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第五十五話 夢の世界
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「シエル……無事、か……?」
「え……あ、あ……」
深々と胸に剣が突き刺さっているにも関わらず、ジーク様は私に手を伸ばしながら、身を案じてくれました。
一方の私は……目の前で起きた現実を受け入れられず、ただ声にならない声を絞り出す事しか出来ません。
「俺は……だい、じょうぶ……だ……から……そんな、顔……」
息が絶え絶えになり、目も虚ろになっていて大丈夫と言われても、私には到底信じられませんでした。
こんなの嘘ですよね? ついさっきまで、皆様で楽しくお話していたのに……どうしてこんな事に……?
「お前は……早く逃げろ……俺が、なんとかお前と……ココと……兄上が避難する時間を……稼……ぐっ……」
「ジーク様!!」
突き刺さっていた剣が抜かれて支えが無くなったジーク様は、力なく地面に倒れこみました。
ど、どうしよう……は、早く治療をしないといけないのに……動揺しすぎて魔力が定まらない……早く、早くして……じゃないと……皆様が助からない……!
「す、すぐに治療を……」
「いい……もう、間に合わないのは……自分でわかる……」
「ジーク様……い、いや……いやぁ……」
「逃げたら……俺の事は忘れて……もっと良い男と……しあわ、せ……に……」
その言葉を最後に、ジーク様はピクリとも動かなくなりました。胸から血が止めどなく溢れ、息をしているかすら定かではありません。
そんな中……私には悪魔のように聞こえる笑い声と共に、アンドレ様がギロリと私を見てきました。
「さあ……後はてめえだけだ……シエル」
「ひっ……あ、いや……」
「怖いか? 悲しいか? それとも憎いか? だが、これは全て……てめえのせいだ! オレ様の許可も無く……勝手に幸せになろうとした末路が……この惨事だ!」
私……私のせいで……ジーク様は……クリス様は……ココ様は……お屋敷の方々は……犠牲、に……?
「だが安心しろ……すぐにこいつらと同じところに送ってやるからよ……クククッ……聖女ではなくて、ベルモンド家に滅亡と破滅を運んできた死神となったてめえを……歓迎するかは知らねえけどよぉ!! ギャハハハハハ!!」
アンドレ様は、耳をつんざくような高笑いを上げながら、ジーク様の持っていた剣を拾い、振り上げました。
嫌だ……こんなの嫌だ! 私なんてどうなってもいいから……私が巻き込んでしまった人達を助けたいのに……!
「私は死神なんかじゃない……私を守り、救ってくれた人達に恩を返し、皆様も幸せに……!」
「なれるわけねぇだろ!!」
……その言葉を最後に、私の意識は闇に沈みました……。
****
気がついたら、辺りは暗闇に包まれていました。音も無ければ、人の気配も無い。ただただ漆黒の世界……。
私、あのまま死んじゃったのでしょうか? もっと痛くて、苦しんで死ぬかと思っていたのに……こんなにあっさりとしているんですね。
ぐすっ……私、結局まともな恩返しも出来なかったどころか、大切な人を巻き込んで死んじゃうなんて……本当にこれでは死神じゃないですか。
やっぱり私なんて……巡礼が終わったら、そのまま死んじゃえばよかったんだ。そうすれば……天国でお母さんと一緒に暮らして……ベルモンド家の方々や、ココ様を……愛する人を巻き込まなかったのに……。
「ごめんなさい……ごめんなさい……私、皆様を救いたかったのに……何も出来なかった……!」
私の涙が、漆黒の空間にぽたりと落ちると、そこから広がるように、辺りが一気に明るくなりました。
きゅ、急に明るくなったから、眩しくて目がちょっと痛いです。って……死んじゃったのに目が痛いだなんて、おかしな話ですね……あはは……。
「ここ、なんなのでしょう……? なんだか雲の上を歩いているみたいです」
一面に広がる地面は、柔らかさこそないものの、空を自由に浮かんでいる雲そのものでした。
ここは天国なんでしょうか? でも、周りには誰もいません……私一人でこんな所にいても……全然嬉しくありません……。
「ぐすっ……」
「……シエル」
「……?」
無限に続いているかのような雲の上で、一人膝を抱えて泣いていると、私を呼ぶ声が聞こえてきました。その声に釣られて顔を上げると……そこにいたのは……。
「えっ……? お、お母さん……!?」
そう、そこにいたのは……私がずっと会いたかったお母さんの姿でした。私が巡礼の旅に出てから、全く変わっていません。
「あれ……雰囲気が違う……似てるけど……お母さんじゃない……」
お母さんはなんていうか、もっと優しい雰囲気で……いつもつらくても笑顔を絶やさない人でした。でも、目の前の人はとても冷たい雰囲気で……同じなのは外見だけにしか見えません。
「あなたは、誰ですか? お母さんじゃないですよね?」
「我は……汝の願いを聞き届けに来た」
やっぱりお母さんじゃなかったですね。でも……願いを叶えるって、どういう事でしょうか?
