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はじまり

警告

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繰り返し魔力石を作る練習をしていたライラをアランはどこか真剣みを帯びた顔で見つめていた。



「お前は、学び舎を出たらノアール大陸に行くのか?」



唐突に尋ねられた問いかけに戸惑いながらも小さく頷き返す。
学び舎を卒業したら、ライラは本格的にノワール大陸に留学する事が決まった。
世界で闇の使い手が不足する中、闇の精霊王と契約したライラの力を貸してほしいとノアール大陸の竜王から助けを乞う書簡が届いたと聞いた。
竜王直々の書簡の影響は勿論だが、ライラの魔力のことも考えると闇の大陸で学ぶのがいいだろうと公爵たちも判断してのことだ。



「そうか・・・・・・こんな事を言うのは気が引けるが、ノアール大陸はあまり進めねえぞ。お前たちが思っているより、あの大陸はガタがきてる。きな臭い話も絶えねしな」



いつもの茶化すような雰囲気はなりを潜め、真剣に話すアランに思わず目を奪われる。



「・・・・・・ノアール大陸は危険な所だということですか?」



「人によるな・・・・・・まあ、貴重な闇の使い手をあの大陸の連中が逃すわけねえか・・・・・・もし、あの大陸で何かあったら俺を訪ねてこい。出来る限りのことはしてやるよ」



思いがけない言葉にライラは驚く。
アランに初めて会ったときの不信感は気のせいではなかったらしい。
今日もいつもと変わらぬ全身黒ずくめの衣服を身に纏っているアランは、やはり何度見ても貴族には見えない。だが、本当はとんでもない人物なのではないのかと今更ながらに思う。
大陸を自由に行き来し公爵家の力になれる者など限られているからだ。



「アランもノアール大陸に行くのですか?」



最後までおチビ呼びのアランだったがそんな彼に会えるのも今日が最後なのだと改めて実感する。
ここ数か月は一番時間を共にした相手でもあり少しの寂しさと喪失感がライラの中に芽吹く。



「行くも何も、俺は元々ノアール大陸に身を置いてるんだよ。行くんじゃなくて帰るんだ。まあ、お前とは長い付き合いになりそうな気がするからな、そのうち嫌でも会えんだろ」



その自信はどこから来るのだろうかとライラは不思議に思う。
最後の夜だというのにアランの何ら変わりない態度に別れを惜しむのさえ馬鹿馬鹿しくなる。



「まぁ、これからも俺が教えた基礎的な事を忘れず魔術の向上に励めよ」



アランの手がライラの頭をくしゃくしゃと撫で離れていく。



「俺の言いたかったことは終わり。ほら、今日はここまでにしとけ。また魔力の使い過ぎでぶっ倒れられても困るからな。おっ、そうだ!今日は特別に俺が部屋まで連れてってやるよ。お子様は寝る時間だしな。」



そう言うやいなや、ライラの脇腹に手を入れ抱き上げるアランに思わず声にならない悲鳴を上げる。



「・・・・・・!?」



「暴れんなよ。今更だろ。いつもお前の精霊がやってんだからよ。」



そうだけど、そうじゃないとライラは心の中で発狂する。
いくらアランがライラを子ども扱いしていようと、これはあんまりである。家族でもない異性にに抱きかかえられるなど羞恥でどうにかなりそうで、必死に抵抗する。



「こら、暴れんな。落ちちまうだろ」



「それでもかもいません!降ろしてください」



バランスの崩れそうになったライラの体をしっかりと抱え直すアランの顔が至近距離に迫り思わず固まる。
ライラの唇がアランの頬をかすめそうになり、慌ててアランの首へと腕を回し胸元に顔をうずくめる。
ダークによって培われた無駄な抵抗はしないというポリシーを必死に呼び起こし、ライラは大人しく運ばれる。
時間にしていえば十分にもみたない時間だったと思う。だが、ライラにはとても長い時間そうしていたように思えた。
部屋の前で下ろされたライラは今までにない俊敏な動きで扉を開け、おやすみなさい!という声と共に中へと駆け込む。
気付かない振りをしていた胸の高鳴りは一向にやみそうになかった。
しばらくして扉の向こうから笑い声が聞こえて気たが、頬の熱をごまかすように深く布団を被りそのまま眠りについた。
翌日、アランは竜城から姿を消していた。
そんなアランから少し遅れて、ライラは数人の騎士に見守られるなか城を後にした。

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