14 / 15
痕
しおりを挟む「桜子さんの許婚はよっぽど桜子さんに気いられたいのね、じゃなきゃ殿方がこんなカステーラなんてハイカラなもの、買えやしないわ」
床に置かれたカステーラと呼ばれる茶菓子を見つめながらころころと鈴のような愛らしい声で面白おかしく美代子が言う。
そんな美代子の言葉に思わず桜子が顔を顰めた。
「たかが茶菓子の一つや二つで何を言うんだ」
「あらやだ、知らないの桜子さんたら、本当にこういうのに疎いのね~。カステーラといったら上流階級の婦人方の間で流行ってる人気の洋菓子なのよ?そんな女性だらけのお店に、お買い物だなんて殿方にとっては相当勇気がいるものよ」
皿に取り分けられたカステーラに目をやり、そんなものなのだろうか?と桜子は首を傾げる。
許婚に会いに来る男達が手土産を持参することはさして珍しくはない。むしろ華族の間では当たり前のことである。
更に言うならば持参された手土産が何たるかで女たちは男に対してランクをつけることもあるぐらいだ。土産一つで自身の直接的な評価に繋がるなど、男達は露ほども思っていないだろう。
「ふん、自らの足で出向いたとはかぎらんだろう」
「あら、使いの者を出して買ったっていいじゃないの。カステーラを手土産に選んだ事が素晴らしいのよ」
美代子の反応や女中たちの反応を見る限りカステーラを持ってきた明仁の評価はうなぎ登りのようである。
桜子としては、散々無体を働いてきた男の評価が上がるのは実に面白くなかった。
「ふん、ならばお前があの男と婚約なり結婚なりすればいいさ」
だからこそ、つっけどんな態度で明仁を拒絶する姿勢を見せる。
そんな桜子に、意地の悪い笑みを浮かべた美代子が言う。
「ふふ、いやあね。桜子さんた、らやきもきしてらっしゃるのね。そうよね、そうだわね。桜子さんの良い人だものね。私たちが夢中になってたら面白くないわよね」
「誰がやきもきするものか!あんな無礼な男など二度と顏を合わせたくもないわ!!」
勘違いも甚だしい美代子の言葉にすぐさま否定をするが美代子はどこ吹く風といった様子である。
「あら、嘘はいけないわ桜子さん。そんな熱い証をつけといてそれは無理があるというものよ」
意味が分からずますます困惑顏を浮かべる桜子に美代子は自身の首元へと指をあてがい、その場所を軽くたたく。
「その首筋にある痕は口吸いの痕でしょう?私達ってきりお体の調子が悪いのかと思って今日はお見舞いに来たのだけれど・・・・・・まさかあの桜子さんがね、」
美代子の含みのある言い方に一瞬きょとんとした桜子だったが、すぐさま昨日の痴態の痕が体に残されているのだと悟り慌ててそれを隠す。
「っつ、な、ち・・・・・・これは違う!!そのようなものではない!!」
顔を真っ赤にして喚く桜子に説得力などなく、むしろその姿をみた美代子は何かを確信したかのように笑い転げる。
今まで黙って話を聞いていた亜湖に関しては驚きで目を見開き桜子を凝視する始末である。
思いがけない形で痴態の痕を晒すことになった桜子はいたたまれず、恥ずかしさのあまり座布団に顔うずくめる。
(あの男!!絶対に許さぬ!!そもそもあいつが蛭のように肌に口を当てるからこんなことになるのだ!!)
口吸いというものが何なのかぐらい、いくら無知な桜子だって知っている。だが、それをした後に痕が残ることまでは知らなかったのだ。そもそも、接吻とは口にするものであり、体にするなど聞いたことがない。
もう、何もかも全ては明仁のせいだと結論づけ叫びにならない呻き声をあげる。
0
お気に入りに追加
57
あなたにおすすめの小説
【R18】悪役令嬢を犯して罪を償わせ性奴隷にしたが、それは冤罪でヒロインが黒幕なので犯して改心させることにした。
白濁壺
恋愛
悪役令嬢であるベラロルカの数々の悪行の罪を償わせようとロミリオは単身公爵家にむかう。警備の目を潜り抜け、寝室に入ったロミリオはベラロルカを犯すが……。
悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~
一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、
快楽漬けの日々を過ごすことになる!
そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!?
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました
扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!?
*こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。
――
ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。
そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。
その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。
結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。
が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。
彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。
しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。
どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。
そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。
――もしかして、これは嫌がらせ?
メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。
「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」
どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……?
*WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。
王女、騎士と結婚させられイかされまくる
ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。
性描写激しめですが、甘々の溺愛です。
※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
冷徹御曹司と極上の一夜に溺れたら愛を孕みました
せいとも
恋愛
旧題:運命の一夜と愛の結晶〜裏切られた絶望がもたらす奇跡〜
神楽坂グループ傘下『田崎ホールディングス』の創業50周年パーティーが開催された。
舞台で挨拶するのは、専務の田崎悠太だ。
専務の秘書で彼女の月島さくらは、会場で挨拶を聞いていた。
そこで、今の瞬間まで彼氏だと思っていた悠太の口から、別の女性との婚約が発表された。
さくらは、訳が分からずショックを受け会場を後にする。
その様子を見ていたのが、神楽坂グループの御曹司で、社長の怜だった。
海外出張から一時帰国して、パーティーに出席していたのだ。
会場から出たさくらを追いかけ、忘れさせてやると一夜の関係をもつ。
一生をさくらと共にしようと考えていた怜と、怜とは一夜の関係だと割り切り前に進むさくらとの、長い長いすれ違いが始まる。
再会の日は……。
慰み者の姫は新皇帝に溺愛される
苺野 あん
恋愛
小国の王女フォセットは、貢物として帝国の皇帝に差し出された。
皇帝は齢六十の老人で、十八歳になったばかりのフォセットは慰み者として弄ばれるはずだった。
ところが呼ばれた寝室にいたのは若き新皇帝で、フォセットは花嫁として迎えられることになる。
早速、二人の初夜が始まった。
【R18】幼馴染な陛下は、わたくしのおっぱいお好きですか?💕
月極まろん
恋愛
幼なじみの陛下に告白したら、両思いだと分かったので、甘々な毎日になりました。
でも陛下、本当にわたくしに御不満はございませんか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる