上 下
88 / 100

第87話 愛と勇気の出撃

しおりを挟む
優斗とリアナは1週間ほど
家で穏やかに仲睦まじく過ごした。

新しい住まい『スターシェード・マナー』での生活は
二人にとってまさに夢のような時間だった。

朝は一緒に朝食を作り
互いに笑い合いながらのんびりと過ごす。


午後は
リアナが庭で花を手入れしている間
優斗が読書をしたり
二人でティータイムを楽しんだりする時間もあった。

時折
夜には湯気が立ち込める浴室で
二人一緒にリラックスしながら語り合うことも。

静かで穏やかな毎日が続き
二人はさらに深い絆を育んでいた。

「こうして過ごす時間が本当に幸せだな」

と優斗がつぶやくと
リアナは優しく微笑んで彼に寄り添った。


ちょうどその頃

王国で最大の農場であるサンフィールド農場に突如
ドラゴンが現れた。


緑色の鱗に覆われた中型のドラゴン
『フェンリオ』だ。


フェンリオは
広大な畑を見下ろし
威圧的な姿をさらしていた。

農場で働く人々は恐怖に包まれ
近づくことすらできず
農作業が完全に停止してしまっていた。

フェンリオが放つ風の毒気によって
特に大切に育てられていた

『太陽の麦』や『グローベリー』

にも被害が出始めていた。

サンフィールド農場は
王国の食糧供給の要であり
特に太陽の麦はフロンレシア王国全体に
パンや焼き菓子として届けられている。

そのため
農場の停止は
王国内の食糧不足を引き起こしつつあった。

農場の人々は何とかドラゴンを追い払おうと試みるが
フェンリオの強力な魔法の風により近づくこともままならない。

一方
王国全体でも食糧の危機が深刻化しており
特に都市部ではパンやベリーなどの供給が急激に減少していた。

王国中がこの危機に直面しており
今後の収穫が期待できない状況に
不安と恐怖が広がっていた。



このままでは冬を越すことができないという危機感が広がり
王国の人々は助けを求める声を上げ始めていた。


『フェンリオ』が出現してから2日後


王国の使いが『スターシェード・マナー』を訪れ
優斗とリアナの前に現れた。

使いは深く礼をし
切迫した様子で口を開く。


「優斗様、リアナ様
フロンレシア王国は深刻な危機に直面しております。

サンフィールド農場に現れたドラゴン
エメラルド・ワイバーン『フェンリオ』によって
農場の作業が完全に停止してしまいました。

食糧不足が王国全体に広がり
このままでは多くの人々が飢えることになります」

「なんだと!」

「相手は強敵で、王国軍では対応が難しく……」

使いは必死な表情で続けた。

「どうか、勇者として
そして王国の守護者として
フェンリオの討伐をお願いできないでしょうか?
王国はあなた方の力に頼るしかありません」

優斗は厳しい表情でリアナと目を合わせ
彼女もまた決意を込めて頷いた。

「もちろんです
王国を守るためなら
私たちは力を尽くします」

とリアナが答え
優斗もその言葉に続いて
「ドラゴンの討伐は任せてくれ」

と力強く応えた。

王国の使いは安堵の表情を浮かべ
「どうか
よろしくお願いいたします」

と深く頭を下げた。

優斗は王国の使いの依頼を受け
深く頷いた。
彼の決意は固く
王国のために動く覚悟が見えていた。

すると
リアナが一歩前に出て
「私も行きます!優斗様

二人で力を合わせれば
必ず勝てるはず」

と強い意志を込めて言った。


しかし
その言葉に優斗は少し戸惑いを見せた。

彼はリアナのお腹を見つめ
心配そうな表情を浮かべた。

「リアナ…君は今
赤ちゃんをお腹に抱えているんだ
もし何かあったら…。」

リアナはその言葉に一瞬考え込んだが
優しく微笑んで答えた。

「大丈夫です、優斗様。

妊娠して1ヶ月
私は戦えるし
この子のことも守れます。

優斗様を一人で行かせたくはありません

私たちなら
きっと無事に戻ってこられます」

彼は優しくリアナを見つめながら言った。

「リアナ
君の気持ちは嬉しいけど
俺1人で行くよ

君が今一番大切にしなきゃいけないのは
この街と…お腹の赤ちゃんだ」

リアナは驚いた表情を浮かべたが
優斗の真剣な眼差しを見て言葉を飲み込んだ。

「もしこの街に何かあったら
その時は君に頼るしかない

この街を守ってくれ」

優斗の言葉には
彼女に対する信頼と愛情が込められていた。

リアナは少し考えた後
静かに頷いた。

「分かりました、優斗様
必ず無事に戻ってきてください」


優斗はリアナのもとに歩み寄り
静かに彼女を抱きしめた。

リアナも優斗の腕にそっと顔をうずめ
しばしの間
二人だけの静かな時間が流れた。

「必ず無事で……」

とリアナは小さな声でつぶやき
優斗の顔を見上げる。

優斗は微笑みながら
彼女の額に軽くキスをし
優しく答えた。

「必ず戻るよ、リアナ

そして君とこの街を守る」

その言葉にリアナは少し涙を浮かべながらも
力強く頷いた。

優斗は彼女の手を一瞬握りしめ
再び出撃の準備に向かう。

優斗はすぐに戦闘の準備を始め
剣を腰に携え
鎧を身に纏った。

彼の心には決意がみなぎり
リアナや王国を守るために
絶対に成功させるという強い意志があった。

王国の兵士たちも討伐隊として集結し
