46 / 85
46話 いじめの真相
しおりを挟む
しかも僕には一つ気付いた事がった。
「紗南は、見た?」
「見てないけど、見たほうがいいよね……。」
「無理にとは言わないけど、見る方を僕は勧めるよ。」
「だよね……。じゃあ、読みますよ。」
僕がそう言うと、紗南は諦めたような表情を浮かべ、三枚の紙を手に取り目を通した。
そして、司令官から紙を受け取ると、無言で目を通し案の定の反応を見せた。
「ホント……。無茶苦茶頭痛いよ……。これは絶対に割れたね……。」
苦しそうな顔をしている割には、冗談を言えるらしい。
本来ならちゃんと訂正を入れるところだが、真っ青な顔色を見ると、そんな気持ちも失せてくる。
「で、どうだった?」
「……全部思い出した。」
「俺もだ……。隅から隅まで全部な。」
二人は口を揃えてそう言った。そこで幾つか僕の知りたい情報を聞いた。
「いじめていた人の名前は?」
「一岡龍次。学年は俺らと一緒だ……。」
「何で、いじめたんだ?」
僕の問いに、俯いたまま、紗南が答えた。
「理由なんて無いよ。」
昼間に抜ける夏風は紗南の髪を靡かせる。
髪の隙間から見える紗南の顔には一切の感情が無いように見えた。
「ムカついて、ウザいって思って、殴りたくなる衝動に駆られて。だから殴ったし、暴言を浴びせまくったし、陰口も広めた。」
紗南はそんな非情な言葉を、当然のように口に出した。
しかし自然と怒りの感情が出てこなかった。なぜかは全く考え付かないけど、これだけは言える。
「そっか。確かに君たちは酷い事をしたんだ、あいつが自殺に追い込まれるほど。」
僕はそう言った。
感情が無い訳じゃない。見せないように押し殺しているだけ。
紗南が僕の事を理解し始めているように、僕も紗南の感情が自分と似ていると分かっていた。
僕はふと少し視線を落とすと、紗南の笑う膝が目に入った。
「でも、反省もした。自分たちの心が砕けてしまうほど真剣に。」
勘違いしてはいけない。彼らが犯した罪は一生消えることは無く、周りから卑下されるべきことなのかもしれない。
それをとやかく言う資格を紗南と司令官は持ち合わせていない。そう僕は思った。
でも、人間は失敗して成長していく。成功より失敗が、より人としての経験値は大きい。
だから、失敗の積み重ねで何倍も素晴らしい人間に生まれ変われる。
「高校に入って、同じ中学の奴らがさ、言いふらしたの。『あいつは殺人犯』とね。それで私たちは孤立した。でも、見捨てないで、真道と同じことを言ってくれる人が、私の友達になってくれた。それだけが……私の心の支えになったん……よね。」
泣くのを必死に我慢する紗南の姿が、胸に突き刺さった。
僕は紗南が同情されないように、気を使って取った行動だと思った。あくまで、『私は加害者なんだ。』と、その気持ち強く感じ取れた。
「俺は、ストレスが溜まってたんだ。思春期で親と喧嘩ばかりして、時には暴言も出て。そんな自分に嫌気が差していた。まあ、八つ当たりみたいなもんだな……。」
僕は司令官から、紗南のような体の反応は見受けられなかった。表情はどこか似通っていて、辛い経験の後の顔をしていた。
僕は詮索をここまでにしておこうと思った。僕の勝手で二人の精神的苦痛を増やすのも、なんだか気が引けた。
とりあえず話を本筋に戻すとして、二人の沈み具合はそれぞれの回復を待とうと思った。
「二つ報告がある。」
「どうしたんだよ、いきなり。」
唐突に、そんな事を言い出した司令官は、右手の人差し指をピンと空に向けた。
「もう一人、ゲームマスターをいじめていた奴がいる。」
反省しているのか疑うくらい、得意げな顔をしていた。
しかし僕にはその伸びきった鼻を折れるくらいの、確信を持った情報を持っていた。
「ああ。それなら、友花だろ?」
「何だよ……。気づいてたのかよ……。」
彼の表情はまさにジェットコースターだった。上がった感情もすぐさま地の底にまで落ちていった。
「二つ目なんだけどさ。これ、教室の中で見つけたぞ。何かしら、関係あるんじゃないか?」
勢いよく司令官が提示した紙きれ。僕はその中身を見て口角を少し上げた。
「なるほどね。ちょっと紙きれ貸して。」
ふーん、なるほどね……。
でも、マスターがこんな簡単な暗号をよこすとは、もうスタミナ切れなのか?
