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第三十五話 回復術師の試験に向けて

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 屋敷の自室に帰ってきた私は、勉強を進めるわけでもなく、ただ窓からボーっと部屋の外を眺めてました。

 ジーク様への気持ちがわかった今、私はどうすればいいのでしょうか? こ、ここ、ここここ、告白!? とかしたほうがよろしいんじゃないでしょうか! はい!!

 ……でも、もしジーク様が私の事を何も想ってなかったら……それで告白してダメだったら……絶対ジーク様にご迷惑をおかけしちゃいます。

 それに! 私のこの気持ちだって、もしかしたら恋じゃないかもしれません!

 一旦整理してみましょう。ジーク様の事を思い浮かべてみましょう――

『おはよう、シエル』
『俺が守る』
『俺とずっと一緒にいろ』
「……うへへへへへへ……」

 考えれば考える程、カッコいいジーク様の姿を思い出してしまい、にやけ顔が止まりませんし、胸がキュッとなります。こんな顔、誰にも見せられませんよ……。

 うーん、じゃあ次は……ジーク様がいなくなるのを妄想してみましょう。

『俺は別の家に婿養子に行く事になった』
『お前には愛想を尽かせた』
『もう二度と面を見せるな、髪の白いバケモノ』
「……ぐすっ……そんな事、言わないでくださいよぉ……!」

 いくつかのパターンを用意して自分の変化を見ようとしたはずなのに……私はジーク様に突き放されるのに、全く耐性が無かったみたいです……涙が止まりません。

 と、とにかくこれでは検証になりません。落ち着いて……こういう時は深呼吸……そうだ、昨日の美しいバラと、丘の上に立つお母さんの綺麗なお墓……それを思い出して、心を落ち着けよう……。

「……よし、ちょっと落ち着いた……ひっく」

 まだ嗚咽が止まりきってませんが、まあ良しとしましょう。それで、今後の方針ですが、大元は一切変えず、この恋心を隠す事だけ加えます。

 だって、今の状態で告白されても、きっとジーク様は困るだけですし、仮に成功したら、ジーク様への想いを爆発させてしまい、結果勉強してませーん! というのもありえます。それは避けなければ!

「シエル、いるか?」
「ふにゃあ!? じ、ジーク様!?」
「そんなに驚いてどうした」
「な、なんれもないれしゅううう!!」
「そんなに盛大に噛んで、何も無いは無理があるだろ……」

 うぅ……バレバレじゃないですか私の馬鹿……でも! どんな内容かまでは悟らせないようにしませんと!

「あの、急にどうかされたんですか?」
「少し話をしたかっただけだ。特に用は無い」
「お話? さきほど散歩でしたと思うんですが……」
「別にそれで終わりと決まってはいない。お前が嫌なら俺は去る。勉強の邪魔になるからな」
「わーわー! 行かないで! ずっと一緒にいたいです! あっ……」

 引き止める勢いのまま、私はとんでもない事を言ってしまいました。もう自分で見なくてもわかります。今、きっと顔が真っ赤で震えています!! うわぁぁぁぁん恥ずかしすぎますぅぅぅぅ!!

「……そ、そうか。それなら……鍛錬の時間までは一緒にいる」

 私の見間違えでしょうか? そっぽを向くジーク様のお顔が、ほんのりと赤くなっているように見えます。

 もしかして、ちょっと照れて――って、それはさすがに都合よく考えすぎですよね。恋はそう簡単に成就できるはずがありません!

「そうだ、伝えるのを忘れていた」
「なんですか?」
「今目指している回復術師の試験があるだろう?」
「ありますね」
「来月行われる」
「かなり直近だったんですね」
「お前も出るんだ。エントリーは事前にしてある」

 ……えっと、え、エント、リー? 私が??

「ええええええええ!? は、早すぎませんか!?」
「急な話なのは重々承知だ。だが……筆記試験と技能試験のうち、技能に関しては何の問題もないだろう。筆記もお前の学力なら、可能性は十分ある。以上の事から……試験にエントリーした。一応言っておくが、屋敷の皆で議論した結果だ」
「そうだったんですね……ジーク様……ありがとうございます。私、やってみます!」

 これでも、ジェニエス学園の入学でたくさん勉強しましたし、ここ最近も猛勉強してます。回復魔法だってバリバリ現役! これなら受かるかもしれません!

「よし、そうと決まれば猛勉強です!」
「意気込むのは良いが、ちゃんと休息は取るようにしろ」
「うっ……わ、わかりました。またご心配をおかけするわけにはいかないので、ちゃんと休みます」
「わかっているならいい。応援している」
「……はうぅ」

 いつものように無表情ではありましたが、私の頭を優しく撫でてくれました。それがあまりにも嬉しくて、自分の気持ちを抑えきれなくなって……私は無意識にジーク様に抱きついてしまいました。

「お、おい……どうした急に!? もしかして、何か悲しいのか? 俺が何かしたか?」
「あ、その……あの! ご、ごめんなさい……嬉しくなったら、抑えきれなくて……!」
「……そうか」

 そう言いながら、ジーク様は私の背中と頭に手を回しました。つまり……完全にハグされている状態です。

 これは……過ごすぎます……お姫様抱っこをして貰った際も凄かったけど……これはもっと……もう耐えられません……がくりっ。

「おいシエルどうした? シエル!? くそっ、誰かいないのか――」


 ****


 私が倒れるという騒動から少し経ったある日、私はついに回復術師の試験を受ける日がやって来ました。

 ちゃんと勉強もした、身だしなみも大丈夫、忘れ物も無い……完璧です! なんて偉そうな事を言ってますが……私はこの前倒れている身なので、あまり偉そうな事は言えません!

「うん、やはりそれが良く似合う」

 私の姿を見るジーク様は、満足そうにうんうんと頷いていました。

 もちろん理由はあります。彼が見てるこの真っ青なドレスは、ジーク様がクローゼットの中から厳選してくれたものです。だから、似合ってるのをちゃんと確認したかったのでしょう。

「兄上は交流祭の事で忙しくて、見送りに来れないようだ。だが、頑張っておいでと伝えておいてほしいと言われている。それと、これはお守りだそうだ」
「これは、この前のお守りの石? もう、クリス様は心配性ですね」
「ジークが同伴するとはいえ、気を付けて行ってくるのだぞ」
「落ち着いて受けるのよ? 問題が一つズレてたとかないようにね」
「わかりました! では、行ってきます!」

 私は見送りに来てくれたグザヴィエ様やセシリー様、そして屋敷の方々に元気よく挨拶をしながら、ジーク様の手を取って馬車に乗ります。

 今日の目的地は、試験の会場――ここから王都まで行かないといけないので、やや時間がかかります。その間に、復習をしておきましょう!

「この戦争で活躍した回復術師は……うんうん、あ! この人ってここで初めて歴史に出てくるんだ~! 知らなかった~!」
「……なんか普通に勉強を楽しんでいるように思えるが……まあいいか」

 ジーク様が少しだけ表情を綻ばせていると、突然――ガタンッ!! という音と共に、馬車が急に止まってしまいました。

「何事だ!?」
「しゅ、襲撃です! 」

 襲撃って……うそっ、今この場でこの馬車が襲われているというの!? しかも誰がそんな事を!?
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