非凡人間の日常

おしゅれい

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アホ感染注意報5

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ーーしーちきんサイド
「にょーん。話が変わるけどさー」
 気の抜けた声でフィッシングが話に割り込んでくる。
「使い魔って知ってるかにょ?」
「ほんといきなりだな。何の話?」
「この前読んだ本に書いてあったにょ。なんとなく気になったにょ」
「な……なんとっ!フィッシングが本を読んだだと……っ!?」
「失礼にょっ! おれだって本くらい読むにょ!?」
「使い魔って確か、自分を呼び出した主に仕える魔物だよね」
 ニコルの答えになぜかフィッシングがえへんと誇らしげに「正解にょ」と言った。
「ふーん? 使い魔ねえ」
「それで、使い魔がどうしたんだ?」
「あれは、なんというか、びみょーだにょ。猫のおれから言わせると人生縛られっぱなしでつまんないにょ。もっと自由になれって思うにょ」
 妙に語り出すフィッシング。この反応はきっと、読んだ本がつまらなかったのだろう。
「おいおい、何の話しだしたのかと思いきや……本に怒ったって仕方ないぜ」
「使い魔……小さな祠……」
「どした? ニコル。なんか言ったか?」
「あ……ううん。何でもないよ」
「そう? なら良いけど」
 なんだかんだ話しながらも結構歩いたようで、気が付けば山のふもとに辿り着いていた。
「……。何者かの気配を感じる。誰かいるね」
 不意に立ち止まり、ニコルが呟く。
「まじか……こんなところにいる人なんて……」
「あぁ……山火事を起こしている犯人の確率が高いな」
 オレらは顔を見合わせると、こくりと頷いて走り出した。
「よしっ! 急ごう!!」
(今度こそ捕まえてみせる……!!)

ーー?サイド
 行き場をなくした故の苛立ちや虚無感、寂しさとかが混ざり合い、抑えきれず吐き出してしまう。本当はこんなことしたくないんだって、自己嫌悪に陥って罪悪感に潰されそうになってもどうしても自分の行動を止めることが出来ない。
(誰かが叱ってくれたら、きっとこんなことにはなっていなかっただろう。誰かがオレに、温かい言葉をかけてくれれば……)
 誰かが誰かがと、どうしようもない思考に囚われてはまた、感情に反応した力がせぐり上げてくる。
「助けて……苦しい……」
 絞り出した声は誰にも届かない。オレの声を聞くヒトはもういなくなったんだ。
 ヒトのために生まれてきたのにヒトに忘れられて……こんな惨めな思いをし続けるのは死よりも辛い苦痛かもしれない。
(もういっそ……誰か……)
「やめろ……っ!!!」
「……っ!?」

ーーユーリサイド
「っ!?」
 山に辿り着き、地上に足をつけようとした時、目の前を物凄い速さで何かが横切っていくのを感じ、足を止める。通って行った方向に顔を向けると、体の周りにふわふわと火の玉を浮かべている少年の姿が目に入った。
(まずいっ……早く止めないと!!)
 火の玉を放つ少年。
(駄目だ……! 間に合わない!!)
 そう思った瞬間、木の陰から誰かが飛び出す。そこにいたのはしーちきんだった。
「……! 危ないっ……!!」
 慌てたのもつかの間、少年の放った火の玉はしーちきんにぶつかると、音もなく消えてしまった。
「えっ……」
 しーちきんの目の前にはとろろが持っていた刃と同じように、光でできているような透明で神秘的な盾があった。
「ふぃー危なかった……。間に合って良かったぜ」
「す、すごい!」
 俺が駆け寄ると、しーちきんは得意げに笑った。
「なかなか強い魔力だったけど……まぁオレにかかればどうってことはないよ」
「え……あ……」
 呆然と佇んでいる少年をちらりと見てしーちきんが言葉を続ける。
「ところでこいつ、何者なんだ? ニコル、なんとなく分かってきたんだろ?」
「うん、まあね。さっきの使い魔の話を聞いて思い出したよ。この場所にまつわる『小魔神』の話」
「しょ、しょーまじん? 何だそれ?」
 聞き慣れない言葉にこの場にいた皆が首を傾げる。
「小さい魔力を持ったカミサマ。昔、人が自分たちの願いを叶えるために造った人工的なカミサマのこと。まあ、カミサマっていっても世界を創り上げたりーとか、そういう大それたものではないけどね」
「ふーん」
「てことはさ、誰かがこいつに山燃やせーって言ったのか?」
「違うよ」
 少年は俯き、ぽつりぽつりと喋り出す。
「怖かったんだ……皆に忘れられて……そしたら自分には価値がなくなるんだって……」
 少年の声は酷く震えていた。
「こんな思いが続くくらいならいっそ消してほしかった。オレを造った……ニンゲン達の手で。悪いことをすれば、誰かがオレを処分してくれるような気がしてた」
 少年の声を聞きながら、俺は自分の羽を見る。
(この人は……人間の自分勝手な理由で生まれて、訳も分からないまま苦しんでいるんだ……)
 そりゃあ辛いよな、と心の中で呟く。
(俺は……)
 気にしたことがなかった。妖怪とかとも共存しているこの街では羽があったって別に怖がられることもなかったから、自分自身のことで悩むことなんてないし。そもそも生まれた時のこと自体昔のことだし覚えていない。
 何のために生まれてきたのかとか、造り手の顔だとかも知らない。
(それって……淡泊なのかな……?)
 顔を上げるとれい兄と目が合った。れい兄は今何を考えているんだろうか。
「……」
 場に沈黙が走る。
 不意にしーちきんが少年の額にでこピンをする。
「こーら! 流石に山燃やすのは良くないだろ」
 沈黙を破り、いつもの明るい声で笑うしーちきん。つられたようにとうがらしととろろが悪戯っぽく笑う。
「そーだそーだ! 燃やすならハゲそうなオヤジの頭にでもしとけ!」
「さっぱりするぞー」
「にょーん。そんなことしたらオジサンの頭が大惨事にょ。枯れそうながらもなんとか残り少ない毛を保ってるオジサンが可哀想にょ」
「何の話だよ……」
 呆れてつい笑ってしまう。こんな時でも自分のペースを保っていられる正義のヒーロー隊って結構凄いのかも。
(……いや、アホなだけだな)
「……怒らないの?」
 少年は驚いたように言った。
「んー、山が燃えた時は怒ってたけど、今はもう怒ってない」
「過ぎたことにあーだこーだ言ってても仕方ないだろ?」
 そう言って少年に向かって笑ってみせる正義のヒーロー隊。良い人たちなんだなと素直にそんなことを思う。
 しーちきんは少年のすぐ目の前まで歩み寄り、言った。
「寂しかったろ? ……もうこんなことしない?」
 こくりと頷く少年を見て満足げに「よろしい」と言って少年の頭をわしゃわしゃと撫でる。
「!! ずるいにょ!! おれも撫でてほしいにょ!!」
「はいよーしよーし。フィッシングは今日も猫だなー」
 不満そうにしていたフィッシングをとうがらしが撫でる。
「何やってんだか」
「んっ何? ユーリも撫でてほしいの?」
 ぽつりと呟いた言葉にとろろが反応する。
「そんなこと一言も言ってない!」
「もーそんなこと言ってほんとは撫でてほしいくせに素直じゃないなー」
「あーもううるさいなあっ!……ってこっち来んな!!」
 飛びついてくるとろろを回避していると、とても微笑ましそうにして俺らの様子を見ているれい兄とニコルが目に入った。
