上 下
14 / 30

第14話 こんな幸せが……

しおりを挟む
「おお、ディオス殿! お待ちしておりましたぞ!」
「ご無沙汰しております、ボーマント殿」

 応接室に通された私達を、恰幅の良い男性が出迎えてくれた。歳は四十代後半くらいかしら。とても笑顔が素敵な殿方だわ。

「お元気そうで何よりです。まさかボーマント殿がいらっしゃるとは驚きました。今日は休日なのですか?」
「いえ、残念ながらこの後すぐに出なければならんのです。せめてご挨拶だけでもと思い、こうしてお待ちしておりました」
「それはお忙しい中恐縮です。本日は急なお願いにも関わらず、屋敷を使わせていただき、誠にありがとうございます」
「何をおっしゃいますか。むしろ、こんな事でしか、日頃の貴方のご家族様からのご厚意への恩返しが出来なくて申し訳ありませんな」
「そんなご謙遜なさらないでください」

 いかにも大人の会話って感じでボーマント様と話すユースさんの姿がカッコよすぎて、私はただ後ろからボーっと見つめる事しか出来なかった。

 はぁ……いつもの私への話し方でもある、少し愛想が無くてぶっきらぼうな喋り方も良いけど、丁寧な話し方をするユースさんも良い……推せる……好きぃ……。

「ユース殿、そちらのお嬢様が例の?」
「ああ、申し訳ない。紹介が遅れました。彼女はティア・ファルダー……私の愛する女性です」
「ティア・ファルダーです。よろしくお願いいたしますわ」
「ハリー・ボーマントです。よろしくお願い致しますぞ」

 ドレスの裾を持って深々とお辞儀をする私。けど、その内心は全くと言っていいほど穏やかじゃない。

 だってそうでしょ? 人様の前で愛する女性って言われたのよ!? 確かに何も間違った事は言っていないけれど、こうやって堂々と言われたら……そんなの嬉しいに決まってるじゃないの!! あ~好きぃ~……。

「おっと、申し訳ないですが、そろそろ出ないと約束に間に合わなくてですな……あとはメイドに任せてありますので、ごゆっくり楽しんでくだされ」
「ありがとうございます」

 そう言うと、ボーマント様はにこやかに笑いながら部屋を後にした。それと入れ替わるように、ややご高齢のメイドが部屋に入ってきた。

「ディオス様、ファルダー様。ここからは私がご案内いたします。どうぞこちらへ」

 メイドの後を追って屋敷の中を歩いていくと、着いた先は、様々な種類の花が咲く、広大な庭園だった。

 綺麗……エクエス家の庭園にあった花もちゃんとお世話されてて綺麗だったけど、ここはそれ以上に綺麗だし、規模が大きいわ……一日眺めていても飽きそうもない。

 こんなところで執筆をしたらきっと捗るんでしょうね。

「では昼食の準備が出来たらお呼びいたしますので、どうぞおくつろぎください」
「ありがとうございます」

 お辞儀をして去っていくメイドにお礼を言ってから、改めて庭園の観察を始める。これは黄色いバラね。こっちは……なんのお花かしら。白くて小さくて、儚い感じが凄く愛らしいわ。

「良い庭園だな」
「本当ですね……私、感動しちゃいました」
「それはよかった」
「そうだ! ユースさん、恋人が庭園をゆっくり散歩するのは王道シーンです! 私、体験したいです!」
「元々そのつもりだ。この後も、貴族らしいデートプランを用意してる」

 貴族らしいデート……考えるだけでもワクワクしちゃうわ。だって、ずっと本で読んで、自分もやってみたいと妄想する事しか出来なかったのに、これからそれを体験できるのよ?

 それはいいんだけど……うーん、さっきも思ったけど、どうして屋敷を使わせてもらうなんて事が出来たのかしら? やっぱり気になるわ。いくらイズダーイが有名とはいえ、普通は出来るとは思えない。

 それに、ボーマント様はユースさんのご家族がって仰ってた……男爵の爵位を持つ方があそこまで感謝するご家族って……?

