『白薔薇』のマリオネット

最終章 僕たちの未来へ☆

ヒカルとカオル 4人の決意

◈茜に元夫の健二から純子の命は無事に取り止めたの連絡が入った。
心底ホッとした茜。
そうなると可愛い娘を傷物にされた怒りがフツフツと込み上げてくる。
茜はもう戸倉には容赦なくやるつもりだった。
実は戸倉一派と事が起きたら、茜の責任を持って、遠慮なく犯人を射撃してもよいとの命令を捜査官皆に出しているくらいだ。
そこにヒカル一人が茜に面会を求めてくる。
そこには茜の予想だにしないとんでも無い要求が。

「そんな事が出来る訳が無いでしょう。
優君とカオル君、綾人君と和希君が戸倉の元に赴くなんて、
それにあなたたちが戸倉の元へ行ったらどんな目に会うと思っているの？
生きて帰れる保証は無いわよ。」

茜はヒカルに対して大声で怒る。
少年たちの要求があまりにも無謀に思えたからだ。
茜と交渉役を買って出たのはヒカルだった。
ヒロがいない今はヒカルがリーダーになるからだ。
ヒカルにとって、恋人だったトモは死に、リーダーだった貴也は行方不明。そしてそれからみんなを引っ張ってくれたヒロは戸倉に捕まり、もしジュンが生きてさえいれば、ジュンの役目だったろうが、ジュンもトモと共に死んだ。
考えて見ればリーダー格がみんないなくなっちゃったんだよなあ。
だから…僕が…

「片瀬さん。実はそこに関してはあまり心配じゃないんです。
僕らは戸倉の事は良く知っています。
戸倉は絶対に僕たちを殺しません。
トモとジュンが殺害された時とは違いますから。
僕らは戸倉にとって貴重な財産です。
だからむやみに傷をつけたりできないでしょう。」

「しかし、殺されなくても、どんな目に会うのか分からないでしょ！
警官の町山さんにあのような残虐な事をする異常者なのよ。
絶対に酷い目に会うわよ！」

「………でしょうね。おそらくは再調教の名目で…厳しいSM調教を受ける事にはなるでしょう…」

「だったらヒカル君。あなたが止めなさい。
あなたは友達がそんな風にされても、平気なの？」

茜のその一言にヒカルは顔色を変えた。
そして全身を震わせながら、ヒカルの瞳からは、ポロポロの涙が溢れ出した。
ヒカルは唇を震わせながら、茜を火を吹くような激しい視線を向けて、絶叫する。

「平気な訳が無いじゃ無いですか！
僕らはずっと白薔薇でマゾ奴隷として調教されて来たんです！
だから…みんながどんな調教を受けるか？肌身に染みてる。
本当は…本当は…僕だけが戸倉の元に…行きたい…
でも…優、カオル、綾人、和希に残ったみんなを任されたんだから、やるしか無い。
それにたった一人じゃ戸倉は満足しない。
でもヒロを合わせた5人入れば、戸倉はヒロの特別調教は止めてくれる。
そこは優たちが戸倉に交渉してくれるから！
今のままだと、ヒロは気が狂うまで調教されて、廃人になってしまうんです。
でも4人が行けば、間違い無くヒロは救われるんです…！」

「どうして..分かるの…そんな事が？」

「僕たちには…分かるんです…そして…白薔薇にいた…僕たちだけが…分かるんです…」

「でもあなた方はどうやって戸倉の元に？
戸倉の居場所の見当なんかつかないでしょ？」

「それは大丈夫です。なぜなら戸倉はここも見張っていますから。
4人が赤坂東署から出かけて歩いているだけで、直ぐに攫って連れて行ってくれますよ。
そしてそこにヒロは必ずいます。」

「でも…でもあなた方それからどうするつもりなの？
もう逃げられないわよ。」

「………貴也が来ます。必ず来る。それは間違い無いです。」

「貴也君が？でも、貴也君がいくら強くても、あなた方が人質に取られたら、貴也君も手が出せないでしょう。
どうするつもりなの？」

するとヒカルは不思議な笑みを浮かべた。
まるで貴也その者、本人のように。

「貴也は僕らが人質に取られていたといても、絶対に戸倉には従いません。必ず戦います。
それは僕らみんなが分かっています。
それに戸倉は僕らの命を人質にする事だけは有りません。
僕らが白薔薇のマリオネットである限り。
絶対に無いんです。」

茜は不気味なものをヒカルに感じた。
それは戸倉もそうだし、逃走中の貴也にも言える事だが、何か白薔薇に関わるものだけに合い通じるものが有るように感じるのだ。

茜はヒカルの要求を渋々ながら了解する。
私の全責任に置いて…

◈カオルは村雨の見舞いにきていた。村雨は足を撃たれて、出血多量の重体だったが、最近はようやくベッドから身体を起こして話が出来る様になったのだ。
ただ村雨は顔をしかめて、カオルの話を聞いていた。

「カオルたちが戸倉の元に？
そいつは危険すぎるねえ。
やめた方がいいんじゃないかい？」

「でも今のままではヒロは狂わされるまで、調教されます。
僕らはそれだけは止めないといかんのや。
もうトモやジュンの悲劇は見たくない。
そう思っとります。」

「はぁ…まあ…戸倉はあんたら4人が行けば、おそらくはヒロの調教は、止めてくれるだろうねえ。でもカオルもまた調教される事になるんだよ。
それでもいいのかい？」

「まあ…僕らは元々、マゾやから、なんとか耐えれる思うてます。
それに貴也が来てくれるのは間違いないやろし。」

「そうだねえ…。多分貴也は来るしそこはアタシも心配してないけど…アタシの懸念は…貴也が戸倉に勝てるのかい？
戸倉は底知れない不気味な奴だからねえ。」　

「そこは貴也を信じるのみやけど、もし貴也が敗れたら…
僕らはまたマゾ奴隷やな…。
でも…貴也を…信じてますよ。」

「ふー。まあ…カオルはこうと決めたら引かないから、もうこれ以上は言わないが！
それで白薔薇の衣装を着てるんだね。
戸倉に攫わせる為に。」

カオルは白薔薇時代の衣装。
白いシャツに黒いショートパンツ。そして白いハイソックスにローファーを履いていた。
首輪と枷までは嵌めてはいないが。

「さすがに村雨様には分かるんやね。『笑』
実は村雨さまにはお願いしたい事があって。」

「うん。なんだい？アタシに出来る事があればなんでもいいよ。」

「はい。実はヒカルが残った4人ミチル、風太、ソラのリーダーになって、警察との交渉やメディアとの対応もヒカルに任せるんやけど、今まではヒロに任せていたから、ヒカルも結構困る事もあるやろうなと思って。
村雨様には色々ヒカルの為に知恵を貸してやってもらいたいんや。」

「…ほう。アタシにヒカルの軍師になってやれと言う事だね。それは構わないが、なんでアタシだい？」

「村雨様は僕らと同じで、白薔薇の事をようご存知の人です。
ヒカルには一番の助言者になってくれるやろなと思うて。」

「分かった。アタシもいくらでも助けるよ。ただアタシは病院のベッドで歩けないから、あくまでもスマホを使っての相談になってしまうけどねえ。
ただし一つだけ、約束だよ。」

「約束？なんです？」

すると村雨はカオルの頬を優しく撫でて語りかける。
そして村雨の瞳には涙が浮かんでいた。

「いいかね。必ずヒロを取り戻して無事に戻る事。
カオルだけじゃなくて、ヒロ、優、綾人、和希、そして貴也までみんな揃って元気な顔をアタシに見せる事。
分かったかい❓」