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第二十五話 好き……?
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「俺のことが好き……? なんだこれは夢か? 現実だとしても信じられない……!」
「あ、あの!!」
「アメリア?」
「今のはその、私の笑顔が褒められたから、私もあなたの笑顔が好きだよって言おうと思って……だけど、笑顔の所を端折ってしまったので……」
怒られるかもしれないと思いつつも、誤解を解くために説明をすると、レオ様は俯きながら、ガタガタと震え始めた。
やっぱり怒ってるわよね……ここは丁寧に謝りましょう。
――そう思っていたのに。
「アメリア! ありがとう!」
返ってきたのは……感謝だった。しかもレオ様は、涙を流しながら私の両手を取り、ブンブンと上に何度も振った。
「アメリアに笑顔を褒められるなんて、世界中の宝を得るより嬉しいよ!」
「それは大げさでは……?」
「そんなことはないさ! こんなに嬉しいことは無い!」
レオ様が伝えたいことはよくわかるし、熱量も伝わってくる。だから、私もちゃんとした返事を返そうと思う。
「あなたの笑顔は、太陽のように眩しくて素敵だと思います。胸を張って生きてください」
「あ、アメリアが……そんなことを言うなんて……」
「事実を述べたまでです。それくらいあなたは輝かしい方なんです」
私から見たレオ様は、誰に対しても明るくて優しい太陽のような存在だ。私のような人間には、本当にもったいないくらいだ。
とにかく、なんとか告白に勘違いされるのは防げたわね。
……あれ? おかしいわ。前なら、恋仲とか婚約とか、所詮は家のための道具、手段としか思ってなかった。
でも、もしレオ様と恋仲や婚約と考えたら、胸がドキドキする。顔が熱くなる。それどころか、もし恋仲になれたらと思うと、喜んでいる自分もいる。
……変なの。自分の気持ちのことなのに、自分が全然理解してないなんて。
「お話中に申し訳ございません。アメリア様のお屋敷の近くに到着いたしました」
「ありがとうございます。すぐに取ってくるので、ここで待っててもらえますか?」
「わかった。まだ時間に余裕はあるから、急ぐ必要は無いからね。何かあったら呼ぶんだよ」
「はい」
こんな所でも優しいレオ様に頭を下げてから、私は帰りたくもない屋敷へと歩を進める。
いつもは帰る度に足が重くなっていたけど、レオ様が待っててくれると思うと、少しだけ足が軽くなっているような気がする。
「ただいまっと……」
誰からも出迎えが無いのをわかっていても、一応ただいまを言ってみる。しかし、出迎えの言葉など帰ってくるはずもなかった。
それどころか、通りがかった使用人は私をチラッとだけ見て、そのまま自分の仕事をするために、どこかへ去っていった。
これでも一応、何も言わずに朝帰りになってしまったというのに、大丈夫かの一言も無い。
私にとって、これが当たり前の生活。だから何も思わないし、期待もしない――はずだったのだが、レオ様の家の暖かさを見てからこの仕打ちをされると、少し心に来るものがある。
「……こんな所にいても仕方ないわね。さっさと教科書を取って戻らないと」
なるべく一人でも会う人を少なくするため、そして私なんかを待ってくれている人の元に一秒でも早く戻るため、私は早歩きで自室へと向かった。
「今日の教科はっと……これとこれと……あ、ノートを忘れる所だったわ。それと、放課後の勉強会のために、少し難しめの参考書も持っていこう」
手早く持ってきた鞄の中身を入れ替えてから、自室を後にすると、ちょうどお母様と鉢合わせをしてしまった。
「え……アメリア? あなた、いつ帰ってきたの!?」
「ついさっきですけど……」
あれ? てっきり私は、朝帰りなんて良い身分だなとか、そういう罵声が飛んでくると思ってたのだけど……目の前のお母様は、目を丸くして私を見ている。
