上 下
44 / 53

第四十四話 情報収集

しおりを挟む
■レオ視点■

 アメリアに大変なことをさせてしまった日の夜、俺は星空の下を、とある場所を目指して走っていた。

 行き先は……アメリアが住んでいた、スフォルツィ家の屋敷だ。

 俺の作戦がうまくいっていれば、今日はシャーロットが、ストレスで誰かに今回の件を話すに違いない。そこの光景と音声を手に入れるつもりだ。

 それを得るために、俺は隠密行動をして屋敷に近づいているというわけだ。

「お、見えてきたな。この魔法を使うと速いのはいいけど、疲れるのが厄介だな」

 もしこれをアメリアに見られてたら、喋ってないで手を動かせと注意されてそうだ。実際にその通りだしね。

「よし、やるか」

 俺は屋敷の敷地内に入ると、透明化の魔法を使って見えなくした後、やっと習得した偵察魔法で作った虫を、屋敷の中に飛ばした。

 本当は、敷地の外からの方が安全だが、生憎俺の魔法はまだ不完全で、距離が離れると機能しないんだ。今でも、かなりギリギリを攻めてるのさ。

「この魔法陣から、虫が見た光景と音が……おっ」

 さっそくお目当ての光景を見つけた俺は、魔法陣に釘付けになる。

 ふむ、どうやら家族団欒で話をしているところのようだな。初めて見るけど、この人がアメリアの母上で、こっちが父上だろうか。顔はどっちとも似てないけど、髪色は父親似……って、今はそんなのどうでもいいか。

『お父様、お母様、聞いてよ! あたし、今日学園で凄く嫌な目にあったの!』
『まあ、私の可愛いアメリア、一体どうしたというの?』
『お姉様がね、男性とお付き合いを始めたのよ! しかも、あたしの友達がその人に想いを寄せてるのに、それを踏みにじったのよ!』
『なんて最低な子なのかしら! 出来損ないの癖に、人様に迷惑をかけて……出て行ってまで、スフォルツィ家の名に傷をつけるつもりなのかしら!』

 ……なるほどね。アメリアの話からなんとなくこんな感じかなと想像はしていたけど、実際に聞くと中々に凄いな。

「最低すぎて反吐が出そうだ……っと、ちゃんと情報を集めないと」

 今にも怒りに身を任せて、中に殴り込みに行きそうになったけど、なんとか耐えて情報収集に勤しむ。

 こんなことを、あと何回しなければいけないんだろうな。いつか我慢できなくて突撃してしまいそうだけど、何とか耐えないといけない。

 ……このストレスは、アメリアと一緒に過ごして解消するとしよう。


 ****


 初めてスフォルツィ家に侵入して情報収集を行った俺は、その次の日もスフォルツィ家に侵入して話を聞きだしたり、フローラの家であるノビアーチェ家に侵入して、同じ様に情報を集めた。

 それ以外にも、アドミラル学園でアメリアに絡むシャーロット達を記録したり、それを見てみぬふりをする教師達も記録したり、朝早くに登校して魔法を仕込み、アメリアの席に悪さをする所の記録も取った。

 これが思った以上に大変だった。学園にいる時は、見つからないように情報収集をしつつ、適度なタイミングでアメリアの助けに入るのが、思った以上に難しい。朝も早ければ、夜はかなり遅くまで情報収集をしなければならない。

 それに、保存の薬を持ち歩けないから、情報を手に入れたら、虫が消える前に逐一シャフト先生の所に行き、薬を使って保存をしないといけない。

 そのせいで、俺はかなりの寝不足になってしまったが、これもアメリアをいじめた連中へ、そしてそれを見て見ぬふりをした連中への復讐のためと思うと、何とか耐えられた。

「ふぅ、これは思ったよりも大変だな」

 記録を取り始めてから数週間後、俺はシャフト先生の所に来て、例の薬を使っていた。

 保存をするのも大変だが、偵察魔法で得た景色や音を、記録として一部を抽出するのも、思ったよりも大変だ。なにせ、合計で何時間もある記録から選ばないといけないんだからね。

 本当は、これを使う時にそのまま使えば、こんなことをしなくてもいいんだけど、さすがに何時間もあるのは使いにくい。

「よくそんな面倒なことをやるもんだな」
「ええ。それくらい、怒りで腸が煮えくり返ってるので。ところで、この記録を複製するのって可能ですか?」
「出来なくはねえが、薬を複数作らないとならねえな」
「……シャフト先生」
「断る」
「まだ何も言ってませんが!?」
「いや、今のは完全にもっと作れって、クソだるいこと言う流れだったろ……」

 くっ……完全に読まれている! さすがシャフト先生……いや、さすがに今のはわかりやすすぎだったか……?

