上 下
15 / 58

第十五話 試験結果

しおりを挟む
「……はぁ」

 翌日。私は自室に籠って窓の外を眺めながら、ずっと溜息を吐いて過ごしていました。

 試験の結果も勿論気になりますが、それ以上にジーク様とお話できなかったのが悲しいです。

 きっと……私がジーク様の気分を損ねたんだ。私のせいだ……。

 だから、謝りたい。なのに今日はタイミングが悪くて、お会いする前に学園に行ってしまいました。こればかりは運が悪かったと思って諦めるしかありません……。

 こういう時に、聖女なんだから回復魔法で何とかしろってい思うかもしれませんが、私の魔法で心の傷は治せません。あくまで外傷や病気を無かった事にするように治療するのが出来るだけです。

 それに……今の私は回復魔法を自分に使えません。沢山の人を治療し、支える為に生み出された魔法だからなのでしょうか?

 でも、他の回復魔法を使える方は、自分にも使えると聞いた事がありますし……私だけ変なのでしょうか? 治療の結果も変ですし……。

「やっぱり私、変なのかな。落ちこぼれなのかな……」
『婚約は破棄したし、お前の母の援助もしないと言っている』
「え……?」

 自分を責め始めたタイミングを見計らったかのように、頭の中に思い出が蘇って来ました。思い出したくもない……悪夢のようなものが。

『そもそも、六年前の約束なんて守るつもりなんて全くなかったんだがな』

 …………。

『平たく言えばその通りだ。巡礼と言う過酷な旅なんて行きたがる聖女は、この城にはいないからな。利用しやすいお前を唆したに過ぎない』

 ……やめて。

『お前のような気持ち悪い人間と結婚などするはずもねえだろバーカ! なんだその真っ白な髪! 気持ち悪いんだよ!』

 やめて……やめてよ!

『そうかお前は知らないんだったな! お前の母親はとっくに死んでるんだよ!』

 うるさいうるさいうるさいうるさい!!!! もうやめてよぉ! これ以上私を苦しめないでよぉ……少しくらい、幸せなひと時を味合わせてよぉ……。

『くくっ……あはははは! 今思い出しても笑えるぜ! もうこの世にいない母親がまだ生きてると思い込み、頻繁に大量の手紙を送ってたって思うと、面白くてしょうがねえ! 本当滑稽だよお前!』
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!! どっかいって! どっかいってよぉ!!」
「シエル様、どうされたんですか!?」
「もうやだぁ! 私はお母さんと幸せになりたかっただけなのに!! どうしていじめるの!? 酷い事をするの!? やめて……この力は本当です!だから信じて……皆さんそんな軽蔑な目をしない……石を投げないでください……う、うぅ……うえぇぇぇぇん……!」

 ずっと記憶に蓋をしてましたが、ついに蓋は外れ……私の封じた、嫌な記憶が一斉に溢れてきました。結果、私は子供のように泣き崩れる事しか出来ませんでした。

 スラムで虐げられ、貧乏な暮らしをし、巡礼中は過酷、せっかく治しても当たり前みたいな顔をする人もいますし、詐欺師だと言われた事も何度もあります。

 そんなつらい過去が……とめどなく涙となって溢れます。もう、自分では手が付けられないです。

 そんな中……来てくれたんです。あの方が。

「おい、何事だ?」
「ジーク、さまぁ……どうして……?」
「今日は学園が少し早く終わった。それより……そんなに泣き崩れて……部屋も乱れている。なにかあったのか?」
「その、嫌な事を思い出しちゃったら……感情を抑えられなくて」

 自分で言ってて情けないです。それなりに良い年なんだから、感情のコントロールくらいできるようにならないとなのに。

「そうか……とにかく落ち着け」
「え……?」

 ジーク様は、私の事を優しく抱きしめると、頭を撫で始めました。慣れてないのか、少し力が入っていましたが、なんだか少し心が軽くなりました。

「どうだ?」
「ちょっぴりよくなりました……けど……」
「まだ足りないか?  お前が元気になるなら……いくらでもしてやるからな」

 ジーク様は、更に私の頭をナデナデして、元気になってもらおうと頑張ってくれています。

 おかげ様で……よくはなったかもしれませんが、代わりに体中から汗が出てますし、胸の高まりも凄いです! このままくっついてたら、取り返しがつかなくなりそうです。主に私が!

「も、もう大丈夫です」
「そうか。ならいい」
「ありがとうございました。あっそうだ……あの、昨日からずっとお話したくて、でも機会が無くて」
「それはすまなかった。それで、話とは」
「昨日、傷つけてしまって申し訳ございませんでした!」

 私はジーク様の前に立つと、深々と頭を下げました。

 だって、きっとあの時に寂しそうにしてたのは、私の発言で何か不快に思われる事があったからに違いありません。

 それをジーク様に話すと……。

「……ふっ」
「え?」
「あははははっ! なるほど、それで心配してくれていたのか。感謝する」
「あの、怒ってないんですか?」
「ああ。全て俺の問題だから、気にする必要は無い」

 どういう事か聞こうとしたら、邪魔するように扉が開くと、そこにはクリス様が封筒を持って帰ってきたところでした

「失礼するよ。おや、ジークも帰っていたか。なら丁度いい」
「おかえりなさいませ。その大きな封筒は?」
「君宛だよ」

 私宛と聞いた時点で察しました。そのせいで、一気に緊張してきました……でも、見ないといけませんよね……すー……はー……あ、開けますよ……。

「紙が入ってるな」
「ですね……試験結果は――」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】人々に魔女と呼ばれていた私が実は聖女でした。聖女様治療して下さい?誰がんな事すっかバーカ!

隣のカキ
ファンタジー
私は魔法が使える。そのせいで故郷の村では魔女と迫害され、悲しい思いをたくさんした。でも、村を出てからは聖女となり活躍しています。私の唯一の味方であったお母さん。またすぐに会いに行きますからね。あと村人、テメぇらはブッ叩く。 ※三章からバトル多めです。

【完結】期間限定聖女ですから、婚約なんて致しません

との
恋愛
第17回恋愛大賞、12位ありがとうございました。そして、奨励賞まで⋯⋯応援してくださった方々皆様に心からの感謝を🤗 「貴様とは婚約破棄だ!」⋯⋯な〜んて、聞き飽きたぁぁ! あちこちでよく見かける『使い古された感のある婚約破棄』騒動が、目の前ではじまったけど、勘違いも甚だしい王子に笑いが止まらない。 断罪劇? いや、珍喜劇だね。 魔力持ちが産まれなくて危機感を募らせた王国から、多くの魔法士が産まれ続ける聖王国にお願いレターが届いて⋯⋯。 留学生として王国にやって来た『婚約者候補』チームのリーダーをしているのは、私ロクサーナ・バーラム。 私はただの引率者で、本当の任務は別だからね。婚約者でも候補でもないのに、珍喜劇の中心人物になってるのは何で? 治癒魔法の使える女性を婚約者にしたい? 隣にいるレベッカはささくれを治せればラッキーな治癒魔法しか使えないけど良いのかな? 聖女に聖女見習い、魔法士に魔法士見習い。私達は国内だけでなく、魔法で外貨も稼いでいる⋯⋯国でも稼ぎ頭の集団です。 我が国で言う聖女って職種だからね、清廉潔白、献身⋯⋯いやいや、ないわ〜。だって魔物の討伐とか行くし? 殺るし? 面倒事はお断りして、さっさと帰るぞぉぉ。 訳あって、『期間限定銭ゲバ聖女⋯⋯ちょくちょく戦闘狂』やってます。いつもそばにいる子達をモフモフ出来るまで頑張りま〜す。 ーーーーーー ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 完結まで予約投稿済み R15は念の為・・

追放された令嬢は英雄となって帰還する

影茸
恋愛
代々聖女を輩出して来た家系、リースブルク家。 だがその1人娘であるラストは聖女と認められるだけの才能が無く、彼女は冤罪を被せられ、婚約者である王子にも婚約破棄されて国を追放されることになる。 ーーー そしてその時彼女はその国で唯一自分を助けようとしてくれた青年に恋をした。 そしてそれから数年後、最強と呼ばれる魔女に弟子入りして英雄と呼ばれるようになったラストは、恋心を胸に国へと帰還する…… ※この作品は最初のプロローグだけを現段階だけで短編として投稿する予定です!

