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第二十二話 炭鉱の屋敷
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炭鉱の町を仕切る方々の住む屋敷の前まで来た私は、思わず生唾を飲み込んだ。
だって、まさかお父さんと一緒にいた相手が、爵位を持つ家の人だとは、思ってもみなかったのだから。
「えっと、確かあの人の名前は……ミナ・ミニエーラ様。男爵家であるミニエーラ家のご令嬢ですよね? ヴォルフ様は会った事があるんですか?」
「ミニエーラ家の当主様には、何度かお会いした事はあるよ。でも、ご息女のミナという人物には、会った事がないね」
ここに来るまでに聞いた名前を確認すると、ヴォルフ様は小さく頷いた。
さすがヴォルフ様、こんな離れた地の方でも会った事があるなんて……本当にライル家って凄いんだなぁ。
「事前に約束をしてないのに、会ってくれるでしょうか……」
「何とも言えないかな。それでも、このまま黙ってるわけにもいかないからね。大丈夫、僕がセーラを守るから」
「エリカもお側におります。なので、セーラ様はご安心してくださいませ」
「うぅ、いつも本当にありがとうございます……」
「よし、それじゃあ行こうか」
「むっ……止まれ」
屋敷の門の前に来ると、強面の兵士の方に止められてしまった。いきなり来たのだから、警戒されて当然だろう。
「突然の来訪、誠に申し訳ない。ミニエーラ家のご息女様にお会いしたく、馳せ参じました」
「ミナ様に……? 貴様ら、一体何者だ」
「ライル家の当主、ヴォルフと申します」
「ら、ライル家!? どうして侯爵家の当主殿が、このような場所に!? しょ、少々お待ちを!!」
門の前で見張りをしていた兵士の人は、ヴォルフ様の正体を知ると、凄く慌てて屋敷の中に入っていった。
うん、驚く気持ちはよくわかる……侯爵家の当主様がいきなり来たら、何事だと思うのは当たり前だ。
「なんと、まさか本当にライル殿がいらっしゃるとは!」
「ご無沙汰しております、ミニエーラ殿」
門の前で待っていると、お歳を召した男性の方がやってきた。オールバックにした白い髪と眼鏡が特徴的な、長身の男性だった。
「突然申し訳ありません。少しだけでいいので、お時間をいただけないでしょうか?」
「ええ、もちろん。さあ、中へどうぞ」
「ありがとうございます。セーラ、エリカ、行こうか」
ヴォルフ様を先頭に屋敷の中に入ると、私達は応接室へと通された。ライル家にもあるけど、凄い家の人の屋敷には、必ず応接室があるのだろうか?
「どうぞおかけくださいませ」
「ありがとうございます」
「それで、どうしてライル殿がこのような場所に? 」
「少々私用でこちらに来ておりまして。そこで、ご息女様とお話したい要件が出てきたのです」
「うちのミナが、なにか粗相でも!?」
「いえいえ、そのような事はございません」
「それをお聞き出来て安心致しました。すぐに呼んできますので、少々お待ちください」
ふぅ、と安心したように息を漏らした当主様は、部屋の外へと出ていった。
今更になってだけど、あの女の人に怒られたりしないか心配になってきた。だって、私が来なければ、二人の関係が崩れる事がなかったわけだし……うぅ、緊張でお腹が痛くなってきた……。
「失礼致します――え、あなた方は……!」
部屋の中に入って来た女性は、明るい茶髪を肩まで降ろしているのと、パッチリとした赤い瞳が特徴的な女性だった。
昨日もあってるはずなのに、お父さんの事ばかりで、全然覚えてなかったよ……。
「ミナ様ですね。お初にお目にかかります。僕はヴォルフ・ライルと申します。それと、僕の婚約者のセーラと、メイドのエリカです」
「は、はじめまして! ミナ・ミニエーラと申しますわ!」
まさか、公爵家の当主が来ていて、その人が昨日見た事がある人だったら、驚くのも当然だろう。私が逆の立場だったら、腰を抜かしちゃうかもしれない。
「まさか、昨夜お会いした方がライル家の方々だったなんて……ご挨拶が出来なかったご非礼、お許しください!」
「そんな、我々こそ挨拶が出来なくて申し訳ない。それに、彼との時間を邪魔してしまった事も、お詫びさせてほしい」
貴族同士の会話って、なんだか凄く大変そうだ。いつも私と話す時は優しい感じなのに、今は凄くピシッ! っとしてる感じだ。
「その、私にお話と伺っておりますが……」
「はい。昨夜の一件に関係してくるのですが……あなたと一緒にいた男性について、お話を伺いたい」
「……やはりその事だったのですね。正直、私も驚いております……まさか彼に奥様とお子様がいただなんて」
「その様子だと、知らなかったのですね。彼とはすでに結婚は?」
「婚約はしましたが、まだ正式には結婚はしておりません。その、彼……レイジさんは、自分を独身と仰っておりましたので。それならと、婚約を申し込んで、了承をもらえましたの」
真実を言う機会がなかったんじゃなくて、自分を偽っていたの? それなら騙されてしまうのも仕方がないよね……。
「あなたがレイジさんの娘様……ですよね?」
「は、はい。セーラと申します……」
「本当に……本当に申し訳ございません!」
ミナ様は机に頭を打ちつけるぐらいの勢いで、私に頭を下げて見せた。
「え、あのその……ミナ様は何も知らなかったですし……だから、頭を上げてください」