「どれどれ? えっと……、x月yz日、十八、一、十九、七。頭を取れ。だってさ、ってどういう事?」
「まあ、いいよ。とりあえず、僕の後に付いてきて。」
「えっ、もしかして分かったの? 教えてよ‼」
「おい紗南。分かって無いのお前だけだからな……。」
「えっ。嘘でしょ? 司令官も分かったの?」
「勿論だろ。一応司令官だからな。」
「ねえ、殴って良いかな……。」
紗南は右手を握りしめ、脳天には二本の角が見えたような気がした。
僕らもそれに対抗するように、『教えてよ』と間髪入れずに言ってくる紗南を無視する、という策をとった。
「行けば分かるから。」
「二人共、けち……。」
何とでも言え。
とにかく今は一刻を争う事態だから、しのごの言ってる場合じゃないんだ。
僕ら三人は、教室を飛び出して僕の目指す場所に向かう。
笑う二人と、困惑する紗南の対照的な表情が伺えた。
「紗南は、見た?」
「見てないけど、見たほうがいいよね……。」
「無理にとは言わないけど、見る方を僕は勧めるよ。」
「だよね……。じゃあ、読みますよ。」
僕がそう言うと、紗南は諦めたような表情を浮かべ、三枚の紙を手に取り目を通した。
そして、司令官から紙を受け取ると、無言で目を通し案の定の反応を見せた。
「ホント……。無茶苦茶頭痛いよ……。これは絶対に割れたね……。」
苦しそうな顔をしている割には、冗談を言えるらしい。
本来ならちゃんと訂正を入れるところだが、真っ青な顔色を見ると、そんな気持ちも失せてくる。
「で、どうだった?」
「……全部思い出した。」
「俺もだ……。隅から隅まで全部な。」
二人は口を揃えてそう言った。そこで幾つか僕の知りたい情報を聞いた。
「いじめていた人の名前は?」
「一岡龍次。学年は俺らと一緒だ……。」
「何で、いじめたんだ?」
僕の問いに、俯いたまま、紗南が答えた。
「理由なんて無いよ。」
昼間に抜ける夏風は紗南の髪を靡かせる。
髪の隙間から見える紗南の顔には一切の感情が無いように見えた。
「ムカついて、ウザいって思って、殴りたくなる衝動に駆られて。だから殴ったし、暴言を浴びせまくったし、陰口も広めた。」
紗南はそんな非情な言葉を、当然のように口に出した。
しかし自然と怒りの感情が出てこなかった。なぜかは全く考え付かないけど、これだけは言える。
「そっか。確かに君たちは酷い事をしたんだ、あいつが自殺に追い込まれるほど。」
僕はそう言った。
感情が無い訳じゃない。見せないように押し殺しているだけ。
紗南が僕の事を理解し始めているように、僕も紗南の感情が自分と似ていると分かっていた。
僕はふと少し視線を落とすと、紗南の笑う膝が目に入った。
「でも、反省もした。自分たちの心が砕けてしまうほど真剣に。」
勘違いしてはいけない。彼らが犯した罪は一生消えることは無く、周りから卑下されるべきことなのかもしれない。
それをとやかく言う資格を紗南と司令官は持ち合わせていない。そう僕は思った。
でも、人間は失敗して成長していく。成功より失敗が、より人としての経験値は大きい。
だから、失敗の積み重ねで何倍も素晴らしい人間に生まれ変われる。
「高校に入って、同じ中学の奴らがさ、言いふらしたの。『あいつは殺人犯』とね。それで私たちは孤立した。でも、見捨てないで、真道と同じことを言ってくれる人が、私の友達になってくれた。それだけが……私の心の支えになったん……よね。」
泣くのを必死に我慢する紗南の姿が、胸に突き刺さった。
僕は紗南が同情されないように、気を使って取った行動だと思った。あくまで、『私は加害者なんだ。』と、その気持ち強く感じ取れた。