もしかして、ほんのちょっとでも私のことを心配していたとか? 仮にそうだとして、理由が何であれ心配してくれるのは、少し嬉しい。
「何で帰ってきたの!? もうあんたの姿を見なくて済むと思っていたのに! 私の期待を裏切って楽しんでるの!? もう帰ってくるんじゃないわよ鬱陶しい!」
――前言撤回。やっぱりお母様はお母様だったわ。いくら家に貢献できない私のことを目の敵にしてるとはいえ、こうも自分の思っていることを言えるなんて、尊敬の念すら感じてしまう。
「ご期待に添えられず、申し訳ありません。では、私は学園に行きますので。ごきげんよう」
「は? 私にちゃんと謝りもせずに行くとか、何を考えてるの? 私の期待を裏切ったことを、土下座しながら靴を舐めて謝罪しなさい! 聞いてるの!? こんなことすらできないなんて、なんて出来の悪い子なの! 育ててもらった恩を返さないあんたなんか、生まれて来なければよかったのに! あんたを生んだのが、私の最大の汚点だわ!」
馬鹿馬鹿しい。これ以上お母様のくだらない話に付き合ってても、良いことなんて一つもないわ。相手にしないで、さっさとレオ様の所へ戻りましょう。
「はぁ……」
「おかえり。って、なんだか随分元気が無いようだけど……どうかしたのかい?」
「いえ、何でもありません。行きましょう」
無意識に溜息を吐きながら馬車に乗りこんだせいで、レオ様に心配をかけてしまった。
溜息なんかしてても、何も解決はしない。あんなのは家では日常なんだから、気にしても仕方がない。それは頭でわかってるんだけど……はぁ。
私、なんであんな家に生まれてきてしまったのだろう。レオ様の家みたいに温かくなくてもいい。貴族なんかじゃなくて、平民でいい。もっと……家族と普通に喋って、普通に笑い合える家に生まれたかったわ……。
「アメリア」
「え、レオ様?」
隣に座っていたレオ様は、私の両手を握ると、そのまま手を上下左右に振り回し始めた。それだけに留まらず、グルグルと回す動きもしていた。
一方の私は、レオ様が何をしたいのか皆目見当がつかず、ただされるがままだった。
「俺の持論なんだけど、ジッとしていると、悪いことばかり考えてしまうよ。一緒にダンスでもして気晴らしをしようじゃないか!」
「ダンスって……もうレオ様ってば、こんな滅茶苦茶に腕を振り回すダンスなんて、聞いたことがありませんよ」
「安心して! 俺も聞いたことが無い!」
なぜか鼻高々に答えるレオ様を見ていると、自然と笑みが零れていた。それに続くように、レオ様も楽しそうに笑ってくれた。
「うん、良い笑顔だ! 嫌な事があったら、俺が君を笑顔にさせる。支えてみせる。だから、安心してほしいな!」
「レオ様……」
「なんて、ははっ……もっとカッコいい台詞が言えればよかったんだけど、俺の頭じゃこんな言葉しか出て来なかったよ。ごめん」
「いえ、言葉は拙いものだったとしても、その言葉に込められた気持ちは痛いほど伝わりました。その証として……私の心は、とても軽くなりました」
レオ様を気遣ってるとかいうわけじゃなく、本当に心が軽くなっているの。
さっき家を出るまでは、足も体も重かった。それは、レオ様と出会う前は毎日感じたものだった。
でも、レオ様の家にお邪魔した時や、今みたいにレオ様の優しさに触れた時は、自分でも驚く程軽くなれるの。
「ありがとうございます。ダンス、楽しかったです」
「それならよかったよ! 君さえよければ、一緒に社交界に出てダンスでも踊ろうか?」
「社交界ですか……もう何年も出てないので、難しいです。親からも止められてしまうでしょうし」
「そうか……」
少し残念そうな表情を浮かべたレオ様は、すぐにいつもの笑顔に戻ると、そのまま雑談をして過ごした。
「到着いたしました」
「わかった。それじゃあ行こうか」
「はい。送ってくださってありがとうございました」
ここまで連れてきてくれた御者にお礼を言ってから、私はレオ様と一緒に教室へと向かう。
ただ登校をしただけなのに、レオ様と一緒に来ただけで気持ちが晴れやかになるなんて、なんとも不思議で……心が暖かく感じるわ。
