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58話 彼女は強かった
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「ねえ、何の話してたの?」
「色々とね……」
僕らは河村と巧を残して僕の部屋に戻った。できれば僕も彼女の勇姿を見ておきたかったけど、流石に観客が3人もいるとなると、彼女も気が気でないだろう。だから2人を僕の部屋で待機させることにした。
「翔太、話聞かせて。」
葵は複雑そうな顔をしていた。
「うん。僕らが別れた後……」
僕は全てを話した。罪悪感でもみ消したい場面もあったが、僕にはその度胸はなかった。話終わった後、葵は僕の隣に座りこう言った。
「お疲れ様。聞いた感じだと、綾ちゃん決心ついたんだね。」
「ああ。でもやっぱり不安感は隠し切れてなかったな。」
恐らく今2人は、自販機のベンチで話し合っている頃だろう。河村の計画ではそうするつもりだと、さっき話を聞いた。2人がどんな雰囲気で会話を交わしているのか、僕には知る由もないが、2人が納得する形で落ち着いたのならあれば他言無用だ。
「翔太あのさ……私にもやってよ。」
「……っ!?」
葵のやつここぞとばかりに……僕が何も言えないって分かってて……
僕は葵の頭に手を乗せ、優しく撫でた。顔全体が火を噴いているのではと疑うほどに熱くなっていた。
「翔太、あのさあんたのそんな顔見たくないんだけど……」
「うっせ……」
沙耶香は薄笑いしながら僕にそう言った。
「綾ちゃんにやったことと同じことして。」
「あ、ああ。」
僕は葵を抱き寄せ、頭を撫でた。葵は嬉しそうに微笑んでいた。
「ごめんな。」
「ううん、自慢の彼氏だなって再確認したよ。そりゃ、こんなことをあの子にやったのかと思ったら、寂しい気持ちもあるけど、困ってる人に手を差し伸べた結果なら、私は誇らしいよ。」
「できた彼女よね。翔太、あんた幸せもんよ! もっと葵ちゃん大事にしなさいよ!」
「母親かお前は……でも、そうだね。」
沙耶香の言葉が、僕の胸に何の突っかかりもなく落ちてきた。そして僕はふと、あることを思い出した。
「僕さ、何が幸せなのか分かったよ。」
「うん。」
葵は僕の顔を一点に見つめて、次に言葉を待っていた。
「僕はさ『葵との何気ない日々』に幸せを感じてたんだ。」
僕はしみじみと噛み締めるようにそう言った。その様子を見て、葵は少し笑っていた。
「何か、翔太らしいね。」
「そうか?」
「そうだよ。色々考えて動くけど、なんだかんだ素直なんだもん。」
「なんか恥ずいんだけど……」
「別に恥ずかしくないよ? 私は凄い嬉しい。あんまりそういうこと言ってくれないからさ。」
葵はようやく満開の笑顔を見せてくれた。僕の一番好きな表情をやっと見られたことが何よりも嬉しかった。
「まったく、あんたたちは人目を憚らずにイチャイチャと……」
沙耶香は呆れたようにそう言った。そしてそのあとようやく勉強に取り掛かろうと、女子2人はテーブルで僕は机に向かってペンを走らせた。
「ただいま。」
「戻ったぞー。」
そのタイミングで例の二人組が戻ってきた。2人ともどこか晴れやかな表情をしていた。しかしその裏に何か事情があるのも、河村の顔を見て察した。
「お疲れ様。よく頑張ったな。」
「翔太――!」
その勢いで河村は僕に抱きついてきた。
「ちょ、綾ちゃん!?」
「辛かったよ……苦しかったよ……」
「頑張ったな。よしよし。」
「翔太まで……どんだけ2人とも仲良いのよ……まあ私も背中さするよ。」
河村は僕の胸の中で温かな何かを溢していた。冷たくなく、何年も心の中で温め続けた一途な想いだった。
「あの2人、あんな仲よかったのか?」
「いつの間にね。でも良いんじゃない? 綾ちゃん、一皮剥けそうね。」
「沙耶香、そんなおばさんみたいなこと言ってたっけ?」
「誰がおばさんよ、失礼ね!」
僕ら3人で河村落ち着くのを待っている間、巧たちは夫婦漫才のような光景を繰り広げていた。この光景を見てカオスといえばそれまでだけど、どこか温かい気持ちにもなる。
「落ち着いたか?」
「うん。もう大丈夫……葵もありがと。」
「ううん。辛い時は一緒に乗り越えるのが、友達だからね。」
「葵……良いやつすぎるよー!」
この様子を見て、僕はとりあえず安堵の気持ちを得た。
「俺は部屋戻るな。」
「私も戻るわね。」
「おお。2人ともありがとう。特に巧はお疲れ。」
「ああ。センキューな。」
そう言って2人は部屋から去っていった。
「勉強できそうか?」
「もちろん。もう私を止めるものは何もないからね! いつまででもできそうだよ!」
なんて逞しいんだろう……まあ、本番はこれからと言うことで。後3日。1日目が濃すぎたなこりゃ。
「じゃ、初めて行こう!」
「おーー!!」
