カコの住人たち

やすを。

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46話 いじめの真相

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 しかも僕には一つ気付いた事がった。

「紗南は、見た?」

「見てないけど、見たほうがいいよね……。」

「無理にとは言わないけど、見る方を僕は勧めるよ。」

「だよね……。じゃあ、読みますよ。」

僕がそう言うと、紗南は諦めたような表情を浮かべ、三枚の紙を手に取り目を通した。

 そして、司令官から紙を受け取ると、無言で目を通し案の定の反応を見せた。

「ホント……。無茶苦茶頭痛いよ……。これは絶対に割れたね……。」

 苦しそうな顔をしている割には、冗談を言えるらしい。

 本来ならちゃんと訂正を入れるところだが、真っ青な顔色を見ると、そんな気持ちも失せてくる。

 「で、どうだった?」

「……全部思い出した。」

「俺もだ……。隅から隅まで全部な。」

 二人は口を揃えてそう言った。そこで幾つか僕の知りたい情報を聞いた。

「いじめていた人の名前は?」

「一岡龍次。学年は俺らと一緒だ……。」

「何で、いじめたんだ?」

 僕の問いに、俯いたまま、紗南が答えた。

「理由なんて無いよ。」

 昼間に抜ける夏風は紗南の髪を靡かせる。

 髪の隙間から見える紗南の顔には一切の感情が無いように見えた。

「ムカついて、ウザいって思って、殴りたくなる衝動に駆られて。だから殴ったし、暴言を浴びせまくったし、陰口も広めた。」

 紗南はそんな非情な言葉を、当然のように口に出した。

 しかし自然と怒りの感情が出てこなかった。なぜかは全く考え付かないけど、これだけは言える。

「そっか。確かに君たちは酷い事をしたんだ、あいつが自殺に追い込まれるほど。」

 僕はそう言った。

 感情が無い訳じゃない。見せないように押し殺しているだけ。

 紗南が僕の事を理解し始めているように、僕も紗南の感情が自分と似ていると分かっていた。

 僕はふと少し視線を落とすと、紗南の笑う膝が目に入った。

「でも、反省もした。自分たちの心が砕けてしまうほど真剣に。」

 勘違いしてはいけない。彼らが犯した罪は一生消えることは無く、周りから卑下されるべきことなのかもしれない。

 それをとやかく言う資格を紗南と司令官は持ち合わせていない。そう僕は思った。

 でも、人間は失敗して成長していく。成功より失敗が、より人としての経験値は大きい。

 だから、失敗の積み重ねで何倍も素晴らしい人間に生まれ変われる。

「高校に入って、同じ中学の奴らがさ、言いふらしたの。『あいつは殺人犯』とね。それで私たちは孤立した。でも、見捨てないで、真道と同じことを言ってくれる人が、私の友達になってくれた。それだけが……私の心の支えになったん……よね。」

 泣くのを必死に我慢する紗南の姿が、胸に突き刺さった。

 僕は紗南が同情されないように、気を使って取った行動だと思った。あくまで、『私は加害者なんだ。』と、その気持ち強く感じ取れた。

「俺は、ストレスが溜まってたんだ。思春期で親と喧嘩ばかりして、時には暴言も出て。そんな自分に嫌気が差していた。まあ、八つ当たりみたいなもんだな……。」

 僕は司令官から、紗南のような体の反応は見受けられなかった。表情はどこか似通っていて、辛い経験の後の顔をしていた。

 僕は詮索をここまでにしておこうと思った。僕の勝手で二人の精神的苦痛を増やすのも、なんだか気が引けた。

 とりあえず話を本筋に戻すとして、二人の沈み具合はそれぞれの回復を待とうと思った。

「二つ報告がある。」

「どうしたんだよ、いきなり。」

 唐突に、そんな事を言い出した司令官は、右手の人差し指をピンと空に向けた。

「もう一人、ゲームマスターをいじめていた奴がいる。」

 反省しているのか疑うくらい、得意げな顔をしていた。

 しかし僕にはその伸びきった鼻を折れるくらいの、確信を持った情報を持っていた。

「ああ。それなら、友花だろ?」

「何だよ……。気づいてたのかよ……。」

 彼の表情はまさにジェットコースターだった。上がった感情もすぐさま地の底にまで落ちていった。

「二つ目なんだけどさ。これ、教室の中で見つけたぞ。何かしら、関係あるんじゃないか?」

 勢いよく司令官が提示した紙きれ。僕はその中身を見て口角を少し上げた。

「なるほどね。ちょっと紙きれ貸して。」

 ふーん、なるほどね……。

 でも、マスターがこんな簡単な暗号をよこすとは、もうスタミナ切れなのか?

「どれどれ? えっと……、x月yz日、十八、一、十九、七。頭を取れ。だってさ、ってどういう事?」

「まあ、いいよ。とりあえず、僕の後に付いてきて。」

「えっ、もしかして分かったの? 教えてよ‼」

「おい紗南。分かって無いのお前だけだからな……。」

「えっ。嘘でしょ? 司令官も分かったの?」

「勿論だろ。一応司令官だからな。」

「ねえ、殴って良いかな……。」

 紗南は右手を握りしめ、脳天には二本の角が見えたような気がした。

 僕らもそれに対抗するように、『教えてよ』と間髪入れずに言ってくる紗南を無視する、という策をとった。

「行けば分かるから。」

「二人共、けち……。」

 何とでも言え。

 とにかく今は一刻を争う事態だから、しのごの言ってる場合じゃないんだ。

 僕ら三人は、教室を飛び出して僕の目指す場所に向かう。

 笑う二人と、困惑する紗南の対照的な表情が伺えた。
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