「え、今のお姉様……? レオ様の馬車から……しかも仲良く、楽しそうに……!? なんであたしよりも劣ってる無能が、あんな幸せそうな顔をしてるわけ……!?」
「あ、あの!!」
「アメリア?」
「今のはその、私の笑顔が褒められたから、私もあなたの笑顔が好きだよって言おうと思って……だけど、笑顔の所を端折ってしまったので……」
怒られるかもしれないと思いつつも、誤解を解くために説明をすると、レオ様は俯きながら、ガタガタと震え始めた。
やっぱり怒ってるわよね……ここは丁寧に謝りましょう。
――そう思っていたのに。
「アメリア! ありがとう!」
返ってきたのは……感謝だった。しかもレオ様は、涙を流しながら私の両手を取り、ブンブンと上に何度も振った。
「アメリアに笑顔を褒められるなんて、世界中の宝を得るより嬉しいよ!」
「それは大げさでは……?」
「そんなことはないさ! こんなに嬉しいことは無い!」
レオ様が伝えたいことはよくわかるし、熱量も伝わってくる。だから、私もちゃんとした返事を返そうと思う。
「あなたの笑顔は、太陽のように眩しくて素敵だと思います。胸を張って生きてください」
「あ、アメリアが……そんなことを言うなんて……」
「事実を述べたまでです。それくらいあなたは輝かしい方なんです」
私から見たレオ様は、誰に対しても明るくて優しい太陽のような存在だ。私のような人間には、本当にもったいないくらいだ。
とにかく、なんとか告白に勘違いされるのは防げたわね。
……あれ? おかしいわ。前なら、恋仲とか婚約とか、所詮は家のための道具、手段としか思ってなかった。
でも、もしレオ様と恋仲や婚約と考えたら、胸がドキドキする。顔が熱くなる。それどころか、もし恋仲になれたらと思うと、喜んでいる自分もいる。
……変なの。自分の気持ちのことなのに、自分が全然理解してないなんて。
「お話中に申し訳ございません。アメリア様のお屋敷の近くに到着いたしました」
「ありがとうございます。すぐに取ってくるので、ここで待っててもらえますか?」
「わかった。まだ時間に余裕はあるから、急ぐ必要は無いからね。何かあったら呼ぶんだよ」
「はい」
こんな所でも優しいレオ様に頭を下げてから、私は帰りたくもない屋敷へと歩を進める。
いつもは帰る度に足が重くなっていたけど、レオ様が待っててくれると思うと、少しだけ足が軽くなっているような気がする。
「ただいまっと……」
誰からも出迎えが無いのをわかっていても、一応ただいまを言ってみる。しかし、出迎えの言葉など帰ってくるはずもなかった。
それどころか、通りがかった使用人は私をチラッとだけ見て、そのまま自分の仕事をするために、どこかへ去っていった。
これでも一応、何も言わずに朝帰りになってしまったというのに、大丈夫かの一言も無い。
私にとって、これが当たり前の生活。だから何も思わないし、期待もしない――はずだったのだが、レオ様の家の暖かさを見てからこの仕打ちをされると、少し心に来るものがある。
「……こんな所にいても仕方ないわね。さっさと教科書を取って戻らないと」
なるべく一人でも会う人を少なくするため、そして私なんかを待ってくれている人の元に一秒でも早く戻るため、私は早歩きで自室へと向かった。
「今日の教科はっと……これとこれと……あ、ノートを忘れる所だったわ。それと、放課後の勉強会のために、少し難しめの参考書も持っていこう」
手早く持ってきた鞄の中身を入れ替えてから、自室を後にすると、ちょうどお母様と鉢合わせをしてしまった。
「え……アメリア? あなた、いつ帰ってきたの!?」
「ついさっきですけど……」
あれ? てっきり私は、朝帰りなんて良い身分だなとか、そういう罵声が飛んでくると思ってたのだけど……目の前のお母様は、目を丸くして私を見ている。
もしかして、ほんのちょっとでも私のことを心配していたとか? 仮にそうだとして、理由が何であれ心配してくれるのは、少し嬉しい。