「混乱しておるようだな」
「は、はい……お母さんじゃなければ、あなたは誰ですか?」
「先程も問われたが、名乗る事は出来ない。悠久の時の中で、魔法に刻まれた我の意志から、名は零れ落ちてしまった」
「えっと……?」
「そうだな……純白の聖女と言えば、伝わるやもしれぬ」
「じゅ、純白の聖女!?」
純白の聖女――その名前は覚えがあります。私が回復術師の勉強をしている時に、本にその名前がありました。あらゆる傷を癒す魔法を使い、戦争に参加したり、初めての巡礼をして、国や民の為に尽力を尽くした人の名前です。
でも、そんな人がどうしてこんな所にいるのでしょう? それに、どうして私の願いを叶えると仰ったのでしょう?
「その、どうして純白の聖女様は私に……?」
「汝は我の子孫だからだ」
「……はい?」
「理解できぬか? 我と汝は血縁関係にある」
「……えぇぇぇぇ!?!?」
わ、私なんかが……後世にも伝えられている純白の聖女様の血縁!? あまりにも突然すぎる話で、全然ついていける気配がありません!
「我は役目を終えた後、表舞台から姿を消し、愛する夫と結婚をした。そして、子を授かった。その子に我の回復の魔法を継承し……子が更に子を産んだ際に継承をして、汝の代にまで至った」
「で、でも私……ただのスラムの子ですよ?」
「我の子孫が、貧困層にならないという制約は無い。我の知る限りでは、漁師や農民の子孫もいれば、貴族の子孫もいたと記録されている」
な、なるほど……? それなら、血が繋がっていればスラムの人間とかでも関係ないのですね。
……あ! もしかして、私が純白の聖女様の本を見た時に凄く惹かれたのは……無意識に自分のご先祖様だってわかったから!?
「我の役目は、子孫達が強い想いを抱いた際に、力を貸すというものだ。故に、我は純白の聖女に作られた」
「つ、作られた?」
「具体的に言うなら、我は純白の聖女の意思だ。継承する魔法に、純白の聖女の意思を埋め込んだ結果生まれたのが、我だ」
「よ、よくわかりませんが……ご本人ではないという事ですね」
「左様」
つまり……純白の聖女様のお子様に魔法を継承する際に、自分の意思を刻み込んで……その魔法がそのままずっと継承され続けたって認識……で合ってるでしょうか? あんまり自信はありません……。
「過程に関しては、さほど重要ではない。あくまで説明の為に必要なものに過ぎない」
「た、確かに……それで、助けてくれると仰ってましたが……」
「うむ。先程も伝えたが、我は汝の強い想いによって目覚めた。己の事など一切顧みず、汝の大切な人を助けたいという……な。その想いを成就させたい」
「ほ、本当ですか!?」
「子供達や国、民を救う為に我は存在している。さあ、手を取るがいい、愛しき子よ」
純白の聖女様は、とても細くて綺麗な手を私に伸ばしました。その手をゆっくりと
掴むと、彼女は私は優しく立ち上がらせてくれました。
……不思議です。触れた手は氷のように冷たいのに、私の心も体も暖かく感じています。きっと本能的に、この方は私の家族だと認識したのでしょう。
えへへ……こんな形ではありますが、私のひいひいひいひい……どれくらいかわかりませんが、お婆ちゃんに出会えたって事ですもんね!
「シエル。我は汝の中でずっと見ていた。我からすれば短き時だが、汝にとっては長く、苦しい人生だっただろう。よく母の為に頑張った。民の為……国の為に頑張った」
「聖女様……」
「ありがとう、シエル。我の意志を継いでくれて……」
「あっ……」
私の手をそのまま引っ張った純白の聖女様は、私の体を優しく包み込んでくれました。その感覚は、幼い頃にお母さんにくっついていた時と似ていて……嬉しくて、悲しくて……感情がぐちゃぐちゃになって、涙となって溢れました。
「ひっぐ……あ、ありがとうございます……私、ずっとつらくて……やっと旅が終わったのに、お母さんが亡くなって……悲しくて……!」
「ああ、わかっておる。汝の中で、その悲しさは十分伝わった。だが、今の汝にはかけがえのない者達がいる。彼らを助けるのだろう? 共に幸せになるのだろう?」
「……はいっ! 私は……皆様に恩を返して……そして、愛する人やそのご家族、そして大切な友達と一緒に、幸せになるんです!!」
私の強い想いに呼応するように、辺りの景色は眩しくなっていき――私は再び意識を失ってしまいました。
****
「ギャハハハハハ!! これでオレ様の復讐は達成された! もう思い残すことはね
ぇ……が、想像以上に殺しは楽しいじゃねえか……そうだ、この命が尽きる前に、一人でも多く地獄に道連れにしてやるのも一興か?」
「……そんな事、させません!」
いつの間にかジーク様の隣で倒れていた私は、目覚め際に聞こえてきた酷い言葉を遮るように、声を上げながら立ち上がりました。私の体を纏うように、白いオーラがが出ているのがちょっと気になりますね……。
えっと、体はどこも痛くありませんが、服が大きく破れています……やっぱり斬られたんですね。でも傷はありません。
私の魔法は自分には使えないはずだったんですが、純白の聖女様が目覚めたおかげで、自分にも使えるようになったのでしょうか?
「……なっ……!? なぜ生きている!? 確かに急所を斬ったはず……生きていられるはずがねぇ!」
「私の魔法は……想いは、あなたの狭まった視野で見てもわかりません! お願い、私の中に眠る偉大なる聖女様の力……私の大切な人達を癒して……呼び戻して!」
私の願いに呼応して、体の光が部屋一杯に広がりました。眩しいけど、とても暖かい光……ですが、アンドレ様にはそれがお気に召さなかったようで、一人でイライラしています。
「ぐっ……ここは……?」
「ジーク様!? ご無事ですか!?」
「あ、ああ……おかしい、もう助からないと思っていたのに……」
「よかった……!!」
私はあまりにも嬉しくて、ジーク様の胸に飛び込んでしまいました。結構な衝撃だったと思うんですが……それでもジーク様は嫌な顔を一つせず、私の頭と背中に手を回してくれました。
「さっきは突き放すような事を言ってすまなかった……」
「ううん、いいんです……ジーク様の優しさは伝わりましたから……」
「シエル……」
「そうだ、クリス様とココ様は!?」
急いでお二人の確認をしようとする為に立ち上がると、お二人共怪我なんてまるでなかったかのように、ケロッとしていました。
これが、純白の聖女様の本当の力……? 私がやっても、重い症状はすぐに治せないので、巡礼の時に、間に合わない患者様もいたのですが……一瞬で治してしまうだなんて。
「みんな、無事のようだね。本当によかった」
「シエルさん! 怪我はないですか!」
「はい、なんとか……ある人が助けてくれたんです」
「ククッ……全くふざけた野郎どもだ……まさか復活するとはな。それに、オレ様をコケにした挙句、のけ者にするとは……」
『シエル。今こそ力を開放する時。汝の想いを魔力として……解き放て!!』
「はいっ!! 今までずっと守られてばかりだし、この力も聖女様からの借りものですが……それでも、私は私の意志で、皆様を助けたいんです!!」
私の体から溢れる光は止まる事を知らず、ついには屋敷の近辺にまで広がっていきました。こうすれば、屋敷の別の部屋にいる方や、外で倒れている方を助けられます!
「んだよ……オレ様は王族だぞ!? 何故こうまでして逆らう!?」
「ふざけるな、貴様はもう王族ではない!!」
「黙れ駄犬が! それを決めるのは、選ばれた人間だけだ!」
こんな状況になっても、王族の血が抜けきれていないその姿を見て、少しだけ黒い考えが浮かびました。
こいつさえいなかったら、と……。
『なるほど、汝もそう思うか。奇遇だな……我も同じ結論だ。代われシエル。ここからは我がやる」
「え、代わるって……?」
『我が魔法の根源は、治癒の魔法にあらず。愛しき子や民や国にとって、成長と繁栄の妨げになる者を排除・消滅するのが、我の魔法。その消滅の中に、怪我や病が含まれていたにすぎない。これから魔法を使った際に、汝の心に深い傷を残すやもしれぬ。それは我の望まぬ事だ』
訳も分からないうちに、私は強い睡魔に襲われて、そのまま眠りについてしまいました……。
「え……あ、あ……」
深々と胸に剣が突き刺さっているにも関わらず、ジーク様は私に手を伸ばしながら、身を案じてくれました。
一方の私は……目の前で起きた現実を受け入れられず、ただ声にならない声を絞り出す事しか出来ません。
「俺は……だい、じょうぶ……だ……から……そんな、顔……」
息が絶え絶えになり、目も虚ろになっていて大丈夫と言われても、私には到底信じられませんでした。
こんなの嘘ですよね? ついさっきまで、皆様で楽しくお話していたのに……どうしてこんな事に……?
「お前は……早く逃げろ……俺が、なんとかお前と……ココと……兄上が避難する時間を……稼……ぐっ……」
「ジーク様!!」
突き刺さっていた剣が抜かれて支えが無くなったジーク様は、力なく地面に倒れこみました。
ど、どうしよう……は、早く治療をしないといけないのに……動揺しすぎて魔力が定まらない……早く、早くして……じゃないと……皆様が助からない……!
「す、すぐに治療を……」
「いい……もう、間に合わないのは……自分でわかる……」
「ジーク様……い、いや……いやぁ……」
「逃げたら……俺の事は忘れて……もっと良い男と……しあわ、せ……に……」
その言葉を最後に、ジーク様はピクリとも動かなくなりました。胸から血が止めどなく溢れ、息をしているかすら定かではありません。
そんな中……私には悪魔のように聞こえる笑い声と共に、アンドレ様がギロリと私を見てきました。
「さあ……後はてめえだけだ……シエル」
「ひっ……あ、いや……」
「怖いか? 悲しいか? それとも憎いか? だが、これは全て……てめえのせいだ! オレ様の許可も無く……勝手に幸せになろうとした末路が……この惨事だ!」
私……私のせいで……ジーク様は……クリス様は……ココ様は……お屋敷の方々は……犠牲、に……?
「だが安心しろ……すぐにこいつらと同じところに送ってやるからよ……クククッ……聖女ではなくて、ベルモンド家に滅亡と破滅を運んできた死神となったてめえを……歓迎するかは知らねえけどよぉ!! ギャハハハハハ!!」
アンドレ様は、耳をつんざくような高笑いを上げながら、ジーク様の持っていた剣を拾い、振り上げました。
嫌だ……こんなの嫌だ! 私なんてどうなってもいいから……私が巻き込んでしまった人達を助けたいのに……!
