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第十八話 事件後、変わらぬ関係……?
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無事にサヴァイア家の領土を救った日から一か月後、やっと体の調子が戻った私は、先に回復したアルベール様と一緒に、瘴気が残っていないか、森に調査に来ていた。
「どうですか?」
「瘴気の気配はありません。もう安心してよろしいかと」
「おお、それはなによりだ! これで避難していた民達も、自分の家に帰れる! これも全て、リーゼ嬢のおかげだ!」
「いえ、私だけの力ではありませんわ。民達を避難させ、事態の収拾に勤めていたのはアルベール様ですし、私を守ってくれたのもアルベール様ですもの」
本当のことを伝えたのだけど、アルベール様はどこか納得がいってない様子だった。
きっとアルベール様のことだから、自分で解決できなかったのが引っかかるのだろう。本当に正義感の強い方だわ。
「では俺は村長と今後についての話をしてきますので、リーゼ嬢は村で待たせている馬車で、先に屋敷帰って休んでいてください」
「そんな、私も同席しますわ」
「いけません。回復してきたとはいえ、リーゼ嬢はまだ本調子じゃないのですから」
「それはアルベール様もですわよね? 歩いている時、たまに痛みで表情に出ているのを、私は見逃してませんよ?」
「……あはは……」
露骨に私から視線を逸らしながら、乾いた笑い声を漏らす。さすがに誤魔化すのが下手な気がする。
「そ、それにしてもさすがリーゼ嬢! その他人を思いやる気持ちは、尊敬に値する!」
「だから誤魔化さないでください」
「……えーっと……ほ、ほら! 早く帰らないと、クラリス殿が心配するだろう?」
「それはそうですが……」
クラリスの名前を聞いた瞬間に、彼女の心配する表情が頭に浮かんできた。
浄化を行ったあの日、極度の疲労で意識を失った私は、なんと二週間も目を覚まさなかった。その間、クラリスがずっと私の面倒をみてくれていたそうだ。
起きた時の、嬉しそうに涙を流したのを見た時は、心配してくれて嬉しい反面、申し訳なさも感じていた。
「俺は大丈夫ですから、早くお戻りください」
「……わかりました。決してご無理はしないでくださいね」
「ああ、約束するよ。心配してくれてありがとう、俺の女神様」
「うっ……そ、そういうのは良いですから、早く村に行きましょう」
私の手を取り、手の甲にそっとキスをするアルベール様。その行動と微笑みを受けた私の胸は高鳴っていた。
最近、アルベール様と一緒にいると胸がドキドキして苦しいし、体中が熱くなって、酷い時は息も上がってしまう。
これって……やっぱりそういうことなのかしら……浄化の時のアルベール様、凄くカッコよかったもの。
って、そんなはずないわよね。私なんかが……恋なんて。
「では行きましょう。俺の首に手を――」
「きゃ、却下ですわ」
「ならおんぶ――」
「却下!」
「お姫様だっこも、おんぶも出来ないなんて! なら俺は、一体どうすればいいんだぁぁぁぁ!!」
「雄たけびを上げるようなことなんですの!? ああもう、それならこうすればよろしんじゃなくて!?」
この世の終わりのように、頭を抱えるアルベール様様の手をそっと包むように握り、一緒に歩き始める。
何の変哲もない、ただ手を繋いで歩くだけだというのに、とても幸せを感じる。アルベール様も同じなのか、満面の笑みだった。
「え、えへへぇ……これはまるで、散歩デートじゃないか……お、俺……もう死んでもいいかもしれないっ!!」
「そんなことで死なないでくださいませ! まだこれからもあるんですから!」
「これからだって!? ということは、もっと凄いのをしてくれるし、してもいいということですか!?」
「飛躍しすぎですわ! そもそも凄いのってなんですの!?」
「それは……俺の口からは言えない……!」
い、一体何を想像していたのかしら……あまり深く言及をしない方がよさそうね。とりあえず、アルベール様の言う通り、屋敷に戻らせてもらうとしましょう。
****
「おかえりなさいませ、リーゼお嬢様」
屋敷に帰ってくると、一番に出迎えてくれたのはクラリスだった。それに続いて、他の使用人の方々も出迎えてくれた。
「リーゼお嬢様、体調はいかがですか?」
「大丈夫よ。心配してくれてありがとう、クラリス」
「心配するのは当然です。さあ、早く横になってくださいませ」
え、でもまだお日様は高いわよ? もうベッドに入るのは、些か早い気がする。
「無理をして、また倒れてはいけませんから。さあさあ」
「わ、わかったから背中を押さないで! あっ、休む前に花瓶の水を!」
「すでに私がやっておきましたから、お気になさらず」
結局クラリスに押し切られてしまった私は、寝間着に着替えてベッドに横になった。
もう、あの日からクラリスの私に対する接し方が、更に過保護になってきているわね。それくらい、あの時は心配をかけてしまったということなのは、重々承知だけど……子供じゃないのだから、そんなに心配しなくてもいいのに。
「……ふぅ」
小さく溜息を吐いた私の視線の先には、実家から持ってきたお母様の絵と、たくさんのバラがあった。
誕生日にアルベール様からプレゼントしてもらった子達は、すでにもう枯れてしまったから、この子達は別のバラだ。
以前アルベール様が、枯れてしまったのを機に新しいバラをプレゼントしてくれたから、こうして大切にお世話をしているのよ。
「……はふぅ……」
自分では疲れているとは思っていなかったけど、まだ完全に回復はしきっていないのかしら。なんだか横になっていたら、凄く眠くなってきたわ……。
