上 下
11 / 74

第十一話 嫌味な生徒会長

しおりを挟む
「ゲオルク様……どうしてここに?」

 さすがに目があってしまった以上、無視するわけにはいかない。変なことをして、試験に影響が出たら洒落にならないからね。

「おいおい、もう忘れたのか? 俺様は、ここの学園の生徒なのだと。それも、生徒会長だぞ! 全生徒から選ばれた、生徒の長! それが俺様だ!」

 その話は、屋敷にいた頃に何度も聞かされた話だ。
 全く興味が無いから、適当に凄いですね~って言って誤魔化してたんだよね。

「それにしても、本当にアイリーンが試験に参加するとはな。受験者リストに名前があったのを見た時は、目を疑った。一体何が目的だ?」

「受験以外に、何があるのでしょうか?」

「貴様のような女狐が、本気で受かると思っているのか?」

「本気で受かるつもりです」

 嘘偽りの無い気持ちで、まっすぐゲオルク様を見つめて答えると、数秒程目を丸くして固まったと思ったら、お腹を抱えだして笑い始めた。

「くっ……あーっはははははっ!! こいつはお笑いだ!! まさか、天下のセレクディエ学園の特待生の編入試験に、貴様のような貧乏人が本気で受かると!? いやぁ、貴様は俺様を笑わせる天才だな!!」

「ゲオルク様、私をどのように評価するのは勝手ですが、受付の時間が迫ってますから。それとも、私の妨害をしたいのですか?」

「俺様が、そのような卑怯な真似をすると思うのか?」

「はい」

 間髪入れずに答えると、ゲオルク様はわざとらしく肩をすくめた。

「ふん、言うようになったじゃないか。それが貴様の本性か? まったく、見た目だけはそれなりに良いからって、もっと大人しい女だと思っていたが……すっかり騙されていたというわけか」

「勝手に勘違いされたのは、あなたの方でしょう? あと、さっきから楽しそうにしているのは結構ですが、周りを少し見た方が良いのでは?」

 チラッと向けた視線の先には、試験を受けに来た人たちの一部から、冷ややかな視線がゲオルク様に向けられていた。

 そのおかげで、自分の置かれている立場がようやく理解したようで、気まずさと私に対する怒りで顔を赤くしながら、咳払いをした。

「くそっ、貴様などに関わったせいで、恥をかいたではないか!」

「勝手に話しかけておいて、なにを言っているんですか? 巻き込まれた私の方が、よほど恥ずかしいですよ」

「黙れ! くそっ、今日のところはこの辺で勘弁してやる」

 あまりにも程度の低い負け惜しみを言いながら、そそくさとその場を後にした。

 まったく、大切な試験の日だというのに、ゲオルク様に絡まれるだなんてついてない。でも、おかげで緊張がまた少しだけ解れたような気がする。

「受験者の方々は、受験票を準備してこちらにお越しくださいー」

「あの、本日受験させていただくアイリーンと申します」

「では受験票をお見せください……はい、確かに。そこの階段から上がって、三階にある教室が会場になりますので、速やかに移動してください。途中に看板が置いてありますので、それを頼りに向かってください」

 受付をしていた女性の言われた通りに階段を上がり、看板に従って歩いて行くと、とある教室へと到着した。
 中には、既に先に来ている受験生達が、静かに試験の開始を待っていた。

 ここにいる人達だけでなく、まだこれから来る人達も、全員がライバルなのよね……ううん、弱気になってても仕方がない。夢のために、応援してくれる人達に報いるために、絶対に合格するんだから。

「私の席は……ここね」

 廊下側の前から二番目の席に座り、落ち着くためにふう……と深呼吸をしていると、近くの人達の姿が目に入ってきた。

 元々お金持ちの子供が多い学園ということもあって、身なりがとても上品な人が多い中、私のような普通っぽい人も混ざっている。

 きっと、私のように学園に通うお金は無いから、学費が免除される特待生を狙って受験をしに来ているのだろう。

 って、周りの人を気にしている暇があったら、少しでも復習をしなきゃ。自分の中で問題を考えながら、回答する感じで復習しよう。

「お待たせしました。これより問題用紙と答案用紙を配ります」

「っ……!」

 集中して復習をしていたら、いつの間にか試験の時間になっていたようだ。若くて綺麗な女性の試験官が、静かに用紙を配って回っている。

「全員に行き渡りましたね。問題用紙はまだ開かないように。試験時間は、一教科九十分です。筆記用具を落としたり、問題用紙や解答用紙に不備があったなど、なにか問題が起こった際には、静かに挙手をしてください。万が一体調不良になった際も、速やかに手を上げること。なにか質問がある方はいらっしゃいますか?」

 私も含め、誰も手を上げることは無かった。それを見た試験官は、懐から懐中時計を取り出した。

「もう間もなく試験が始まります。それまではそのまま静かにお待ちください」

 それ以上の説明はなく、教室は静寂に包まれた。時計がチクタクと動く音が、独特な緊張感を産んでいる。

 そして……ついに、その時を知らせる鐘の音が、教室に鳴り響いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

