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イケ☆ハレ2

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「ここで一つ提案なのですが……これから立場を同じくして困難に立ち向かっていかねばならない私たちは、いがみ合うのではなく、むしろ助け合っていくべきだと思いませんか?」

 そう言って微笑んだ爽やか系イケメンは、自らをカリムと名乗った。予想通り、騎士団に所属する立派な騎士さまであるらしい。

「へっ、馴れ合いは嫌いだね」

 口ではそう言いつつも、素直に自己紹介してくれたヤンチャ系イケメンの名前はアーレフ。意外や意外。アーレフは宮廷で働くお役人さまであるらしい。人は見かけに寄らない。

「……ヘイダルだ」
「ヘイダルも、私と同じ騎士団に所属していますよね。班が違うので直接の交流はありませんでしたが、『獅子殺しのヘイダル』の名は有名ですから。お名前だけは存じ上げていました」
「………」

 カリムがにっこり微笑みかけても、ヘイダルはうんともすんとも反応しなかった。ヘイダルは口数が少ないタイプみたいだ。
 否定しないということは、少なくとも間違いではないということだろうか。……それにしても、獅子殺しって何だろう。やけに物騒だ。

 そして、三人の視線が俺に集まった。この場で自己紹介してないの、後は俺だけだからな。

「俺は、ジア。よろしく」

 俺が簡潔に済ませると、カリムだけが「よろしくお願いします」と返してくれた。口に重石でも付いていそうなヘイダルはまだしも、アーレフはあからさまに不満顔だ。

「それだけか?どこで何の仕事をしているかくらい、話したらどうだ。こっちは全員言ったんだから、不公平だろ」

 俺はポリポリと頬を掻きながら、何と言おうか考えた。別に言いたくない訳じゃないんだけど、言ったら確実に事情を聞かれるだろうから、説明がめんどくさいんだよな。
 でも、この状況で隠し通すのは不自然だ。これからこいつらとは長い付き合いになるかもしれないのだから、正直に話しておくべきだろう。

「俺は――」

 ◆

 その報せを受け取ったとき、俺はいつも通り職場である宿屋兼酒場の厨房で、今夜の営業のための仕込みに励んでいるところだった。

「おーい、ジア。お前に客が来てるぞ」

 この宿屋兼酒場を切り盛りしているおやっさんに呼ばれて、俺は野菜の皮むきをしていた手をとめた。顔を上げると、恰幅のいいおやっさんが厨房と酒場を繋ぐ出入り口から顔を出している。

「俺に客?」

 小さな場末の酒場の、しがない厨人でしかない俺を訪ねて、態々こんなところまで足を運んでくるなんて……珍しいこともあるものだ。
 もしかしたら、家族に何かあったのかもしれない。俺は慌てて野菜と包丁を置き、おやっさんが顔を出している出入り口まで駆け寄った。

「長くなるようなら言えよ。仕込みの続きを引き受けてやるから」
「……すまん、おやっさん」
「気にすんなって。客人は酒場の方で待たせてあるからな」
「わかった。ありがとう」

 おやっさんに軽く礼を告げると、野菜に付いていた土で汚れた手を前掛けの裾で雑に拭いつつ、足早に酒場へと向かった。

「貴方がジア様ですか?」

 まだ開店前で無人の酒場に、一人の男が待っていた。装飾の多い服を身に纏っていて、一目で身分の高い男だと分かる。

「……そうだけど」

 向こうは厨房から出てきた俺の顔を見て、すぐに声をかけてきたが、俺にとって相手は見覚えのない顔だった。警戒心も露わに応えを返すと、正体不明の客人からニコっと笑みを向けられる。

「お仕事中に、突然の訪問をお許しください。私は宮廷で側仕えの仕事をしている、アリと申します。本日は、ジア様に皇帝陛下からの勅命をお持ちいたしました」
「……は?」

 与えられた情報量が多すぎて、俺の頭は一瞬でパニックに陥った。

 この男は宮廷からの遣いで、用件は皇帝陛下からの勅命を伝えることで、そんでもって、その命令先が俺――?

 ……有り得ない状況すぎて、一周回って冷静になってきた。頭が勝手に受け入れることを拒否したとも言う。
 そもそも、この男――アリが、本当に宮廷からの遣いであるか、俺には判別できなかった。とりあえず、詳しく話を聞いてから考えるしかなさそうだ。

「……その、勅命っていうのは、どういう内容なんだ?」

 一度大きく深呼吸した俺が落ち着いた声で尋ねると、アリはホッとした表情を浮かべた。恐らく、俺が聞く耳を持っている様子に安堵したのだろう。

「三日後の午後三時、宮廷のモスクまで足を運んでいただくよう召集令が出ております」
「召集令……?そりゃ、また……一体どんな珍事が起これば、皇帝陛下直々の召集令なんてもんが、こんな場末の酒場で厨人をやってる平民宛てに届くってんだ?」

 召集令なんて、そう易々は出されないはずだ。少なくとも、この辺の連中からそんなものを貰ったなんて話は一度も聞いたことがない。
 俺が眉根を寄せて訝しんでいると、アリが一つ頷いて声を潜めた。

「ここから先は、他言無用でお願いいたします。……もし万が一、この話が市井に広がって、その噂の出所が貴方だと知れたら……どうなるかくらい想像に難くないでしょう?」

 言外に脅されて、にわかに目の前の男が怖くなる。見た目はひょろっちいが、こいつの後ろには宮廷、ないしは皇帝陛下の存在があるのだ。平民の俺なんか、ちょっとでも逆らったら一瞬であの世行きだろう。

「……わかった。誰にも言わねえ。約束するから教えてくれ。せめて、理由くらい知ってからじゃねえと、恐ろしくて宮廷になんか行けねえよ」

 帝都であればどこからでも、まあるい形をした宮廷の屋根を見つけることが出来る。しかし、その中に入ったことがある平民は、数えるくらいしかいないだろう。
 現に、俺は帝都で生まれ育ったが、生まれてこの方、宮廷の敷地には足を踏み入れたことがなかった。

「わかりました。理由をお教えしましょう。……実は、ジャラール皇帝陛下が、ジア様をハレムの一員として迎えたいとお考えなのです」

 ……ハレム?
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