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第四十六話 私……あなたのことが……

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 無事に実技を終えた私は、いつも通りエルヴィン様に家まで送ってもらった。

 その道中は、ずっと黙って外を眺めて過ごしていた。
 いつもはエルヴィン様とおしゃべりをしているのだけど、試験が無事に終わった安心感で、なんだかボーっとしちゃって……。

「アイリーン、着いたよ」

「あ……はい」

 エルヴィン様に声をかけられて我に帰った私は、エルヴィン様にエスコートされて馬車を降りた。

 時刻はもうすぐ夕方になろうとしているが、もうすぐ夏が近づいているということもあってか、空はまだまだ明るいままだ。

「あの、今日は本当にありがとうございました。私が実技試験に合格できたのは、エルヴィン様やソーニャちゃんのおかげです」

「なにを言っているんだい。君が今日まで頑張り続けた結果だよ。胸を張るといい」

 試験中に見た偽物の嫌な笑みじゃない、本物の暖かさに溢れた笑みを見たら、私の胸が大きく高鳴った。

 ああ、やっぱり私……エルヴィン様のことが大好きだ。こうやって褒められると嬉しいし、笑顔を見るともっと見たいと思うし、これからもずっと一緒にいたいって思う。

「あの、私……エルヴィン様のことが……」

「アイリーン……?」

「ようアイリーン、帰ったか! 試験、どうだった!?」

「うひゃあ!?」

 自然とエルヴィン様に自分の気持ちを伝えられそうなタイミングで、家の中からパパが勢いよく飛び出してきた。

 び、ビックリしすぎて口から色々出そうになっちゃったよ……。

「お義父様、こんにちは。今日もお元気そうでなによりです」

「おう、エルヴィンさんもな! いつも送ってもらって悪いな! おかげさんで、毎日安心して娘を送りだせるってもんよ!」

「お二人の安心に、少しでも貢献出来ているのなら、これほど幸せなことはございません。そうそう、試験ですが、実技の方は無事に合格出来ましたよ」

「なんだってー!? そうかそうか、それはよかった! おーいママー! アイリーン達が無事に合格出来たってよー!」

 パパは私の頭をワシャワシャ撫でてから、大喜びで家の中に入っていった。

 まるで嵐のようにやって来て、嵐ように去っていったね……。

「君のお義父様は今日も元気だね。それでアイリーン、今何を言いかけたんだい?」

「っ!? い、いえ! なんでもありません! それじゃあ、また!」

「……あ、ああ……またね」

 パパの乱入で現実に引き戻されたせいで、とたんに恥ずかしくなってしまった私は、逃げるように家の中に入った。

 せっかく好きって言える空気だったのに、パパったら……悪気は無いのはわかってるけど、もうちょっとタイミングをずらしてほしかったなぁ……。

「おかえりなさい、アイリーン。試験、合格したって本当?」

「ただいま。うん、筆記はまだ点数はわからないけど、実技は無事に合格できたよ」

「まあ、おめでとう!」

 ママは、まるで自分のことのように喜びながら、私の頭を撫でてくれた。それが嬉しくて、頬を赤くしながらはにかんで見せた。

「な、なっ!? 俺の言った通り、今日の飯を豪華にしてよかっただろ!?」

「ええ、そうね。今日のご飯は、アイリーンの大好きなシチューよ」

「本当!? やった~!」

 私の大好物はおあげだけど、それと同じくらい、ママの作るシチューが大好きだ。トロトロになるまで煮込まれた野菜と、ママお手製の優しい味付けが本当においしいんだよ。

「ママ、何か手伝えることある?」

「今日は疲れているのだから、ゆっくり休んでなさい。準備が出来たら呼んであげるから」

「そういうわけにもいかないよ!」

「ママ、俺も手伝うぜ!」

「パパみたいな筋肉の塊がキッチンに来たら、狭くて仕事にならないわ」

「それは酷くねーか!?」

 実際問題、うちの狭い家で家族三人がキッチンに集まったら、逆に動きにくくなってしまう。
 ママは細いから何とかなるけど、私は大きな尻尾があるし、パパは仕事で培った、丸太のような筋肉があるから、どうしても狭くなるんだ。

「仕方ねーな。そうだアイリーン、今日の試験はどんな感じだったか、話してくれよ!」

「もちろんいいよ! 筆記はいつも通り自信あるんだけど、実技が大変でね。でも今回はハイキング形式の試験だったから、少し私に有利な試験だったの!」

「おお、いつも森に行ってるアイリーンなら、ハイキングくらい余裕だわな!」

「うん! それでね、それでね」

 話さなきゃいけないことが沢山あって、でも順番を考えて話さないとわからなくなるから、気を付けながら話していると、大きな鍋に入ったシチューがテーブルに置かれた。

 あぁ~……このシチューの匂いと、前に行ったお店の大将が作るきつねうどんは、前に出されると問答無用で空腹にされてしまう。

「いただきます!」

「どう、おいしい?」

「うん、凄くおいしいよ! ママのシチュー、大好き!」

「俺も大好きだぜ! シチューもだが、ママのことも!」

「はいはい、そうやっておだてて何か買ってもらう算段でしょう?」

「げぇ~!? なぜばれた!?」

「あははははははっ!!」

 私達は楽しく談笑しながら、家族団らんの時間を過ごした。

 一時は、死に直面して二人にもう会えないと思ってたけど、こうして無事に帰ってきて、二人の暖かい愛情に触れることが出来ている。

 それが何よりも嬉しくて、同時に私が感じているこの暖かい気持ちが、改めて特別なものなんだと強く感じた。
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