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45話 最後の絶叫
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しかし、残りの二人がそれを許してくれなかった。
「言っとくけど、もう一人で行動させないからね。必ず私か司令官が見張りで、真道の行動を監視するから。でなきゃ、また一人で突っ走りそうだから。」
「そんな事、もうしないよ。」
「本当かなー。もう、信用できない。」
紗南の言う通りだ。
自分が口酸っぱく言ってきた、『単独行動禁止』を自ら破ったのだ。
だから、彼らの信頼度が低下するのは至極当然だった。
もう単独行動はとらない、それは心に誓う。でも三人で必ず帰還するという約束は守れそうにはなかった。
「これから、とことん見張ってくれよ。」
「言われなくてもそうする。じゃなきゃ、私たちの気が済まない。」
紗南はそう言うと僕の隣に立ち、近い距離間のまま会議を進めた。
「ありがとな。」
僕の言葉は、会話の流れ的に違和感があるかもしれない。
それでも僕の口から出てしまったのは、僕の心に感謝の気持ちが溢れていたからだった。
「どうしたの? 急に。」
紗南は若干、僕の発言に引いたような表情を浮かべた。
しかし、僕はそんなことお構いなしに、ありのままの気持ちを紗南に話した。
「諦めないでくれて、見捨てないでくれて。僕は本当に感謝してるんだ。」
僕の発言を表面的に切り取ってみると、裏切りを働いた、ウザい系登場人物だっただろう。
現に紗南の目に涙が浮かんでいた。
いくら器の大きい人でも、僕の発した言動は容認できない部類の行為だった。
「まあ、真道の事、何となくだけどさ、分かってたからだと思う。日数が浅いうちは、流石に手が出てたよ。」
紗南はにこやか答えた。
紗南の気持ちはもっともで、相手の内側を知らない状態の中、あんな腹立たしさを煽るような言葉を、浴びせられたら誰だって怒るだろう。
自分に置き換えて考えると、もしかしたら会話すらやめてしまう恐れもあった。
「それでも、嫌いにはなっただろ?」
「どうかな……? あんまり嫌って無かったと思うけど……。でも凄い怖かった。あんな無表情で、狂った事言ってくるんだもん。」
まあ、意識してやってたし。
第一、紗南と司令官から見放されてしまえば、僕の勝ちだと思ってたからな。
そりゃ、あれだけの演技は必要だったんだよね。
それが僕の考えだった。
この基地に戻る間、僕は自分の計画がどうしたら成功するのかを考えた。
そして結果が、この大失敗につながった。
「んで、これからどうしたらいいと思う?」
「とりあえず、全二十枚を洗い直して何かしらのヒントを探す。」
僕はそう提案した。僕には他に手立てが無いと思っていた。時間も残されていないし、早く行動に移す必要があった。
「そうと決まったら、行くぞ。」
僕は紗南にそう言った。
もう少し、僕の言動に疑いの目を向けて欲しかった。
二人が道を踏み外すように僕が発言したら、もう修正は不可能である。老後に詐欺被害に遭うようなものだ。
僕はそう考えながら、紗南との会話に対して、懐かしさを噛みしめていた。
その時だった。
「アア…………‼ アア‼」
僕と紗南は、昇降口の少し行った辺りの廊下で話していたのだが、司令官は本部に残っているようで、その方角から低いうめき声が聞こえて来た。
「ねえ、これって……。」
「司令官のだよな……。やばいぞ‼」
走る速度を上げて、声の発信場所へ急行する。
死ぬなよ。
お前が死んだら僕がここまでやった意味が無いんだからな……。
絶対死ぬなよ。
そう心の中で叫びながら、僕は走った。
「お……お帰り……。」
司令官の声はかすれていて、僕は司令官の体の状態が何となく想像できた。
「どうしたんだ、今の声は。」
僕が言うと、司令官は新規三枚のメモを右手で掲げた。
「これを見てたら急に頭痛が来てな……。あっ痛ててて……。」
司令官は頭を押さえながら寝転がっていた。余りの痛みに、こうしていないと耐えられなかったのだろう。
僕は、司令官から三枚のメモを受け取り、改めて眺めた。
僕は、既に記憶の靄が無くなっていた。だから頭痛が訪れない事も分かっていた。
「言っとくけど、もう一人で行動させないからね。必ず私か司令官が見張りで、真道の行動を監視するから。でなきゃ、また一人で突っ走りそうだから。」
「そんな事、もうしないよ。」
「本当かなー。もう、信用できない。」
紗南の言う通りだ。
自分が口酸っぱく言ってきた、『単独行動禁止』を自ら破ったのだ。
だから、彼らの信頼度が低下するのは至極当然だった。
もう単独行動はとらない、それは心に誓う。でも三人で必ず帰還するという約束は守れそうにはなかった。
「これから、とことん見張ってくれよ。」
「言われなくてもそうする。じゃなきゃ、私たちの気が済まない。」
紗南はそう言うと僕の隣に立ち、近い距離間のまま会議を進めた。
「ありがとな。」
僕の言葉は、会話の流れ的に違和感があるかもしれない。
それでも僕の口から出てしまったのは、僕の心に感謝の気持ちが溢れていたからだった。
「どうしたの? 急に。」
紗南は若干、僕の発言に引いたような表情を浮かべた。
しかし、僕はそんなことお構いなしに、ありのままの気持ちを紗南に話した。
「諦めないでくれて、見捨てないでくれて。僕は本当に感謝してるんだ。」
僕の発言を表面的に切り取ってみると、裏切りを働いた、ウザい系登場人物だっただろう。
現に紗南の目に涙が浮かんでいた。
いくら器の大きい人でも、僕の発した言動は容認できない部類の行為だった。
「まあ、真道の事、何となくだけどさ、分かってたからだと思う。日数が浅いうちは、流石に手が出てたよ。」
紗南はにこやか答えた。
紗南の気持ちはもっともで、相手の内側を知らない状態の中、あんな腹立たしさを煽るような言葉を、浴びせられたら誰だって怒るだろう。
自分に置き換えて考えると、もしかしたら会話すらやめてしまう恐れもあった。
「それでも、嫌いにはなっただろ?」
「どうかな……? あんまり嫌って無かったと思うけど……。でも凄い怖かった。あんな無表情で、狂った事言ってくるんだもん。」
まあ、意識してやってたし。
第一、紗南と司令官から見放されてしまえば、僕の勝ちだと思ってたからな。
そりゃ、あれだけの演技は必要だったんだよね。
それが僕の考えだった。
この基地に戻る間、僕は自分の計画がどうしたら成功するのかを考えた。
そして結果が、この大失敗につながった。
「んで、これからどうしたらいいと思う?」
「とりあえず、全二十枚を洗い直して何かしらのヒントを探す。」
僕はそう提案した。僕には他に手立てが無いと思っていた。時間も残されていないし、早く行動に移す必要があった。
「そうと決まったら、行くぞ。」
僕は紗南にそう言った。
もう少し、僕の言動に疑いの目を向けて欲しかった。
二人が道を踏み外すように僕が発言したら、もう修正は不可能である。老後に詐欺被害に遭うようなものだ。
僕はそう考えながら、紗南との会話に対して、懐かしさを噛みしめていた。
その時だった。
「アア…………‼ アア‼」
僕と紗南は、昇降口の少し行った辺りの廊下で話していたのだが、司令官は本部に残っているようで、その方角から低いうめき声が聞こえて来た。
「ねえ、これって……。」
「司令官のだよな……。やばいぞ‼」
走る速度を上げて、声の発信場所へ急行する。
死ぬなよ。
お前が死んだら僕がここまでやった意味が無いんだからな……。
絶対死ぬなよ。
そう心の中で叫びながら、僕は走った。
「お……お帰り……。」
司令官の声はかすれていて、僕は司令官の体の状態が何となく想像できた。
「どうしたんだ、今の声は。」
僕が言うと、司令官は新規三枚のメモを右手で掲げた。
「これを見てたら急に頭痛が来てな……。あっ痛ててて……。」
司令官は頭を押さえながら寝転がっていた。余りの痛みに、こうしていないと耐えられなかったのだろう。
僕は、司令官から三枚のメモを受け取り、改めて眺めた。
僕は、既に記憶の靄が無くなっていた。だから頭痛が訪れない事も分かっていた。
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