「なんか、良いね。若いって感じ」
「若いって……お前、幾つなんだ?」
「……幾つに見える?」
「二十とかそこらへん」
「じゃあそれで」
 ニコルの答えに「ふーん」と呟くれい兄。……れい兄、それで良いのか。もはや騙されやすいを通り越してチョロい子だよ……。
「なぁ」
 ふとしーちきんが少年に話しかける。
「お前もこっちおいでよ。こんなところで引きこもってないでさ。下来た方が絶っっ対楽しいって!」
「え……オレ、祠から離れるわけには……」
 少年の言葉を聞くと、とうがらしが少し大げさ気味に肩を落とし、溜息を吐いた。
「そんなかたっくるしい縛りに縛られ続けてりゃあ楽しいもんも見つけられなくなるぞー。こんなところにいたら美味いもんも食えないし面白い人とかも見つけられないだろ? 俺だったらヤだね、そんなの。耐えらんない」
「そ、そうかな……?」
「そーだよー。今度とびっきり美味いたい焼き奢ってやるって。ユーリが言ってた」
 とうがらしが俺を見てにやりと笑う。こいつ……人の金で好き勝手言いやがって……!
「勝手なこと言ってんじゃない。買わないからな」
「ぶーケチー」
「ところでお前さ、名前なんていうの?」
 とろろの問いかけに少年が困ったような顔をする。
「名前……ないんだ」
「そうなの? じゃああれで良くない? さっき言ってたえーっと……なんだっけ。しょ、しょー……なんちゃら」
「小魔神ね」
「そう! それ! あ、でも、ショウマジンだとなんか堅苦しいな」
 「うーん……」と唸るとろろにとうがらしが言う。
「ショウマで良くね?」
「ショウマ……? オレの名前?」
「ショウマ……うん! 良いね! 今日からお前はショウマだ!」
「よし! ショウマ! オレらについてこい! 外にある楽しいこといーっぱい教えてやるよ!」
 正義のヒーロー隊は互いに顔を見合わせ、楽しそうに笑い、少年の反応も待たずに手を取り走り去って行く。嵐のように去って行ったというか、正義のヒーロー隊という存在自体が嵐なんじゃないかと思う。
「ま、一件落着だね」
「俺らも帰りますか」
 残された俺らも顔を見合わせ、ついつい笑ってしまう。なんだかんだずっと正義のヒーロー隊に振り回されていた気がするな。
「でも流石だよね。正義のヒーロー隊さ。見ず知らずの全くの初対面にもさ、あのペースで巻き込んでっちゃって。あの人も大変だろう、あんなうるさいのに気に入られたら。あいつらずっと付きまとってくるし」
「ふふっ。ユーリは素直じゃないね」
 ニコルが微笑みながら俺を見る。
(あ……初めて名前呼んでくれた)
 ニコルはいつも一歩下がって俺らのことを見てるって感じだから距離を感じてしまうところがあったけど……こうやって名前を呼んでもらえると少し距離が縮んだようで嬉しいな。
「本当は安心してるんでしょ。あの子が正義のヒーロー隊に拾われてさ」
「そ、そんな事はっ」
「俺は良かったと思ってるなー。あいつらといれば楽しそうだし」
 全く、れい兄はほんと素直だよな。
「まあ……退屈はしないよな」
「なあ、何かお腹空かね?」
 不意にれい兄が立ち止って俺らを見る。言われてみると確かにお腹が空いたような気がする。……というかめちゃくちゃお腹が空いている。
「今日一日中あいつらに振り回されてたからなー。お腹空いたー!!」
「じゃあ、おっちゃんとこの屋台寄ってこうぜ。ニコルも来る?」
「良いね。行くよ」
 本当、今日は色んなことがあって疲れたな……。
(でも悪い疲れではないかな)
 くたくたに疲れ切った体には何ともいえない充実感があって、少しだけ心地が良い。
 二人はどうなのかと思いれい兄とニコルの顔を見るも、二人とも全く疲労した様子はない。むしろ余裕そうだ。
(な、なんで二人とも疲れないの!? まるで俺が体力ないみたいじゃん……)
「ん? どしたユーリ。疲れたのか?」
「おぶってあげようか?」
 ニコルとれい兄が俺の方を見て優しげに言う。
「い、いいっ!!」
(子供じゃないんだから……っ!!)
 恥ずかしくなってきて、少し早足で歩く。ニコルとれい兄はのんきに俺の後ろについて歩いた。
(……ショウマ、か)
 俺はあの人みたいに悩むほど、自分自身のことが理解できていない。
 何のために造られたとか、本当は少し悩むべきなのかもしれないけど、今はこの幸福感と充実感だけをただかみしめていたいな。
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