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16 彼女が選んだルート
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あっという間に入学から約二年が過ぎ、もうすぐ私は三年生に進級する。
テオと兄様は最終学年になるので、一緒に学園に通えるのも後一年だけだと思うと、少し寂しい。
ドロテーア達は、入学式の時以来憎しみを込めた目で私を睨んで来る。
実際に何度か接触を図ろうともしていたみたいだが、毎回テオやデニス兄様に阻まれており、特に危害を加えられたりはしなかった。
私はユリアを始めとした新しい友人達と平和に学園生活を送っている。
だが、少しだけ気掛かりなのは、乙女ゲームのシナリオが今どうなっているのかと言う事。
テオとユリアは入学してすぐの頃、私を通して知り合いになり、二人で会話を交わす事もあるみたいだ。
ユリアには、私とテオの婚約は決定では無いし、テオが希望すればいつでも解消出来ると説明したのだが・・・・・・。
二人の関係は知り合いの域を脱していないし、お互いに惹かれあっている様子も無い。
ユリアは一体、どのルートを進もうとしているのだろうか?
普段は、数人の女友達と共に食堂でランチを食べているのだが・・・。
ある日のお昼休み、私はユリアを呼び出して、食堂で購入したランチボックスを片手に裏庭へと向かった。
二人きりのランチに誘ったのは、勿論『恋バナ』をする為だ!
花壇に囲まれた小さなガゼボの周辺には、私達以外には誰もいない。
女の子同士、秘密の話をするには絶好のシチュエーション。
ピクニック気分で屋外でランチを取るにはまだ肌寒い季節なのだが、その日は柔らかい日差しが降り注ぎ、爽やかな風がフワリと花の香りを運んでくる。
なかなか気持ちの良い気候だった。
「ユリアはテオフィル様の事をどう思う?」
ランチボックスの中の豪華なサンドイッチに手を伸ばしながら、早速本題に入る。
「テオフィル殿下ですか?
文武両道の素晴らしい王子様ですわよね!
エルザと並んでいる姿はとってもお似合いで、本当に素敵なカップルだと思います!
テオフィル殿下ならば、きっと私の大好きなエルザを護ってくれると思うので、安心してお任せ出来ますわ」
キラキラした真っ直ぐな瞳で、私も含めて褒められてしまった。
『大好き』と言ってもらえて嬉しいけれど・・・・・・。
思ってたのと違う。
何故だ!?
何か変だとは思っていたが、コレどう見てもテオルートじゃ無さそうだぞ。
「・・・じゃあ、ユリアはどんな殿方が好みなの?」
突然の質問に驚いた彼女は、次の瞬間ポッと頬を染めた。
初心かよ!
クッソ可愛いっっ!
私が攻略されそうだ。
「・・・・・・私は、選べる様な立場では無いですから」
「まあ、まだこの国の貴族は政略結婚が主流ではあるけれど、少しづつ恋愛結婚も増えて来ているし、誰かを好きになるのは悪い事では無いでしょう?」
「あのですね、私は・・・、強そうな殿方は少し怖くて近寄り難いのです。
線が細くて儚げな方に惹かれます」
・・・・・・oh!!
マジか!
そう言う事かっっ!
線が細くて儚げって、ゲームの中のテオそのものじゃ無いか。
それに比べて現実のテオは、彫刻の様な筋肉の細マッチョだ。
ムキムキでは無いが、強そうと言えば強そうなタイプ。
ユリアがテオルートを進むのがこの世界のデフォルトなのであれば、元々のテオの容姿がユリアの好みなのは当然なのかもしれない。
と、言う事は・・・・・・、
私が余計な手出しをしたせいで、テオがユリアの好みじゃなくなってしまったって事なのでは!?
私のせいで、テオルートが閉ざされてしまったのかも!
テオの幸せを壊してしまったのかもしれないと、一瞬後悔しかけたのだが、やっぱり仕方が無いと思い直した。
だって、恋愛よりも命の方が大事でしょう?
彼を健康にした事は良かったと思っている。
ユリアは今の所、聖女の力を発現していないのだ。
だから、テオが病弱なままだったら、今頃は流行病で死んでしまっていたかもしれないもの。
微かな罪悪感は残っているが、今更悔やんでも仕方のない事だ。
「もしかして、どなたか、好きな方がいらっしゃるの?」
そう問いかけると、ユリアの頬が益々赤くなった。
はい、可愛い!
彼女は私の耳元にそっと近付くと、クラスメイトの男子生徒の名前を小さく口にした。
その彼は確か子爵家の子息で、成績はとても優秀。
ゲームの攻略対象者では無いが、線が細くて儚げな美男子だ。
男爵家と子爵家ならば、身分のバランスも丁度良い。
男爵令嬢のユリアにとっては、王子妃を目指すのは茨の道だ。
二人が両思いならば、頑張れるのだろうけど、そうじゃ無いなら地獄でしかないだろう。
私は、テオとユリアを無理にくっつけようなどと言う考えは捨てて、それぞれの恋を影ながら応援する事に決めた。
そもそもゲームのストーリーを知ってるからって、その通りになる様に誘導しようなんて烏滸がましい考えなのだ。
私は神様じゃ無いんだから。
いつか、テオが素敵な女性と幸せになる時、私は涙を流すだろうか?
それは、どんな気持ちから来る涙だろう?
巣立って行く子供を見送る様な気持ちなのか。
それとも───。
こうして、お昼の密談の結果、ヒロインは用意されたルート以外を突き進もうとしている事が明らかになった。
頑張れ、ユリア。
テオと兄様は最終学年になるので、一緒に学園に通えるのも後一年だけだと思うと、少し寂しい。
ドロテーア達は、入学式の時以来憎しみを込めた目で私を睨んで来る。
実際に何度か接触を図ろうともしていたみたいだが、毎回テオやデニス兄様に阻まれており、特に危害を加えられたりはしなかった。
私はユリアを始めとした新しい友人達と平和に学園生活を送っている。
だが、少しだけ気掛かりなのは、乙女ゲームのシナリオが今どうなっているのかと言う事。
テオとユリアは入学してすぐの頃、私を通して知り合いになり、二人で会話を交わす事もあるみたいだ。
ユリアには、私とテオの婚約は決定では無いし、テオが希望すればいつでも解消出来ると説明したのだが・・・・・・。
二人の関係は知り合いの域を脱していないし、お互いに惹かれあっている様子も無い。
ユリアは一体、どのルートを進もうとしているのだろうか?
普段は、数人の女友達と共に食堂でランチを食べているのだが・・・。
ある日のお昼休み、私はユリアを呼び出して、食堂で購入したランチボックスを片手に裏庭へと向かった。
二人きりのランチに誘ったのは、勿論『恋バナ』をする為だ!
花壇に囲まれた小さなガゼボの周辺には、私達以外には誰もいない。
女の子同士、秘密の話をするには絶好のシチュエーション。
ピクニック気分で屋外でランチを取るにはまだ肌寒い季節なのだが、その日は柔らかい日差しが降り注ぎ、爽やかな風がフワリと花の香りを運んでくる。
なかなか気持ちの良い気候だった。
「ユリアはテオフィル様の事をどう思う?」
ランチボックスの中の豪華なサンドイッチに手を伸ばしながら、早速本題に入る。
「テオフィル殿下ですか?
文武両道の素晴らしい王子様ですわよね!
エルザと並んでいる姿はとってもお似合いで、本当に素敵なカップルだと思います!
テオフィル殿下ならば、きっと私の大好きなエルザを護ってくれると思うので、安心してお任せ出来ますわ」
キラキラした真っ直ぐな瞳で、私も含めて褒められてしまった。
『大好き』と言ってもらえて嬉しいけれど・・・・・・。
思ってたのと違う。
何故だ!?
何か変だとは思っていたが、コレどう見てもテオルートじゃ無さそうだぞ。
「・・・じゃあ、ユリアはどんな殿方が好みなの?」
突然の質問に驚いた彼女は、次の瞬間ポッと頬を染めた。
初心かよ!
クッソ可愛いっっ!
私が攻略されそうだ。
「・・・・・・私は、選べる様な立場では無いですから」
「まあ、まだこの国の貴族は政略結婚が主流ではあるけれど、少しづつ恋愛結婚も増えて来ているし、誰かを好きになるのは悪い事では無いでしょう?」
「あのですね、私は・・・、強そうな殿方は少し怖くて近寄り難いのです。
線が細くて儚げな方に惹かれます」
・・・・・・oh!!
マジか!
そう言う事かっっ!
線が細くて儚げって、ゲームの中のテオそのものじゃ無いか。
それに比べて現実のテオは、彫刻の様な筋肉の細マッチョだ。
ムキムキでは無いが、強そうと言えば強そうなタイプ。
ユリアがテオルートを進むのがこの世界のデフォルトなのであれば、元々のテオの容姿がユリアの好みなのは当然なのかもしれない。
と、言う事は・・・・・・、
私が余計な手出しをしたせいで、テオがユリアの好みじゃなくなってしまったって事なのでは!?
私のせいで、テオルートが閉ざされてしまったのかも!
テオの幸せを壊してしまったのかもしれないと、一瞬後悔しかけたのだが、やっぱり仕方が無いと思い直した。
だって、恋愛よりも命の方が大事でしょう?
彼を健康にした事は良かったと思っている。
ユリアは今の所、聖女の力を発現していないのだ。
だから、テオが病弱なままだったら、今頃は流行病で死んでしまっていたかもしれないもの。
微かな罪悪感は残っているが、今更悔やんでも仕方のない事だ。
「もしかして、どなたか、好きな方がいらっしゃるの?」
そう問いかけると、ユリアの頬が益々赤くなった。
はい、可愛い!
彼女は私の耳元にそっと近付くと、クラスメイトの男子生徒の名前を小さく口にした。
その彼は確か子爵家の子息で、成績はとても優秀。
ゲームの攻略対象者では無いが、線が細くて儚げな美男子だ。
男爵家と子爵家ならば、身分のバランスも丁度良い。
男爵令嬢のユリアにとっては、王子妃を目指すのは茨の道だ。
二人が両思いならば、頑張れるのだろうけど、そうじゃ無いなら地獄でしかないだろう。
私は、テオとユリアを無理にくっつけようなどと言う考えは捨てて、それぞれの恋を影ながら応援する事に決めた。
そもそもゲームのストーリーを知ってるからって、その通りになる様に誘導しようなんて烏滸がましい考えなのだ。
私は神様じゃ無いんだから。
いつか、テオが素敵な女性と幸せになる時、私は涙を流すだろうか?
それは、どんな気持ちから来る涙だろう?
巣立って行く子供を見送る様な気持ちなのか。
それとも───。
こうして、お昼の密談の結果、ヒロインは用意されたルート以外を突き進もうとしている事が明らかになった。
頑張れ、ユリア。
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