「何で帰ってきたの!? もうあんたの姿を見なくて済むと思っていたのに! 私の期待を裏切って楽しんでるの!? もう帰ってくるんじゃないわよ鬱陶しい!」
――前言撤回。やっぱりお母様はお母様だったわ。いくら家に貢献できない私のことを目の敵にしてるとはいえ、こうも自分の思っていることを言えるなんて、尊敬の念すら感じてしまう。
「ご期待に添えられず、申し訳ありません。では、私は学園に行きますので。ごきげんよう」
「は? 私にちゃんと謝りもせずに行くとか、何を考えてるの? 私の期待を裏切ったことを、土下座しながら靴を舐めて謝罪しなさい! 聞いてるの!? こんなことすらできないなんて、なんて出来の悪い子なの! 育ててもらった恩を返さないあんたなんか、生まれて来なければよかったのに! あんたを生んだのが、私の最大の汚点だわ!」
馬鹿馬鹿しい。これ以上お母様のくだらない話に付き合ってても、良いことなんて一つもないわ。相手にしないで、さっさとレオ様の所へ戻りましょう。
「はぁ……」
「おかえり。って、なんだか随分元気が無いようだけど……どうかしたのかい?」
「いえ、何でもありません。行きましょう」
無意識に溜息を吐きながら馬車に乗りこんだせいで、レオ様に心配をかけてしまった。
溜息なんかしてても、何も解決はしない。あんなのは家では日常なんだから、気にしても仕方がない。それは頭でわかってるんだけど……はぁ。
私、なんであんな家に生まれてきてしまったのだろう。レオ様の家みたいに温かくなくてもいい。貴族なんかじゃなくて、平民でいい。もっと……家族と普通に喋って、普通に笑い合える家に生まれたかったわ……。
「アメリア」
「え、レオ様?」
隣に座っていたレオ様は、私の両手を握ると、そのまま手を上下左右に振り回し始めた。それだけに留まらず、グルグルと回す動きもしていた。
一方の私は、レオ様が何をしたいのか皆目見当がつかず、ただされるがままだった。
「俺の持論なんだけど、ジッとしていると、悪いことばかり考えてしまうよ。一緒にダンスでもして気晴らしをしようじゃないか!」
「ダンスって……もうレオ様ってば、こんな滅茶苦茶に腕を振り回すダンスなんて、聞いたことがありませんよ」
「安心して! 俺も聞いたことが無い!」
なぜか鼻高々に答えるレオ様を見ていると、自然と笑みが零れていた。それに続くように、レオ様も楽しそうに笑ってくれた。
「うん、良い笑顔だ! 嫌な事があったら、俺が君を笑顔にさせる。支えてみせる。だから、安心してほしいな!」
「レオ様……」
「なんて、ははっ……もっとカッコいい台詞が言えればよかったんだけど、俺の頭じゃこんな言葉しか出て来なかったよ。ごめん」
「いえ、言葉は拙いものだったとしても、その言葉に込められた気持ちは痛いほど伝わりました。その証として……私の心は、とても軽くなりました」
レオ様を気遣ってるとかいうわけじゃなく、本当に心が軽くなっているの。
さっき家を出るまでは、足も体も重かった。それは、レオ様と出会う前は毎日感じたものだった。
でも、レオ様の家にお邪魔した時や、今みたいにレオ様の優しさに触れた時は、自分でも驚く程軽くなれるの。
「ありがとうございます。ダンス、楽しかったです」
「それならよかったよ! 君さえよければ、一緒に社交界に出てダンスでも踊ろうか?」
「社交界ですか……もう何年も出てないので、難しいです。親からも止められてしまうでしょうし」
「そうか……」
少し残念そうな表情を浮かべたレオ様は、すぐにいつもの笑顔に戻ると、そのまま雑談をして過ごした。
「到着いたしました」
「わかった。それじゃあ行こうか」
「はい。送ってくださってありがとうございました」
ここまで連れてきてくれた御者にお礼を言ってから、私はレオ様と一緒に教室へと向かう。
ただ登校をしただけなのに、レオ様と一緒に来ただけで気持ちが晴れやかになるなんて、なんとも不思議で……心が暖かく感じるわ。
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