そうして三日間特に何事も起きずに、勉強合宿は幕を閉じた。なんというか、巧は罪な男だと再確認したのだった。
「色々とね……」
僕らは河村と巧を残して僕の部屋に戻った。できれば僕も彼女の勇姿を見ておきたかったけど、流石に観客が3人もいるとなると、彼女も気が気でないだろう。だから2人を僕の部屋で待機させることにした。
「翔太、話聞かせて。」
葵は複雑そうな顔をしていた。
「うん。僕らが別れた後……」
僕は全てを話した。罪悪感でもみ消したい場面もあったが、僕にはその度胸はなかった。話終わった後、葵は僕の隣に座りこう言った。
「お疲れ様。聞いた感じだと、綾ちゃん決心ついたんだね。」
「ああ。でもやっぱり不安感は隠し切れてなかったな。」
恐らく今2人は、自販機のベンチで話し合っている頃だろう。河村の計画ではそうするつもりだと、さっき話を聞いた。2人がどんな雰囲気で会話を交わしているのか、僕には知る由もないが、2人が納得する形で落ち着いたのならあれば他言無用だ。
「翔太あのさ……私にもやってよ。」
「……っ!?」
葵のやつここぞとばかりに……僕が何も言えないって分かってて……
僕は葵の頭に手を乗せ、優しく撫でた。顔全体が火を噴いているのではと疑うほどに熱くなっていた。
「翔太、あのさあんたのそんな顔見たくないんだけど……」
「うっせ……」
沙耶香は薄笑いしながら僕にそう言った。
「綾ちゃんにやったことと同じことして。」
「あ、ああ。」
僕は葵を抱き寄せ、頭を撫でた。葵は嬉しそうに微笑んでいた。
「ごめんな。」
「ううん、自慢の彼氏だなって再確認したよ。そりゃ、こんなことをあの子にやったのかと思ったら、寂しい気持ちもあるけど、困ってる人に手を差し伸べた結果なら、私は誇らしいよ。」
「できた彼女よね。翔太、あんた幸せもんよ! もっと葵ちゃん大事にしなさいよ!」
「母親かお前は……でも、そうだね。」
沙耶香の言葉が、僕の胸に何の突っかかりもなく落ちてきた。そして僕はふと、あることを思い出した。
「僕さ、何が幸せなのか分かったよ。」
「うん。」
葵は僕の顔を一点に見つめて、次に言葉を待っていた。
「僕はさ『葵との何気ない日々』に幸せを感じてたんだ。」
僕はしみじみと噛み締めるようにそう言った。その様子を見て、葵は少し笑っていた。
「何か、翔太らしいね。」
「そうか?」
「そうだよ。色々考えて動くけど、なんだかんだ素直なんだもん。」
「なんか恥ずいんだけど……」
「別に恥ずかしくないよ? 私は凄い嬉しい。あんまりそういうこと言ってくれないからさ。」
葵はようやく満開の笑顔を見せてくれた。僕の一番好きな表情をやっと見られたことが何よりも嬉しかった。
「まったく、あんたたちは人目を憚らずにイチャイチャと……」
沙耶香は呆れたようにそう言った。そしてそのあとようやく勉強に取り掛かろうと、女子2人はテーブルで僕は机に向かってペンを走らせた。
「ただいま。」
「戻ったぞー。」
そのタイミングで例の二人組が戻ってきた。2人ともどこか晴れやかな表情をしていた。しかしその裏に何か事情があるのも、河村の顔を見て察した。
「お疲れ様。よく頑張ったな。」
「翔太――!」
その勢いで河村は僕に抱きついてきた。
「ちょ、綾ちゃん!?」
「辛かったよ……苦しかったよ……」
「頑張ったな。よしよし。」
「翔太まで……どんだけ2人とも仲良いのよ……まあ私も背中さするよ。」
河村は僕の胸の中で温かな何かを溢していた。冷たくなく、何年も心の中で温め続けた一途な想いだった。
「あの2人、あんな仲よかったのか?」
「いつの間にね。でも良いんじゃない? 綾ちゃん、一皮剥けそうね。」
「沙耶香、そんなおばさんみたいなこと言ってたっけ?」
「誰がおばさんよ、失礼ね!」
僕ら3人で河村落ち着くのを待っている間、巧たちは夫婦漫才のような光景を繰り広げていた。この光景を見てカオスといえばそれまでだけど、どこか温かい気持ちにもなる。
「落ち着いたか?」
「うん。もう大丈夫……葵もありがと。」
「ううん。辛い時は一緒に乗り越えるのが、友達だからね。」
「葵……良いやつすぎるよー!」
この様子を見て、僕はとりあえず安堵の気持ちを得た。
「俺は部屋戻るな。」
「私も戻るわね。」
「おお。2人ともありがとう。特に巧はお疲れ。」
「ああ。センキューな。」
そう言って2人は部屋から去っていった。
「勉強できそうか?」
「もちろん。もう私を止めるものは何もないからね! いつまででもできそうだよ!」
なんて逞しいんだろう……まあ、本番はこれからと言うことで。後3日。1日目が濃すぎたなこりゃ。
「じゃ、初めて行こう!」
「おーー!!」
そうして三日間特に何事も起きずに、勉強合宿は幕を閉じた。なんというか、巧は罪な男だと再確認したのだった。
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