「…………すぅ……すぅ……」
「もうお眠りになられたのですね。ごゆっくりお休みくださいませ、リーゼお嬢様」
「どうですか?」
「瘴気の気配はありません。もう安心してよろしいかと」
「おお、それはなによりだ! これで避難していた民達も、自分の家に帰れる! これも全て、リーゼ嬢のおかげだ!」
「いえ、私だけの力ではありませんわ。民達を避難させ、事態の収拾に勤めていたのはアルベール様ですし、私を守ってくれたのもアルベール様ですもの」
本当のことを伝えたのだけど、アルベール様はどこか納得がいってない様子だった。
きっとアルベール様のことだから、自分で解決できなかったのが引っかかるのだろう。本当に正義感の強い方だわ。
「では俺は村長と今後についての話をしてきますので、リーゼ嬢は村で待たせている馬車で、先に屋敷帰って休んでいてください」
「そんな、私も同席しますわ」
「いけません。回復してきたとはいえ、リーゼ嬢はまだ本調子じゃないのですから」
「それはアルベール様もですわよね? 歩いている時、たまに痛みで表情に出ているのを、私は見逃してませんよ?」
「……あはは……」
露骨に私から視線を逸らしながら、乾いた笑い声を漏らす。さすがに誤魔化すのが下手な気がする。
「そ、それにしてもさすがリーゼ嬢! その他人を思いやる気持ちは、尊敬に値する!」
「だから誤魔化さないでください」
「……えーっと……ほ、ほら! 早く帰らないと、クラリス殿が心配するだろう?」
「それはそうですが……」
クラリスの名前を聞いた瞬間に、彼女の心配する表情が頭に浮かんできた。
浄化を行ったあの日、極度の疲労で意識を失った私は、なんと二週間も目を覚まさなかった。その間、クラリスがずっと私の面倒をみてくれていたそうだ。
起きた時の、嬉しそうに涙を流したのを見た時は、心配してくれて嬉しい反面、申し訳なさも感じていた。
「俺は大丈夫ですから、早くお戻りください」
「……わかりました。決してご無理はしないでくださいね」
「ああ、約束するよ。心配してくれてありがとう、俺の女神様」
「うっ……そ、そういうのは良いですから、早く村に行きましょう」
私の手を取り、手の甲にそっとキスをするアルベール様。その行動と微笑みを受けた私の胸は高鳴っていた。
最近、アルベール様と一緒にいると胸がドキドキして苦しいし、体中が熱くなって、酷い時は息も上がってしまう。
これって……やっぱりそういうことなのかしら……浄化の時のアルベール様、凄くカッコよかったもの。
って、そんなはずないわよね。私なんかが……恋なんて。
「では行きましょう。俺の首に手を――」
「きゃ、却下ですわ」
「ならおんぶ――」
「却下!」
「お姫様だっこも、おんぶも出来ないなんて! なら俺は、一体どうすればいいんだぁぁぁぁ!!」
「雄たけびを上げるようなことなんですの!? ああもう、それならこうすればよろしんじゃなくて!?」
この世の終わりのように、頭を抱えるアルベール様様の手をそっと包むように握り、一緒に歩き始める。
何の変哲もない、ただ手を繋いで歩くだけだというのに、とても幸せを感じる。アルベール様も同じなのか、満面の笑みだった。
「え、えへへぇ……これはまるで、散歩デートじゃないか……お、俺……もう死んでもいいかもしれないっ!!」
「そんなことで死なないでくださいませ! まだこれからもあるんですから!」
「これからだって!? ということは、もっと凄いのをしてくれるし、してもいいということですか!?」
「飛躍しすぎですわ! そもそも凄いのってなんですの!?」
「それは……俺の口からは言えない……!」
い、一体何を想像していたのかしら……あまり深く言及をしない方がよさそうね。とりあえず、アルベール様の言う通り、屋敷に戻らせてもらうとしましょう。
****
「おかえりなさいませ、リーゼお嬢様」
屋敷に帰ってくると、一番に出迎えてくれたのはクラリスだった。それに続いて、他の使用人の方々も出迎えてくれた。
「リーゼお嬢様、体調はいかがですか?」
「大丈夫よ。心配してくれてありがとう、クラリス」
「心配するのは当然です。さあ、早く横になってくださいませ」
え、でもまだお日様は高いわよ? もうベッドに入るのは、些か早い気がする。
「無理をして、また倒れてはいけませんから。さあさあ」
「わ、わかったから背中を押さないで! あっ、休む前に花瓶の水を!」
「すでに私がやっておきましたから、お気になさらず」
結局クラリスに押し切られてしまった私は、寝間着に着替えてベッドに横になった。
もう、あの日からクラリスの私に対する接し方が、更に過保護になってきているわね。それくらい、あの時は心配をかけてしまったということなのは、重々承知だけど……子供じゃないのだから、そんなに心配しなくてもいいのに。
「……ふぅ」
小さく溜息を吐いた私の視線の先には、実家から持ってきたお母様の絵と、たくさんのバラがあった。
誕生日にアルベール様からプレゼントしてもらった子達は、すでにもう枯れてしまったから、この子達は別のバラだ。
以前アルベール様が、枯れてしまったのを機に新しいバラをプレゼントしてくれたから、こうして大切にお世話をしているのよ。
「……はふぅ……」
自分では疲れているとは思っていなかったけど、まだ完全に回復はしきっていないのかしら。なんだか横になっていたら、凄く眠くなってきたわ……。
「…………すぅ……すぅ……」
「もうお眠りになられたのですね。ごゆっくりお休みくださいませ、リーゼお嬢様」
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