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第十四話 アメリア先生?

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「またここの計算が間違ってますよ」
「あっ……くっ、こんな複雑な計算が出来なくても、日常生活で苦労はしないだろうに……」
「口じゃなくて、頭とペンを動かしてください。ここ、代入する数が違いますよ。これが終わったら、また小テストしますからね」

 ケーキを完食し、一緒に持ってきてもらった紅茶を飲みながら、私とレオ様は勉強をしていた。

 今しているのは数学。レオ様曰く、一番苦手な教科を教えてほしいとのことだ。私も得意というわけではないが、なんとか教えられている。

 確かに自分で言うだけあって、かなりの苦手意識があるみたいだけど、アドミラル学園に入学できただけあって、基礎はちゃんと出来ている印象だ。

「……うん、最初のテストと比べて、確実に点数が上がってます」

 小テストの採点が終わり、結果を伝えると、レオ様はバンザイをして喜びを表現した。

「おお、それはなにより! これもアメリア先生の教え方が上手いおかげだな!」
「いえ、私なんて……レオ様の筋が良いんですよ」

 レオ様に褒められるほど、私は凄くない。だって私は、全ての面でシャーロットに劣っているし、テストの点数だって言うほど高くはないのだから。

「アメリアは、もう少し自信を持って良いと思うんだけどな……まあいい。次のページを教えてくれ」
「少し休憩した方が良いのでは? もう二時間は休み無しですよ?」
「俺は大丈夫。アメリアが疲れているのなら休憩するけど」
「私も大丈夫です」

 せっかくやる気になっているのに、私がこれ以上止めるのは良くないわね。レオ様が休憩したいと言ったら、その時に休憩をすればいいだろう。

 そう思い、更に勉強をしていたら……いつの間にか、空が夕焼け色に染まっていた。

「うわっ、もう夕方か! こんなに集中して勉強をしたのは久しぶりだよ!」
「そうなのですか? とても集中出来ていたので、いつもこうなのかと」
「そんなことないよ。前にも言ったけど、俺は勉強が苦手で、いつもは全く集中できないんだよ」

 前にそんなようなことを言っていたわね。それくらい、レオ様は勉強が苦手ということなのだろう。

「一つ聞きたいんですけど、どうしてアドミラル学園に入学したんですか?」
「家のために、一流の学園を卒業したいっていうのもあるけど……とある目的のために、入学をしたんだ」
「目的、ですか? それって……」
「今は話せない。君が気づくか、別の機会があったら話すよ」

 レオ様は誤魔化すように笑いながら、残っていた紅茶を飲み干した。

 私が気づく……私は何か大切なことを見落としてしまっているのだろうか? でも、その大切なことってなんだろう? 

「さて、そろそろ帰らないと、家の人が心配するよ」
「お気になさらず。心配してくれる家族はいませんから」
「……? 今日は留守なのかい?」
「……ええ、そんなところです」

 一瞬だけど、自分はもう見捨てられているからと答えそうになったけど、レオ様にうちの事情を話して心配をかける必要は無い。耐えられてよかったわ。

「それでもそろそろ帰った方がいいよ。屋敷まで送ってあげるよ」
「いえ、お気持ちだけで大丈夫ですので」
「そういうわけには……じゃあ屋敷の近くまででどうかな?」
「……それなら」

 一回断った時点で諦めるかと思ったけど、レオ様は再び私に提案してきたのは予想外だった。

 なんで屋敷に連れて行きたくないのかって? わざわざあんな酷い家族がいる冷え切った屋敷に、友達のレオ様を連れて行って、不快な気分にさせる必要は無いでしょう?

「マオカ、そろそろ俺達は失礼するよ。あの小さな女の子にもよろしく言っておいてくれ。それと、代金」
「はいは~い、確かにいただいたわぁ~。あ、そうだアメリアちゃん」
「は、はい」

 突然話を振られた私は、無意識に背筋をピンっと伸ばしていた。

「レオちゃんに勉強を教えてくれて、あ・り・が・と!」
「どう……いたしまして」
「もし何か困ったことがあったら、いつでも頼って頂戴ね」
「ありがとうございます、マオカ様」
「あらやだ~! そんなかしこまらないで、マオカちゃんでいいのよ~!」

 マオカ様……いえ、マオカちゃんは私の頭を両手でワシャワシャと撫でながら、満面の笑みを浮かべる。

 こんな風に頭を撫でられたことが無いから、正直ちょっと怖いけど……それと同時に、胸の奥がじんわりと暖かく感じる。

「うふっ、また来てね~ん!!」

 豪快に両腕を振るマオカちゃんと、あの小さな女の子が一生懸命ジャンプしてお見送りをしてくれる中、私はレオ様と一緒に馬車に乗りこむと、そのまま集合場所だった町を経由し、私の住む屋敷へと進んで行く。

「レオ様、今日はありがとうございました。充実した休日でした」
「いや、こちらこそだよ! 二人でお茶して、勉強もして……これが青春か!」
「そ、そうかもしれませんね」

 何故か感動しているレオ様に、若干引き気味になりつつも、私はのんびりと馬車に揺られる。

 これで屋敷に着いたら……今日は何を言われるのかしら。さっきは両親はいないって誤魔化したけど、今日はいるのよね……お母様が難癖を付けて罵声を浴びせてきそうだ。

 シャーロットは……遅くまで出かけていたことや、珍しくおしゃれしてるのを見て馬鹿にしてくるでしょうね。

 慣れてきているとはいえ、面倒なことには変わりない。せっかく楽しい気持ちで帰ってきているのだから、余韻に浸らせてほしいわ。

「もうついてしまったね。楽しい時間はあっという間だ」
「そうですね。ですが、また次がありますから」
「次だって!? また教えてくれるのかい!?」
「そのつもりでしたが」
「ああ、それは嬉しすぎる! アメリアは本当に優しいよ!」
「もう、大げさですよ」

 滝のような涙を流すレオ様に、私はハンカチを取り出して涙を拭ってあげた。

 もう、そんな感動するようなことを言ったつもりはないのだけど……一度教えただけでは返しきれないくらいのことはしてもらってるもの。

「では私はこれで失礼します。あ、そうだ……レオ様」
「なんだい?」
「……また、学園で」
「っ……! ああ!」

 ほんの少しだけ口角を上げながら、深々と頭を下げると、レオ様はとても嬉しそうに返事をしてくれた――
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