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13 三人の男
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侯爵夫妻と別れ、暫くはソフィー様とお話ししていたが、彼女は主催者側の人間なので、何かと忙しいだろう。
「まだご挨拶しなければいけない方がいらっしゃるのでは?
私の事は心配なさらないで」
「そう?では、少しだけ離れるけど、なるべく早く戻ってくるわ。
出来るだけお兄様と一緒にいてね」
去って行くソフィー様の後ろ姿を見送る。
私の友人や家族は、皆んな私に対して過保護な気がする。
そんなに頼りなく見えるのかしら?
ホールの中央でダンスを楽しむ人々をぼんやり眺める。
クルリとターンする度にふわっと広がるカラフルなドレスの裾を見ていたら、お兄様がポツリと呟いた。
「メリッサには良い友達が居たんだな」
友人を褒められ誇らしい気持ちになる。
「ええ。本当に優しくて素敵な方なんです。
ソフィー様とは、スタンリー公爵家とのご縁が無ければ仲良くなれなかったと思うので、その点だけは感謝しているの」
私が笑って言うと、お兄様は複雑な表情で頷いた。
お兄様は私が子爵家の犠牲になって婚約したと思って、後悔している。
私が自分で受けると決めた縁談だったのだから、もう気にしなくて良いのに。
お兄様がドリンクを取りに行ってくれると言うので、私はバルコニーで待つことにした。
衆目を集める事に少々疲れてしまったのだ。
ホールの熱気から離れてバルコニーへ出ると、夜風が心地よく頬をくすぐる。
晴れた夜空に沢山の星が瞬く様子を眺めていると、背後から複数の足音が聞こえた。
振り返ると見覚えの無い三人の令息が、ニヤニヤと下卑た笑いを浮かべながら、こちらに近寄って来た。
その手にはワイングラスが握られており、少し足取りが不安定。
酔っているのだろうか。
まさか、こんな所で不埒な真似はしないだろうが・・・嫌な予感がした。
「アンタがハミルトン子爵令嬢か。
思った以上に地味だな。
これでは聖女に心変わりするのも当たり前だ」
「スタンリー様も、こんな女のどこが良かったのか?」
「体じゃないか?既に公爵邸で一緒に住んでいたらしいぞ。
同衾していたって噂もあるくらいだから、何も無いって事はないだろう」
「今度俺達の相手もしてくれよ」
男達は口々に失礼で下品な言葉を投げかけて来て、非常に不愉快である。
アルコールで理性が飛んでいるらしい。
それにしても、そんな不名誉な噂まで立っていたのか。
さすがに腹立たしいわ。
彼等は知らないのだろうが、私は大抵の男なら攻撃魔術で撃退することが出来るのだから、怖がる必要は全く無い。
しかし、ソフィー様の家の夜会で騒ぎを起こす訳にはいかない。
私は、彼等をどう黙らせるべきか、考えあぐねていた。
「そこのお前達!何をしている」
突然後ろから、低く鋭い声に呼び掛けられて、男達はビクリと肩を震わせた。
彼等が振り返った先にいたのは、怒気を纏ったウェイクリング様だった。
目が合った者を凍らせてしまいそうな程の冷たい視線を公爵家嫡男から投げかけられ、酔いもすっかり覚めてしまった男達は、尻尾を巻いて逃げて行った。
「大丈夫か?」
「ええ、ありがとうございます。
もし手を出されそうになったら魔術で反撃しようと思ったのですが、出来れば騒ぎにしたくなかったので、少し様子を見てました。
穏便に解決して下さって助かりました」
にっこり笑って答えると、何故か顔を顰められた。
「君はいつも自分一人で解決しようとする」
「そんな事もないですよ。
いつも周りに助けられてばかりです」
「メリッサ?」
そこへ漸くお兄様が戻って来た。
「お兄様、こちらリチャード・ウェイクリング様です。
学生時代にお世話になったの」
ウェイクリング様を紹介する。
お兄様は更なる高位貴族の出現に、緊張が増したようで、少し顔色が悪い。
私は二人が挨拶を交わしている間に、お兄様が持って来てくれたワインで喉を潤した。
「ハミルトン嬢と久し振りにお話ししたいので、暫くの間エスコートを代わって頂けませんか?」
ウェイクリング様の言葉に、お兄様は戸惑った様子だった。
元貧乏子爵家が侯爵家の夜会に招待される事など、なかなか無い。
良い機会なので、お兄様も私から離れて社交に精を出すべきではないか。
上手く行けば、お嫁さんが見つかるかもしれないし。
私はウェイクリング様の有り難い申し出を受けるようにお兄様を促した。
「まだご挨拶しなければいけない方がいらっしゃるのでは?