理想の女性を見つけた時には、運命の人を愛人にして白い結婚を宣言していました

ぺきぺき
恋愛
王家の次男として生まれたヨーゼフには幼い頃から決められていた婚約者がいた。兄の補佐として育てられ、兄の息子が立太子した後には臣籍降下し大公になるよていだった。 このヨーゼフ、優秀な頭脳を持ち、立派な大公となることが期待されていたが、幼い頃に見た絵本のお姫様を理想の女性として探し続けているという残念なところがあった。 そしてついに貴族学園で絵本のお姫様とそっくりな令嬢に出会う。 ーーーー 若気の至りでやらかしたことに苦しめられる主人公が最後になんとか幸せになる話。 作者別作品『二人のエリーと遅れてあらわれるヒーローたち』のスピンオフになっていますが、単体でも読めます。 完結まで執筆済み。毎日四話更新で4/24に完結予定。 第一章 無計画な婚約破棄 第二章 無計画な白い結婚 第三章 無計画な告白 第四章 無計画なプロポーズ 第五章 無計画な真実の愛 エピローグ

旦那様には愛人がいますが気にしません。

りつ
恋愛
 イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

旦那様はとても一途です。

りつ
恋愛
 私ではなくて、他のご令嬢にね。 ※「小説家になろう」にも掲載しています

お姉さまが家を出て行き、婚約者を譲られました

さこの
恋愛
姉は優しく美しい。姉の名前はアリシア私の名前はフェリシア 姉の婚約者は第三王子 お茶会をすると一緒に来てと言われる アリシアは何かとフェリシアと第三王子を二人にしたがる ある日姉が父に言った。 アリシアでもフェリシアでも婚約者がクリスタル伯爵家の娘ならどちらでも良いですよね? バカな事を言うなと怒る父、次の日に姉が家を、出た

【コミカライズ決定】契約結婚初夜に「一度しか言わないからよく聞け」と言ってきた旦那様にその後溺愛されています

氷雨そら
恋愛
義母と義妹から虐げられていたアリアーナは、平民の資産家と結婚することになる。 それは、絵に描いたような契約結婚だった。 しかし、契約書に記された内容は……。 ヒロインが成り上がりヒーローに溺愛される、契約結婚から始まる物語。 小説家になろう日間総合表紙入りの短編からの長編化作品です。 短編読了済みの方もぜひお楽しみください! もちろんハッピーエンドはお約束です♪ 小説家になろうでも投稿中です。 完結しました!! 応援ありがとうございます✨️

妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます

冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。 そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。 しかも相手は妹のレナ。 最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。 夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。 最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。 それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。 「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」 確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。 言われるがままに、隣国へ向かった私。 その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。 ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。 ※ざまぁパートは第16話〜です

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

ひとりぼっち令嬢は正しく生きたい~婚約者様、その罪悪感は不要です~

参谷しのぶ
恋愛
十七歳の伯爵令嬢アイシアと、公爵令息で王女の護衛官でもある十九歳のランダルが婚約したのは三年前。月に一度のお茶会は婚約時に交わされた約束事だが、ランダルはエイドリアナ王女の護衛という仕事が忙しいらしく、ドタキャンや遅刻や途中退席は数知れず。先代国王の娘であるエイドリアナ王女は、現国王夫妻から虐げられているらしい。 二人が久しぶりにまともに顔を合わせたお茶会で、ランダルの口から出た言葉は「誰よりも大切なエイドリアナ王女の、十七歳のデビュタントのために君の宝石を貸してほしい」で──。 アイシアはじっとランダル様を見つめる。 「忘れていらっしゃるようなので申し上げますけれど」 「何だ?」 「私も、エイドリアナ王女殿下と同じ十七歳なんです」 「は?」 「ですから、私もデビュタントなんです。フォレット伯爵家のジュエリーセットをお貸しすることは構わないにしても、大舞踏会でランダル様がエスコートしてくださらないと私、ひとりぼっちなんですけど」 婚約者にデビュタントのエスコートをしてもらえないという辛すぎる現実。 傷ついたアイシアは『ランダルと婚約した理由』を思い出した。三年前に両親と弟がいっぺんに亡くなり唯一の相続人となった自分が、国中の『ろくでなし』からロックオンされたことを。領民のことを思えばランダルが一番マシだったことを。 「婚約者として正しく扱ってほしいなんて、欲張りになっていた自分が恥ずかしい!」 初心に返ったアイシアは、立派にひとりぼっちのデビュタントを乗り切ろうと心に誓う。それどころか、エイドリアナ王女のデビュタントを成功させるため、全力でランダルを支援し始めて──。 (あれ? ランダル様が罪悪感に駆られているように見えるのは、私の気のせいよね?) ★小説家になろう様にも投稿しました★

処理中です...