「俺は、ストレスが溜まってたんだ。思春期で親と喧嘩ばかりして、時には暴言も出て。そんな自分に嫌気が差していた。まあ、八つ当たりみたいなもんだな……。」
僕は司令官から、紗南のような体の反応は見受けられなかった。表情はどこか似通っていて、辛い経験の後の顔をしていた。
僕は詮索をここまでにしておこうと思った。僕の勝手で二人の精神的苦痛を増やすのも、なんだか気が引けた。
とりあえず話を本筋に戻すとして、二人の沈み具合はそれぞれの回復を待とうと思った。
「二つ報告がある。」
「どうしたんだよ、いきなり。」
唐突に、そんな事を言い出した司令官は、右手の人差し指をピンと空に向けた。
「もう一人、ゲームマスターをいじめていた奴がいる。」
反省しているのか疑うくらい、得意げな顔をしていた。
しかし僕にはその伸びきった鼻を折れるくらいの、確信を持った情報を持っていた。
「ああ。それなら、友花だろ?」
「何だよ……。気づいてたのかよ……。」
彼の表情はまさにジェットコースターだった。上がった感情もすぐさま地の底にまで落ちていった。
「二つ目なんだけどさ。これ、教室の中で見つけたぞ。何かしら、関係あるんじゃないか?」
勢いよく司令官が提示した紙きれ。僕はその中身を見て口角を少し上げた。
「なるほどね。ちょっと紙きれ貸して。」
ふーん、なるほどね……。
でも、マスターがこんな簡単な暗号をよこすとは、もうスタミナ切れなのか?
「どれどれ? えっと……、x月yz日、十八、一、十九、七。頭を取れ。だってさ、ってどういう事?」
「まあ、いいよ。とりあえず、僕の後に付いてきて。」
「えっ、もしかして分かったの? 教えてよ‼」
「おい紗南。分かって無いのお前だけだからな……。」
「えっ。嘘でしょ? 司令官も分かったの?」
「勿論だろ。一応司令官だからな。」
「ねえ、殴って良いかな……。」
紗南は右手を握りしめ、脳天には二本の角が見えたような気がした。
僕らもそれに対抗するように、『教えてよ』と間髪入れずに言ってくる紗南を無視する、という策をとった。
「行けば分かるから。」
「二人共、けち……。」
何とでも言え。
とにかく今は一刻を争う事態だから、しのごの言ってる場合じゃないんだ。
僕ら三人は、教室を飛び出して僕の目指す場所に向かう。
笑う二人と、困惑する紗南の対照的な表情が伺えた。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
どうして隣の家で僕の妻が喘いでいるんですか?
ヘロディア
恋愛
壁が薄いマンションに住んでいる主人公と妻。彼らは新婚で、ヤりたいこともできない状態にあった。
しかし、隣の家から喘ぎ声が聞こえてきて、自分たちが我慢せずともよいのではと思い始め、実行に移そうとする。
しかし、何故か隣の家からは妻の喘ぎ声が聞こえてきて…
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
隣の人妻としているいけないこと
ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。
そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。
しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。
彼女の夫がしかけたものと思われ…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる