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第19話 数年ぶりの帰省
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「今日もお綺麗ですよ、ティア様」
「ありがとう。マリーがいつも準備をしてくれるおかげよ」
アベル様と面会をしてから少し経ち――ユースさんと、予定通りの日に意見交換をした翌日。私は今出来る精一杯のおめかしをして、姿見の前で変なところが無いかのチェックを行っていた。
実は昨日の帰り際、ユースさんにデートに誘われたの。もちろんデートのお誘いを受けた私は、こうしてマリーに準備をしてもらってるというわけ。
あ~……どうしよう。会う前からソワソワするしウキウキしちゃう! 今日はどこに連れていってくれるのかしら……もう少ししたらユースさんが迎えに来てくれるみたいだし、楽しみで仕方が無いわ!
え、執筆はどうしたのかって? もちろんしてるわよ! 勉強も毎日欠かさずやっているし! それにこれは……ほら、自分でデートをして恋人達の心境を学ぶ機会でもあるんだから! ただでさえデートが出来る機会なんてあんまりないんだし!
「早く来ないかしら……ああもう! 待ちきれない! 私、外で待ってるわ!」
「ふふっ、本当に楽しみなんですね」
家の中で待っていられなくなった私は、勢いよく家の外に出ると、丁度ユースさんが歩いてこちらに向かって来た。
「あっ! ユースさーん!!」
ユースさんの名前を呼びながら大きく腕を振ると、私に気づいてくれたのか、わざわざ小走りでこっちに来てくれた。
あぁ……小走りをしてるユースさん、めちゃくちゃ可愛い……いつも冷静沈着なユースさんが走ってるっていうのが、私の中で凄いギャップ萌えになってるわ……好きぃ……。
「おはよう、ティア。今日の服も似合ってるな」
「おはよう。ふふっ、ありがとう。ユースさんも似合っててカッコイイわ!」
「ありがとう。ところでどうして外に?」
「待ちきれなくて、外に出てきちゃったのよ」
「子供かお前は。家で大人しく待ってろ」
口では憎まれ口を叩くユースさんだったけど、その口元が緩んでいるのを私は見逃さなかった。変なところで素直じゃないんだから。そういう所も可愛くて好きだけど!
「相変わらず仲睦まじくて何よりですわ。ではユース様、今日もティア様をよろしくお願いいたします」
「ああ。じゃあ行くか」
「ええ。あら……あれ、何かしら」
ユースさんと手を繋いで歩き出そうとすると、何かがこっちに向かって、凄い勢いで来てるのが目に入った。
あれは……馬車? もしかして、ユースさんが呼んだのかしら? でもユースさんは歩いてきたし、随分と急いでいる感じがするわ。
「ティア、マリー。俺の後ろへ」
「え、ええ」
「ありがとうございます」
ユースさんの背中に隠れて様子を窺《うかが》っていると、馬車は私達の前で止まった。どうやら私達に用があるみたいだけど……一体何なの?
「ルイスお嬢様!」
「え、あなたはエクエス家の使用人じゃない!」
馬車から降りてきたのは、なんとエクエス家に仕える若い男性だった。常に中立の立場に立っていて、私にもある程度優しくしてくれた、数少ない人物でもあるわ。
「急に申し訳ございません。旦那様が、至急ルイス様を家に連れて帰って来いと仰られて、こうしてお迎えに参ったのです」
「は、はぁ? お父様が? しかもその口ぶりからすると、今すぐに?」
「その通りです」
そんなの冗談じゃないわよ! 今更お父様と話す事なんてないし、帰るつもりもない。そもそも今日はユースさんとのデートなんだから、邪魔しないでよ!
っと……落ち着いて私。イライラしても状況は良くならない。まずは事情を聞くところから始めましょう。
「えっと、理由は聞いてる?」
「いえ、何も……ですが、つい先日アベル様と、奥様になったニーナお嬢様がお越しになられて、それから急に……」
アベル様とニーナが……それって多分、この前の件よね……って事は、私の態度を叱りたいのか、もしくはお父様も私の作家としての能力を求めているかね。どっちに転んでも面倒な事になりそう……。
「ほう。ならすぐに向かおう」
「ユースさん!?」
「丁度ティアの両親には挨拶しておきたいと思っていたところだ。ぜひ案内してくれ」
「えっと……失礼ですが、どちら様でしょうか?」
「わ、私の新しい従者よ! マリーと一緒に連れていっても良いわよね!?」
「え、ええ。おそらく問題ないかと。では乗ってください」
なぜかやたらと乗り気なユースさんの事を誤魔化した私は、マリーと一緒にユースさんの手を借りて馬車に乗り込んだ。
い、一体何を考えているのかしら……絶対に反対すると思っていたのに。
「大丈夫だ。相手の目的の見当はついてる」
「ユースさんも見当がついてるのね。ちなみにどんな感じ?」
「アベルがティアの勧誘を失敗したから、改めてエクエス家を通して頼み込むか、もしくはエクエス家が目的をもってティアを家に連れ戻しがっているかのどちらかだろう」
「目的?」
「それはわからん。誰かと結婚させたいか、作家の能力を欲しがってるか……だが、どちらにせよキッパリと断るには俺がいた方が都合が良いだろう。なにせ俺はティアの担当編集者で、恋人だからな」
迎えに来た使用人に聞かれないように、耳元で内緒話をするユースさんの存在は凄く心強くて、さっきまで感じていた動揺は、完全に消えていた。
そうよね、ユースさんが考えも無しに変な事を言ったりしないわよね。やっぱり私のユースさんは頼りになるわ!
****
「……一年ちょっとしか離れてないのに、久しぶりに感じるわ」
「そうですね。それにしても……まさか再び屋敷の敷地を跨ぐとは思ってませんでしたわ」
追放された時から特に変わり映えの無い屋敷や庭を眺めながら、私とマリーは浅く溜息を漏らした。
正直、もう両親ともニーナとも関わらなくて済むって思ってたんだけどなぁ……最近はとっても幸せで、こんな幸せが続いて欲しいって思った矢先からこれよ。アベル様もそうだけど、本当に勘弁してほしいわ。
「ではこちらにお越しください。間もなく旦那様と奥様、ニーナお嬢様が参られます」
「え、ニーナもいるの?」
「はい。アベル様とお越しになられた日から滞在しておりまして。自分もルイスお嬢様と話をするって……」
応接室に通された私は、使用人の口から出た説明に反応するように、大きく溜息を吐いた。
はぁ……お母様はいるだろうと思っていたけど、まさかニーナまでいるなんてね……面倒な事になる未来しか見えないわ……。
でも、ここでグダグダ言ってても仕方ないわよね。どんな話の内容だったとしても、嫌なものはきっぱり断らなきゃ! 大丈夫、アベル様の時だって出来たんだし、それに私は一人じゃない。マリーもユースさんもいるんだから! 頑張れ私!
「では私はこれにて失礼いたします」
そう言って使用人が部屋を出ていってから、約二十分——お父様もお母様もニーナもやって来ない。もしかして、呼んでおいて忘れてるとか?
「遅いな。勝手な都合で呼んでおいて待たせるとか、随分と愉快な事をする家族だな」
「えっと、なんかごめんなさい……」
「ティアは悪くないから気にするな。っと……そんな話をしてたら来たようだ」
「え?」
どうやって察知したのかわからないけど、ユースさんがそう言ったのとほぼ同時に、ノックも無しにドアが開かれ……そこには両親と、ニヤニヤ笑うニーナが立っていた――
「ありがとう。マリーがいつも準備をしてくれるおかげよ」
アベル様と面会をしてから少し経ち――ユースさんと、予定通りの日に意見交換をした翌日。私は今出来る精一杯のおめかしをして、姿見の前で変なところが無いかのチェックを行っていた。
実は昨日の帰り際、ユースさんにデートに誘われたの。もちろんデートのお誘いを受けた私は、こうしてマリーに準備をしてもらってるというわけ。
あ~……どうしよう。会う前からソワソワするしウキウキしちゃう! 今日はどこに連れていってくれるのかしら……もう少ししたらユースさんが迎えに来てくれるみたいだし、楽しみで仕方が無いわ!
え、執筆はどうしたのかって? もちろんしてるわよ! 勉強も毎日欠かさずやっているし! それにこれは……ほら、自分でデートをして恋人達の心境を学ぶ機会でもあるんだから! ただでさえデートが出来る機会なんてあんまりないんだし!
「早く来ないかしら……ああもう! 待ちきれない! 私、外で待ってるわ!」
「ふふっ、本当に楽しみなんですね」
家の中で待っていられなくなった私は、勢いよく家の外に出ると、丁度ユースさんが歩いてこちらに向かって来た。
「あっ! ユースさーん!!」
ユースさんの名前を呼びながら大きく腕を振ると、私に気づいてくれたのか、わざわざ小走りでこっちに来てくれた。
あぁ……小走りをしてるユースさん、めちゃくちゃ可愛い……いつも冷静沈着なユースさんが走ってるっていうのが、私の中で凄いギャップ萌えになってるわ……好きぃ……。
「おはよう、ティア。今日の服も似合ってるな」
「おはよう。ふふっ、ありがとう。ユースさんも似合っててカッコイイわ!」
「ありがとう。ところでどうして外に?」
「待ちきれなくて、外に出てきちゃったのよ」
「子供かお前は。家で大人しく待ってろ」
口では憎まれ口を叩くユースさんだったけど、その口元が緩んでいるのを私は見逃さなかった。変なところで素直じゃないんだから。そういう所も可愛くて好きだけど!