私の事は心配なさらないで」
「そう?では、少しだけ離れるけど、なるべく早く戻ってくるわ。
出来るだけお兄様と一緒にいてね」
去って行くソフィー様の後ろ姿を見送る。
私の友人や家族は、皆んな私に対して過保護な気がする。
そんなに頼りなく見えるのかしら?
ホールの中央でダンスを楽しむ人々をぼんやり眺める。
クルリとターンする度にふわっと広がるカラフルなドレスの裾を見ていたら、お兄様がポツリと呟いた。
「メリッサには良い友達が居たんだな」
友人を褒められ誇らしい気持ちになる。
「ええ。本当に優しくて素敵な方なんです。
ソフィー様とは、スタンリー公爵家とのご縁が無ければ仲良くなれなかったと思うので、その点だけは感謝しているの」
私が笑って言うと、お兄様は複雑な表情で頷いた。
お兄様は私が子爵家の犠牲になって婚約したと思って、後悔している。
私が自分で受けると決めた縁談だったのだから、もう気にしなくて良いのに。
お兄様がドリンクを取りに行ってくれると言うので、私はバルコニーで待つことにした。
衆目を集める事に少々疲れてしまったのだ。
ホールの熱気から離れてバルコニーへ出ると、夜風が心地よく頬をくすぐる。
晴れた夜空に沢山の星が瞬く様子を眺めていると、背後から複数の足音が聞こえた。
振り返ると見覚えの無い三人の令息が、ニヤニヤと下卑た笑いを浮かべながら、こちらに近寄って来た。
その手にはワイングラスが握られており、少し足取りが不安定。
酔っているのだろうか。
まさか、こんな所で不埒な真似はしないだろうが・・・嫌な予感がした。
「アンタがハミルトン子爵令嬢か。
思った以上に地味だな。
これでは聖女に心変わりするのも当たり前だ」
「スタンリー様も、こんな女のどこが良かったのか?」
「体じゃないか?既に公爵邸で一緒に住んでいたらしいぞ。
同衾していたって噂もあるくらいだから、何も無いって事はないだろう」
「今度俺達の相手もしてくれよ」
男達は口々に失礼で下品な言葉を投げかけて来て、非常に不愉快である。
アルコールで理性が飛んでいるらしい。
それにしても、そんな不名誉な噂まで立っていたのか。
さすがに腹立たしいわ。
彼等は知らないのだろうが、私は大抵の男なら攻撃魔術で撃退することが出来るのだから、怖がる必要は全く無い。
しかし、ソフィー様の家の夜会で騒ぎを起こす訳にはいかない。
私は、彼等をどう黙らせるべきか、考えあぐねていた。
「そこのお前達!何をしている」
突然後ろから、低く鋭い声に呼び掛けられて、男達はビクリと肩を震わせた。
彼等が振り返った先にいたのは、怒気を纏ったウェイクリング様だった。
目が合った者を凍らせてしまいそうな程の冷たい視線を公爵家嫡男から投げかけられ、酔いもすっかり覚めてしまった男達は、尻尾を巻いて逃げて行った。
「大丈夫か?」
「ええ、ありがとうございます。
もし手を出されそうになったら魔術で反撃しようと思ったのですが、出来れば騒ぎにしたくなかったので、少し様子を見てました。
穏便に解決して下さって助かりました」
にっこり笑って答えると、何故か顔を顰められた。
「君はいつも自分一人で解決しようとする」
「そんな事もないですよ。
いつも周りに助けられてばかりです」
「メリッサ?」
そこへ漸くお兄様が戻って来た。
「お兄様、こちらリチャード・ウェイクリング様です。
学生時代にお世話になったの」
ウェイクリング様を紹介する。
お兄様は更なる高位貴族の出現に、緊張が増したようで、少し顔色が悪い。
私は二人が挨拶を交わしている間に、お兄様が持って来てくれたワインで喉を潤した。
「ハミルトン嬢と久し振りにお話ししたいので、暫くの間エスコートを代わって頂けませんか?」
ウェイクリング様の言葉に、お兄様は戸惑った様子だった。
元貧乏子爵家が侯爵家の夜会に招待される事など、なかなか無い。
良い機会なので、お兄様も私から離れて社交に精を出すべきではないか。
上手く行けば、お嫁さんが見つかるかもしれないし。
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