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第二十話 野宿確定……?

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「思った以上に遅くなってしまったね……」
「そうですね」

 お使いを済ませて学園に戻ってきた頃には、既に最終下校の時間を過ぎてしまっていた。ちなみに学園に着く前に、レオ様は手を放してくれた。

 ……私の計算では、お使いだけなら余裕で帰ってこれる計算だったんだけど、買い物が終わった後に、思った以上に時間を使ってしまった。

「どうしても彼らを放っておけなくてね……」
「良いんですよ。人助けをしたあなたを、責めるわけないです」

 レオ様は少しバツが悪そうに、私から視線を逸らす。

 実は買い物の後、戻ってくる途中で迷子になっている子供を見つけて、レオ様がその子に声をかけた。そして、その子の親を探すのを手伝った。

 それだけでは終わらず、重い荷物を持っているお婆さんの手伝いをしたり、ケンカしている恋人達の仲裁をしたり、逃げてしまった犬を追いかけたり……沢山の人助けをしていたの。その結果、遅くなってしまった。

「お人好しと笑っていいよ」
「お人好しで良いじゃないですか。人のことを傷つける人なんかより、ずっと素晴らしいです」

 なんていうか、私の周りにはレオ様以外の人は、私をいじめてくる人や、遠くから私の陰口を言ったり、我関せずと言わんばかりに無視する人しかいなかったから、レオ様の優しさがとても素晴らしいものだと強く思える。

 え、シャフト先生? あの人はちょっと特殊というか……私をあそこにいさせてくれるけど、基本的にあまり深く関わってこないから、なんとも言えない。

「でも、どうしてあんなに人助けを? 優しいのは知ってましたけど、あんなに沢山の人を助けたのは、正直驚きました」
「あはは、自分でもちょっと過剰だと思うよ。それに、貴族のくせに平民を助けるなんておかしいって言われたこともあったね」

 さすがにそれは、言った人が傲慢なだけな様な気がするわね。貴族だからといって、偉そうに平民を馬鹿にする権利なんて無いもの。

「ならどうして?」
「俺の命の恩人で……心の底から慕っている人みたいになりたいからさ。今の性格や人助けをするようになったのも、それが要因なんだ」
「…………」

 それって、憧れの人みたいになりたいって気持ちと同じようなものかしら。私にはそういう人はいないから、全てを理解するのは難しそうだ。

 それよりも……なんだろう。今のレオ様の言葉を聞いたら、モヤモヤした気持ちになってしまった。お使いに行く前もあったんだけど……これは一体なんなのかしら……?

「さて、早く買ってきた物を届けよう」
「そ、そうですね」

 そうだった。レオ様との話に夢中になって、お使いのことが頭から抜けてしまっていた。買ったらそれで終わりじゃないんだから、最後までしっかりやらなければ。

 でも……こんなに遅くなってしまったのに、中に入れるかしら……?


 ****



「帰ってきたか。随分遅かったな」

 シャフト先生の元に戻ってくると、端的な出迎えの声が聞こえてきた。彼の手には黄色い液体が入った試験管がある。

 あれは一体何の薬なのかしら。シャフト先生のことだから、何か新薬だとは思うけど。

 ちなみにだけど、警備員の人にシャフト先生に頼まれごとをされている旨を伝えたら、案外すんなりと学園の中に入れてもらえた。

「デートは楽しかったか?」
「ええ、とても楽しめました! この機会をくださったシャフト先生には、感謝しかありません!」
「だからデートではありません。お二人で話を進めないでください」
「なっ!? あんなに楽しく過ごしたのにデートじゃないのか!? ずっと手も繋いでたのに!」
「あれはリードしてくださってただけでしょう?」
「あはは、アメリアは相変わらず手厳しいなぁ」

 ……危うくデートにされてしまうところだった。別にレオ様とデートが嫌とかそういうわけではなくて、付き合ってもいない男女がそういう扱いをされるのは、あまりよろしくないと思うから、こうして否定している。