「相変わらず仲睦まじくて何よりですわ。ではユース様、今日もティア様をよろしくお願いいたします」
「ああ。じゃあ行くか」
「ええ。あら……あれ、何かしら」
ユースさんと手を繋いで歩き出そうとすると、何かがこっちに向かって、凄い勢いで来てるのが目に入った。
あれは……馬車? もしかして、ユースさんが呼んだのかしら? でもユースさんは歩いてきたし、随分と急いでいる感じがするわ。
「ティア、マリー。俺の後ろへ」
「え、ええ」
「ありがとうございます」
ユースさんの背中に隠れて様子を窺《うかが》っていると、馬車は私達の前で止まった。どうやら私達に用があるみたいだけど……一体何なの?
「ルイスお嬢様!」
「え、あなたはエクエス家の使用人じゃない!」
馬車から降りてきたのは、なんとエクエス家に仕える若い男性だった。常に中立の立場に立っていて、私にもある程度優しくしてくれた、数少ない人物でもあるわ。
「急に申し訳ございません。旦那様が、至急ルイス様を家に連れて帰って来いと仰られて、こうしてお迎えに参ったのです」
「は、はぁ? お父様が? しかもその口ぶりからすると、今すぐに?」
「その通りです」
そんなの冗談じゃないわよ! 今更お父様と話す事なんてないし、帰るつもりもない。そもそも今日はユースさんとのデートなんだから、邪魔しないでよ!
っと……落ち着いて私。イライラしても状況は良くならない。まずは事情を聞くところから始めましょう。
「えっと、理由は聞いてる?」
「いえ、何も……ですが、つい先日アベル様と、奥様になったニーナお嬢様がお越しになられて、それから急に……」
アベル様とニーナが……それって多分、この前の件よね……って事は、私の態度を叱りたいのか、もしくはお父様も私の作家としての能力を求めているかね。どっちに転んでも面倒な事になりそう……。
「ほう。ならすぐに向かおう」
「ユースさん!?」
「丁度ティアの両親には挨拶しておきたいと思っていたところだ。ぜひ案内してくれ」
「えっと……失礼ですが、どちら様でしょうか?」
「わ、私の新しい従者よ! マリーと一緒に連れていっても良いわよね!?」
「え、ええ。おそらく問題ないかと。では乗ってください」
なぜかやたらと乗り気なユースさんの事を誤魔化した私は、マリーと一緒にユースさんの手を借りて馬車に乗り込んだ。
い、一体何を考えているのかしら……絶対に反対すると思っていたのに。
「大丈夫だ。相手の目的の見当はついてる」
「ユースさんも見当がついてるのね。ちなみにどんな感じ?」
「アベルがティアの勧誘を失敗したから、改めてエクエス家を通して頼み込むか、もしくはエクエス家が目的をもってティアを家に連れ戻しがっているかのどちらかだろう」
「目的?」
「それはわからん。誰かと結婚させたいか、作家の能力を欲しがってるか……だが、どちらにせよキッパリと断るには俺がいた方が都合が良いだろう。なにせ俺はティアの担当編集者で、恋人だからな」
迎えに来た使用人に聞かれないように、耳元で内緒話をするユースさんの存在は凄く心強くて、さっきまで感じていた動揺は、完全に消えていた。
そうよね、ユースさんが考えも無しに変な事を言ったりしないわよね。やっぱり私のユースさんは頼りになるわ!
****
「……一年ちょっとしか離れてないのに、久しぶりに感じるわ」
「そうですね。それにしても……まさか再び屋敷の敷地を跨ぐとは思ってませんでしたわ」
追放された時から特に変わり映えの無い屋敷や庭を眺めながら、私とマリーは浅く溜息を漏らした。
正直、もう両親ともニーナとも関わらなくて済むって思ってたんだけどなぁ……最近はとっても幸せで、こんな幸せが続いて欲しいって思った矢先からこれよ。アベル様もそうだけど、本当に勘弁してほしいわ。
「ではこちらにお越しください。間もなく旦那様と奥様、ニーナお嬢様が参られます」
「え、ニーナもいるの?」
「はい。アベル様とお越しになられた日から滞在しておりまして。自分もルイスお嬢様と話をするって……」
応接室に通された私は、使用人の口から出た説明に反応するように、大きく溜息を吐いた。
はぁ……お母様はいるだろうと思っていたけど、まさかニーナまでいるなんてね……面倒な事になる未来しか見えないわ……。
でも、ここでグダグダ言ってても仕方ないわよね。どんな話の内容だったとしても、嫌なものはきっぱり断らなきゃ! 大丈夫、アベル様の時だって出来たんだし、それに私は一人じゃない。マリーもユースさんもいるんだから! 頑張れ私!
「では私はこれにて失礼いたします」
そう言って使用人が部屋を出ていってから、約二十分——お父様もお母様もニーナもやって来ない。もしかして、呼んでおいて忘れてるとか?
「遅いな。勝手な都合で呼んでおいて待たせるとか、随分と愉快な事をする家族だな」
「えっと、なんかごめんなさい……」
「ティアは悪くないから気にするな。っと……そんな話をしてたら来たようだ」
「え?」
どうやって察知したのかわからないけど、ユースさんがそう言ったのとほぼ同時に、ノックも無しにドアが開かれ……そこには両親と、ニヤニヤ笑うニーナが立っていた――
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