「しかし……私は騙されて、彼に恋をしてしまいましたわ!」
「悪いのは、あなたを騙していたお父さんの方ですから……」
「……セーラ様……」
ど、どうしよう。ミナ様の誠意は凄く伝わって来たのはいいんだけど、これでは謝罪だけで終わりになってしまう。それでは意味がない……滞在できる時間は限られているから、話を進めないと。
「こほん……失礼ですが、お互いに時間はあまりないかと存じます」
「あ……そうですわね。話を戻しましょう。事情を伺ってもよろしいでしょうか?」
「セーラ、出来る範囲でいいから、ミナ様に話してもらえるかな?」
「わかりました」
私は、お父さんがお金を稼ぐ為に出稼ぎに来た事、家では私と病気のお母さんがいて、仕送りでなんとかやりくりしていた事、そしてお父さんから連絡と仕送りが来なくなった事など、全てを話した。
「そんな……病気の奥様を……そしてセーラ様まで見捨てて……そういえば、誰かに手紙を書いてる姿を見かけた事がありました。あれは、あなたに送っていたのですね」
「はい、そうです」
「なんて酷い事を……心底失望いたしましたわ。そんな最低な方だったなんて」
怒りを全てを表すように、両の拳を強く握った。それくらい悔しいのだろう。
私だって、いくら偽物の婚約者でも、もしヴォルフ様が裏切って浮気していたら、凄くショックを受ける自信しかない。
「あの、お父さんと何があったのですか?」
「以前、炭鉱に視察に行った際に、とても真面目に働くレイジさんがいらっしゃったんです。それで、ダメ元で食事に誘ったら来てくれて……それからよく一緒に食事に行くようになって、互いが好きになって……向こうから告白してくれたんです」
うぅ、やっぱりお父さんが……私とお母さんを裏切ったというのは真実なんだね……うぅ……お母さぁん……。
「実は、僕達はセーラのお父上にお仕置きをしようと思っておりまして。つきましては、ミナ様にも手伝っていただきたいのですが」
「はい、もちろんですわ!」
「ありがとうございます」
「良かったですわね、ヴォルフ様。それと……そこで聞き耳を立てている方、そろそろ入って来てはいかがでしょうか?」
えっ? と声を漏らしながら部屋の入口を見ると、ミニエーラ家の当主様がゆっくりと入ってきた。
「申し訳ない、ミナの事が心配で、つい外で立ち聞きをしていまいました」
「いえいえ、お気になさらず。僕のような人間がいきなり伺ったら、警戒するのも無理はありません」
「それにしても……まさかレイジにそのような事情があったとは。娘を騙すなど、絶対に許せる事ではありません」
「ではご協力をお願いできないでしょうか?」
「もちろんでございます」
ヴォルフ様は、ミニエーラ家の当主様と固い握手を交わした。
なんだか奇妙な協力関係が結ばれたけど、一緒に行動が出来る人が増えるのは、良い事だよね。
……お母さん、私……やるよ。きっと優しいお母さんの事だから、そんな事をしてはいけないって言うと思う。
でも……私はやっぱり、家族を裏切ったお父さんが……許せそうもないの……。
だって、まさかお父さんと一緒にいた相手が、爵位を持つ家の人だとは、思ってもみなかったのだから。
「えっと、確かあの人の名前は……ミナ・ミニエーラ様。男爵家であるミニエーラ家のご令嬢ですよね? ヴォルフ様は会った事があるんですか?」
「ミニエーラ家の当主様には、何度かお会いした事はあるよ。でも、ご息女のミナという人物には、会った事がないね」
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さすがヴォルフ様、こんな離れた地の方でも会った事があるなんて……本当にライル家って凄いんだなぁ。
「事前に約束をしてないのに、会ってくれるでしょうか……」
「何とも言えないかな。それでも、このまま黙ってるわけにもいかないからね。大丈夫、僕がセーラを守るから」
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「むっ……止まれ」
屋敷の門の前に来ると、強面の兵士の方に止められてしまった。いきなり来たのだから、警戒されて当然だろう。
「突然の来訪、誠に申し訳ない。ミニエーラ家のご息女様にお会いしたく、馳せ参じました」
「ミナ様に……? 貴様ら、一体何者だ」
「ライル家の当主、ヴォルフと申します」
「ら、ライル家!? どうして侯爵家の当主殿が、このような場所に!? しょ、少々お待ちを!!」
門の前で見張りをしていた兵士の人は、ヴォルフ様の正体を知ると、凄く慌てて屋敷の中に入っていった。
うん、驚く気持ちはよくわかる……侯爵家の当主様がいきなり来たら、何事だと思うのは当たり前だ。
「なんと、まさか本当にライル殿がいらっしゃるとは!」
「ご無沙汰しております、ミニエーラ殿」
門の前で待っていると、お歳を召した男性の方がやってきた。オールバックにした白い髪と眼鏡が特徴的な、長身の男性だった。
「突然申し訳ありません。少しだけでいいので、お時間をいただけないでしょうか?」
「ええ、もちろん。さあ、中へどうぞ」
「ありがとうございます。セーラ、エリカ、行こうか」
ヴォルフ様を先頭に屋敷の中に入ると、私達は応接室へと通された。ライル家にもあるけど、凄い家の人の屋敷には、必ず応接室があるのだろうか?
