上 下
42 / 53

第四十二話 仲睦まじい二人

しおりを挟む
 レオ様と一緒に学園で過ごせるようになった初日。私は自室でいつも以上に張り切って身支度を済ませてたら、外の馬車で待つレオ様の元へと向かった。

「お待たせしました」
「いや、待ってないから大丈夫! ついさっきまで、アメリアとまた学園生活が出来ると思って、ヨダレを垂らしていたからさ!」
「ヨダレは拭いてください」

 もう、どれだけ待ち焦がれたのかって感じが、凄く伝わってくるわね。

 かくいう私も、お付き合いを始めたのに、一緒にいられない時間ばかりだったから、また一緒にいられると思い、凄くドキドキしている。

「さあ、一緒に行こうか!」
「はいっ」

 私はレオ様の手を借りて馬車に乗りこむと、馬車はゆっくりとアドミラル学園に向けて動き始めた。

「なんだか不思議な感じです。ずっと徒歩で学園まで行ってたので」
「すまない、本当は馬車で通わせてあげたかったんだけど、家を出たアメリアが馬車に乗るのはおかしいと、シャーロット達に言及されるのを避けるために……」
「わかってます。レオ様は、ちゃんと私のことを考えてくださってることくらい」

 すぐ隣に座るレオ様の手と自分の手を重ね、指を絡ませた私は、そのままレオ様の肩にもたれかかった。

 あれ……私、想像以上に甘えん坊になってないかしら?

 でも仕方ないわよね。レオ様の正体とか、お付き合いとか、色々あってもっと沢山一緒にいたいって時に、一緒にいられなかったんだもの。甘えたくなっても不思議ではない。

「アメリア、もう少しこっちに」
「はい」
「よっと」

 レオ様は、私の手を離すと、そのまま私の肩を抱いて、自分の方に抱き寄せた。

 この前抱きしめてもらった時もそうだったけど、安心感とドキドキが凄いわ。もっともっと触れていたい、そんな気持ちになっている自分がわかる。

「レオ様とこうしていると、凄く安心します。あと、ドキドキも……」
「俺も似たような感じだよ。でも、なんか嫌じゃないんだよね」
「そうなんです。これが……恋をするってことなのかもしれませんね」
「かもしれないね。でも、こうも考えられないかな? 今、自分は幸せなんだって」

 ハッとしながらレオ様を見つめると、とても穏やかな笑みを浮かべていた。

 私が、幸せ……ずっと勉強しかしてなくて、魔法の才能がほとんど無くて、家族に虐げられ、馬鹿にされ、いない者として扱われて、学園でもいじめられて。

「私なんかが……幸せになっても……」
「いいっ!!」

 レオ様は、とても力強い言葉で私を元気づけてくれた。そのおかげで、私の胸の中にあったモヤモヤした感情は、どこかに行ってしまった。

「ありがとうございます。私、ちょっとずつでいいので、幸せになりたいです」
「うん、その意気だ」
「お話中に申し訳ございません。間もなく到着です」
「もう!? 話していると、こんなに早く着いてしまうのか」
「仕方ないですよ。降りましょう」

 無事にアドミラル学園に到着した私は、またレオ様の手を借りて馬車を降りる。すると、同じ様に登校してきた生徒達が、珍しい物を見ているような目をしていた。

「気にするな。俺達は堂々と行けばいい」
「ええ。気にしないで生活するのは、慣らされているので」

 私はレオ様の手を取り、恋人繋ぎにした状態で、教室へと向かって歩き出す。その途中で、色んな人に見られたり、冷やかされたりしたけど、レオ様は全部追い払ってくれた。

 やっぱりレオ様は頼りになって……カッコいいなぁ……小さかった時のレオ様は、ちょっと暴れん坊なカッコいい野生児って感じだけども、今もとっても……。

 ……野生児? あ、そうか! たまに口調が荒くなるのは、あの時の性格が出ちゃってたってことね! やっと納得したわ!

「おはよう!」
「おはようございます」

 手を繋いだまま教室に入ると、私達を見たクラスメイト達から、どよめきの声が上がる。

 最近はずっと疎遠だった二人が一緒に登校してきて、手を繋いで教室に入ってきたのだから、普通驚くわよね。

「ちょ、ちょっとあなた達!」
「フローラ様じゃないか。おはよう」
「おはようございます……じゃないですわ! あなた達、なんで一緒に!?」
「なんでと言われてもね。見てわからないかい?」
「……大変仲睦まじく見えます」
「そういうことさ。わかったら退いてくれ」

 付き合い始めたと言葉にするまでもなく理解してもらえた私達は、それぞれの席に座る。

 うーん、フローラの視線がとても痛いわね。視線だけで私を殺そうとしてると思ってしまうくらいだ。

 これは、確実にフローラがシャーロットと手を組んで、私になにかしてくるでしょうね。レオ様は大丈夫と言ってくれたけど、一体何を考えているのかしら……?


 ****


「はいアメリア、あーん」
「じ、自分で食べられますから」

 昼休み、私はレオ様と一緒にいつもの教室で、フィリス家のコックが作ってくれたお弁当に舌鼓を打っていた。

 久しぶりに一緒に食べるお弁当は、とても美味しくて楽しいのだけど……私に食べさせようとしてくるのは、勘弁してほしい。

 嫌というわけではないのよ? でも……いくら周りに人がいないとはいえ、恥ずかしいわ!

「そうか、俺の差し出したものは嫌か……ごめんよ」
「うっ……それはズルいです……」
「なんて冗談――あっ」

 少し寂しそうな顔をするレオ様を見かねて、差し出された野菜を口にした。

 ……嬉しいような恥ずかしいような、何とも言えないドキドキのせいで、味がよくわからない……。

「まさか本当に食べてくれるとは……俺は感動した! やっぱりアメリアは優しいね! よーっし、もっと食べて一緒に大きくなろうな!」
「さすがにこの歳では、食べても大きくならないような……?」
「そんなことはないさ! 仮に大きくなれなかったとしても、アメリアの健康の糧にはなる!」

 ……それもそうね。前みたいにパン一個よりも、体には良さそうだ。

 でも、調子に乗って食べ過ぎないようにしないといけない。だって……沢山食べたら太ってしまう。太って嫌われでもしたら、何の意味も無いもの。

「おーおー、久しぶりに馬鹿みたいにうるせえと思ったら、戻ってきやがったか青二才」
「シャフト先生。はい、おかげさまでなんとか」
「例の魔法はどうなった?」
「そちらもなんとか」
「そうか。あの薬は保管してあるから、必要な時はワシに声をかけろ」
「わかりました。ありがとうございます」

 二人が何の話をしているかわからないまま、シャフト先生は準備室へと戻っていった。

 薬って何なのだろう? レオ様の調子が良くないとか? いや、それは無さそうだ。フィリス家の人達も、調子が悪そうな人はいないし……うん、気にしても仕方が無さそう。

「そうだ。レオ様、放課後はどうすればいいでしょうか?」
「最初はなるべく人目につく所に行ってもらって……そこから人気が無い所に移動が理想かな?」
「それですと……明日の放課後、図書室に行ってから、ここに来ればいいでしょうか?」
「うん、それでいこう」

 未だにレオ様の考えていることはわからないし、聞いても教えてくれなさそうだけど、私はレオ様を信じて言う通りにするだけだ。

 なるべくなら、シャーロット達に絡まれないことを願っているけど……そんな甘い考えは捨てて、何があってもいいように備えるとしよう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

不死王はスローライフを希望します

小狐丸
ファンタジー
 気がついたら、暗い森の中に居た男。  深夜会社から家に帰ったところまでは覚えているが、何故か自分の名前などのパーソナルな部分を覚えていない。  そこで俺は気がつく。 「俺って透けてないか?」  そう、男はゴーストになっていた。  最底辺のゴーストから成り上がる男の物語。  その最終目標は、世界征服でも英雄でもなく、ノンビリと畑を耕し自給自足するスローライフだった。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー  暇になったので、駄文ですが勢いで書いてしまいました。  設定等ユルユルでガバガバですが、暇つぶしと割り切って読んで頂ければと思います。

今さら、私に構わないでください

ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。 彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。 愛し合う二人の前では私は悪役。 幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。 しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……? タイトル変更しました。

屋敷侍女マリーヌの備忘録

恋愛
顔も家柄も平均以下である私マリーヌが唯一自慢できること、それはドルトイット公爵家の屋敷侍女であることだけだった。 穏やかでイケメンな旦那さま、かわいくて天使のような奥さま、賢くて両親思いの坊っちゃん、高給料で人手も足りた職場環境はまさに天国のようなだった。 ────ユキと呼ばれる、完璧な侍女頭が辞めるまでは。 彼女の退職をきっかけに王国最高貴族“ドルトイット公爵家”の秘密が暴かれる。 ざまぁ必須、後半ほんのり恋愛要素。 ※第三者視点で物語が進みます。苦手な方はお控えください。 ※誤字脱字にご注意下さい。

無属性魔法って地味ですか? 「派手さがない」と見捨てられた少年は最果ての領地で自由に暮らす

鈴木竜一
ファンタジー
《本作のコミカライズ企画が進行中! 詳細はもうしばらくお待ちください!》  社畜リーマンの俺は、歩道橋から転げ落ちて意識を失い、気がつくとアインレット家の末っ子でロイスという少年に転生していた。アルヴァロ王国魔法兵団の幹部を務めてきた名門アインレット家――だが、それも過去の栄光。今は爵位剥奪寸前まで落ちぶれてしまっていた。そんなアインレット家だが、兄が炎属性の、姉が水属性の優れた魔法使いになれる資質を持っていることが発覚し、両親は大喜び。これで再興できると喜ぶのだが、末っ子の俺は無属性魔法という地味で見栄えのしない属性であると診断されてしまい、その結果、父は政略結婚を画策し、俺の人生を自身の野望のために利用しようと目論む。  このまま利用され続けてたまるか、と思う俺は父のあてがった婚約者と信頼関係を築き、さらにそれまで見向きもしなかった自分の持つ無属性魔法を極め、父を言いくるめて辺境の地を領主として任命してもらうことに。そして、大陸の片隅にある辺境領地で、俺は万能な無属性魔法の力を駆使し、気ままな領地運営に挑む。――意気投合した、可愛い婚約者と一緒に。

婚約破棄を画策したのは悪役令嬢(私)です。

アリス
恋愛
「アイネリーディン・クロックタワー公爵令嬢!貴様よくも俺のかわいいナンシー・バックレア男爵令嬢を虐げたな…ッ!?」 「…なっ!?事実無根ですわ、第三王子殿下…ッ!!」 「ええい、うるさいうるさーーいッッ!!貴様のような性根の腐った女と10年も婚約者で居たとは…!」 「第三王子殿下……!?な、なにを…」 …パシーーンッ!! 本日は王城で王太子と王太子妃両殿下の結婚10周年の結婚記念日だ。 その目出度い日に響くのは第三王子が婚約者たる公爵令嬢の頬を平手打ちする音。 ──シーーンッ──… 静まり返る応接間(メインホール)で第三王子の憤怒に塗れたが鳴り声が響いた。 「貴様との婚約は破棄だ!そして俺はかの真に愛しい“真実の愛”で結ばれたナンシー・バックレア男爵令嬢と結婚する!!…貴様は目障りだから国外追放…この国から出て行けッ!!」 「婚約破棄…畏まりました。国外追放…は第三王子殿下(あなた)にその権限は御座いませんよ?」 ニヤリと嗤ったのだった──。

結婚式間近に発覚した隠し子の存在。裏切っただけでも問題なのに、何が悪いのか理解できないような人とは結婚できません!

田太 優
恋愛
結婚して幸せになれるはずだったのに婚約者には隠し子がいた。 しかもそのことを何ら悪いとは思っていない様子。 そんな人とは結婚できるはずもなく、婚約破棄するのも当然のこと。

【完結】真実の愛に目覚めたと婚約解消になったので私は永遠の愛に生きることにします!

ユウ
恋愛
侯爵令嬢のアリスティアは婚約者に真実の愛を見つけたと告白され婚約を解消を求められる。 恋する相手は平民であり、正反対の可憐な美少女だった。 アリスティアには拒否権など無く、了承するのだが。 側近を婚約者に命じ、あげくの果てにはその少女を侯爵家の養女にするとまで言われてしまい、大切な家族まで侮辱され耐え切れずに修道院に入る事を決意したのだが…。 「ならば俺と永遠の愛を誓ってくれ」 意外な人物に結婚を申し込まれてしまう。 一方真実の愛を見つけた婚約者のティエゴだったが、思い込みの激しさからとんでもない誤解をしてしまうのだった。

辺境伯の夫は私よりも元娼婦を可愛がります。それなら私は弟様と組んで、あなたの悪事を暴きますね?

サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢アシュリーは辺境伯ジャスパーの元へ嫁いだ。しかし夫ジャスパーはアシュリーに“友達”を用意したと言って、屋敷に元娼婦ワンダを住まわせていた。性悪のワンダはアシュリーに虐められたと嘘を吐き、夫はその言葉ばかりを信じて……やがてアシュリーは古城に幽閉されてしまう。彼女はそこで出会った夫の異母弟メレディスと手を組み、夫の悪事を暴き出す――

処理中です...