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第二十話 お父さん、見つけた!! でも……

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 何度見ても、見間違えるはずもない。あれは確かに、私のお父さんだ!!

「お父さん!」
「っ!?」

 感情の高ぶりを抑えきれなくなった私は、椅子の背に深く体を沈めて笑っているお父さんの所に向かった。

「……誰だ、お前」
「誰って……五年振りじゃわからないよね……セーラだよ。ほら、このハンカチ……お父さんとお母さんから貰ったものだよ」
「セーラ……セーラ!? 馬鹿な、生きていたのか」
「色んな人の力を借りて、なんとか会いに来れたんだよ!」

 私は嬉しさで一杯だというのに、お父さんは気まずそうというか……明らかに私の事が迷惑だと言わんばかりに、眉間にしわを寄せていた。

「ずっと連絡が無かったから、心配で……」
「余計な事を……俺は彼女と新しい人生を始めたんだ」

 新しい人生。その言葉の意味が、私には理解出来なかった。それって、炭鉱の人として、生涯働く人生の事? それに彼女って?

 そんな事を思っていると、お父さんの隣に座っていた女性が、お父さんの腕に抱きつきながら口を開いた。

「あの子、お知り合いですの?」
「あ、ああ。遠い親戚の子でね。遊びに来ただけみたいだ」
「親戚? 意味、わからないよ……新しい人生ってなに? お父さんは私達と三人で幸せに……!」
「黙れ! 余計な事を言うな!」

 喜んでくれたり、褒めてくれたり、一緒に泣いたり。色々シチュエーションはしていたが、怒鳴られるのは想定外すぎて……私は悲しくて涙が零れてきた。

「失礼。少々伺いたいのですが」
「誰だ、お前は」
「僕は彼女の連れでして。あなたが彼女のお父上だと聞いております」
「え、あなた……お子様がいたの!?」
「い、いるわけないじゃないか。こいつらの嘘だ!」
「仕送りをやめ、こちらで新しい女性と共に酒に溺れていたとは……何とも情けない」
「うるせえ! 俺はあんな女子供の為に稼ぐなんてクソみたいな環境から逃げて、新しい場所を手に入れたんだ! セーラ、もう二度と来るな! 俺の邪魔をするな!」

 お父さんは私にそう怒鳴りつけてから、一緒にいた女性と共に、酒場を去っていった。その際に、私を突き飛ばして転ばせたお父さんは、転んだ拍子に落としてしまったハンカチを踏んでいった。

 そんな事をされた私は……ただ茫然と座り込む事しか出来なかった。

 お父さんは生きていた。でも……知らない女の人と付き合っているような雰囲気を出していたし、私やお母さんの事を邪魔者扱いをした。

 こんな……こんなの……死んじゃってたって言われた方が、まだ良かったよ……!!

「セーラ。宿に戻ろう」
「ううっ……」
「もうちょっと泣くのは我慢するんだ」

 ヴォルフ様に支えられて、なんとか宿にまで帰ってきた私は、溜め込んでいたものを全て爆発させるように、部屋の中で泣き崩れた。

「ぐすっ……ずっと信じてたのに……! お父さんは、私とお母さんを捨てて、新しい生活を手に入れてたんだ!」
「恐らく相手の方も、家族がいるのを知らなかった感じがしたね」
「はい。彼女はむしろ犠牲者ですわ」

 私もお母さんも、お父さんにとって邪魔だったの……? 死ぬ間際、最後にお父さんの顔を見たかったって言ってた、お母さんの気持ちはなんだったの?

 死んじゃったかもしれないけど、諦めずにお金を貯めて会いに行きたいって思ってたのは私の気持ちは、なんだったの?

 なんだったの? なに? なんで? なんで! なんで! なんで!! なんで!!!!

「なんで……私達を捨てて、一人で楽しく生活してるのぉ……なんでよぉ……うわぁぁぁぁぁん!!」

 ヴォルフ様な前から、エリカさんに後ろから抱きしめられた私は、二人の優しさと暖かさが嬉しいというのも重なって、更に泣いた。

 まるで子供がワガママを通す時のような、大きな声。でも、私は……これ以上自分を抑えられる自信が無かった……。

「セーラ、今日はもう休んだ方が良い。寝れば少しはスッキリするだろう」
「うぅっ……ひっく……」

 結局私は、寝付くまでごめんなさいと言い続けながら、お二人が見守る中で眠りについた――


 ****


■ヴォルフ視点■

 泣きながら寝てしまったセーラの頬を撫でる僕は、自分でも驚くくらい冷静だった。

 いや、体が無意識に冷静にさせているのだろう。そうじゃないと、僕はセーラの父親に対して、なにをするかわかったものじゃないからね。

「まずは確認なのですが、ヴォルフ様はどうされますか?」
「絶対に許さない。それがたとえセーラのお父上でも、セーラを傷つけるのなら容赦はしない。まあ、セーラが止めるなら無理にとは言わないけど」
「かしこまりました。まだ推測ですが、彼は一緒にいた女性とお付き合い、または結婚をされています」
「ああ。しかし彼女は、お父上が結婚していて、子供がいるのを知らない素振りだった」
「ええ。恐らく今は不信感があるでしょうから、仲間に引き入れられるかもしれません」

 なるほど、確かに彼女のような事情を知っている人間がいれば、こちらとしても動きやすい。彼女の気持ちが変わらないうちに、接触するのが一番だろう。

「私は彼女について調べてきます。明日の朝までには情報が手に入れられるかと」
「いいのかい、任せても」
「はい」
「じゃあ苦労をかけてすまないが、お願いできるかな? その間、セーラの事は僕が見ているから」
「お任せくださいませ。隠密行動は、得意分野ですので。では失礼致します」

 エリカを見送ってから、僕は再びセーラを見つめる。さっきまでずっと泣いていたからか、顔はまだ赤いままだし、ずっとうなされている。

 ……ああ、くそっ。さっきまで冷静でいられたのに、少しでも気を抜いたら怒りが沸いてきた! 頭がどうにかなってしまいそうだ!

「せっかく君がまた一歩前に進めると思っていたのに……現実は何て残酷なんだ」

 どうしてセーラが、また悲しまなければいけないんだ。彼女はずっと頑張ってきたというのに……!

「現実がどうしてもセーラを不幸にしたいというなら……僕がセーラをその運命から救ってみせる。必ず……幸せにしてみせるからね」

 セーラの頬を優しく撫でながら呟いた僕は、セーラに少しでも良い夢を見てもらえるように、朝までずっとセーラの手を握って過ごした――
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