、オーウェン様はそそくさと一階へと戻っていった。残された私は、ココ様に視線を移した。

「……? お姉ちゃん、わたしの顔に何かついてる?」
「いえ、何もついてないですよ。ココ様が元気になってくれてよかったと思っているだけです」
「そっか! お姉ちゃんが喜んでくれると、わたしも嬉しいよ! ところで、どうして私のことを様を付けて呼ぶの?」
「その呼び方で慣れてしまっているので、自然とそうお呼びしているだけですよ」
「ふーん……? ねえ、わたしのことは呼び捨てで呼んでよ!」

 い、いきなりそう言われても……オーウェン様の時のように断りたいけど、目の前でキラキラと目を輝く姿を見てしまうと、断りにくいわ……。

「それじゃあ……ココちゃん」
「あ、それもいいね! えへへ、それじゃあわたしはエリンお姉ちゃんって呼ぶね! あ、敬語も禁止だよ! だって、わたし達はお友達だから!」
「お友達?」
「うんっ! こうして出会ってお話したら、もうお友達でしょ?」

 お友達……なんだか嬉しいわ。唯一の友人がバネッサだけだったんだけど、結局演技だったわけだから、ココちゃんが本当の初めてのお友達だ。

「ふふっ、そうですね……じゃなくて、そうね。私達は……お友達ね」

 微笑みながらお友達の部分を強調して伝えると、ココちゃんは満面の笑顔で頷いてくれた。

 ……か、可愛いわ……子供が大好きなハウレウが見たら、きっとメロメロになっていただろう。

「……ハウレウ……今頃何してるかしら……」

 自分が何とか生きようと必死に森をさまよっていたことや、ココちゃんを治すことに必死になっていたせいで、ハウレウのことを考える余裕がなかった。

 私がいないことがバレて、酷い仕打ちにあってなければいいだけど……精霊様、ハウレウにどうかご加護を……。

「エリンお姉ちゃん、どうしたの? 凄く悲しそうだよ?」
「ううん、なんでもないわ。心配してくれありがとう」
「ならよかった! ねえねえ、エリンお姉ちゃんって、薬師なんだよね?」
「うーん、薬師になりたいって思ってるだけで、まだちゃんとした薬師ではないのよ」

 簡単に説明をしてみたけど、ココちゃんはよくわかっていないようで、小首を傾げていた。

「そうなの? よくわからないけど……わたしのお薬以外のも作れるの?」
「ええ、もちろんよ。ココちゃんよりも小さい頃からたくさん勉強をして、薬を作れるようになったのよ」
「わぁ、すごいすごい! わたしはお勉強が苦手だから、尊敬しちゃうよ! どんなお薬があるの!?」
「そうね、例えば……オーウェン様と初めて出会った時に、傷薬を作ったんだけど――」

 私はなるべくココちゃんにもわかりやすいように、薬の作り方や用途をかみ砕いて話し始めた。

 薬の話を聞くココちゃんは、ずっと目を輝かせ、とても楽しそうで……結局オーウェン様が私達を呼びに来るまで、ずっと薬の話をしてあげた。

 薬に興味を持ってくれたみたいだから、将来はいつか私のような薬師を目指してくれるかもしれないわね。もしそうなったら……私のような利用されるだけの人間ではなくて、多くの人に慕われる薬師になってほしいな。
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