「どうぞおかけくださいませ」
「ありがとうございます」
「それで、どうしてライル殿がこのような場所に? 」
「少々私用でこちらに来ておりまして。そこで、ご息女様とお話したい要件が出てきたのです」
「うちのミナが、なにか粗相でも!?」
「いえいえ、そのような事はございません」
「それをお聞き出来て安心致しました。すぐに呼んできますので、少々お待ちください」
ふぅ、と安心したように息を漏らした当主様は、部屋の外へと出ていった。
今更になってだけど、あの女の人に怒られたりしないか心配になってきた。だって、私が来なければ、二人の関係が崩れる事がなかったわけだし……うぅ、緊張でお腹が痛くなってきた……。
「失礼致します――え、あなた方は……!」
部屋の中に入って来た女性は、明るい茶髪を肩まで降ろしているのと、パッチリとした赤い瞳が特徴的な女性だった。
昨日もあってるはずなのに、お父さんの事ばかりで、全然覚えてなかったよ……。
「ミナ様ですね。お初にお目にかかります。僕はヴォルフ・ライルと申します。それと、僕の婚約者のセーラと、メイドのエリカです」
「は、はじめまして! ミナ・ミニエーラと申しますわ!」
まさか、公爵家の当主が来ていて、その人が昨日見た事がある人だったら、驚くのも当然だろう。私が逆の立場だったら、腰を抜かしちゃうかもしれない。
「まさか、昨夜お会いした方がライル家の方々だったなんて……ご挨拶が出来なかったご非礼、お許しください!」
「そんな、我々こそ挨拶が出来なくて申し訳ない。それに、彼との時間を邪魔してしまった事も、お詫びさせてほしい」
貴族同士の会話って、なんだか凄く大変そうだ。いつも私と話す時は優しい感じなのに、今は凄くピシッ! っとしてる感じだ。
「その、私にお話と伺っておりますが……」
「はい。昨夜の一件に関係してくるのですが……あなたと一緒にいた男性について、お話を伺いたい」
「……やはりその事だったのですね。正直、私も驚いております……まさか彼に奥様とお子様がいただなんて」
「その様子だと、知らなかったのですね。彼とはすでに結婚は?」
「婚約はしましたが、まだ正式には結婚はしておりません。その、彼……レイジさんは、自分を独身と仰っておりましたので。それならと、婚約を申し込んで、了承をもらえましたの」
真実を言う機会がなかったんじゃなくて、自分を偽っていたの? それなら騙されてしまうのも仕方がないよね……。
「あなたがレイジさんの娘様……ですよね?」
「は、はい。セーラと申します……」
「本当に……本当に申し訳ございません!」
ミナ様は机に頭を打ちつけるぐらいの勢いで、私に頭を下げて見せた。
「え、あのその……ミナ様は何も知らなかったですし……だから、頭を上げてください」
「しかし……私は騙されて、彼に恋をしてしまいましたわ!」
「悪いのは、あなたを騙していたお父さんの方ですから……」
「……セーラ様……」
ど、どうしよう。ミナ様の誠意は凄く伝わって来たのはいいんだけど、これでは謝罪だけで終わりになってしまう。それでは意味がない……滞在できる時間は限られているから、話を進めないと。
「こほん……失礼ですが、お互いに時間はあまりないかと存じます」
「あ……そうですわね。話を戻しましょう。事情を伺ってもよろしいでしょうか?」
「セーラ、出来る範囲でいいから、ミナ様に話してもらえるかな?」
「わかりました」
私は、お父さんがお金を稼ぐ為に出稼ぎに来た事、家では私と病気のお母さんがいて、仕送りでなんとかやりくりしていた事、そしてお父さんから連絡と仕送りが来なくなった事など、全てを話した。
「そんな……病気の奥様を……そしてセーラ様まで見捨てて……そういえば、誰かに手紙を書いてる姿を見かけた事がありました。あれは、あなたに送っていたのですね」
「はい、そうです」
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うぅ、やっぱりお父さんが……私とお母さんを裏切ったというのは真実なんだね……うぅ……お母さぁん……。
「実は、僕達はセーラのお父上にお仕置きをしようと思っておりまして。つきましては、ミナ様にも手伝っていただきたいのですが」
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ヴォルフ様は、ミニエーラ家の当主様と固い握手を交わした。
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