整然とした隊列を作っていた。

優斗は彼らの前に立ち

「俺たちはこの王国
そしてその未来を守るために戦う

恐れることはない

皆で力を合わせれば
必ず勝利できる」

と力強く声を上げた。


兵士たちの士気は高まり
優斗のリーダーシップに従いながら
討伐隊は出撃した。

彼らはサンフィールド農場を目指し
『フェンリオ』

に立ち向かうため
険しい道を進んでいく。

遠くから農場が見え始める頃
優斗は心を決め
剣の柄を強く握りしめた。

「リアナ
君とこの街を守るために
必ず勝つ!」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

異世界召喚されたら無能と言われ追い出されました。~この世界は俺にとってイージーモードでした~

WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
 1~8巻好評発売中です!  ※2022年7月12日に本編は完結しました。  ◇ ◇ ◇  ある日突然、クラスまるごと異世界に勇者召喚された高校生、結城晴人。  ステータスを確認したところ、勇者に与えられる特典のギフトどころか、勇者の称号すらも無いことが判明する。  晴人たちを召喚した王女は「無能がいては足手纏いになる」と、彼のことを追い出してしまった。  しかも街を出て早々、王女が差し向けた騎士によって、晴人は殺されかける。  胸を刺され意識を失った彼は、気がつくと神様の前にいた。  そしてギフトを与え忘れたお詫びとして、望むスキルを作れるスキルをはじめとしたチート能力を手に入れるのであった──  ハードモードな異世界生活も、やりすぎなくらいスキルを作って一発逆転イージーモード!?  前代未聞の難易度激甘ファンタジー、開幕!

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第二章シャーカ王国編

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

妻がエロくて死にそうです

菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。 美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。 こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。 それは…… 限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常

彼女をイケメンに取られた俺が異世界帰り

あおアンドあお
ファンタジー
俺...光野朔夜(こうのさくや)には、大好きな彼女がいた。 しかし親の都合で遠くへと転校してしまった。 だが今は遠くの人と通信が出来る手段は多々ある。 その通信手段を使い、彼女と毎日連絡を取り合っていた。 ―――そんな恋愛関係が続くこと、数ヶ月。 いつものように朝食を食べていると、母が母友から聞いたという話を 俺に教えてきた。 ―――それは俺の彼女...海川恵美(うみかわめぐみ)の浮気情報だった。 「――――は!?」 俺は思わず、嘘だろうという声が口から洩れてしまう。 あいつが浮気してをいたなんて信じたくなかった。 だが残念ながら、母友の集まりで流れる情報はガセがない事で 有名だった。 恵美の浮気にショックを受けた俺は、未練が残らないようにと、 あいつとの連絡手段の全て絶ち切った。 恵美の浮気を聞かされ、一体どれだけの月日が流れただろうか? 時が経てば、少しずつあいつの事を忘れていくものだと思っていた。 ―――だが、現実は厳しかった。 幾ら時が過ぎろうとも、未だに恵美の裏切りを忘れる事なんて 出来ずにいた。 ......そんな日々が幾ばくか過ぎ去った、とある日。 ―――――俺はトラックに跳ねられてしまった。 今度こそ良い人生を願いつつ、薄れゆく意識と共にまぶたを閉じていく。 ......が、その瞬間、 突如と聞こえてくる大きな声にて、俺の消え入った意識は無理やり 引き戻されてしまう。 俺は目を開け、声の聞こえた方向を見ると、そこには美しい女性が 立っていた。 その女性にここはどこだと訊ねてみると、ニコッとした微笑みで こう告げてくる。 ―――ここは天国に近い場所、天界です。 そしてその女性は俺の顔を見て、続け様にこう言った。 ―――ようこそ、天界に勇者様。 ...と。 どうやら俺は、この女性...女神メリアーナの管轄する異世界に蔓延る 魔族の王、魔王を打ち倒す勇者として選ばれたらしい。 んなもん、無理無理と最初は断った。 だが、俺はふと考える。 「勇者となって使命に没頭すれば、恵美の事を忘れられるのでは!?」 そう思った俺は、女神様の嘆願を快く受諾する。 こうして俺は魔王の討伐の為、異世界へと旅立って行く。 ―――それから、五年と数ヶ月後が流れた。 幾度の艱難辛苦を乗り越えた俺は、女神様の願いであった魔王の討伐に 見事成功し、女神様からの恩恵...『勇者』の力を保持したまま元の世界へと 帰還するのだった。 ※小説家になろう様とツギクル様でも掲載中です。

処理中です...