「それで、ワシの頼んだのはちゃんと買ってきたか?」
「はい、どうぞ。こちらはおつりです」
「ちゃんと買ってきたな。ってなんだお前ら、菓子でも買っていいと言ったのに、何も買わんかったのか」
「はい」
「シャフト先生のお金ですからね。俺達が勝手に使うのはどうかと思って」
「ガキのくせに大人に気を遣ってんじゃねーよ。ったく、ある意味予想通りではあるが」

 シャフト先生は、手渡された品の中から、クッキーを出して私達に手渡した。

「もう用は無いから、それを食いながら、さっさと帰れ。もう最終下校時間を過ぎてるぞ」
「あ、はい……でも、このクッキーはシャフト先生が欲しくて、私達にお使いに行かせたのでは?」
「ワシは甘いものは好きじゃない。それに実験に集中してて、食欲が無くなったから、お前らが処理しておけ」
「そういうことでしたら、ありがたく頂こうか」
「……そうですね。ありがとうございます、シャフト先生。また明日」
「わかったからさっさと帰れ。研究の邪魔だ。シッシッ」

 言葉の意図を理解した私達は、シャフト先生に別れの挨拶をしてから旧別館を後にした。その手には、さっきもらったクッキーが握られている。

「先生には、随分と気を使わせてしまったみたいだね」
「ですね……ところでレオ様。歩きながら食べるなんて、少々はしたないのでは? 見つかったら怒られてしまうかもしれませんよ」
「周りに誰もいないから大丈夫さ」
「では、二人の秘密ということで」
「二人の秘密……いいね! 秘密の共有をするなんて、なんだかワクワクしないかい?」
「は、はあ……そういうものなんですか?」

 う、うーん? それに関してはちょっと理解できないせいで、間抜けな返事になってしまったわね。

「それにしても、思った以上に時間がかかったせいか、すっかり暗くなってしまったね。少しでも早く帰らないと、親御さんが心配するね」
「前にもお伝えしましたが、心配する家族はいないので大丈夫ですよ」
「今日もいないのかい?」
「ええ。今日もいません」
「そうなのか……でも早く帰った方が良いと思うよ」

 レオ様がそう言いたい気持ちはよくわかるけど、ここまで遅くなってしまうと、何時に帰っても変わらない。

「私の家は門限があって、その時間を過ぎると屋敷の中に入れてもらえないんです」
「それは随分と厳しいね。でも声をかければ入れてもらえるだろう?」
「無理ですね。そもそも誰も反応しませんし」
「……? いやいや、使用人の一人くらいはいるだろう? 最悪、あの妹はいるだろう?」
「いるでしょうけど……」

 今の時間帯なら、使用人は誰かしらいるだろうし、シャーロットもいるだろう。もしかしたら、婚約者のセシル様と食事にでも行ってる可能性はあるけどね。

 まあ……誰がいたところで変わらないのは確かだ。だって、私は基本的にあの屋敷にいないものとして扱われているのだから。

「い、一体君の家はどんな環境なんだい……?」
「色々と複雑なんです」
「それじゃあ、君は今日どうするんだ?」

 うーん、どうしようかしら。夜じゃ図書館とか学園にいるのは出来ないし、お金も持ち合わせてないから、酒場みたいなお店に行くこともできない。あったところで、そんな危ない場所には行かないけどね。

「適当に雨風を凌げるところで、朝まで待ちますよ」
「いやいやいや!? それこそおかしいだろう! 完全に野宿じゃないか!」
「これが初めての経験じゃないので、大丈夫ですよ」
「大丈夫と思える部分が無いんだけど!?」

 もう、レオ様ってば心配性なんだから。場所をきちんと選べば、襲ってくる動物とか出てこないから大丈夫なのに。

「…………わかった。アメリア、今日はうちに来るといいよ!」
「は、はい??」

 しばらく考え込んでいたレオ様の口から出た意外な言葉に、私は思わず目を丸くして驚いてしまった――
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