上 下
21 / 58

第二十一話 ジェニエス学園

しおりを挟む
 キーンコーンカーンコーン――

「はぁ、終わりました……」

 初めてのジェニエス学園で過ごす時間が無事に終わった私は、程よい疲れと沢山の満足感を感じながら、大きく体を伸ばしました。

 授業は面白いですし、ジェニエス学園の中にあるものを見るのも新鮮ですし、クラスメイト達も優しいし……本当に私がこんな幸せを味わっていいのでしょうか。

「さてと、ジークさ――」
「シエルさん、これから学園の案内してあげるわ!」
「なに言ってるんだ! 聖女様を案内するのは俺だ!」
「え、あの……わ、私は……」

 ジーク様に声をかけようとした矢先、一瞬でクラスメイト達に囲まれてしまいました。

 皆様の好意は凄く嬉しいんですが……私はジーク様との約束が……今度こそちゃんと言わないと、皆様にもジーク様にも失礼ですよね。

「あ、あの! 私、ジーク様とお昼に学園を案内してもらうって約束をしてるんです!」
「あ、そうだったの? それじゃ仕方ないね~」
「ちぇ、聖女様に紹介したかったけど、仕方ないかー」

 よかった、何とか納得してもらえました。やっぱり皆様はとても良い人みたいです。教室の隅に、冷たい目で見てる人達もいますが……。

「お待たせしました、お願いします」
「ああ、任せろ」

 少し驚いたように目を大きく見開いていたジーク様は、すぐにいつものクールな表情に戻してから、私と一緒に教室を後にしました。

「まさか……お前が自分で言うとは思ってなかった」
「さっきは助けていただきましたけど、今度はちゃんと自分の口で言わないと、皆様やジーク様に失礼かと思ったんです」
「そうか。俺の事は気にしなくてもいいが……まあいい。さて、近い所から回るぞ」
「はいっ!」

 私はジーク様の案内の元、ジェニエス学園のあちこちを回り始めます。もうこの時点でドキドキとワクワクでいっぱいなのですが……どんなものが私を待っているのでしょうか?

「ここは第一音楽室だ。見ての通り、様々な楽器が置いてある。あのグランドピアノとかは、かなり一級品で良い音を奏でる」
「す、凄い立派です……あの棚に入ってるものは、楽譜ですか?」
「楽譜もあれば、音楽の歴史に名を遺す偉人の本もある。入って案内したいが、放課後は吹奏楽部の練習の邪魔になる」

 スイソウガクブ……? なんの名称でしょうか? 名前からして、なにかの音楽のような気もしますが……。

「木管楽器や金管楽器を主軸に置いた、音楽の事だ。そこに打楽器を加えたりもする」
「それをスイソウガクブというんですか?」
「吹奏楽部は、吹奏楽をする為に集まった人間で構成された、部活動だ」

 ま、また知らない単語が出てきました。ブカツドウとはなんなのでしょう? 全然わかりませんが、知らないお話を聞くと、不思議とワクワクするんですよね。勉強の時と同じです!

「部活動は……そうだな。ざっくり言うと、共通の趣味の生徒が集まった団体と言えば伝わるか?」
「共通……って事は、スイソウガクブは音楽が好きな方が集まってるって事ですか?」
「そういう事だ。うちは部活動にも力を入れているから、様々な部活動がある。丁度いいから、見かけた部活動は紹介しよう」
「いいんですか!? ありがとうございます!」

 その後、私は様々な所を回りました。怪しい薬品が置いてある理科室、魔法の練習や開発に使う研究室、数えきれないほどの本が置いてある大図書館!

 知らないものをたくさん見るだけで、どうしてこんなに楽しいんでしょうか!? 今の時間だけで、数日間遊び倒したくらいの疲れを感じるくらいです。

「…………」
「どうかしましたか?」
「……いや、楽しそうだと思ってな」
「は、はしゃぎすぎでしょうか……?」
「それは否めない」

 うぅ、やっぱりはしゃぎすぎてしまってたんですね……でも仕方ないんですよ! 食堂は広くて、少し食べたお菓子が本当においしかったし、大図書館は読みたい本がたくさんあって、もはや住めそうですし、自習室は個別になってるからみっちり勉強したいし……あちこちに素晴らしいものばかりなんです!

「すみません、はしゃぎすぎちゃって……うぅ、もうお嫁に行けません……」
「別に悲観する必要はないだろう。お前はずっと大変な場所に住んでて、つらい巡礼をやらされ、大切な人を失った。そんなお前が、少しくらい楽しんでも罰は当たらない。それに……」
「それに?」
「いや……貰い手が無くても、俺に当てがあるから心配するな」
「そうなんですか? ありがとうございます!」

 お礼を言っては見たものの、私は内心穏やかではありませんでした。あの発言って、捉え方を考えれば……ジーク様が私を……って、ないないないない!! 私のようなスラム出身で、髪色が気持ち悪くて、巡礼で得たサバイバル知識しかない女が、ジーク様に似合うわけ……ないもん……。

「急にどうした? 何か悲しいのか?」
「な、何でもないです。気にしないでください!」
「……? よくわからないが、あまり思いつめるなよ」
「はい、わかりました」

 変な事を言って心配をかけない為に、適当に誤魔化した私は、ジーク様と一緒にジェニエス学園を再度回り始めます。

 ただでさえお世話になっていて、ご迷惑もお掛けしているんだから、少しでも気を付けないといけませんよね。

「ここが最後だ。ここは訓練施設……剣や魔法の練習をする所だ」
「そうなんですか……? でもここって……」

 ジェニエス学園の端っこにある、小さな建物の中に来た私を出迎えたのは、受付のような所と、部屋番号のような数字が書かれた、大きくて平らな魔法石だけでした。

 ここで剣とか魔法の訓練をするなんて、さすがに無理があると思います。絶対に怪我人が出ちゃいますよ?

「見ればわかる……すまない、開いてる部屋の石を貸してほしい」
「今は一人用の部屋と団体用の部屋しか開いておりませんが、よろしいですか?」
「そうか……タイミングが悪いな。彼女に中の案内をしたいんだが……」
「でしたら構いませんよ。ただし、訓練をされるようでしたら、お一人になってくださいね」
「ああ、わかった。ありがとう」

 ジーク様は受付をしていた女性から、番号が書かれた石を一つ受け取りました。この石で何をするのか、私には皆目見当もつきません。

「シエル、俺の手を取れ」
「は、はい」
「行くぞ。起動」
「……え??」

 ジーク様の掛け声から一瞬で、さっきまで見ていた部屋ではなく、だだっ広い空間に変わっていました。

 い、一体何が起こったのか、全然わかりません。そもそもここはどこなのか、どうしてこんな所に来たのか、どうして一瞬で移動したのか……疑問しかありません。

「ここは、魔法で作られた空間だ。ここではいくら暴れても現実世界に影響がないから、好きなように魔法の練習が出来る。それに、自分の思ったように仮装敵を作る事もできる」
「……よくわかりませんが、凄いのだけはわかりました」
「とりあえずそれでいい。外に出るぞ……退出」

 先程と同じように、ジーク様の掛け声から間もなくして、先程の景色に戻っていました。

 さすが天下のジェニエス学園……設備の魔法のレベルがとんでもないです。いまだにこんな凄い所の生徒になれたのが信じられません。

「さて、一通り回り終えた。良い時間だから、そろそろ帰るとしよう」
「クリス様はいいんですか?」
「兄上は放課後も忙しいだろうから……変に邪魔はしたくない」
「わかりました。では、お屋敷で帰りを待ちましょう! それで、お帰りになったら一緒に出迎えましょう!」
「出迎えるって……たまにはそういうのも悪くはないか」

 優しく微笑むジーク様につられて、私もフフッと笑いながら、建物を出ようとすると、それを阻むように何人かの人達が立ちふさがりました。

 その人達は……私の事を毛嫌いしているクラスメイト達でした……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

あなたの子ですよ~王太子に捨てられた聖女は、彼の子を産んだ~

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
聖女ウリヤナは聖なる力を失った。心当たりはなんとなくある。求められるがまま、婚約者でありイングラム国の王太子であるクロヴィスと肌を重ねてしまったからだ。 「聖なる力を失った君とは結婚できない」クロヴィスは静かに言い放つ。そんな彼の隣に寄り添うのは、ウリヤナの友人であるコリーン。 聖なる力を失った彼女は、その日、婚約者と友人を失った――。 ※以前投稿した短編の長編です。予約投稿を失敗しないかぎり、完結まで毎日更新される予定。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

追放された聖女の悠々自適な側室ライフ

白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」 平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。 そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。 そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。 「王太子殿下の仰せに従います」 (やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや) 表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。 今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。 マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃 聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。

嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜

𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。 だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。 「もっと早く癒せよ! このグズが!」 「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」 「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」 また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、 「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」 「チッ。あの能無しのせいで……」 頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。 もう我慢ならない! 聖女さんは、とうとう怒った。

異世界から本物の聖女が来たからと、追い出された聖女は自由に生きたい! (完結)

深月カナメ
恋愛
十歳から十八歳まで聖女として、国の為に祈り続けた、白銀の髪、グリーンの瞳、伯爵令嬢ヒーラギだった。 そんなある日、異世界から聖女ーーアリカが降臨した。一応アリカも聖女だってらしく傷を治す力を持っていた。 この世界には珍しい黒髪、黒い瞳の彼女をみて、自分を嫌っていた王子、国王陛下、王妃、騎士など周りは本物の聖女が来たと喜ぶ。 聖女で、王子の婚約者だったヒーラギは婚約破棄されてしまう。 ヒーラギは新しい聖女が現れたのなら、自分の役目は終わった、これからは美味しいものをたくさん食べて、自由に生きると決めた。

偽物と断罪された令嬢が精霊に溺愛されていたら

影茸
恋愛
 公爵令嬢マレシアは偽聖女として、一方的に断罪された。  あらゆる罪を着せられ、一切の弁明も許されずに。  けれど、断罪したもの達は知らない。  彼女は偽物であれ、無力ではなく。  ──彼女こそ真の聖女と、多くのものが認めていたことを。 (書きたいネタが出てきてしまったゆえの、衝動的短編です) (少しだけタイトル変えました)

妻と夫と元妻と

キムラましゅろう
恋愛
復縁を迫る元妻との戦いって……それって妻(わたし)の役割では? わたし、アシュリ=スタングレイの夫は王宮魔術師だ。 数多くの魔術師の御多分に漏れず、夫のシグルドも魔術バカの変人である。 しかも二十一歳という若さで既にバツイチの身。 そんな事故物件のような夫にいつの間にか絆され絡めとられて結婚していたわたし。 まぁわたしの方にもそれなりに事情がある。 なので夫がバツイチでもとくに気にする事もなく、わたしの事が好き過ぎる夫とそれなりに穏やかで幸せな生活を営んでいた。 そんな中で、国王肝入りで魔術研究チームが組まれる事になったのだとか。そしてその編成されたチームメイトの中に、夫の別れた元妻がいて……… 相も変わらずご都合主義、ノーリアリティなお話です。 不治の誤字脱字病患者の作品です。 作中に誤字脱字が有ったら「こうかな?」と脳内変換を余儀なくさせられる恐れが多々ある事をご了承下さいませ。 性描写はありませんがそれを連想させるワードが出てくる恐れがありますので、破廉恥がお嫌いな方はご自衛下さい。 小説家になろうさんでも投稿します。

処理中です...