上 下
29 / 60

第二十九話 エリーザ達の進捗

しおりを挟む
■エリーザ視点■

「エリーザ、今日も出かけるのかい?」
「は、はい……フレリック様は、今日もお仕事でしょうか……?」
「ああ。いつもさみしい思いをさせてすまない。一週間後には休日があるから、その日は一緒に出掛けようじゃないか」
「楽しみにしてます……! では、行ってきます」

 うちは、いつものようにオドオドした小動物っぽさを演じてから、フレリックの部屋から自室に移動すると、魔法で研究施設へと移動した。

 転移魔法を使っても、体はなんともないんだから、これを作ったあいつの研究の腕は、やっぱり間違ってなかったんだな。

「あれ、監視室にいないじゃん。実験体がいる部屋にいる系?」

 もぬけの殻だった監視室を出て、沢山の実験体がいる部屋に向かうと、そこにあの男が今日もニコニコしながら立っていた。

「ふふっ……私の可愛いサンプル達……やはり生で見るのは素晴らしい。あの監視方法は楽でいいが、適度に生で見ないと気が済みませんね……」
「おっつー。調子はどんな感じよ?」
「おはようございます。さらに改良を加えて、転移の対象の記憶を元に、移動先を参照するようにしました。これで転移したい場所に行って魔法陣を用意する必要がなくなりました。他にも色々と魔法回路を構築しました。おかげで、魔法の対象者が爆発はしなくなりました。しかし、使うと見ての通り……」

 男は実験体のマウスを魔法陣の上に置く。すると、マウスは別の魔法陣の上へと一瞬で移動した。

 おお、良い感じじゃん――そう思った矢先、魔法を使った側が急に倒れ、まるでミイラみたいな見た目に変化した。

「おえっ……キモすぎて吐きそう……!」
「前の魔法の被検体が爆発するのは改善しましたが、今度は別の問題が出てしまいました」
「どうしてこうなるわけ?」
「根本的に、発動する時の魔力が足りてなさすぎて、対象者から勝手に補ってしまうのが原因ですね」
「じゃあ増やせば万事オッケーじゃん」
「簡単に仰いますが、そう単純な話ではないのですよ。魔法を使う人間の頭数を増やして、なんとか補う方法もなくは無いですが、異なる人間同士の魔力を混ぜて一つの魔法を発動させるのは、難易度が高くて現実的ではありません。ただでさえ難易度の高い魔法ですからね。そもそも、一人で使えなければいみがありませんし」

 魔法のことなんて、うちにはさっぱりわからないけど、とりあえず現状では使い物にならないポンコツ魔法だってことは理解した。

「具体的に言えし。どうすんのさ?」
「外部的な魔力強化を付与して補います」
「ドーピング的なやつ?」
「ドーピングというのは存じませんが、恐らくそんな感じかと。この方法だと、現状では魔法の使用者が普通の人間だと、強化に耐えきれず、死に至るでしょう」
「別に使用者が生きようが死のうが、うちにはどーでも良いことなんだけど?」
「あなたが使えなければ、向こうに行けても、帰ってこられないでしょう?」

 別に、うちとしては復讐が出来るのなら、こっちに帰ってこれなくてもいいって感じだけど、また死ぬのはテンサゲだわ。
 それに、せっかくちやほやされる環境があるのを、みすみす逃すのもなー。

「その問題を解決するために、エルフを使って実験を重ねます。エルフは人間よりも体の強度も魔力も優秀ですから、多少は耐えられるでしょう。そうして改善策を見つけます」
「いくらでもミイラ作っていいから、ちゃんと完成させろよ? じゃないと、うちが干からびるし。そうだ、どうやって魔力強化を付与するの?」
「一番手っ取り早いのは、とある植物を使うのがいいのですが……これの入手が少々面倒でしてね」

 なんか、メンディーな感じがビンビンに伝わってくる。うちはか弱い美少女だから、面倒事はお断りなんだけど~。

「お前の店で取り扱ってない感じ?」
「うちが経営しているのは、あくまで魔道具店ですからね。植物は扱っておりません」

 こんないかにも悪い研究者って感じのこいつは、表ではとある貴族の人間で、世界的に有名な魔道具店を経営している。
 確か、全世界に支店があるって言ってたっけ。いわゆる、チェーン店の経営者って感じ。

「植物を探す魔道具は取り扱ってますがね」
「マ? んじゃ、ソッコーで解決じゃん!」
「確かに探す術はありますが、目的の物が手に入る場所が、危険極まりない場所です。一歩でも足を踏み入れれば、命の保証はありません」

 物語によくある、入ったら生きて帰れないてきなやつ? 実際にそんな場所があるとか、さすが異世界パネーわ。

「んじゃ、他の方法はないわけ? たとえば、レベチに強い奴を行かせるとか」
「残念ながら、私の友人は危険に飛び込めるほど、勇敢な人物はおりません。エリーザ様こそ、お知り合いの方に、荒事に長けている肩はいないのですか?」
「超絶美少女のうちが頼めば、行ってくれる男はごまんといると思うけど……さっきの話からして、よわ男じゃダメっしょ?」
「ええ」

 そうなると、いくらうちでもすぐには見つけらんねーかも。どこかにイケメンで、うちの下僕になってくれて、ちょー強い男が転がってなねーかなー。

「仕方がないので、別の方法を模索しております。幸いにも、あなたが連れて来てくれた、使い捨てのサンプルはたくさんおりますからね」
「あいつら、今は何をしてる感じ?」
「さあ。気になるなら、見に行ってみます?」
「それ、ありよりのありかも。惨めな負け犬を見てると、テンアゲしてくるし」

 男と一緒に、一つ下の階にある大きな牢屋にやってくると、そこにはご汚い人間達が押し込まれていた。大人だろうが子供だろうが、老人だろうが、お構いなし。

 こいつらは、実験に使うためのサンプルとして、うちが近くのビンボーな村から連れてきた。
 村一つ分の人間を連れてくるのは、中々にメンディーことだと思ったけど、聖女のうちが助けてあげるって言ったら、泣きながらついてきた。
 村人が消えたことについても、お偉いさん達にテキトーに誤魔化してもらっている。

「これだけいれば、楽勝っしょ。ちゃっちゃと進めてよ。うちは復讐がしたくて、うずうずしてんの」
「言われなくても。ああ、そうそう。最近部下が噂で聞いたそうですが、行方不明者が増えているという噂が囁かれているようです。もうちょっと上手くやってくれないと、いずれバレますよ」
「んなのわかってっし! ただ、いくらぶりっ子聖女を演じても、かなりきつくてぴえんなのを理解しろし」

 自分と全く逆の人間を演じるっていうのは、想像以上に大変っていうのを、こいつは理解してなさげだわ。

「理解しているからこそ、私の魔法であなたのご両親や、国の上層部、そしてここの存在を知ってしまった方々に、ご協力していただいているのですよ。その協力を無駄にされるおつもりですか?」
「協力って、なーに言ってんだか。お前の魔法で洗脳してるだけっしょ」

 洗脳と言っても、具体的には考え方を少し変える魔法だ。うちらのしている研究がとても素晴らしいもので、研究の資金や、行方不明者が出た時の話合わせをしてもらっている。
 普通の洗脳と違って、意識は普通にあるから、かなりバレにくいらしいよ。うちにはよくわからないけど、使える駒が増えるのは、ありよりのありだからね。

 あーそうそう、フレリックにもその魔法を使っていて、うちが頻繁に出かけても不審に思わないようにしてもらっている。この村人達の件の言い訳も、この魔法で操っているお偉いさん達に任せたってわけ。

「さて、一通りお話できましたし、そろそろ失礼しますよ」
「なんだよ、研究しねーの?」
「本職の方が疎かになっては、研究に支障が出る可能性がありますからね」
「はーん。まあうちは超絶お優しい美少女だから、太平洋のように広くて、インド洋のように深い心で許してやっても良いし」
「そのなんとか洋については、よくはわかりませんが、ありがとうございます。では」

 うちの凄さもわからないまま、男は終始ニコニコしながら、研究室を後にした。

 はぁ……一体いつになったら完成するんだか。日に日に増える復讐の炎がドッカンする前に、復讐をしたいんだけどなぁ……ふふふ、楽しみだなぁ……!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

選ばれたのは私以外でした 白い結婚、上等です!

凛蓮月
恋愛
【第16回恋愛小説大賞特別賞を頂き、書籍化されました。  紙、電子にて好評発売中です。よろしくお願いします(*ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾⁾】 婚約者だった王太子は、聖女を選んだ。 王命で結婚した相手には、愛する人がいた。 お飾りの妻としている間に出会った人は、そもそも女を否定した。 ──私は選ばれない。 って思っていたら。 「改めてきみに求婚するよ」 そう言ってきたのは騎士団長。 きみの力が必要だ? 王都が不穏だから守らせてくれ? でもしばらくは白い結婚? ……分かりました、白い結婚、上等です! 【恋愛大賞(最終日確認)大賞pt別二位で終了できました。投票頂いた皆様、ありがとうございます(*ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾⁾応援ありがとうございました!  ホトラン入り、エール、投票もありがとうございました!】 ※なんてあらすじですが、作者の脳内の魔法のある異世界のお話です。 ※ヒーローとの本格的な恋愛は、中盤くらいからです。 ※恋愛大賞参加作品なので、感想欄を開きます。 よろしければお寄せ下さい。当作品への感想は全て承認します。 ※登場人物への口撃は可ですが、他の読者様への口撃は作者からの吹き矢が飛んできます。ご注意下さい。 ※鋭い感想ありがとうございます。返信はネタバレしないよう気を付けます。すぐネタバレペロリーナが発動しそうになります(汗)