 考えれば考えるほど気になる。気になるけど……ユースさんが自分から私に話さないって事は、きっと触れてほしくない事なんだろう。だから私からは聞かない。いつかユースさんが話したくなった時に、ちゃんと聞いてあげるつもりだ。

「向こうも見に行ってみるか」
「ええ、行きましょう」

 私はユースさんと手を繋いで歩き出そうとしたけど、何故かそれを拒絶するように、差し出した私の手から逃げられてしまった。

 え、ウソ……ここまで来て手を繋ぐのを拒絶だなんて、流石にショックなんだけど……一応これ、デートも兼ねてるのよね……?

「こっちの方が良いだろ」
「ひゃん!?」

 拒絶されたと思って落ち込んでいると、ユースさんは私の肩を抱き寄せて、身体をぴったりと密着させてから歩き出した。

 あ、あわわわ……馬車の中でしてもらったとはいえ、改めてされると凄い恥ずかしいわねこれ!

 でも、こういうシチュエーションも妄想の中で沢山してきたのも事実! 実際にやると幸せ過ぎて死ねるわ……! 実際に体験して感じたこの気持ちを、次の作品に活かさなきゃ!

「あ、ユースさん! あそこのお花、凄く大きくて綺麗ですよ!」
「…………」
「ユースさん?」

 話しかけても全然反応が帰ってこないユースさんの顔をチラッと見ると、凄く赤いし強張ってるような……緊張してるって言った方が良い。

 ——もしかして?

「ユースさん、緊張しています?」
「……ああ。馬車の時は揺れで怪我しないように、ティアを守るって思ってたから特に意識をしてなかったんだが……こうして改めて抱き寄せると緊張する」
「えっと、前に抱きしめてくれた事、ありましたよね? あの時はもっとくっついてたような……?」
「あの時も緊張していた。なんとか顔に出さないように必死だった」
「…………」

 え、なにそれ凄く可愛いんですけど!? あの愛想が無くてぶっきらぼうなユースさんが、こんなに顔を赤くして照れるとか、激しく萌えるわ! あぁ~キュンキュンしちゃう~!

「私も同じです。ユースさんといると、緊張してドキドキしちゃうけど、すっごく幸せなんです。ユースさんはどうなんですか?」
「………………同じだ」

 恥ずかしそうに顔を赤くし、にやけ顔を必死に抑えようとわざと眉間にしわを寄せてるのがバレバレな顔をそっぽ向かせるユースさん。

 これ以上私をキュンキュンさせないでくれませんか? そろそろキュン死しそうなんだけど!

「お、俺の話はいいから散歩をするぞ」
「えーどうしてですか? 私、ユースさんのお話を聞きたいです」
「くっ……そ、それは卑怯だろ……」
「ふふっ、ちょっといじわるでしたね。さあ、散歩の続きしましょう!」

 これ以上は流石に怒られそうだし、せっかくの綺麗な庭園を散歩する機会を逃すわけにはいかない。そう判断した私は、ユースさんの身体を少し引っ張るように歩き出した。

 ああ――幸せだなぁ。こんな幸せがずっと続いたらいいのになぁ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

生まれたときから今日まで無かったことにしてください。

はゆりか
恋愛
産まれた時からこの国の王太子の婚約者でした。 物心がついた頃から毎日自宅での王妃教育。 週に一回王城にいき社交を学び人脈作り。 当たり前のように生活してしていき気づいた時には私は1人だった。 家族からも婚約者である王太子からも愛されていないわけではない。 でも、わたしがいなくてもなんら変わりのない。 家族の中心は姉だから。 決して虐げられているわけではないけどパーティーに着て行くドレスがなくても誰も気づかれないそんな境遇のわたしが本当の愛を知り溺愛されて行くストーリー。 ………… 処女作品の為、色々問題があるかとおもいますが、温かく見守っていただけたらとおもいます。 本編完結。 番外編数話続きます。 続編(2章) 『婚約破棄されましたが、婚約解消された隣国王太子に恋しました』連載スタートしました。 そちらもよろしくお願いします。

実家から絶縁されたので好きに生きたいと思います

榎夜
ファンタジー
婚約者が妹に奪われた挙句、家から絶縁されました。 なので、これからは自分自身の為に生きてもいいですよね? 【ご報告】 書籍化のお話を頂きまして、31日で非公開とさせていただきますm(_ _)m 発売日等は現在調整中です。

お飾りの側妃ですね?わかりました。どうぞ私のことは放っといてください!

