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第88話 悲しみを背負いし剣

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翌日

優斗たちはサンフィールド農場に到着した。

目の前に広がる農場は
かつての美しい景色とは打って変わり
フェンリオの影響で荒れ果てていた。

太陽の麦は枯れ
風に揺れる葉はどこか寂しげに見えた。

優斗は兵士たちに目配せをし
辺りを警戒しながら前進した。

「ここが戦いの場になる
皆、戦闘の準備を済ませておいてくれ」

と静かに指示を出す。

優斗は剣を握りしめ
「リアナ、君の所に必ず生きて帰る」

と心の中で誓いを立て
戦闘の準備を始めた。

しかし

優斗たちは農場に到着してから
しばらく時間が経過したが
どこにもその竜『フェンリオ』の姿は見当たらなかった。

荒れ果てた大地や枯れた作物の痕跡から
間違いなくここにフェンリオがいたはずだが
周囲は静まり返っていた。


兵士たちも困惑し
「フェンリオがいない…まさか
逃げたのか?」

とざわめき始めた。

優斗は周囲を注意深く見渡しながら
何かがおかしいと感じていた。

「気を緩めるな」

と優斗は兵士たちに声をかけた。

フェンリオがどこかに潜んでいる可能性を考え
優斗は冷静に指示を出しながら
周囲の警戒を続けた。

「何かを待っているのか
それとも…」

優斗は思考を巡らせつつ
次の行動を決めるためにさらに調査を進めることを決意した。

優斗は目の前の静寂に違和感を覚え
「フェンリオはどこかに隠れているはずだ」

と確信した。

これだけの痕跡を残しながら突然消えることなどあり得ない。

何かを狙っている可能性が高い。

「油断するな
フェンリオはどこかで俺たちを見ているかもしれない」

と優斗は兵士たちに警告した。

兵士たちもその言葉に緊張感を取り戻し
周囲を警戒しながら動きを止めた。


優斗は慎重に辺りを観察し
何か異常な兆候がないかを探し続けた。

(どこかに身を潜めて
俺たちを待っている…)

と心の中で考えながら
剣を構え
一瞬たりとも気を抜かない。


優斗たちは農場内をくまなく探索し
それでもフェンリオの姿が見つからなかったため
さらに範囲を広げて周辺の森へと探索を進めた。

木々が鬱蒼と茂る森の中を慎重に進みながら
兵士たちも目を光らせていたが
フェンリオの痕跡はどこにも見当たらない。

「いったい
どこに消えたんだ…?」

優斗は眉をひそめながら
冷静に状況を見極めようとしていた。

ドラゴンのような巨大な存在が
これほどの範囲で痕跡を残さずに消えることなど考えられない。



森の中でも足跡や傷跡など
フェンリオの存在を示すものは一切見つからず
次第に焦りが広がっていった。

しかし
優斗は決して諦めなかった。

「どこかに潜んでいる
必ず見つけ出してみせる」

と再び決意を固め
探索を続けるよう指示を出した。

ちょうどその頃
『スターシェード・マナー邸宅』にいたリアナは
眠れずに朝を迎えていた。

(優斗様、必ず無事に……)

その時だった

突然ドアが激しく叩かれ
リアナは驚いて振り返る。

扉を開けると
そこには血まみれの状態で立つ王国の兵士がいた。


「リアナ様…緊急事態です…!」

兵士は息も絶え絶えに言葉を紡ぎ
フラフラとした足取りでリアナの方に向かってきた。

リアナはすぐに彼を支え
驚きと不安が入り混じる中で
事態の深刻さを感じ取った。

「一体何があったの?」

リアナは声を震わせながら尋ねた。

兵士は苦しそうに息を整え
「何者かが…城に現れ
城内は襲撃を受けました…。

私たちは…全滅寸前です…!」

と必死に伝えた。

「!!!!」

リアナは衝撃を受け
城にいる国王やみんなのことが頭をよぎった。

「みんな…」

その頃
フロンレシア城では
緊迫した空気が漂っていた。

突如として
黒いマントを纏った謎の男が現れ
静かに歩みを進めていた。

城の兵士たちは即座に警戒態勢に入ったが
その男の圧倒的な力の前に
次々と無力化されていく。


男の動きはまるで風のように速く
剣も振るわぬまま
兵士たちは地に倒れていった。

まるで彼が纏う闇が
すべての命を奪い取っていくかのようだった。

「何者だ…!」

最後まで立ち向かおうとした兵士の声も
無残にもかき消された。

城の中は一瞬にして静まり返り
黒いマントの男は不気味な微笑を浮かべ
さらに城の奥へと進んでいった。


彼の目的が何なのか
誰も知ることができないまま
城は恐怖に包まれていく。


リアナは
血まみれの兵士から事態の深刻さを聞くと
すぐに決断した。

彼女は躊躇せずに戦闘の準備を始め
いつも身に着けている軽鎧を纏い
剣を手に取った。


(優斗様がいない今
私がこの状況を何とかしなければ…)

