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第二十五話 告白

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 同日の夜。コック様が作り置きしてくれた料理を食べ終わった私は、カイン様と一緒に私の部屋でゆっくりしていました。

 うぅ、あれからずっと私に出来る事は無いかと考えていましたが、何も良い案が思いつきません。所詮私は無力な人間でしかないという現実が、私に重くのしかかるだけでしたわ。

「大丈夫か? 顔色が悪いけど……」
「体調は悪くないですけど、やっぱり不安で……」

 屋敷の方々は大丈夫なのだろうか、グロース国の民達は大丈夫なのだろうか、これからエルピス国はどうなってしまうのだろうか。考えれば考える程、不安で頭がパンクしそうです。

「心配する気持ちはわかる。だが彼らなら大丈夫だ」
「…………」
「……うん、一人でいると色々と考えてしまうだろう。今日はずっと一緒にいよう」
「ワンワンッ!!」
「おっと、君もいるのに数に数えていなかった。すまなかった」
「はふっ」

 わかればいいんだと言うように、モコは少し鼻を高くしてから、満足げに部屋の中に置いてある小屋に入っていきました。

 いつもなら可愛いと思うのですが、今の私にはそこまでの余裕はありません。

「ありがとうございます、カイン様。その……寝るまで一緒にいてもらえると嬉しいですわ」
「寝るまで? 寝る時も一緒にいるつもりだったんだけどね」

 ……えっと、寝るときもって……一緒の部屋で寝るという事ですの!? さすがにそれは恥ずかしいというか、結婚もしていない男女が、一緒のベッドでなんて……!

「ああ、もちろん俺は床で寝るから心配しなくていい。野営の訓練はしてるから、どこでも寝れるんだ」
「そうでしたか、それなら安心……じゃないですよ! 確かに一緒に寝るのは恥ずかしいですけど、だからといって床に寝るなんて駄目に決まっております!」

 床なんかで寝たら、絶対に風邪を引いてしまいますわ! それに、私の為に一緒にいてくれるというのに、カイン様を床にだなんて……論外すぎます! むしろ、私が床に寝るのが筋ですわ!

「そうか? 俺は別に構わないんだが……言っておくけど、マシェリーが床に寝るとかいう選択肢は、何を差し出されても承諾しないから諦めてほしい」
「うっ……」

 よ、読まれておりましたわ……出会ってから毎日を一緒に過ごし、話をしていると、思考を読まれてしまうのですね……。

「俺だって、少しは学んでいるんだ。付き合ってもいない男女が、一緒のベッドに寝るのはおかしいとわかってる。だから俺は床で寝る」
「駄目です!」
「その理由は? 俺を納得させる理由があるなら、聞かせてほしい」
「り、理由? えっと……そうですわ、カイン様は騎士団長として忙しいのですから、ちゃんとベッドに寝て休んでほしいんですの!」
「慣れているから大丈夫と言っただろう?」
「慣れていようが、駄目なものは駄目ですのー!!」

 互いに一歩も譲らず、終いには互いを力づくでベットに寝かせようと取っ組み合いになると、そのまま二人してベッドに倒れてしまいました。

 もう、私ったら何をしているのかしら……なんてはしたない事を……。

「大丈夫か、マシェリー」
「ええ……大丈夫ですわ……え?」

 静かに目を開けると、私の目と鼻の先に、カイン様のお顔がありました。更に付け加えると、私はカイン様に覆い被さられる形になっていました。

「…………」
「…………」

 ど、どうしましょう……ドキドキしすぎて、微動だに出来ませんわ。カイン様も全然退く気配がないどころか、私から目線を外しませんし……。

 元々美しい顔立ちだとは思っておりましたが、自分の好意に気づいてから、カイン様がより美しく見えます。綺麗な二色の目に、シュッとした鼻、小ぶりな唇……全てが美しいですわ。

「マシェリー……」
「カイン様……どうして私の頬に手を? もしかして、血が欲しいのですか? でしたら血を出すので少々お待ちくださいませ。あ、首からにしますか?」
「いや、そうじゃない。血とか関係なしに……君と口づけをしたい」

 血が関係しない口づけ。それは、相手を助けるとかではなく、ただ愛する者同士がする行為でしかありません。それをカイン様が求めるだなんて……もしかして、カイン様は……?

「どうして、ですか?」
「君が好きだから。一人の女性として、心から愛している」
「っ……!!」
「だから、君が欲しい」

 カイン様の唐突な告白に頭が真っ白になっているうちに、カイン様の顔がゆっくりと近づいてきます。

 わ、私の事が好きだなんて……ど、どうすれば……頭が真っ白すぎて、もう何も考えられない!!

「……マシェリー?」
「あっ……」

 咄嗟の防衛反応が出てしまったのか、私は無意識のうちに、私とカイン様の口の間に手を入れて、口づけを拒んでしまいました。

 そんな、違う……私はカイン様を拒絶したいんじゃないのに……どうして!?

「ご、ごめんなさい! その……私、ちょっと混乱してしまって……」
「……俺こそすまない。俺はまた、君の気持ちを度外視してしまった。何が学んでいるだ……俺は何も成長していない」
「そんな、自分を責めないでください! 私は、嫌だったわけじゃないんです! 突然だったので、混乱してしまって!」

 気まずそうに顔を逸らしたカイン様でしたが、私の言葉に反応するように、目を丸くしながら再び私に視線を向けました。

「私も……あなたが好き……だと思うのですが……恋をした事がないので、この気持ちが恋心なのかはわかりません。あなたに告白された事は嬉しいですし、あなたとなら口づけをしていい……いえ、したいと思ってますの」
「……マシェリー……ありがとう。君の気持ち、とても嬉しく思うよ。俺と付き合ってくれないか?」
「……はい。不束者ですが、よろしくお願い致しますわ」

 互いにベッドに倒れながらの告白という、なんとも不思議な告白の仕方でしたが、無事に結ばれた私達は、そのままゆっくりと口づけを交わしました。

「……恋人の口づけってはじめてしましたけど、想像の何百倍も幸せで、ドキドキするんですね」
「ああ、そうだね。俺も普段感じないような胸の高鳴りを感じたよ」
「そう、ですよね……」

 せっかく好きな人と結ばれたのに、私は嬉しさと共に、罪悪感に苛まれていました。それには、もちろん理由がありますわ。

「皆様が大変な思いをしているというのに、私だけこんな事をしていて良いのでしょうか……」
「実はみんなが出ていく前に、せっかく二人きりになれるのだから頑張れと言われてね」
「え?」
「全員揃って、俺の事を応援してたんだよ。だから、そこは気にしなくていい」

 え、えっと……皆様はカイン様の気持ちにお気づきになられていたって事ですか? 知らなかったのは私だけ!? それはさすがに鈍感すぎませんか!?

「それに……戦争で俺達が離れ離れになる可能性も、絶対無いとは言えない。だから、俺は後悔したくなくて告白したんだ」
「そうだったんですね。それなら……私は気にしないでおきます。ここで英気を養って、来るべき日に備えておきます!」
「っと……マシェリー……」

 少しだけ吹っ切れた私は、カイン様に抱きつくと、ギューッと力を入れましたわ。

 カイン様の声、熱、息、音……どれもが愛おしい。もちろん、両国の民達も、私にとっては大切で、愛おしい民ですわ。

 ……私は国王になる予定でしたが、それは叶いませんでした。でも、だからって危険に晒されている国民を、助けないわけにはいきません。必ず……何かしらの方法で助けて見せますわ! そして、カイン様とモコがいる、幸せな日常を手に入れますの!
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