【完結】王太子殿下に真実の愛だと見染められましたが、殿下に婚約者がいるのは周知の事実です

葉桜鹿乃
恋愛
「ユーリカ……、どうか、私の愛を受け止めて欲しい」 何を言ってるんだこの方は? という言葉を辛うじて飲み込んだユーリカ・クレメンス辺境伯令嬢は、頭がどうかしたとしか思えないディーノ・ウォルフォード王太子殿下をまじまじと見た。見つめた訳じゃない、ただ、見た。 何か否定する事を言えば不敬罪にあたるかもしれない。第一愛を囁かれるような関係では無いのだ。同じ生徒会の生徒会長と副会長、それ以外はクラスも違う。 そして何より……。 「殿下。殿下には婚約者がいらっしゃいますでしょう?」 こんな浮気な男に見染められたくもなければ、あと一年後には揃って社交界デビューする貴族社会で下手に女の敵を作りたくもない! 誰でもいいから助けて欲しい! そんな願いを聞き届けたのか、ふたりきりだった生徒会室の扉が開く。現れたのは……嫌味眼鏡で(こっそり)通称が通っている経理兼書記のバルティ・マッケンジー公爵子息で。 「おや、まぁ、……何やら面白いことになっていますね? 失礼致しました」 助けないんかい!! あー、どうしてこうなった! 嫌味眼鏡は今頃新聞部にこのネタを売りに行ったはずだ。 殿下、とりあえずは手をお離しください! ※小説家になろう様でも別名義で連載しています。

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

たとえ番でないとしても

豆狸
恋愛
「ディアナ王女、私が君を愛することはない。私の番は彼女、サギニなのだから」 「違います!」 私は叫ばずにはいられませんでした。 「その方ではありません! 竜王ニコラオス陛下の番は私です!」 ──番だと叫ぶ言葉を聞いてもらえなかった花嫁の話です。 ※1/4、短編→長編に変更しました。

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

【書籍化決定】断罪後の悪役令嬢に転生したので家事に精を出します。え、野獣に嫁がされたのに魔法が解けるんですか?

氷雨そら
恋愛
皆さまの応援のおかげで、書籍化決定しました!   気がつくと怪しげな洋館の前にいた。後ろから私を乱暴に押してくるのは、攻略対象キャラクターの兄だった。そこで私は理解する。ここは乙女ゲームの世界で、私は断罪後の悪役令嬢なのだと、 「お前との婚約は破棄する!」というお約束台詞が聞けなかったのは残念だったけれど、このゲームを私がプレイしていた理由は多彩な悪役令嬢エンディングに惚れ込んだから。  しかも、この洋館はたぶんまだ見ぬプレミアム裏ルートのものだ。  なぜか、新たな婚約相手は現れないが、汚れた洋館をカリスマ家政婦として働いていた経験を生かしてぴかぴかにしていく。  そして、数日後私の目の前に現れたのはモフモフの野獣。そこは「野獣公爵断罪エンド!」だった。理想のモフモフとともに、断罪後の悪役令嬢は幸せになります! ✳︎ 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。

【完結】田舎育ち令嬢、都会で愛される

櫻野くるみ
恋愛
生まれつき身体が弱かった伯爵令嬢のリリーは、静養のため酪農が盛んな領地で育った。 すっかり健康になった15歳のリリーは、王都に戻ることになり・・・ ひょんなことから、リリー特製ミルクスープにがっつり胃袋を掴まれた第3王子ラインハルトは、王家の男性特有の執着で、鈍感なリリーを手に入れようと躍起になる。 ライバルに恨まれたり、田舎者だと虐められるかと思いきや、リリーを好ましく思う味方がどんどん増え、気付いたら愛され王子妃に!? 田舎育ち令嬢が、無自覚に都会の人達を癒し、王子に溺愛されてしまうお話。 完結しました。

聖女候補の転生令嬢(18)は子持ちの未亡人になりました

富士山のぼり
恋愛
聖女候補で第二王子の婚約者であるリーチェは学園卒業間近のある日何者かに階段から突き落とされた。 奇跡的に怪我は無かったものの目覚めた時は事故がきっかけで神聖魔力を失っていた。 その結果もう一人の聖女候補に乗り換えた王子から卒業パーティで婚約破棄を宣告される。 更には父に金で釣った愛人付きのろくでなし貧乏男爵と婚姻させられてしまった。 「なんて悲惨だ事」「聖女と王子妃候補から落ちぶれた男爵夫人に見事に転落なされたわね」 妬んでいた者達から陰で嘲られたリーチェではあるが実は誰にも言えなかった事があった。 神聖魔力と引き換えに「前世の記憶」が蘇っていたのである。 著しくメンタル強化を遂げたリーチェは嫁ぎ先の義理の娘を溺愛しつつ貴族社会を生きていく。 注)主人公のお相手が出て来るまで少々時間が掛かります。ファンタジー要素強めです。終盤に一部暴力的表現が出て来るのでR-15表記を追加します。 ※小説家になろうの方にも掲載しています。あちらが修正版です。

処理中です...