リアナは強い決意を胸に秘め
素早く行動を開始した。

『スターシェード・マナー邸宅』を後にし
馬を走らせてフロンレシア城へと急ぐ。


城に近づくにつれ
戦闘の音や兵士たちの悲鳴が響き渡っていた。

リアナは馬を降り
城の正門へ駆け寄る。

そこで彼女が目にしたのは
倒れた兵士たちの無惨な姿だった。

「これは…いったい何が…」

リアナはその光景に一瞬戸惑いながらも
覚悟を決め
剣を握り直した。


リアナが城に入ると
目の前に広がる光景は凄惨だった。

廊下や大広間は
無残にも倒れた兵士たちの死体で覆い尽くされていた。

彼女の胸には
湧き上がる悲しみと緊迫感が押し寄せる。


「こんなことが…」

リアナは一瞬足を止めたが

(今は涙はだめ……)

すぐに気を引き締め
国王を守るために前へ進んだ。

彼女の頭には
フロンレシア王
レオニダスの安否が最優先だった。

足音を立てないように注意深く進みながら
リアナは王の間へと向かった。

道中
周囲の静けさが逆に不気味に感じられ
どこかに潜む黒いマントの男の存在を感じ取っていた。

「どうか
無事でいて…!」

リアナは祈るような思いで
剣を握りしめながら進み続けた。

リアナが王の間の扉を開け
足を踏み入れると
目に飛び込んできた光景は
彼女の胸を締めつけた。

広々とした王の間は
まるで戦場のように荒れ果てており
その中央には
無惨にも倒れたフロンレシア王
レオニダスの姿があった。

「陛下…!」

リアナは悲痛な声を上げ
急いで駆け寄った。

国王の体には無数の傷が刻まれ
彼が必死に戦ったことが窺える。

しかし
既にその命は尽きていた。

リアナは膝をつき
国王の冷たくなった手をそっと握りしめながら
涙を堪えた。

悲しみと怒りが交錯し
心の中で煮えたぎる感情が沸き上がる。

「いったい誰が
こんなことを…」

その瞬間
リアナの中に新たな決意が生まれた。

「この罪を犯した者を
絶対に許さない…!」

その時
リアナが悲しみの中にいると
背後から足音が静かに響き渡った。

リアナは瞬時に剣を握りしめ
振り返った。

そこには黒いマントを纏った男が
ゆっくりと近づいてきた。

その姿は
まるで闇そのものが形を持ったかのように不気味で
リアナを冷たく見つめていた。

「貴様が…陛下を…!」

リアナは怒りに震えながら
男に向かって剣を構えた。

彼女の全身には
戦いの緊張感がみなぎっていた。

黒いマントの男は
無言のままリアナに一瞥をくれ
その目には冷淡な光が宿っていた。

リアナは彼の正体を確かめるため
男の出方を伺いながら
一瞬たりとも目を離さなかった。

黒いマントの男が近づくと
その姿が徐々に明らかになり
リアナは目の前に立つ者の正体を理解した。

彼こそ
長きに渡り恐れられてきた

『魔王モルゴス』

だった。



「必ず来ると思っていた」
「……」

「勇者パーティでたった1人の生き残り
聖剣士リアナよ…」

モルゴスは冷たく微笑みながら
静かに言葉を放った。

リアナはその言葉に身を震わせたが
すぐに剣を構え直し
鋭い眼差しでモルゴスを見据えた。

「モルゴス…お前がこの惨劇を!
成敗してくれる!」

モルゴスは彼女の怒りを楽しむかのように
冷笑を浮かべた。

「怒りに燃える姿も悪くないな、リアナ
だが、それを一瞬にして失望に変えて見せよう」

二人の間に張り詰めた緊張感が漂い
王の間はまさに決戦の舞台へと変わっていった。

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