水川サキ
恋愛
クオーツ伯爵家の長女アクアは17歳のとき、王宮に側妃として迎えられる。 シルバークリス王国の新しい王シエルは戦闘能力がずば抜けており、戦の神(野蛮な王)と呼ばれている男。 緊張しながら迎えた謁見の日。 シエルから言われた。 「俺がお前を愛することはない」 ああ、そうですか。 結構です。 白い結婚大歓迎! 私もあなたを愛するつもりなど毛頭ありません。 私はただ王宮でひっそり楽しく過ごしたいだけなのです。

うたた寝している間に運命が変わりました。

gacchi
恋愛
優柔不断な第三王子フレディ様の婚約者として、幼いころから色々と苦労してきたけど、最近はもう呆れてしまって放置気味。そんな中、お義姉様がフレディ様の子を身ごもった?私との婚約は解消?私は学園を卒業したら修道院へ入れられることに。…だったはずなのに、カフェテリアでうたた寝していたら、私の運命は変わってしまったようです。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

ふしだらな悪役令嬢として公開処刑される直前に聖女覚醒、婚約破棄の破棄?ご冗談でしょ(笑)

青の雀
恋愛
病弱な公爵令嬢ビクトリアは、卒業式の日にロバート王太子殿下から婚約破棄されてしまう。病弱なためあまり学園に行っていなかったことを男と浮気していたせいだ。おまけに王太子の浮気相手の令嬢を虐めていたとさえも、と勝手に冤罪を吹っかけられ、断罪されてしまいます。 父のストロベリー公爵は、王家に冤罪だと掛け合うものの、公開処刑の日時が決まる。 断頭台に引きずり出されたビクトリアは、最後に神に祈りを捧げます。 ビクトリアの身体から突然、黄金色の光が放たれ、苛立っていた観衆は穏やかな気持ちに変わっていく。 慌てた王家は、処刑を取りやめにするが……という話にする予定です。 お気づきになられている方もいらっしゃるかと存じますが この小説は、同じ世界観で 1.みなしごだからと婚約破棄された聖女は実は女神の化身だった件について 2.婚約破棄された悪役令嬢は女神様!? 開国の祖を追放した国は滅びの道まっしぐら 3.転生者のヒロインを虐めた悪役令嬢は聖女様!? 国外追放の罪を許してやるからと言っても後の祭りです。 全部、話として続いています。ひとつずつ読んでいただいても、わかるようにはしています。 続編というのか?スピンオフというのかは、わかりません。 本来は、章として区切るべきだったとは、思います。 コンテンツを分けずに章として連載することにしました。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

辺境の獣医令嬢〜婚約者を妹に奪われた伯爵令嬢ですが、辺境で獣医になって可愛い神獣たちと楽しくやってます〜

津ヶ谷
恋愛
 ラース・ナイゲールはローラン王国の伯爵令嬢である。 次期公爵との婚約も決まっていた。  しかし、突然に婚約破棄を言い渡される。 次期公爵の新たな婚約者は妹のミーシャだった。  そう、妹に婚約者を奪われたのである。  そんなラースだったが、気持ちを新たに次期辺境伯様との婚約が決まった。 そして、王国の辺境の地でラースは持ち前の医学知識と治癒魔法を活かし、獣医となるのだった。  次々と魔獣や神獣を治していくラースは、魔物たちに気に入られて楽しく過ごすこととなる。  これは、辺境の獣医令嬢と呼ばれるラースが新たな幸せを掴む物語。

処理中です...