【完結】公爵家のメイドたる者、炊事、洗濯、剣に魔法に結界術も完璧でなくてどうします?〜聖女様、あなたに追放されたおかげで私は幸せになれました

冬月光輝
恋愛
ボルメルン王国の聖女、クラリス・マーティラスは王家の血を引く大貴族の令嬢であり、才能と美貌を兼ね備えた完璧な聖女だと国民から絶大な支持を受けていた。 代々聖女の家系であるマーティラス家に仕えているネルシュタイン家に生まれたエミリアは、大聖女お付きのメイドに相応しい人間になるために英才教育を施されており、クラリスの側近になる。 クラリスは能力はあるが、傍若無人の上にサボり癖のあり、すぐに癇癪を起こす手の付けられない性格だった。 それでも、エミリアは家を守るために懸命に彼女に尽くし努力する。クラリスがサボった時のフォローとして聖女しか使えないはずの結界術を独学でマスターするほどに。 そんな扱いを受けていたエミリアは偶然、落馬して大怪我を負っていたこの国の第四王子であるニックを助けたことがきっかけで、彼と婚約することとなる。 幸せを掴んだ彼女だが、理不尽の化身であるクラリスは身勝手な理由でエミリアをクビにした。 さらに彼女はクラリスによって第四王子を助けたのは自作自演だとあらぬ罪をでっち上げられ、家を潰されるかそれを飲み込むかの二択を迫られ、冤罪を被り国家追放に処される。 絶望して隣国に流れた彼女はまだ気付いていなかった、いつの間にかクラリスを遥かに超えるほどハイスペックになっていた自分に。 そして、彼女こそ国を守る要になっていたことに……。 エミリアが隣国で力を認められ巫女になった頃、ボルメルン王国はわがまま放題しているクラリスに反発する動きが見られるようになっていた――。

虐げられ続けてきたお嬢様、全てを踏み台に幸せになることにしました。

ラディ
恋愛
 一つ違いの姉と比べられる為に、愚かであることを強制され矯正されて育った妹。  家族からだけではなく、侍女や使用人からも虐げられ弄ばれ続けてきた。  劣悪こそが彼女と標準となっていたある日。  一人の男が現れる。  彼女の人生は彼の登場により一変する。  この機を逃さぬよう、彼女は。  幸せになることに、決めた。 ■完結しました! 現在はルビ振りを調整中です! ■第14回恋愛小説大賞99位でした! 応援ありがとうございました! ■感想や御要望などお気軽にどうぞ! ■エールやいいねも励みになります! ■こちらの他にいくつか話を書いてますのでよろしければ、登録コンテンツから是非に。 ※一部サブタイトルが文字化けで表示されているのは演出上の仕様です。お使いの端末、表示されているページは正常です。

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです

秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。 そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。 いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが── 他サイト様でも掲載しております。

【短編】追放された聖女は王都でちゃっかり暮らしてる「新聖女が王子の子を身ごもった?」結界を守るために元聖女たちが立ち上がる

みねバイヤーン
恋愛
「ジョセフィーヌ、聖なる力を失い、新聖女コレットの力を奪おうとした罪で、そなたを辺境の修道院に追放いたす」謁見の間にルーカス第三王子の声が朗々と響き渡る。 「異議あり!」ジョセフィーヌは間髪を入れず意義を唱え、証言を述べる。 「証言一、とある元聖女マデリーン。殿下は十代の聖女しか興味がない。証言二、とある元聖女ノエミ。殿下は背が高く、ほっそりしてるのに出るとこ出てるのが好き。証言三、とある元聖女オードリー。殿下は、手は出さない、見てるだけ」 「ええーい、やめーい。不敬罪で追放」 追放された元聖女ジョセフィーヌはさっさと王都に戻って、魚屋で働いてる。そんな中、聖女コレットがルーカス殿下の子を身ごもったという噂が。王国の結界を守るため、元聖女たちは立ち上がった。

(完)聖女様は頑張らない

青空一夏
ファンタジー
私は大聖女様だった。歴史上最強の聖女だった私はそのあまりに強すぎる力から、悪魔? 魔女?と疑われ追放された。 それも命を救ってやったカール王太子の命令により追放されたのだ。あの恩知らずめ! 侯爵令嬢の色香に負けやがって。本物の聖女より偽物美女の侯爵令嬢を選びやがった。 私は逃亡中に足をすべらせ死んだ? と思ったら聖女認定の最初の日に巻き戻っていた!! もう全力でこの国の為になんか働くもんか! 異世界ゆるふわ設定ご都合主義ファンタジー。よくあるパターンの聖女もの。ラブコメ要素ありです。楽しく笑えるお話です。(多分😅)

処理中です...