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第二十九話 彼女は便利屋じゃない
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例のごたごたから一週間後、私は教室でとある出来事を見ながら、眉をひそめていた。
「おい委員長、今日提出のノートを先生の所に運んでおいてくれよ」
「えっ? でも……た、頼まれたのは日直の人ですよね……?」
「男子はこの後体育だから、着替えないといけないんだよ! クラス委員長なんだから、クラスメイトのために働くのが仕事だろ!」
「じょ、女子だって体育……うぅ……わ、わかりました……」
横暴なクラスメイトが、クラス委員長になったソーニャちゃんを、適当な理由をつけてこき使っているのが、最近目に付く。
ソーニャちゃんは内気な性格だから、頼まれたら嫌と言えない。だから、クラスメイト達にいいように利用されてしまう。
それを、意地悪なクラスメイト達が、クスクスと笑って見ているの。
最初の内は、本当に出来なくて頼んでいるだけって思うようにして、手伝いたい気持ちを抑えて見逃していたけど……なんでも押し付けられて、笑いものにされるだなんて、これ以上は看過できない。
「どうしよう……こんなにたくさんのノート、わたし一人じゃ運べない……何回かに分けて運ばないと……でも、着替える時間が……」
「ソーニャちゃん、私も手伝いますよ!」
「えっ……? あ、アイリーンさん? そんな、大丈夫です……わたし一人で、なんとかします……から」
目の前にたくさん積まれたノートを、とても小柄なソーニャちゃんが持ったら、バランスを崩して転んでしまうかもしれない。
そんな想像が簡単にできるのに、体育の着替えに間に合わせるように急ぐだなんて、危なくて仕方がない。だったら二人で分担した方が絶対に良い。
それに、これでケガなんてしてしまったら、見ているだけの連中は、ただ笑うだけだろう。そんなの、ソーニャちゃんが可哀想すぎる。
「いいからいいから! 困った時はお互い様ですよ! クラスメイトなんだから、人を便利屋みたいに扱わないで、助け合いませんと!」
わざと最後の部分だけ強調するように言いながら、クラスメイトに意味深に視線を向けると、バツが悪そうに教室を後にした。
ここで謝罪でもして、自分もやるって言ったら見直したんだけど、そんなことが出来るなら、最初から押し付けたりしないよね。
「よっと……お、思ったより重いかも」
「アイリーンさん、本当に大丈夫ですから……早く着替えないと、遅刻しちゃいます」
「それはソーニャちゃんも同じですよね? 私のことは気にしなくていいですから、一緒に頑張りましょう!」
「アイリーンさん……」
口では平静を装っているけど、非力な私にはノートの束は想像以上に重くて、少し油断した瞬間にバランスを崩してしまった。
「あ、しまっ――」
このままでは、せっかくソーニャちゃんが集めてくれたノートを、そこら中に落としてしまう。そう思った瞬間、前から私のことを支えてくれる人が現れた。
「大丈夫かい、アイリーン」
「エルヴィン様! はい、大丈夫です!」
「ならよかった。お手洗いから戻って来たら、アイリーンがノートの山と格闘していてビックリしたよ」
そう言いながら、エルヴィン様はひょいひょいとノートの山を上から崩し、それらを教卓の上で積み上げる。
エルヴィン様が私の持っていた分の半分以上を持ってくれたおかげで、とても余裕が出来たよ。
「ソーニャさんも重いだろう? 僕が持っていくよ」
「えっ? えぇ??」
状況が飲み込めなくて、目を丸くさせているソーニャちゃんを尻目に、エルヴィン様はソーニャちゃんが持っていたノートの山を崩し、更に自分の分に重ねる。
こうして出来上がったノートの山は、私とソーニャちゃんのを足しても、エルヴィン様の分に敵わないくらいの差があった。
「さあ、早く運んでしまおうか。体育教師は遅刻に厳しいから、早くしないと怒られてしまう」
「そうなんですか? 私、まだこの学園の教師の人達ってよく知らないんですよね。ソーニャちゃん、早く行きましょう!」
「え……? あっ、はいっ!」
教室を出る際、背後から、良い子ちゃんだとか教師への点数稼ぎだとか、つまらない悪口が聞こえてきたけど、そんなことよりも、ソーニャちゃんに少しでも力になれるほうが重要だ。
「あ、あの……どうして手伝ってくれるんですか?」
「どうしてって言われても……困ってる人を助けるのに、理由なんて必要ないですよね?」
「…………」
あれ、何か納得いってなさそう? 私、何か変なことを言ったかな?
「理由……あっ! ほら、ソーニャちゃんもこの前私を助けようとしてくれたじゃないですか! あれのお礼ってことで!」
「えぇ!? あ、あれは……結局声が出せなくて、何も出来なかったんですよ?」
「助けようとしてくれた、その気持ちが嬉しいんですよ。そういうものですよね、エルヴィン様?」
「アイリーンの言う通りだ。君が想像している以上に、アイリーンは君への感謝の気持ちがあるってことさ」
ノートの山を持っているというのに、いつものようににこやかに笑うエルヴィン様。それに続いて、私も首を縦に振って見せた。
「……ぐすっ……」
「え、ソーニャちゃん!? どうして急に泣いて……な、なにか気に障るようなことを言ってしまいましたか!?」
「落ち着くんだ、アイリーン。君は何も言っていない。おそらく、僕が余計なことを言ってしまったのだろう。ソーニャ、申し訳ない」
「ち、違うんですぅ……お二人共、凄く優しくて……こ、こんなに優しくされたことがないから、嬉しくてぇ……」
ソーニャちゃんは、両手でノートを持っているせいで、そのまま涙を流していた。
よかった、もしソーニャちゃんに嫌な思いをさせてしまったなら、どうしようかと思っちゃった。さあ、授業に遅れないうちにさっさとノートを運んでしまおう。
「おい委員長、今日提出のノートを先生の所に運んでおいてくれよ」
「えっ? でも……た、頼まれたのは日直の人ですよね……?」
「男子はこの後体育だから、着替えないといけないんだよ! クラス委員長なんだから、クラスメイトのために働くのが仕事だろ!」
「じょ、女子だって体育……うぅ……わ、わかりました……」
横暴なクラスメイトが、クラス委員長になったソーニャちゃんを、適当な理由をつけてこき使っているのが、最近目に付く。
ソーニャちゃんは内気な性格だから、頼まれたら嫌と言えない。だから、クラスメイト達にいいように利用されてしまう。
それを、意地悪なクラスメイト達が、クスクスと笑って見ているの。
最初の内は、本当に出来なくて頼んでいるだけって思うようにして、手伝いたい気持ちを抑えて見逃していたけど……なんでも押し付けられて、笑いものにされるだなんて、これ以上は看過できない。
「どうしよう……こんなにたくさんのノート、わたし一人じゃ運べない……何回かに分けて運ばないと……でも、着替える時間が……」
「ソーニャちゃん、私も手伝いますよ!」
「えっ……? あ、アイリーンさん? そんな、大丈夫です……わたし一人で、なんとかします……から」
目の前にたくさん積まれたノートを、とても小柄なソーニャちゃんが持ったら、バランスを崩して転んでしまうかもしれない。
そんな想像が簡単にできるのに、体育の着替えに間に合わせるように急ぐだなんて、危なくて仕方がない。だったら二人で分担した方が絶対に良い。
それに、これでケガなんてしてしまったら、見ているだけの連中は、ただ笑うだけだろう。そんなの、ソーニャちゃんが可哀想すぎる。
「いいからいいから! 困った時はお互い様ですよ! クラスメイトなんだから、人を便利屋みたいに扱わないで、助け合いませんと!」
わざと最後の部分だけ強調するように言いながら、クラスメイトに意味深に視線を向けると、バツが悪そうに教室を後にした。
ここで謝罪でもして、自分もやるって言ったら見直したんだけど、そんなことが出来るなら、最初から押し付けたりしないよね。
「よっと……お、思ったより重いかも」
「アイリーンさん、本当に大丈夫ですから……早く着替えないと、遅刻しちゃいます」
「それはソーニャちゃんも同じですよね? 私のことは気にしなくていいですから、一緒に頑張りましょう!」
「アイリーンさん……」
口では平静を装っているけど、非力な私にはノートの束は想像以上に重くて、少し油断した瞬間にバランスを崩してしまった。
「あ、しまっ――」
このままでは、せっかくソーニャちゃんが集めてくれたノートを、そこら中に落としてしまう。そう思った瞬間、前から私のことを支えてくれる人が現れた。
「大丈夫かい、アイリーン」
「エルヴィン様! はい、大丈夫です!」
「ならよかった。お手洗いから戻って来たら、アイリーンがノートの山と格闘していてビックリしたよ」
そう言いながら、エルヴィン様はひょいひょいとノートの山を上から崩し、それらを教卓の上で積み上げる。
エルヴィン様が私の持っていた分の半分以上を持ってくれたおかげで、とても余裕が出来たよ。
「ソーニャさんも重いだろう? 僕が持っていくよ」
「えっ? えぇ??」
状況が飲み込めなくて、目を丸くさせているソーニャちゃんを尻目に、エルヴィン様はソーニャちゃんが持っていたノートの山を崩し、更に自分の分に重ねる。
こうして出来上がったノートの山は、私とソーニャちゃんのを足しても、エルヴィン様の分に敵わないくらいの差があった。
「さあ、早く運んでしまおうか。体育教師は遅刻に厳しいから、早くしないと怒られてしまう」
「そうなんですか? 私、まだこの学園の教師の人達ってよく知らないんですよね。ソーニャちゃん、早く行きましょう!」
「え……? あっ、はいっ!」
教室を出る際、背後から、良い子ちゃんだとか教師への点数稼ぎだとか、つまらない悪口が聞こえてきたけど、そんなことよりも、ソーニャちゃんに少しでも力になれるほうが重要だ。
「あ、あの……どうして手伝ってくれるんですか?」
「どうしてって言われても……困ってる人を助けるのに、理由なんて必要ないですよね?」
「…………」
あれ、何か納得いってなさそう? 私、何か変なことを言ったかな?
「理由……あっ! ほら、ソーニャちゃんもこの前私を助けようとしてくれたじゃないですか! あれのお礼ってことで!」
「えぇ!? あ、あれは……結局声が出せなくて、何も出来なかったんですよ?」
「助けようとしてくれた、その気持ちが嬉しいんですよ。そういうものですよね、エルヴィン様?」
「アイリーンの言う通りだ。君が想像している以上に、アイリーンは君への感謝の気持ちがあるってことさ」
ノートの山を持っているというのに、いつものようににこやかに笑うエルヴィン様。それに続いて、私も首を縦に振って見せた。
「……ぐすっ……」
「え、ソーニャちゃん!? どうして急に泣いて……な、なにか気に障るようなことを言ってしまいましたか!?」
「落ち着くんだ、アイリーン。君は何も言っていない。おそらく、僕が余計なことを言ってしまったのだろう。ソーニャ、申し訳ない」
「ち、違うんですぅ……お二人共、凄く優しくて……こ、こんなに優しくされたことがないから、嬉しくてぇ……」
ソーニャちゃんは、両手でノートを持っているせいで、そのまま涙を流していた。
よかった、もしソーニャちゃんに嫌な思いをさせてしまったなら、どうしようかと思っちゃった。さあ、授業に遅れないうちにさっさとノートを運んでしまおう。
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