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イケ☆ハレ7
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連れられて向かった先には、まず、下りの階段があった。
「地下にあるのか?」
「ええ。大抵のハンマームは地下に作られている場合が多いですね。その方が熱が逃げにくいのだそうですよ」
「へえ……?」
階段を下りながら聞いたときにはピンとこなかったが、いざハンマームに辿り着いてしまえば、アリの言葉の意味がすぐに理解できた。
なにせ、暑い。というか、熱い。とにかく、空気が熱くて仕方がなかった。
どこからかモウモウと吹き出している大量の蒸気が、部屋中を真っ白に染めているようだ。
俺は半ば強制的に脱がされた全裸状態で、その真っ白な世界を目の当たりにし、ポカンと口を開けたまま立ち尽くすことしか出来なかった。
「ジア様、こちらへ」
簡易な布を身に纏った使用人から手招かれ、俺は恐る恐る、蒸気で視界の悪い中を進む。
やっとの思いで使用人の前まで辿り着くと……突然、頭の上からザパーっと水が降ってきた。
「うわ!?」
「えっ?」
俺が驚いて飛び上がると、桶を持って俺に水をぶっかけてきた犯人もビクッと肩を揺らした。
「も、申し訳ございません。何か問題がございましたか?」
その焦った顔を見て、俺は、ここではこれが当たり前のことなんだろうと悟った。落ち着いたら、ぶっかけられたのは水ではなく、お湯だったということにも気が付く。
無駄に驚いちまった。恥ずかしい……。
「や、ごめん。何でもねえ。続けてくれ」
次に何をされても、絶対驚いたりしないぞ。俺は覚悟を決めると、もう一度使用人へ向き直った。
そのあと、数回お湯を頭からぶっかけられたが、俺はすべてをノーリアクションで乗り切った。
無駄な達成感に浸っていたところで、今度は、一際白く蒸気が立ち込めた場所まで誘導される。そこには木の椅子がいくつか置いてあって、そのうちの一つに座るよう促された。
ここで次は何をさせられるんだ……?そう思って、椅子に座った状態でしばらく身構えていたんだが、一向に誰もアクションを起こしてこない。
俺は次第に疲れてきてしまって、クタっと背もたれに身を預けた。
「くっそ、あっちぃな……!」
暑いのには慣れているつもりだったが、こうも蒸し暑いのは初めて経験する。ダラダラと汗が流れて止まらない。
この熱い空気を吸うと、身体の内側まで熱くなるような気がして、呼吸もしたくないくらいだった。
もう勘弁してくれ……。そう弱音を吐きかけたところで、ようやく次の指示が出された。
使用人の後を付いていくと、どうやら一度この部屋を出るらしいと気が付いて、俺はホッと胸を撫で下ろす。
……しかし、本当の地獄はここからだった。
「痛い痛い痛い痛い!」
「申し訳ございません。痛がっても徹底的に行うように、との指示がアリ様からありましたので……」
申し訳なさそうに言いながら、使用人の男がザラザラした布で俺の肌を擦り上げていく。
これは、アカスリというらしい。要らなくなった古い皮膚をそぎ落としているんだとか。
そぎ落とすって何だよ、怖えな!と恐ろしく思ったが、どうやらお貴族さまは、これを日常的に行っているらしい。マジかよ。
そう言われてしまうと、これがここでの常識なんだと自分に言い聞かせながら、耐えるしかなかった。
その次は、もっと酷かった。
熱いドロドロしたものを肌に塗りたくられ、そのまま動かないように言われる。よく分からないが、仕方なくその通りにしていると、しばらくして、ドロドロが固まってきたように見えた。
何だこれ?と思っている間に、固まってしまった元ドロドロを、勢いよくベリッと引っ剥がされる。
「―――っ!!!」
あまりの激痛に、声も出なかった。
固く目を瞑ってその痛みに堪えていたが、少し慣れてきたところで薄く目を開けてみると……剥がされた元ドロドロに、俺の身体から抜けたと思わしき体毛が、ビッシリくっついているのが見えた。
……そりゃあ、痛えに決まってるよな!くそったれ!
そんな地獄の時間を乗り越え――次もどうせ、とんでもねえもんが待ち構えてんだろう。そう腹を括っていたのだが……。
そこから先は、むしろ気持ちいいことしかなくて拍子抜けした。
花の匂いがするオイルで全身を揉まれてウトウトした後、たっぷりお湯が溜まった、バカでかい桶みたいなところに身体を浸す。
この、最後のやつが、異常に気持ち良かった。もう、今後はこれだけでいいやって思うくらいだったけど……張り切っていたアリの顔を思い出す限り、それは無理そうだな。くそやろう。
こうして、何とも疲れる、俺のハンマーム初体験が終わったのだった。
「地下にあるのか?」
「ええ。大抵のハンマームは地下に作られている場合が多いですね。その方が熱が逃げにくいのだそうですよ」
「へえ……?」
階段を下りながら聞いたときにはピンとこなかったが、いざハンマームに辿り着いてしまえば、アリの言葉の意味がすぐに理解できた。
なにせ、暑い。というか、熱い。とにかく、空気が熱くて仕方がなかった。
どこからかモウモウと吹き出している大量の蒸気が、部屋中を真っ白に染めているようだ。
俺は半ば強制的に脱がされた全裸状態で、その真っ白な世界を目の当たりにし、ポカンと口を開けたまま立ち尽くすことしか出来なかった。
「ジア様、こちらへ」
簡易な布を身に纏った使用人から手招かれ、俺は恐る恐る、蒸気で視界の悪い中を進む。
やっとの思いで使用人の前まで辿り着くと……突然、頭の上からザパーっと水が降ってきた。
「うわ!?」
「えっ?」
俺が驚いて飛び上がると、桶を持って俺に水をぶっかけてきた犯人もビクッと肩を揺らした。
「も、申し訳ございません。何か問題がございましたか?」
その焦った顔を見て、俺は、ここではこれが当たり前のことなんだろうと悟った。落ち着いたら、ぶっかけられたのは水ではなく、お湯だったということにも気が付く。
無駄に驚いちまった。恥ずかしい……。
「や、ごめん。何でもねえ。続けてくれ」
次に何をされても、絶対驚いたりしないぞ。俺は覚悟を決めると、もう一度使用人へ向き直った。
そのあと、数回お湯を頭からぶっかけられたが、俺はすべてをノーリアクションで乗り切った。
無駄な達成感に浸っていたところで、今度は、一際白く蒸気が立ち込めた場所まで誘導される。そこには木の椅子がいくつか置いてあって、そのうちの一つに座るよう促された。
ここで次は何をさせられるんだ……?そう思って、椅子に座った状態でしばらく身構えていたんだが、一向に誰もアクションを起こしてこない。
俺は次第に疲れてきてしまって、クタっと背もたれに身を預けた。
「くっそ、あっちぃな……!」
暑いのには慣れているつもりだったが、こうも蒸し暑いのは初めて経験する。ダラダラと汗が流れて止まらない。
この熱い空気を吸うと、身体の内側まで熱くなるような気がして、呼吸もしたくないくらいだった。
もう勘弁してくれ……。そう弱音を吐きかけたところで、ようやく次の指示が出された。
使用人の後を付いていくと、どうやら一度この部屋を出るらしいと気が付いて、俺はホッと胸を撫で下ろす。
……しかし、本当の地獄はここからだった。
「痛い痛い痛い痛い!」
「申し訳ございません。痛がっても徹底的に行うように、との指示がアリ様からありましたので……」
申し訳なさそうに言いながら、使用人の男がザラザラした布で俺の肌を擦り上げていく。
これは、アカスリというらしい。要らなくなった古い皮膚をそぎ落としているんだとか。
そぎ落とすって何だよ、怖えな!と恐ろしく思ったが、どうやらお貴族さまは、これを日常的に行っているらしい。マジかよ。
そう言われてしまうと、これがここでの常識なんだと自分に言い聞かせながら、耐えるしかなかった。
その次は、もっと酷かった。
熱いドロドロしたものを肌に塗りたくられ、そのまま動かないように言われる。よく分からないが、仕方なくその通りにしていると、しばらくして、ドロドロが固まってきたように見えた。
何だこれ?と思っている間に、固まってしまった元ドロドロを、勢いよくベリッと引っ剥がされる。
「―――っ!!!」
あまりの激痛に、声も出なかった。
固く目を瞑ってその痛みに堪えていたが、少し慣れてきたところで薄く目を開けてみると……剥がされた元ドロドロに、俺の身体から抜けたと思わしき体毛が、ビッシリくっついているのが見えた。
……そりゃあ、痛えに決まってるよな!くそったれ!
そんな地獄の時間を乗り越え――次もどうせ、とんでもねえもんが待ち構えてんだろう。そう腹を括っていたのだが……。
そこから先は、むしろ気持ちいいことしかなくて拍子抜けした。
花の匂いがするオイルで全身を揉まれてウトウトした後、たっぷりお湯が溜まった、バカでかい桶みたいなところに身体を浸す。
この、最後のやつが、異常に気持ち良かった。もう、今後はこれだけでいいやって思うくらいだったけど……張り切っていたアリの顔を思い出す限り、それは無理そうだな。くそやろう。
こうして、何とも疲れる、俺のハンマーム初体験が終わったのだった。
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