「私は死神なんかじゃない……私を守り、救ってくれた人達に恩を返し、皆様も幸せに……!」
「なれるわけねぇだろ!!」
……その言葉を最後に、私の意識は闇に沈みました……。
****
気がついたら、辺りは暗闇に包まれていました。音も無ければ、人の気配も無い。ただただ漆黒の世界……。
私、あのまま死んじゃったのでしょうか? もっと痛くて、苦しんで死ぬかと思っていたのに……こんなにあっさりとしているんですね。
ぐすっ……私、結局まともな恩返しも出来なかったどころか、大切な人を巻き込んで死んじゃうなんて……本当にこれでは死神じゃないですか。
やっぱり私なんて……巡礼が終わったら、そのまま死んじゃえばよかったんだ。そうすれば……天国でお母さんと一緒に暮らして……ベルモンド家の方々や、ココ様を……愛する人を巻き込まなかったのに……。
「ごめんなさい……ごめんなさい……私、皆様を救いたかったのに……何も出来なかった……!」
私の涙が、漆黒の空間にぽたりと落ちると、そこから広がるように、辺りが一気に明るくなりました。
きゅ、急に明るくなったから、眩しくて目がちょっと痛いです。って……死んじゃったのに目が痛いだなんて、おかしな話ですね……あはは……。
「ここ、なんなのでしょう……? なんだか雲の上を歩いているみたいです」
一面に広がる地面は、柔らかさこそないものの、空を自由に浮かんでいる雲そのものでした。
ここは天国なんでしょうか? でも、周りには誰もいません……私一人でこんな所にいても……全然嬉しくありません……。
「ぐすっ……」
「……シエル」
「……?」
無限に続いているかのような雲の上で、一人膝を抱えて泣いていると、私を呼ぶ声が聞こえてきました。その声に釣られて顔を上げると……そこにいたのは……。
「えっ……? お、お母さん……!?」
そう、そこにいたのは……私がずっと会いたかったお母さんの姿でした。私が巡礼の旅に出てから、全く変わっていません。
「あれ……雰囲気が違う……似てるけど……お母さんじゃない……」
お母さんはなんていうか、もっと優しい雰囲気で……いつもつらくても笑顔を絶やさない人でした。でも、目の前の人はとても冷たい雰囲気で……同じなのは外見だけにしか見えません。
「あなたは、誰ですか? お母さんじゃないですよね?」
「我は……汝の願いを聞き届けに来た」
やっぱりお母さんじゃなかったですね。でも……願いを叶えるって、どういう事でしょうか?
「混乱しておるようだな」
「は、はい……お母さんじゃなければ、あなたは誰ですか?」
「先程も問われたが、名乗る事は出来ない。悠久の時の中で、魔法に刻まれた我の意志から、名は零れ落ちてしまった」
「えっと……?」
「そうだな……純白の聖女と言えば、伝わるやもしれぬ」
「じゅ、純白の聖女!?」
純白の聖女――その名前は覚えがあります。私が回復術師の勉強をしている時に、本にその名前がありました。あらゆる傷を癒す魔法を使い、戦争に参加したり、初めての巡礼をして、国や民の為に尽力を尽くした人の名前です。
でも、そんな人がどうしてこんな所にいるのでしょう? それに、どうして私の願いを叶えると仰ったのでしょう?
「その、どうして純白の聖女様は私に……?」
「汝は我の子孫だからだ」
「……はい?」
「理解できぬか? 我と汝は血縁関係にある」
「……えぇぇぇぇ!?!?」
わ、私なんかが……後世にも伝えられている純白の聖女様の血縁!? あまりにも突然すぎる話で、全然ついていける気配がありません!
「我は役目を終えた後、表舞台から姿を消し、愛する夫と結婚をした。そして、子を授かった。その子に我の回復の魔法を継承し……子が更に子を産んだ際に継承をして、汝の代にまで至った」
「で、でも私……ただのスラムの子ですよ?」
「我の子孫が、貧困層にならないという制約は無い。我の知る限りでは、漁師や農民の子孫もいれば、貴族の子孫もいたと記録されている」
な、なるほど……? それなら、血が繋がっていればスラムの人間とかでも関係ないのですね。
……あ! もしかして、私が純白の聖女様の本を見た時に凄く惹かれたのは……無意識に自分のご先祖様だってわかったから!?
「我の役目は、子孫達が強い想いを抱いた際に、力を貸すというものだ。故に、我は純白の聖女に作られた」
「つ、作られた?」
「具体的に言うなら、我は純白の聖女の意思だ。継承する魔法に、純白の聖女の意思を埋め込んだ結果生まれたのが、我だ」
「よ、よくわかりませんが……ご本人ではないという事ですね」
「左様」
つまり……純白の聖女様のお子様に魔法を継承する際に、自分の意思を刻み込んで……その魔法がそのままずっと継承され続けたって認識……で合ってるでしょうか? あんまり自信はありません……。
「過程に関しては、さほど重要ではない。あくまで説明の為に必要なものに過ぎない」
「た、確かに……それで、助けてくれると仰ってましたが……」
「うむ。先程も伝えたが、我は汝の強い想いによって目覚めた。己の事など一切顧みず、汝の大切な人を助けたいという……な。その想いを成就させたい」
「ほ、本当ですか!?」
「子供達や国、民を救う為に我は存在している。さあ、手を取るがいい、愛しき子よ」
純白の聖女様は、とても細くて綺麗な手を私に伸ばしました。その手をゆっくりと
掴むと、彼女は私は優しく立ち上がらせてくれました。
……不思議です。触れた手は氷のように冷たいのに、私の心も体も暖かく感じています。きっと本能的に、この方は私の家族だと認識したのでしょう。
えへへ……こんな形ではありますが、私のひいひいひいひい……どれくらいかわかりませんが、お婆ちゃんに出会えたって事ですもんね!
「シエル。我は汝の中でずっと見ていた。我からすれば短き時だが、汝にとっては長く、苦しい人生だっただろう。よく母の為に頑張った。民の為……国の為に頑張った」
「聖女様……」
「ありがとう、シエル。我の意志を継いでくれて……」
「あっ……」
私の手をそのまま引っ張った純白の聖女様は、私の体を優しく包み込んでくれました。その感覚は、幼い頃にお母さんにくっついていた時と似ていて……嬉しくて、悲しくて……感情がぐちゃぐちゃになって、涙となって溢れました。
「ひっぐ……あ、ありがとうございます……私、ずっとつらくて……やっと旅が終わったのに、お母さんが亡くなって……悲しくて……!」
「ああ、わかっておる。汝の中で、その悲しさは十分伝わった。だが、今の汝にはかけがえのない者達がいる。彼らを助けるのだろう? 共に幸せになるのだろう?」
「……はいっ! 私は……皆様に恩を返して……そして、愛する人やそのご家族、そして大切な友達と一緒に、幸せになるんです!!」
私の強い想いに呼応するように、辺りの景色は眩しくなっていき――私は再び意識を失ってしまいました。
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「ギャハハハハハ!! これでオレ様の復讐は達成された! もう思い残すことはね
ぇ……が、想像以上に殺しは楽しいじゃねえか……そうだ、この命が尽きる前に、一人でも多く地獄に道連れにしてやるのも一興か?」
「……そんな事、させません!」
いつの間にかジーク様の隣で倒れていた私は、目覚め際に聞こえてきた酷い言葉を遮るように、声を上げながら立ち上がりました。私の体を纏うように、白いオーラがが出ているのがちょっと気になりますね……。
えっと、体はどこも痛くありませんが、服が大きく破れています……やっぱり斬られたんですね。でも傷はありません。
私の魔法は自分には使えないはずだったんですが、純白の聖女様が目覚めたおかげで、自分にも使えるようになったのでしょうか?
「……なっ……!? なぜ生きている!? 確かに急所を斬ったはず……生きていられるはずがねぇ!」
「私の魔法は……想いは、あなたの狭まった視野で見てもわかりません! お願い、私の中に眠る偉大なる聖女様の力……私の大切な人達を癒して……呼び戻して!」
私の願いに呼応して、体の光が部屋一杯に広がりました。眩しいけど、とても暖かい光……ですが、アンドレ様にはそれがお気に召さなかったようで、一人でイライラしています。
「ぐっ……ここは……?」
「ジーク様!? ご無事ですか!?」
「あ、ああ……おかしい、もう助からないと思っていたのに……」
「よかった……!!」
私はあまりにも嬉しくて、ジーク様の胸に飛び込んでしまいました。結構な衝撃だったと思うんですが……それでもジーク様は嫌な顔を一つせず、私の頭と背中に手を回してくれました。
「さっきは突き放すような事を言ってすまなかった……」
「ううん、いいんです……ジーク様の優しさは伝わりましたから……」
「シエル……」
「そうだ、クリス様とココ様は!?」
急いでお二人の確認をしようとする為に立ち上がると、お二人共怪我なんてまるでなかったかのように、ケロッとしていました。
これが、純白の聖女様の本当の力……? 私がやっても、重い症状はすぐに治せないので、巡礼の時に、間に合わない患者様もいたのですが……一瞬で治してしまうだなんて。
「みんな、無事のようだね。本当によかった」
「シエルさん! 怪我はないですか!」
「はい、なんとか……ある人が助けてくれたんです」
「ククッ……全くふざけた野郎どもだ……まさか復活するとはな。それに、オレ様をコケにした挙句、のけ者にするとは……」
『シエル。今こそ力を開放する時。汝の想いを魔力として……解き放て!!』
「はいっ!! 今までずっと守られてばかりだし、この力も聖女様からの借りものですが……それでも、私は私の意志で、皆様を助けたいんです!!」
私の体から溢れる光は止まる事を知らず、ついには屋敷の近辺にまで広がっていきました。こうすれば、屋敷の別の部屋にいる方や、外で倒れている方を助けられます!
「んだよ……オレ様は王族だぞ!? 何故こうまでして逆らう!?」
「ふざけるな、貴様はもう王族ではない!!」
「黙れ駄犬が! それを決めるのは、選ばれた人間だけだ!」
こんな状況になっても、王族の血が抜けきれていないその姿を見て、少しだけ黒い考えが浮かびました。
こいつさえいなかったら、と……。
『なるほど、汝もそう思うか。奇遇だな……我も同じ結論だ。代われシエル。ここからは我がやる」
「え、代わるって……?」
『我が魔法の根源は、治癒の魔法にあらず。愛しき子や民や国にとって、成長と繁栄の妨げになる者を排除・消滅するのが、我の魔法。その消滅の中に、怪我や病が含まれていたにすぎない。これから魔法を使った際に、汝の心に深い傷を残すやもしれぬ。それは我の望まぬ事だ』
訳も分からないうちに、私は強い睡魔に襲われて、そのまま眠りについてしまいました……。
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あることないこと言われて、我慢の限界!
絶対にあなたなんかに王子様は渡さない!
これは一生懸命生きる人が報われ、悪さをする人は報いを受ける、勧善懲悪のシンデレラストーリー!
*旧タイトルは『灰かぶり聖女は冷徹王子のお気に入り 〜自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのは公爵令嬢、あなたですよ〜』です。
*小説家になろうでも掲載しています。
婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです
秋月乃衣
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ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。
そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。
いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが──
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