15 / 35
第十五話 奇襲
しおりを挟む
同日の夕方、私は訓練場の隅っこで見学をして過ごしました。私には訓練の大変さとかはわかりませんが、彼らが国の為に必死に鍛えている姿は、とても素晴らしいものでしたわ。
特に、カイン様の頑張りは、何度見ても素晴らしいです。指導の質も良いですが、誰と組み手をしても圧倒的なその実力は、感嘆の息が漏れてしまうほどです。
あんな素晴らしい方に指導してもらってるのに、それでもカイン様と彼らの間に壁があるという事は、彼らの中でヴァンパイアというものが、よほど気になるんでしょう。
彼らの気持ちも、全くわからないというわけではありません。異形の血が入っている人間が目の前にいたら、警戒するのも無理はありません。
ですが、それを乗り越えて歩み寄ろうとすれば、きっとわかりあえるはずです。私はそう信じておりますわ。
「カイン様、お疲れ様ですわ。はい、タオルをどうぞ」
「ありがとう。ふぅ……部下達が日に日に成長していくから、相手をするのも大変だよ」
「ふふ、それは嬉しい悲鳴ですわね」
タオルで顔を拭くカイン様の表情は、とても晴れやかで、嬉しさがにじみ出ておりました。それほど皆様の成長が嬉しいのでしょう。
そんなカイン様を見ていると、なんだか私まで嬉しく思ってしまいますわ。
「そうだね。それじゃあ帰ろう……と言いたいんだけど、急用が入ってしまってね。待っててもらって申し訳ないんだけど、先に帰っててもらえないか?」
まあ、それは残念ですわ。一緒に帰るつもりでいたんですが、急用というなら仕方がありません。
「わかりました。ではお先に失礼させていただきますわ」
「うん、本当に申し訳ない。この埋め合わせは必ず」
「そんな重く考えなくてもよろしくてよ。ではまた後で」
カイン様と別れた私は、来た時に馬車が止まった所に向かうと、そこには一台の馬車が停まっていました。
「マシェリー様、お帰りなさいませ。坊ちゃまは?」
「急用で残ると仰ってましたわ」
「左様ですか。では先にお送りいたします」
「ありがとうございます」
御者にお礼を言ってから、馬車に乗り込んだ私は、モコを膝に乗せてのんびりと窓の外を眺め始めました。
……カイン様が一緒と思っていたのに、一人ぼっちだとなんだかとても静かに感じてしまいますわね。
「なんだか少し眠くなってきました……」
「ふぁ~……」
「モコったら、そんな大きなあくびをして。あなたも眠いの?」
「くぅん」
そうだよと返事をしているんじゃないかと錯覚してしまうようなモコの態度に、私は思わず笑みが零れてしまいました。
私も少しだけ休ませてもらおうかしら。今日はお城まで歩いたり、訓練を見学したりで、疲れてしまったの。いつもの症状が出ないのが不思議なくらいだわ。
「はふぅ……あら?」
ウトウトしていたら、馬車が急に止まりましたわ。おかしいですわね……まだ屋敷に着くには早すぎます。
そう思った矢先、馬車の中に誰かが飛び込んできました。そして……それから間もなく、私の意識は闇に沈みました――
****
「……うぅ……」
ゆっくりと目を開けると、そこは広い洞窟の中でした。変にひんやりとしていて、少し不気味な雰囲気を醸し出しています。
どうしてこんな所に……早くここを離れないと……あ、あれ? 体が縄で縛られていますわ!? 何がどうなっておりますの!?
「よう、お目覚めか」
「あなた方は……どうして!?」
聞き覚えのある声に反応して顔を上げると、そこにはカイン様の陰口を言っていた兵士達三人がいました。
まさかとは思いますが、彼らが私をここに……!? この状況では、そうとしか思えませんわ!
「あなた達、何が目的ですの! それに……モコは!? 私と一緒にいた犬はどこにやったんですか!?」
「お前を人質にして、カインの野郎に騎士団長を降りるように命令するんだよ。ああ、犬についてだけど……俺らに噛みついてきたから、その場で蹴り飛ばしておいたぜ」
スキンヘッドの男性が、私の顎に手を当てて無理やり顔を上げさせながら、不敵な笑みを浮かべました。
「私の家族になんて事を……! それに、カイン様を騎士団長から降ろすですって!?」
「あんなバケモノに騎士団長なんて任せてたら、この国は終わっちまうだろ? だからお前を利用させてもらったのさ」
「カイン様はバケモノではありませんわ!」
私の大切な家族に暴力を振るい、カイン様を陥れようとするだなんて、とことん性根が腐っておりますわ! 絶対に許せません!
「別にお前の意見なんか求めてないんだよ。お前は大人しくしてればいい。なんなら暇つぶしに俺らと遊んでくれるか?」
「っ……!!」
顎から頬へと移動した手に、私は思い切り噛みつきました。それが気に入らなかったのか、彼は私の顔を思い切り殴りつけてきましたわ。
「この野郎、自分の立場がわかってないのか!?」
「ええ、わかっておりますわ。私は恩人と家族の為に、あなたに反抗したのです! 言っておきますが、暴力を振るったところで、私は絶対にあなた方には屈しませんわ! わかったら、早く解放して自首をしなさい!」
「ふん、もっと痛めつけてそのよく喋る口を閉じさせてやる!」
そう言うと、スキンヘッドの男性は剣を鞘から取り出し、私の顔に目掛けて振り下ろしてきました。
しかし、その剣先は私に当たる事は無く、頬を少々掠める程度でした。
「どうだ、もう一度反抗的な態度を取ったら……わかってるな?」
「そうやって脅して……本当に情けない。あなた方では、カイン様の足元にも及びませんわ!」
そこまで言われてついに我慢の限界が来たのか、彼は持っていた剣をもう一度振り上げました。
……これは、ここまでかもしれませんわね。でも……私の命で、カイン様が不当な扱いをされなくて済みます。そんな目に合うのは、私だけでいいですから。
そう思い、私は目を閉じました。しかし、私の耳に聞こえてきたのは、体を引き裂く音ではなく、金属が地面にぶつかったような音でした。
「ぐあっ……こ、これは……!?」
「え……?」
ゆっくりと目を開けると、彼の手に赤黒い短剣のようなものが突き刺さっていました。これのせいで、剣を持てなくなって、地面に落としてしまったのでしょう。
ですが、これは一体何? どう見ても普通の金属には見えませんが……。
「随分と賑やかだな。ぜひ俺もまぜてくれないか?」
「ど、どうして……この場所がわかったんだ……騎士団長!!」
特に、カイン様の頑張りは、何度見ても素晴らしいです。指導の質も良いですが、誰と組み手をしても圧倒的なその実力は、感嘆の息が漏れてしまうほどです。
あんな素晴らしい方に指導してもらってるのに、それでもカイン様と彼らの間に壁があるという事は、彼らの中でヴァンパイアというものが、よほど気になるんでしょう。
彼らの気持ちも、全くわからないというわけではありません。異形の血が入っている人間が目の前にいたら、警戒するのも無理はありません。
ですが、それを乗り越えて歩み寄ろうとすれば、きっとわかりあえるはずです。私はそう信じておりますわ。
「カイン様、お疲れ様ですわ。はい、タオルをどうぞ」
「ありがとう。ふぅ……部下達が日に日に成長していくから、相手をするのも大変だよ」
「ふふ、それは嬉しい悲鳴ですわね」
タオルで顔を拭くカイン様の表情は、とても晴れやかで、嬉しさがにじみ出ておりました。それほど皆様の成長が嬉しいのでしょう。
そんなカイン様を見ていると、なんだか私まで嬉しく思ってしまいますわ。
「そうだね。それじゃあ帰ろう……と言いたいんだけど、急用が入ってしまってね。待っててもらって申し訳ないんだけど、先に帰っててもらえないか?」
まあ、それは残念ですわ。一緒に帰るつもりでいたんですが、急用というなら仕方がありません。
「わかりました。ではお先に失礼させていただきますわ」
「うん、本当に申し訳ない。この埋め合わせは必ず」
「そんな重く考えなくてもよろしくてよ。ではまた後で」
カイン様と別れた私は、来た時に馬車が止まった所に向かうと、そこには一台の馬車が停まっていました。
「マシェリー様、お帰りなさいませ。坊ちゃまは?」
「急用で残ると仰ってましたわ」
「左様ですか。では先にお送りいたします」
「ありがとうございます」
御者にお礼を言ってから、馬車に乗り込んだ私は、モコを膝に乗せてのんびりと窓の外を眺め始めました。
……カイン様が一緒と思っていたのに、一人ぼっちだとなんだかとても静かに感じてしまいますわね。
「なんだか少し眠くなってきました……」
「ふぁ~……」
「モコったら、そんな大きなあくびをして。あなたも眠いの?」
「くぅん」
そうだよと返事をしているんじゃないかと錯覚してしまうようなモコの態度に、私は思わず笑みが零れてしまいました。
私も少しだけ休ませてもらおうかしら。今日はお城まで歩いたり、訓練を見学したりで、疲れてしまったの。いつもの症状が出ないのが不思議なくらいだわ。
「はふぅ……あら?」
ウトウトしていたら、馬車が急に止まりましたわ。おかしいですわね……まだ屋敷に着くには早すぎます。
そう思った矢先、馬車の中に誰かが飛び込んできました。そして……それから間もなく、私の意識は闇に沈みました――
****
「……うぅ……」
ゆっくりと目を開けると、そこは広い洞窟の中でした。変にひんやりとしていて、少し不気味な雰囲気を醸し出しています。
どうしてこんな所に……早くここを離れないと……あ、あれ? 体が縄で縛られていますわ!? 何がどうなっておりますの!?
「よう、お目覚めか」
「あなた方は……どうして!?」
聞き覚えのある声に反応して顔を上げると、そこにはカイン様の陰口を言っていた兵士達三人がいました。
まさかとは思いますが、彼らが私をここに……!? この状況では、そうとしか思えませんわ!
「あなた達、何が目的ですの! それに……モコは!? 私と一緒にいた犬はどこにやったんですか!?」
「お前を人質にして、カインの野郎に騎士団長を降りるように命令するんだよ。ああ、犬についてだけど……俺らに噛みついてきたから、その場で蹴り飛ばしておいたぜ」
スキンヘッドの男性が、私の顎に手を当てて無理やり顔を上げさせながら、不敵な笑みを浮かべました。
「私の家族になんて事を……! それに、カイン様を騎士団長から降ろすですって!?」
「あんなバケモノに騎士団長なんて任せてたら、この国は終わっちまうだろ? だからお前を利用させてもらったのさ」
「カイン様はバケモノではありませんわ!」
私の大切な家族に暴力を振るい、カイン様を陥れようとするだなんて、とことん性根が腐っておりますわ! 絶対に許せません!
「別にお前の意見なんか求めてないんだよ。お前は大人しくしてればいい。なんなら暇つぶしに俺らと遊んでくれるか?」
「っ……!!」
顎から頬へと移動した手に、私は思い切り噛みつきました。それが気に入らなかったのか、彼は私の顔を思い切り殴りつけてきましたわ。
「この野郎、自分の立場がわかってないのか!?」
「ええ、わかっておりますわ。私は恩人と家族の為に、あなたに反抗したのです! 言っておきますが、暴力を振るったところで、私は絶対にあなた方には屈しませんわ! わかったら、早く解放して自首をしなさい!」
「ふん、もっと痛めつけてそのよく喋る口を閉じさせてやる!」
そう言うと、スキンヘッドの男性は剣を鞘から取り出し、私の顔に目掛けて振り下ろしてきました。
しかし、その剣先は私に当たる事は無く、頬を少々掠める程度でした。
「どうだ、もう一度反抗的な態度を取ったら……わかってるな?」
「そうやって脅して……本当に情けない。あなた方では、カイン様の足元にも及びませんわ!」
そこまで言われてついに我慢の限界が来たのか、彼は持っていた剣をもう一度振り上げました。
……これは、ここまでかもしれませんわね。でも……私の命で、カイン様が不当な扱いをされなくて済みます。そんな目に合うのは、私だけでいいですから。
そう思い、私は目を閉じました。しかし、私の耳に聞こえてきたのは、体を引き裂く音ではなく、金属が地面にぶつかったような音でした。
「ぐあっ……こ、これは……!?」
「え……?」
ゆっくりと目を開けると、彼の手に赤黒い短剣のようなものが突き刺さっていました。これのせいで、剣を持てなくなって、地面に落としてしまったのでしょう。
ですが、これは一体何? どう見ても普通の金属には見えませんが……。
「随分と賑やかだな。ぜひ俺もまぜてくれないか?」
「ど、どうして……この場所がわかったんだ……騎士団長!!」
2
お気に入りに追加
595
あなたにおすすめの小説
婚約破棄をしてくれた王太子殿下、ありがとうございました
hikari
恋愛
オイフィア王国の王太子グラニオン4世に婚約破棄された公爵令嬢アーデルヘイトは王国の聖女の任務も解かれる。
家に戻るも、父であり、オルウェン公爵家当主のカリオンに勘当され家から追い出される。行き場の無い中、豪商に助けられ、聖女として平民の生活を送る。
ざまぁ要素あり。
わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑
岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。
もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。
本編終了しました。
変態婚約者を無事妹に奪わせて婚約破棄されたので気ままな城下町ライフを送っていたらなぜだか王太子に溺愛されることになってしまいました?!
utsugi
恋愛
私、こんなにも婚約者として貴方に尽くしてまいりましたのにひどすぎますわ!(笑)
妹に婚約者を奪われ婚約破棄された令嬢マリアベルは悲しみのあまり(?)生家を抜け出し城下町で庶民として気ままな生活を送ることになった。身分を隠して自由に生きようと思っていたのにひょんなことから光魔法の能力が開花し半強制的に魔法学校に入学させられることに。そのうちなぜか王太子から溺愛されるようになったけれど王太子にはなにやら秘密がありそうで……?!
※適宜内容を修正する場合があります
王太子殿下から婚約破棄されたのは冷たい私のせいですか?
ねーさん
恋愛
公爵令嬢であるアリシアは王太子殿下と婚約してから十年、王太子妃教育に勤しんで来た。
なのに王太子殿下は男爵令嬢とイチャイチャ…諫めるアリシアを悪者扱い。「アリシア様は殿下に冷たい」なんて男爵令嬢に言われ、結果、婚約は破棄。
王太子妃になるため自由な時間もなく頑張って来たのに、私は駒じゃありません!
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。
扇 レンナ
恋愛
スパダリ系執着王太子×愛を知らない純情令嬢――婚約破棄から始まる、極上の恋
伯爵令嬢テレジアは小さな頃から両親に《次期公爵閣下の婚約者》という価値しか見出してもらえなかった。
それでもその利用価値に縋っていたテレジアだが、努力も虚しく婚約破棄を突きつけられる。
途方に暮れるテレジアを助けたのは、留学中だったはずの王太子ラインヴァルト。彼は何故かテレジアに「好きだ」と告げて、熱烈に愛してくれる。
その真意が、テレジアにはわからなくて……。
*hotランキング 最高68位ありがとうございます♡
▼掲載先→ベリーズカフェ、エブリスタ、アルファポリス
初恋が綺麗に終わらない
わらびもち
恋愛
婚約者のエーミールにいつも放置され、蔑ろにされるベロニカ。
そんな彼の態度にウンザリし、婚約を破棄しようと行動をおこす。
今後、一度でもエーミールがベロニカ以外の女を優先することがあれば即座に婚約は破棄。
そういった契約を両家で交わすも、馬鹿なエーミールはよりにもよって夜会でやらかす。
もう呆れるしかないベロニカ。そしてそんな彼女に手を差し伸べた意外な人物。
ベロニカはこの人物に、人生で初の恋に落ちる…………。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる