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第二十四話 愛さない理由
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「愛さない理由……」
ブラハルト様の言葉を聞いて、思わず喉がごくりと鳴った。
私を愛さない理由……気になっていなかった言えば嘘になる。でも、当時はそれを聞いて、結婚を無かったことにされるのが嫌だったから、聞かなかったの。
「俺の噂のことは知っているだろう? 家を存続させるために、婚約者は必要だったが……俺の噂のせいで、婚約してくれた女性が、同じ様に恐れられるのが嫌だった。そうなるくらいなら、婚約者にどう思われてもいいから、突き放そうと考えた」
「どうしてですか?」
「愛が無ければ、俺のことが悪く言われても、関係ないと思ってもらえるから、傷つけずに済む。それに、貴族達に愛のない姿を見せれば、俺が無理やり結婚させたと思わせられる。そうすれば、貴族達の矛先は俺にだけ向けられると思ったんだ」
なるほど……ブラハルト様は、自分が更に悪く言われるために、愛さないと伝えておいて、結婚してもいいと言った女性を守ろうとしていたのね。
この真面目過ぎるというか、ちょっと不器用なやり方なのが、ブラハルト様らしい。
「そうやって、アルスター家と婚約者の女性……私を守ろうとしてくれたのですね。でも、どうしてそれを話してくれたのですか?」
「先日マリーヌに、こんな方法で守るよりも、堂々と守ればいい、エルミーユならきっとわかってくれると、アドバイスをされたんだ。それを聞いて、俺は自分のやり方が、間違っていると気づいた」
チラッとだけマリーヌを見ると、小さくウィンクをしていた。
マリーヌは、ブラハルト様が生まれた時から面倒をみていたそうだから、こういう時の説得力は、私が思っている以上にあるのだろう。
「色々話しておいてなんだが、この前のパーティー会場でも、兄上とのことでも、俺は君に守られてばかりの、情けない男だ」
「情けなくなんてありませんわ!」
「優しい君なら、そう言うと思っていたよ。だが、君を妻として迎え入れたからには、その優しさに甘えるわけにはいかないんだ。だから……愛さないという言葉を取り消して、これからも夫として、君のことを守らせてほしい」
「…………」
そう言いながら手を差し出すブラハルト様の表情は、とても真剣そのものだった。
そんなブラハルト様を見ていたら、なぜか胸の奥が大きく高鳴っていた。
「……ブラハルト様は、本当に真面目なお方ですのね」
「そうなのか? マリーヌ、俺は真面目なのか?」
「はい。超が十個ほど付くくらいには」
「そこまでなのか!?」
誰が見ても、ブラハルト様はとても真面目なお方だ。そして、とても誠実でもある。
私はそんなブラハルト様を信じているし、素晴らしいお方だと心の底から思う。
「ま、まあいい。それで、君の答えを貰ってもいいか?」
答えだなんて、そんなの一つに決まっているわ。
「はい。もちろん……これからも、お傍においてくださいませ」
私はブラハルト様から差し出された手を、両手で優しく包み込むと、大きく頷いて見せた。
最初から私を守る覚悟をしていたブラハルト様の優しさに報いるためにも、これからもブラハルト様と一緒に歩み続け、そしてブラハルト様を守っていきたい。
そして、どんな形になるかはわからないけど、ブラハルト様にはちゃんと恩返しがしたいと、強く思った。
****
■エドガー視点■
「ふんふふ~ん……!」
アルスター家から帰る途中、ボクは愛しの弟君から貰ったお金が入った鞄をクルクルと振り回しながら、帰路についていた。
ボクが住んでいるのは、この森の少し奥に行ったところにある小屋だ。近くに町があるから生活には困らないし、人通りは少ないから、女の子をお持ち帰りしやすいんだよねぇ。
「……ブラハルト……エルミーユ……ふぅん……」
……ボクを追放した父上に復讐をしようと思っていたのに、母上もろとも勝手にくたばったから、腹いせにブラハルトのありもしない恐ろしい噂をでっちあげ、社交界に流して孤立させてやったというのに、あんな女が出てくるとは、想定外だったなぁ……。
「あんな堅物で、目つきの悪い奴のどこがいいんだか。まったく世の中は広いなぁ~! あははっ!」
誰もいない森の中に、ボクの笑い声が響き渡る。
それから間もなく、ボクは思い切り木に拳をめり込ませた。
「はぁぁぁぁ……マジでざっけんなクソが!! あんな出来損ないの弟なんて、汚ねえ領地とゴミみたいな領民を守って人生終わらせりゃ良いのに、急に幸せな感じになりやがって! はぁ~つまんねぇ!」
一発殴っただけでは、ボクの怒りは収まらない。二度、三度と木を殴り、枝をへし折り、辺りにあった草を無造作に引き抜き、そして地面に叩きつけた。
「あの女も、水をかけるとかありねぇよ! 久しぶりに会った相手にそんな馬鹿なことが出来るとか、どんな神経してんだよ! ブラハルトと結婚したからって、図に乗り過ぎだろ!」
ブラハルトとエルミーユへの恨み言を言いながら、さらに植物に当たり散らす。
そのおかげで、少しだけ気分が落ち着いてきた。
「はぁ……ふぅ……あ~いっけない。こんなことじゃ、かわい子ちゃんに逃げられちゃうじゃ~ん。落ち着けボク! さて、とりあえず、あの女のことを調べないといけないな……情報が見つかったら、即行動ってね。くひひっ……ブラハルトぉ……エルミーユぅ……待っててねぇ。すぐにこの優しいお兄ちゃんが、人生のどん底につき落としてあげるからねぇ……!!」
方針も決まったことだし、今日はさっさと帰るとするかな~。
ああ、でも……この怒りを抱えたままじゃ、眠れそうもない……そうだ、さっきの金で女と酒を調達して、朝まで遊び倒すか!
よっしゃ、そう考えたら元気が出てきたぞ~! さっすがボク! そうと決まれば……待っててね、おいしいお酒にかわい子ちゃ~ん!
ブラハルト様の言葉を聞いて、思わず喉がごくりと鳴った。
私を愛さない理由……気になっていなかった言えば嘘になる。でも、当時はそれを聞いて、結婚を無かったことにされるのが嫌だったから、聞かなかったの。
「俺の噂のことは知っているだろう? 家を存続させるために、婚約者は必要だったが……俺の噂のせいで、婚約してくれた女性が、同じ様に恐れられるのが嫌だった。そうなるくらいなら、婚約者にどう思われてもいいから、突き放そうと考えた」
「どうしてですか?」
「愛が無ければ、俺のことが悪く言われても、関係ないと思ってもらえるから、傷つけずに済む。それに、貴族達に愛のない姿を見せれば、俺が無理やり結婚させたと思わせられる。そうすれば、貴族達の矛先は俺にだけ向けられると思ったんだ」
なるほど……ブラハルト様は、自分が更に悪く言われるために、愛さないと伝えておいて、結婚してもいいと言った女性を守ろうとしていたのね。
この真面目過ぎるというか、ちょっと不器用なやり方なのが、ブラハルト様らしい。
「そうやって、アルスター家と婚約者の女性……私を守ろうとしてくれたのですね。でも、どうしてそれを話してくれたのですか?」
「先日マリーヌに、こんな方法で守るよりも、堂々と守ればいい、エルミーユならきっとわかってくれると、アドバイスをされたんだ。それを聞いて、俺は自分のやり方が、間違っていると気づいた」
チラッとだけマリーヌを見ると、小さくウィンクをしていた。
マリーヌは、ブラハルト様が生まれた時から面倒をみていたそうだから、こういう時の説得力は、私が思っている以上にあるのだろう。
「色々話しておいてなんだが、この前のパーティー会場でも、兄上とのことでも、俺は君に守られてばかりの、情けない男だ」
「情けなくなんてありませんわ!」
「優しい君なら、そう言うと思っていたよ。だが、君を妻として迎え入れたからには、その優しさに甘えるわけにはいかないんだ。だから……愛さないという言葉を取り消して、これからも夫として、君のことを守らせてほしい」
「…………」
そう言いながら手を差し出すブラハルト様の表情は、とても真剣そのものだった。
そんなブラハルト様を見ていたら、なぜか胸の奥が大きく高鳴っていた。
「……ブラハルト様は、本当に真面目なお方ですのね」
「そうなのか? マリーヌ、俺は真面目なのか?」
「はい。超が十個ほど付くくらいには」
「そこまでなのか!?」
誰が見ても、ブラハルト様はとても真面目なお方だ。そして、とても誠実でもある。
私はそんなブラハルト様を信じているし、素晴らしいお方だと心の底から思う。
「ま、まあいい。それで、君の答えを貰ってもいいか?」
答えだなんて、そんなの一つに決まっているわ。
「はい。もちろん……これからも、お傍においてくださいませ」
私はブラハルト様から差し出された手を、両手で優しく包み込むと、大きく頷いて見せた。
最初から私を守る覚悟をしていたブラハルト様の優しさに報いるためにも、これからもブラハルト様と一緒に歩み続け、そしてブラハルト様を守っていきたい。
そして、どんな形になるかはわからないけど、ブラハルト様にはちゃんと恩返しがしたいと、強く思った。
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■エドガー視点■
「ふんふふ~ん……!」
アルスター家から帰る途中、ボクは愛しの弟君から貰ったお金が入った鞄をクルクルと振り回しながら、帰路についていた。
ボクが住んでいるのは、この森の少し奥に行ったところにある小屋だ。近くに町があるから生活には困らないし、人通りは少ないから、女の子をお持ち帰りしやすいんだよねぇ。
「……ブラハルト……エルミーユ……ふぅん……」
……ボクを追放した父上に復讐をしようと思っていたのに、母上もろとも勝手にくたばったから、腹いせにブラハルトのありもしない恐ろしい噂をでっちあげ、社交界に流して孤立させてやったというのに、あんな女が出てくるとは、想定外だったなぁ……。
「あんな堅物で、目つきの悪い奴のどこがいいんだか。まったく世の中は広いなぁ~! あははっ!」
誰もいない森の中に、ボクの笑い声が響き渡る。
それから間もなく、ボクは思い切り木に拳をめり込ませた。
「はぁぁぁぁ……マジでざっけんなクソが!! あんな出来損ないの弟なんて、汚ねえ領地とゴミみたいな領民を守って人生終わらせりゃ良いのに、急に幸せな感じになりやがって! はぁ~つまんねぇ!」
一発殴っただけでは、ボクの怒りは収まらない。二度、三度と木を殴り、枝をへし折り、辺りにあった草を無造作に引き抜き、そして地面に叩きつけた。
「あの女も、水をかけるとかありねぇよ! 久しぶりに会った相手にそんな馬鹿なことが出来るとか、どんな神経してんだよ! ブラハルトと結婚したからって、図に乗り過ぎだろ!」
ブラハルトとエルミーユへの恨み言を言いながら、さらに植物に当たり散らす。
そのおかげで、少しだけ気分が落ち着いてきた。
「はぁ……ふぅ……あ~いっけない。こんなことじゃ、かわい子ちゃんに逃げられちゃうじゃ~ん。落ち着けボク! さて、とりあえず、あの女のことを調べないといけないな……情報が見つかったら、即行動ってね。くひひっ……ブラハルトぉ……エルミーユぅ……待っててねぇ。すぐにこの優しいお兄ちゃんが、人生のどん底につき落としてあげるからねぇ……!!」
方針も決まったことだし、今日はさっさと帰るとするかな~。
ああ、でも……この怒りを抱えたままじゃ、眠れそうもない……そうだ、さっきの金で女と酒を調達して、朝まで遊び倒すか!
よっしゃ、そう考えたら元気が出てきたぞ~! さっすがボク! そうと決まれば……待っててね、おいしいお酒にかわい子ちゃ~ん!
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