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22 専属護衛

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事件から暫く経ったある日、テオに呼び出されて彼の執務室へ入ると、そこにはテオと、デニス兄様と、もう一人。
あの事件の時にテオと一緒に助けに来てくれた、黒い騎士服の男性がいた。

「先日の事件を受けて、エルザに専属の護衛を派遣しようと思う」

「はぃ?私、まだ正式な婚約者では無いのですよ?」

「だが、候補はエルザ一人だけだし、実質婚約者みたいなもんだから。
国民みんなそう思っているよ」

え?初耳ですけど?

「エルザ、実際には候補に過ぎなくても、周囲がお前の事を婚約者だと思っている時点で狙われる可能性はあるんだ」

珍しく、兄様がテオの提案に賛同している。
なんだか、益々外堀が埋まってしまいそうな予感もするが、今回みたいな事があれば最悪の場合、テオの身も危険に晒す事になるかもしれない。
それは私にとっても本意では無い。

「・・・・・・分かりました」

私が了承の意を示すと、テオの背後に控えていた黒い騎士服の男性が前に進み出る。
年齢は多分、テオやデニス兄様よりも上。
ユルゲン兄様と同じ位だろうか。

胸に片手を当てて頭を下げた彼は、親しみ易い笑みを浮かべた。

「私がエルザ様の専属護衛になります。
マーカス・リドゲートと申します。
どうぞ、マーカスとお呼び下さい」

「あ、リドゲート騎士団長の?」

「はい、次男です。
子供の頃、父に連れられて辺境伯領にお邪魔した事もあるのですよ」

そう言われて、マーカス様の顔を覗き込む。
精悍な顔立ちに見覚えは無いが、騎士団長が御子息を連れて来た事はなんとなく覚えている。

「マーカス様・・・」

「敬称はつけなくて結構です。
私は貴女に仕える身ですので」

「マーカス。
もしかして、私と手合わせをした事がありますか?」

「はい!!
覚えていて下さったのですね。
光栄だなぁ。
あの時は実践形式の手合わせで、四歳も年下の貴女に負けてしまいました」

恥ずかしそうに笑うマーカスを見て、俄に記憶が蘇って来た。
あの時は確か、正統派の剣術で向かって来たマーカスに対して、私は上着を顔面に投げ付けて、視界を奪った隙に足払いをかけて勝利したんだった。
私ったら、子供の頃から似たような汚い手を使っているなぁ。

「あの時はごめんね。
卑怯な手を使って」

「いいえ、とんでもない。
小さな貴女に『実践ではなんでも有りだ。負けたら命が奪われる。どんな手を使っても勝て』と言われて、私は目が覚める思いでした。
あの時の貴女は凛として美しかったなぁ。
それで私は貴女のファンになったのです。
専属護衛になれて、とても嬉しいです」

「マーカス、お前・・・、そんな事一言も言ってなかったじゃ無いか!」

この話はテオにとっても初耳だったらしく、鋭い視線でマーカスを睨んだ。

「言ったら専属に任命してくれないでしょう?」

怒気を向けられても全く悪びれないマーカスに、テオは呆れた様に溜息をつく。

「・・・・・・まあ良い。
マーカス以上に使い勝手が良い人間もなかなか居ないしな。
エルザの安全が第一だ」

「使い勝手が良い・・・とは?」

仕事が出来るとか、強いとかじゃなく、使い勝手が良いってどういう意味だろう?

「私は騎士でもありますが、今までは王家の影としての仕事をしていました。
だから、女性同士のお茶会などのお側に侍るのが難しい場所でも、人知れずお護りする事が出来ます。
実は、影としてエルザ様に付いた事もあるんですよ」

「えっっ!?
もしかして私、知らない内に見張られてたんですか?」

サラリと暴露された衝撃の新事実に、テオに胡乱な目を向ける。
私を護る為なのかもしれないが、気付かぬ内に監視されていたなんて、気分の良い物じゃ無い。

「いや、見張ってたんじゃなくて、見守らせてたんだよ。
それに、常にじゃないよ?
僕とデニスが公務で学園に行けない時とか、王宮内の移動中に側妃に出会わない様にとか、心配な時にだけ付けてたんだ」

「それにしたって、せめて言ってくれれば良かったのに・・・」

「ごめん。束縛してるみたいで、嫌がられるかと思って」

「無断でやられる方が嫌ですよ!!
まあ、もう済んだ事なので仕方ないですけど。
しっかり反省して下さい」

「・・・・・・はい。ごめんなさい」

(狡いよなぁ)

しょんぼり顔のテオを見ると、つい許してしまいたくなるのだ。
可愛いって得だね。

「もしもテオフィル殿下に愛想を尽かす事があれば、私が次の婚約者に名乗り出ます」

「「お前、マジでふざけんな」」

勢い良く手を上げたマーカスに、兄様とテオが声を揃えて牽制した。

「冗談ですってば」

この前助けてくれた時とは印象が違って、随分とチャラいと言うか、軽いと言うか。
きっとこっちが素なんだろうな。
悪い人では無いと思う。多分。


ファンとか言ってくれるのは嬉しいのだけれど、なんだか面倒な人が増えたような気がする。
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