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第三十五話 強力な味方
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目を開けると、私がいた所はライル家の屋敷ではなく、別の場所だった。そこはとても広く、沢山の料理が並んでいる。そして、煌びやかな人達に囲まれていた。
これ……なにかのパーティーの会場? いや、この会場に見覚えがある。そうだ、私がマルク様に真実を突き付けられた、あのパーティーの会場だ。
『お前と婚約を結んだというのは、全て嘘だ』
突然目の前に現れたマルク様は、私の事を見下した様な目で、冷たい言葉を投げつけてきた。
『セーラ……』
「え……ヴォルフ様!? 良かった、無事だったんですね!」
『すまない……僕とエリカは罪を犯した。だから……君とはもう一緒にいられない』
「え……?」
連れて行かれたはずの二人が目の前に現れて、嬉しくて抱きつこうとした矢先に、聞きたくもない言葉を聞かされた。
そんなの嘘だよね? ヴォルフ様は悪い事なんて、してないんだよね? なのに、どうしてそんな罪を認めて、私と決別する様な事を言うの?
『マルク王子。あなたに逆らった我々を裁いてください』
『殊勝な心がけだな。せめてもの情けとして、苦しまぬ様に逝かせてやろう』
「えっ……なんで、駄目……やめて!!」
私の叫びなど、到底受け入れられるはずもなく……マルク様の前で跪くヴォルフ様とエリカ様に、無慈悲な剣が振り下ろされた――
****
「やめて……!!」
次に目を開けると、そこは先程のパーティー会場ではなく、ライル家の私の部屋だった。
今のは、夢……? 前にお母さんが亡くなった時の夢も酷かったけど、今回もそれに匹敵するくらい、酷い夢だった。気分が悪すぎて、今にも吐きそうだ。
「あ、目を覚ましましたか~」
「…………」
声のした方に目だけ動かすと、そこには本を一緒に買いに行ってくれたメイドが、いつもの様にのんびりとした様子で座っていた。
「私、どうしてここに……」
「マルク王子がお帰りになった後に、意識を失っていたんですよ~」
「意識を……」
「はい~。二日ほど眠っておられましたので、とても心配しておりました~」
「二日!?」
嘘、ヴォルフ様とエリカさんが連れていかれてから、そんなに経ってるの!? 何を呑気に寝てるの私! こんな所でまで、無能を晒さなくてもいいのに!
「早く助けに……いたっ……」
「無理をしてはいけません~。あれだけ蹴られたのですから~」
「でも……」
「今はしっかりお休みになられてくださいませ~。元気じゃないと、いつも出来る事も出来なくなりますよ~」
彼女はそう言いながら、無理やり起き上がろうとする私の肩をやんわりと押し、再び寝かしつけた。
言いたい事は痛いほどわかる。だからといって、はいそうですかと寝ているわけにはいかない。早く二人を助けないと、マルク様なら何をしてもおかしくないのだから。
……どうしてこうなってしまったのだろう。やっぱり私がここに来なければ……ううん、あの酒場で働かなければ……こんな事にはならなかった。
そうだよ。私の代わりに別の子が仕事をして、マスターの変装をするヴォルフ様が、別の子と仲良くすれば……。
……駄目だ、想像するだけで、あまりにも辛すぎる……ヴォルフ様の隣にいたい……ヴォルフ様ぁ……エリカさんさぁん……私、寂しいよぉ……。
「……セーラ様。申し訳ありませんでした」
「ぐすんっ……え、どうしたんですか突然……?」
「私達は、主人や同僚、そして主人の未来の奥方が危機に陥っていたのに、何も出来ませんでした。本当に、情けない限りです~……」
「そんな、皆さんが悪いなんて思わないです! むしろ、元々の発端は私のせいです。私が……マルク様に騙されてなければ……ごめ、ごめんなさい……」
「それは考えすぎですよ~……」
自責の念に耐えきれなくなった私は、涙をポタポタと落としはじめる。するた、彼女が私の事を抱きしめて、泣き止むまで頭を撫でてくれた。
なんか、お母さんにギュッてしてもらった時の事を思い出した。お母さんに甘えたくて、ベッドの中に侵入すると、お母さんはいつも笑いながら、私の事をギュッてしてくれたんだ。
「そうだ、セーラ様が目を覚ましたら、お声がけをするのをすっかり忘れていました~。少々お待ちを~」
「え、は……はい」
もう少しだけ堪能していたかったけど、行ってしまったのなら仕方がない。とりあえずここで待とう。
「…………」
……どうしよう。今の状態で、一人ぼっちになると、悪い事ばかり考えてしまう。二人が死んじゃうとか、全部私のせいだとか……心が不安定になっていくのがよくわかる。
「おお……目を覚ましていたか!」
「え……?」
「わかるか? ラドバルだ」
「ら、ラドバル様!?」
心配そうな表情で部屋に入ってきたのは、ライル家の前当主で、マルク様のお父さんである、ラドバル様だった。私の姿を見て安心したのか、以前お話した時の明るさに、少しだけ戻った。
「あ、あの……お久しぶりです!」
「我々は家族となるのだから、堅苦しい挨拶はよそう。事情を聞いて、急いで帰って来たら、セーラの意識が無いと聞いてな。心配していたぞ!」
ラドバル様も、今回の事を知っていたんだ。それなら、きっと気が気ではないはずなのに、私の事を心配してくれるなんて。
「ラドバル様は、どこまでご存じなのですか?」
「おおよそは聞いている。ヴォルフが脱税で捕まったのも聞いているし、その際の書類も見せてもらった」
「あの書類、私にはよくわからなかったんですけど……本当にヴォルフ様が悪い事をしていたのでしょうか?」
「私も専門家ではないから、何とも言えない。だが、ヴォルフがそんな悪事に手を染めるとは思えん」
そうだよね……そうだよね! ヴォルフ様は、マスターとして凄く真面目に働いていたんだもん! 捕まるような事をするはずないよ!
「でも、どうやってヴォルフ様とエリカさんを助ければ良いんでしょうか……?」
「罪など犯していない事を証明すればいい。実は屋敷に帰ってからすぐに、私は一通の手紙を出している」
「手紙、ですか?」
「うむ。送り主は、我らが住むプロスペリ国の、国王陛下だ」
「えぇ!?」
まさかの送り先に驚いてしまった私は、声を少し上ずらせながら、身を乗り出してしまった。
「でも、どうして国王様に手紙を?」
「国の金に関して色々関与している財務班は、国が管轄する組織だというのは知っているか?」
「は、はい」
確か、マルク様が財務班は国家の管轄だって言ってたよね? 私の記憶が間違ってなければだけど……。
「私の見立てでは、マルク王子が財務班に、何かしらの圧力をかけたのではないかと思っている。だから、それを調べたいのだが、さっきも言ったように、財務班は国が管轄している。つまり、基本的には財務班の人間と、王家の人間しか資料を閲覧する事が出来ない」
「な、なるほど。今回の件は、マルク様が王家の人だから、資料を持ち出す事が出来たんですね」
「その通り。その資料に改ざんされた形跡がないかを調べてもらうように、国王陛下に依頼をしたというわけだ。私と国王陛下は古い知り合いでな。きっと聞き入れてくださるだろう」
私が呑気に寝ている間に、そこまで考えて、行動していたなんて……ラドバル様は凄い人だ。
……それなのに、私は何をしているの? 連れ去られた時に何も出来なくて、今もラドバル様に感心するだけで、何も出来ていない……私も、二人を助ける為に頑張らなきゃ!
「あの、私に何か出来る事はありませんか! なんでもやりますから! 私も……大好きな二人を助けたいんです!」
「ありがとう。それなら、今はしっかり休息を取っておくといい。なにかあった時には、君の力を――」
「ラドバル様、王家からお手紙が届きました~」
「おお、ありがとう。もう調査が終わったのだろうか……?」
メイドさんから手紙を受け取ったラドバル様は、私にも見えるように手紙を広げた。
こんなに早く結果が出たら、私のやる事がないよ。やっぱり私なんかには何も出来ないのだろうか……そう思って落ち込む私に、現実は容赦しなかった。
なんとそこには……マルク様の署名で、ヴォルフ様とエリカさんの処刑が決まったという内容が書かれていたのだから。
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『お前と婚約を結んだというのは、全て嘘だ』
突然目の前に現れたマルク様は、私の事を見下した様な目で、冷たい言葉を投げつけてきた。
『セーラ……』
「え……ヴォルフ様!? 良かった、無事だったんですね!」
『すまない……僕とエリカは罪を犯した。だから……君とはもう一緒にいられない』
「え……?」
連れて行かれたはずの二人が目の前に現れて、嬉しくて抱きつこうとした矢先に、聞きたくもない言葉を聞かされた。
そんなの嘘だよね? ヴォルフ様は悪い事なんて、してないんだよね? なのに、どうしてそんな罪を認めて、私と決別する様な事を言うの?
『マルク王子。あなたに逆らった我々を裁いてください』
『殊勝な心がけだな。せめてもの情けとして、苦しまぬ様に逝かせてやろう』
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私の叫びなど、到底受け入れられるはずもなく……マルク様の前で跪くヴォルフ様とエリカ様に、無慈悲な剣が振り下ろされた――
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「やめて……!!」
次に目を開けると、そこは先程のパーティー会場ではなく、ライル家の私の部屋だった。
今のは、夢……? 前にお母さんが亡くなった時の夢も酷かったけど、今回もそれに匹敵するくらい、酷い夢だった。気分が悪すぎて、今にも吐きそうだ。
「あ、目を覚ましましたか~」
「…………」
声のした方に目だけ動かすと、そこには本を一緒に買いに行ってくれたメイドが、いつもの様にのんびりとした様子で座っていた。
「私、どうしてここに……」
「マルク王子がお帰りになった後に、意識を失っていたんですよ~」
「意識を……」
「はい~。二日ほど眠っておられましたので、とても心配しておりました~」
「二日!?」
嘘、ヴォルフ様とエリカさんが連れていかれてから、そんなに経ってるの!? 何を呑気に寝てるの私! こんな所でまで、無能を晒さなくてもいいのに!
「早く助けに……いたっ……」
「無理をしてはいけません~。あれだけ蹴られたのですから~」
「でも……」
「今はしっかりお休みになられてくださいませ~。元気じゃないと、いつも出来る事も出来なくなりますよ~」
彼女はそう言いながら、無理やり起き上がろうとする私の肩をやんわりと押し、再び寝かしつけた。
言いたい事は痛いほどわかる。だからといって、はいそうですかと寝ているわけにはいかない。早く二人を助けないと、マルク様なら何をしてもおかしくないのだから。
……どうしてこうなってしまったのだろう。やっぱり私がここに来なければ……ううん、あの酒場で働かなければ……こんな事にはならなかった。
そうだよ。私の代わりに別の子が仕事をして、マスターの変装をするヴォルフ様が、別の子と仲良くすれば……。
……駄目だ、想像するだけで、あまりにも辛すぎる……ヴォルフ様の隣にいたい……ヴォルフ様ぁ……エリカさんさぁん……私、寂しいよぉ……。
「……セーラ様。申し訳ありませんでした」
「ぐすんっ……え、どうしたんですか突然……?」
「私達は、主人や同僚、そして主人の未来の奥方が危機に陥っていたのに、何も出来ませんでした。本当に、情けない限りです~……」
「そんな、皆さんが悪いなんて思わないです! むしろ、元々の発端は私のせいです。私が……マルク様に騙されてなければ……ごめ、ごめんなさい……」
「それは考えすぎですよ~……」
自責の念に耐えきれなくなった私は、涙をポタポタと落としはじめる。するた、彼女が私の事を抱きしめて、泣き止むまで頭を撫でてくれた。
なんか、お母さんにギュッてしてもらった時の事を思い出した。お母さんに甘えたくて、ベッドの中に侵入すると、お母さんはいつも笑いながら、私の事をギュッてしてくれたんだ。
「そうだ、セーラ様が目を覚ましたら、お声がけをするのをすっかり忘れていました~。少々お待ちを~」
「え、は……はい」
もう少しだけ堪能していたかったけど、行ってしまったのなら仕方がない。とりあえずここで待とう。
「…………」
……どうしよう。今の状態で、一人ぼっちになると、悪い事ばかり考えてしまう。二人が死んじゃうとか、全部私のせいだとか……心が不安定になっていくのがよくわかる。
「おお……目を覚ましていたか!」
「え……?」
「わかるか? ラドバルだ」
「ら、ラドバル様!?」
心配そうな表情で部屋に入ってきたのは、ライル家の前当主で、マルク様のお父さんである、ラドバル様だった。私の姿を見て安心したのか、以前お話した時の明るさに、少しだけ戻った。
「あ、あの……お久しぶりです!」
「我々は家族となるのだから、堅苦しい挨拶はよそう。事情を聞いて、急いで帰って来たら、セーラの意識が無いと聞いてな。心配していたぞ!」
ラドバル様も、今回の事を知っていたんだ。それなら、きっと気が気ではないはずなのに、私の事を心配してくれるなんて。
「ラドバル様は、どこまでご存じなのですか?」
「おおよそは聞いている。ヴォルフが脱税で捕まったのも聞いているし、その際の書類も見せてもらった」
「あの書類、私にはよくわからなかったんですけど……本当にヴォルフ様が悪い事をしていたのでしょうか?」
「私も専門家ではないから、何とも言えない。だが、ヴォルフがそんな悪事に手を染めるとは思えん」
そうだよね……そうだよね! ヴォルフ様は、マスターとして凄く真面目に働いていたんだもん! 捕まるような事をするはずないよ!
「でも、どうやってヴォルフ様とエリカさんを助ければ良いんでしょうか……?」
「罪など犯していない事を証明すればいい。実は屋敷に帰ってからすぐに、私は一通の手紙を出している」
「手紙、ですか?」
「うむ。送り主は、我らが住むプロスペリ国の、国王陛下だ」
「えぇ!?」
まさかの送り先に驚いてしまった私は、声を少し上ずらせながら、身を乗り出してしまった。
「でも、どうして国王様に手紙を?」
「国の金に関して色々関与している財務班は、国が管轄する組織だというのは知っているか?」
「は、はい」
確か、マルク様が財務班は国家の管轄だって言ってたよね? 私の記憶が間違ってなければだけど……。
「私の見立てでは、マルク王子が財務班に、何かしらの圧力をかけたのではないかと思っている。だから、それを調べたいのだが、さっきも言ったように、財務班は国が管轄している。つまり、基本的には財務班の人間と、王家の人間しか資料を閲覧する事が出来ない」
「な、なるほど。今回の件は、マルク様が王家の人だから、資料を持ち出す事が出来たんですね」
「その通り。その資料に改ざんされた形跡がないかを調べてもらうように、国王陛下に依頼をしたというわけだ。私と国王陛下は古い知り合いでな。きっと聞き入れてくださるだろう」
私が呑気に寝ている間に、そこまで考えて、行動していたなんて……ラドバル様は凄い人だ。
……それなのに、私は何をしているの? 連れ去られた時に何も出来なくて、今もラドバル様に感心するだけで、何も出来ていない……私も、二人を助ける為に頑張らなきゃ!
「あの、私に何か出来る事はありませんか! なんでもやりますから! 私も……大好きな二人を助けたいんです!」
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「ラドバル様、王家からお手紙が届きました~」
「おお、ありがとう。もう調査が終わったのだろうか……?」
メイドさんから手紙を受け取ったラドバル様は、私にも見えるように手紙を広げた。
こんなに早く結果が出たら、私のやる事がないよ。やっぱり私なんかには何も出来ないのだろうか……そう思って落ち込む私に、現実は容赦しなかった。
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