「まあ、そう言うだろうと思って、既に何セットかは作っておいたが」
「仕事が早い!?」
「あたりめーだろ。ワシは天才だぞ」
「ありがとうございます! って……その手は何ですか?」

 ありがたく薬を分けてもらおうかと思っていると、シャフト先生は薬ではなく、俺に手を差し出していた。

「タダなわけねえだろ。ワシに見返りを寄こせ」
「……お金ですか?」
「いるかそんなもの。最近研究続きで手が凝っててな。お前の無駄にありそうな力でほぐしてくれや」
「そ、そんなことで良いんですか?」
「そんなことだと? これだから青二才は。研究をしていると、結構手が凝るものだぞ。それに、マッサージを自分でしていたら、両手が使えなくて研究が出来んだろうが」

 シャフト先生なりの気遣いなのか、それとも本当に実験のためなのか。いまいち判断に困るが、これでシャフト先生が満足するなら、お安い御用だ。

「せっかくですし、全身をマッサージしましょうか?」
「……おい青二才、人の話を聞いていたか?」
「冗談ですよ」

 この学園に転校してきてから、それなりに時間が経ったおかげで、シャフト先生にこんな冗談を言えるような関係になれた。

 教師を相手に冗談を言うのはおかしいかもしれないけど、シャフト先生はなんというか……良い意味で教師という感じがしないんだよね。

「そういえば、シャフト先生の弟さんって、今は何をしてるんですか?」
「さあな。もう何十年も互いに忙しくて、連絡を取っていない。風の噂で聞いた話だと、結婚して婿入りしたのはいいものの、研究者だけでは食っていけなくて、家庭教師をしてるとは聞いた。その話も相当昔の話だから、今は何をしているのやら」

 連絡を取ってないのは、ちょっと予想外だったな。未だに亡くなった妹のことを気にしてるくらいだから、家族のことは人一倍気にしてると思ってた。

「連絡を取りたいとは思わないんですか?」
「ワシは研究で忙しい。それに、便りが無いということは、向こうも元気にしているということだ。向こうだって大人なんだから、変に干渉する必要もなかろう」

 淡々と話すその姿勢は、聞く人によっては薄情に聞こえるだろう。妹のことを今も忘れられないのに、弟は放っておくのかと言う人もいるだろう。

 でも俺には、シャフト先生が彼を信じているからこそ、何もせずに研究に没頭しているんじゃないかと思うんだ。

「いつか、その人に会ってみたいですね」
「会っても良いことはないぞ。ただのクソ真面目でつまらん男だからな」
「でも、大切な家族なんでしょう?」
「あ? んなわけあるか」
「いやいや、さすがにあの過去の話を聞いてからそれは、無理がありますよ」
「……ふんっ」

 やっぱりこの人は、ただ不器用なだけで、本質はとても優しい人だ。きっと心の中では、心配しているんだろう。

 せっかくこんな素晴らしい人が味方になってくれているんだから、絶対にこの作戦を成功させてみせる。

「おい、お前どうするつもりだ」
「何がですか?」
「色々準備をするのはいいが、どうやって連中を呼び出すつもりだ?」
「それについては考えがあります」

 シャフト先生が気にするのもわかる。せっかく準備しても、肝心な部分が疎かでは、全てが無意味になってしまうからね。

 でも、その辺りについてはしっかりと作戦は練っている。必ずあいつらに復讐をするために、最初から最後まで、ぬかりなくやらないと……!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜

桐生桜月姫
恋愛
 シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。  だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎  本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎ 〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜 夕方6時に毎日予約更新です。 1話あたり超短いです。 毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。

奥様はエリート文官

神田柊子
恋愛
【2024/6/19:完結しました】 王太子の筆頭補佐官を務めていたアニエスは、待望の第一子を妊娠中の王太子妃の不安解消のために退官させられ、辺境伯との婚姻の王命を受ける。 辺境伯領では自由に領地経営ができるのではと考えたアニエスは、辺境伯に嫁ぐことにした。 初対面で迎えた結婚式、そして初夜。先に寝ている辺境伯フィリップを見て、アニエスは「これは『君を愛することはない』なのかしら?」と人気の恋愛小説を思い出す。 さらに、辺境伯領には問題も多く・・・。 見た目は可憐なバリキャリ奥様と、片思いをこじらせてきた騎士の旦那様。王命で結婚した夫婦の話。 ----- 西洋風異世界。転移・転生なし。 三人称。視点は予告なく変わります。 ----- ※R15は念のためです。 ※小説家になろう様にも掲載中。 【2024/6/10:HOTランキング女性向け1位にランクインしました!ありがとうございます】

ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~

柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。 その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!  この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!? ※シリアス展開もわりとあります。

村八分にしておいて、私が公爵令嬢だったからと手の平を返すなんて許せません。

木山楽斗
恋愛
父親がいないことによって、エルーシャは村の人達から迫害を受けていた。 彼らは、エルーシャが取ってきた食べ物を奪ったり、村で起こった事件の犯人を彼女だと決めつけてくる。そんな彼らに、エルーシャは辟易としていた。 ある日いつものように責められていた彼女は、村にやって来た一人の人間に助けられた。 その人物とは、公爵令息であるアルディス・アルカルドである。彼はエルーシャの状態から彼女が迫害されていることに気付き、手を差し伸べてくれたのだ。 そんなアルディスは、とある目的のために村にやって来ていた。 彼は亡き父の隠し子を探しに来ていたのである。 紆余曲折あって、その隠し子はエルーシャであることが判明した。 すると村の人達は、その態度を一変させた。エルーシャに、媚を売るような態度になったのである。 しかし、今更手の平を返されても遅かった。様々な迫害を受けてきたエルーシャにとって、既に村の人達は許せない存在になっていたのだ。

完)嫁いだつもりでしたがメイドに間違われています

オリハルコン陸
恋愛
嫁いだはずなのに、格好のせいか本気でメイドと勘違いされた貧乏令嬢。そのままうっかりメイドとして馴染んで、その生活を楽しみ始めてしまいます。 ◇◇◇◇◇◇◇ 「オマケのようでオマケじゃない〜」では、本編の小話や後日談というかたちでまだ語られてない部分を補完しています。 14回恋愛大賞奨励賞受賞しました! これも読んでくださったり投票してくださった皆様のおかげです。 ありがとうございました! ざっくりと見直し終わりました。完璧じゃないけど、とりあえずこれで。 この後本格的に手直し予定。(多分時間がかかります)

噂の悪女が妻になりました

はくまいキャベツ
恋愛
ミラ・イヴァンチスカ。 国王の右腕と言われている宰相を父に持つ彼女は見目麗しく気品溢れる容姿とは裏腹に、父の権力を良い事に贅沢を好み、自分と同等かそれ以上の人間としか付き合わないプライドの塊の様な女だという。 その名前は国中に知れ渡っており、田舎の貧乏貴族ローガン・ウィリアムズの耳にも届いていた。そんな彼に一通の手紙が届く。その手紙にはあの噂の悪女、ミラ・イヴァンチスカとの婚姻を勧める内容が書かれていた。

「白い結婚最高!」と喜んでいたのに、花の香りを纏った美形旦那様がなぜか私を溺愛してくる【完結】

清澄 セイ
恋愛
フィリア・マグシフォンは子爵令嬢らしからぬのんびりやの自由人。自然の中でぐうたらすることと、美味しいものを食べることが大好きな恋を知らないお子様。 そんな彼女も18歳となり、強烈な母親に婚約相手を選べと毎日のようにせっつかれるが、選び方など分からない。 「どちらにしようかな、天の神様の言う通り。はい、決めた!」 こんな具合に決めた相手が、なんと偶然にもフィリアより先に結婚の申し込みをしてきたのだ。相手は王都から遠く離れた場所に膨大な領地を有する辺境伯の一人息子で、顔を合わせる前からフィリアに「これは白い結婚だ」と失礼な手紙を送りつけてくる癖者。 けれど、彼女にとってはこの上ない条件の相手だった。 「白い結婚?王都から離れた田舎?全部全部、最高だわ!」 夫となるオズベルトにはある秘密があり、それゆえ女性不信で態度も酷い。しかも彼は「結婚相手はサイコロで適当に決めただけ」と、面と向かってフィリアに言い放つが。 「まぁ、偶然!私も、そんな感じで選びました!」 彼女には、まったく通用しなかった。 「なぁ、フィリア。僕は君をもっと知りたいと……」 「好きなお肉の種類ですか?やっぱり牛でしょうか!」 「い、いや。そうではなく……」 呆気なくフィリアに初恋(?)をしてしまった拗らせ男は、鈍感な妻に不器用ながらも愛を伝えるが、彼女はそんなことは夢にも思わず。 ──旦那様が真実の愛を見つけたらさくっと離婚すればいい。それまでは田舎ライフをエンジョイするのよ! と、呑気に蟻の巣をつついて暮らしているのだった。 ※他サイトにも掲載中。

【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜

鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。 誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。 幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。 ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。 一人の客人をもてなしたのだ。 その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。 【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。 彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。 そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。 そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。 やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。 ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、 「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。 学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。 ☆第2部完結しました☆

処理中です...