上 下
13 / 33

13 新たな友人

しおりを挟む
「初めまして、ユリア・シュタルクと申します」

ええ、勿論存じ上げておりますよ。
ユリア・シュタルク男爵令嬢。
この世界のヒロインである彼女は、素朴で人懐っこい笑みが可愛らしい少女だった。
私とタメなので、彼女も今年の新入生である。

「エルザ・グルーバーと申します。
どうぞ宜しくお願いします」

「まあ、グルーバー様と言えば、辺境伯のご令嬢でいらっしゃいますよね?
これは大変失礼致しました」

「とんでもない。
この学園では身分は平等ですよ、シュタルク様。
隣に座ったのも何かのご縁ですから、仲良くして頂けると嬉しいです」

「お友達になって頂けるのですか?
それなら、私の事はユリアと呼んで下さいませ」

無邪気な笑顔がとても眩しい。
なんかキラキラしてる。
これがヒロインの実力なのか。

「では、私の事はエルザと・・・」

───んっ?

なんか、ヒロインちゃんと仲良くなっちゃってるんだけど・・・。
私、ポジション的には悪役令嬢の筈なんだが、これで良いのかしら?

うーーん・・・・・・。
まあ、無駄に揉め事を増やす必要は無いか・・・・・・。
ヒロインとテオの恋を盛り上げる為の悪役は、ドロテーアが喜んで引き受けてくれそうな気もするし。

取り敢えずユリアと友達になって、さり気なくテオにユリアを紹介してみて・・・・・・。
それから、『私はあくまでも婚約者だから、いくらでも変更は可能ですよー』とアピールしておこうかな。
そこからは、二人の気持ち次第だろう。

とにかく、ユリアが良い子そうで良かった。
彼女が乙女ゲーム転生物の小説に出てくる様な、ちょっとヤバい思考回路のご令嬢だったなら、ハッピーエンドが見れたとしても複雑な気持ちになってしまうだろう。

ユリアがヒドインでは無かった事にホッと胸を撫で下ろしつつ、まだまだ終わりそうも無い校長の長~~~~い話に耳を傾けた。



「お前、遅刻して来ただろ?
だから気を付けろって言ったのに。
まあ、明日からは一緒に登校するから良いけど・・・」

式典が終わって、同じクラスだと判明したユリアと一緒に教室に移動しようとした所で、呆れた顔の兄様に捕まった。

「済みません。
ちょっと油断しました」

「ん?そちらのレディは?」

兄様が私の隣のユリアに目を留めた。

「ああ。
こちら、ユリア・シュタルクさんですわ。
先程、お友達になったばかりなのです」

「そうか。
エルザの兄のデニスです。
これからも妹を宜しくお願いします」

「ユリア・シュタルクです」

ユリアと兄様が微笑み合う様子を見て、もしかして兄様、早くもユリアに惹かれてしまったのかしら?なんて、一瞬思ったのだが・・・・・・。

「エルザ、この手の傷は一体どうしたんだ!?
痛いだろう?可哀想に・・・。
直ぐに保健室に行こう!」

さっき転んだ時に出来た掌の小さな擦り傷を見咎めた兄様は、慌てた様子でオロオロと心配し始めた。
ヒロインと出逢っても、最強のシスコンはやっぱり通常運転である。

「だ、大丈夫です。
全く痛く無いですから」

「そんな筈は無いじゃないか!
俺の可愛いエルザの白くて美しい手に、傷痕でも残ってしまったらどうするんだ。
早く治療をしなければ」

「かすり傷ですよ。
跡なんて残りませんってば!」

強引に保健室へと私を連れて行こうとする兄様をなんとか宥めて別れ、ユリアと共に自分達の教室へと向かった。



私達が教室の扉を開ける音に反応して、既に中に居た生徒達が一斉に振り向いた。

ヒソヒソと噂される声は、わざとなのか不可抗力なのか、私の耳にも微かに入って来る。
その内容は、好意的な物も悪意に満ちた物もある様だ。

ドロテーアの様に、私がテオの婚約者候補になった事を不満に思う人も居れば、その現状を受け入れて、次期王妃の座に一番近い私に媚を売ろうとする人も。
どちらも充分に気を付けなければいけない存在である。

そんな中で少数ではあるが、私自身に興味を持ってくれているクラスメイトもいるみたいだ。
彼女達とは是非とも仲良くなりたい。

「初めまして、エルザ・グルーバーと申します」

ユリアを連れて、好意的な視線を送って来たご令嬢達に挨拶に行くと、彼女達はフワリと微笑んでくれた。

うん。
なかなか楽しい学園生活になるかもしれないわ。
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

この異世界転生の結末は

冬野月子
恋愛
五歳の時に乙女ゲームの世界に悪役令嬢として転生したと気付いたアンジェリーヌ。 一体、自分に待ち受けているのはどんな結末なのだろう? ※「小説家になろう」にも投稿しています。

光の王太子殿下は愛したい

葵川真衣
恋愛
王太子アドレーには、婚約者がいる。公爵令嬢のクリスティンだ。 わがままな婚約者に、アドレーは元々関心をもっていなかった。 だが、彼女はあるときを境に変わる。 アドレーはそんなクリスティンに惹かれていくのだった。しかし彼女は変わりはじめたときから、よそよそしい。 どうやら、他の少女にアドレーが惹かれると思い込んでいるようである。 目移りなどしないのに。 果たしてアドレーは、乙女ゲームの悪役令嬢に転生している婚約者を、振り向かせることができるのか……!? ラブラブを望む王太子と、未来を恐れる悪役令嬢の攻防のラブ(?)コメディ。 ☆完結しました。ありがとうございました。番外編等、不定期更新です。

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

私はざまぁされた悪役令嬢。……ってなんだか違う!

杵島 灯
恋愛
王子様から「お前と婚約破棄する!」と言われちゃいました。 彼の隣には幼馴染がちゃっかりおさまっています。 さあ、私どうしよう?  とにかく処刑を避けるためにとっさの行動に出たら、なんか変なことになっちゃった……。 小説家になろう、カクヨムにも投稿中。

悪役令嬢に転生したので、推しキャラの婚約者の立場を思う存分楽しみます

下菊みこと
恋愛
タイトルまんま。 悪役令嬢に転生した女の子が推しキャラに猛烈にアタックするけど聖女候補であるヒロインが出てきて余計なことをしてくれるお話。 悪役令嬢は諦めも早かった。 ちらっとヒロインへのざまぁがありますが、そんなにそこに触れない。 ご都合主義のハッピーエンド。 小説家になろう様でも投稿しています。

公爵令嬢は、どう考えても悪役の器じゃないようです。

三歩ミチ
恋愛
*本編は完結しました*  公爵令嬢のキャサリンは、婚約者であるベイル王子から、婚約破棄を言い渡された。その瞬間、「この世界はゲームだ」という認識が流れ込んでくる。そして私は「悪役」らしい。ところがどう考えても悪役らしいことはしていないし、そんなことができる器じゃない。  どうやら破滅は回避したし、ゲームのストーリーも終わっちゃったようだから、あとはまわりのみんなを幸せにしたい!……そこへ攻略対象達や、不遇なヒロインも絡んでくる始末。博愛主義の「悪役令嬢」が奮闘します。 ※小説家になろう様で連載しています。バックアップを兼ねて、こちらでも投稿しています。 ※以前打ち切ったものを、初めから改稿し、完結させました。73以降、展開が大きく変わっています。

性悪という理由で婚約破棄された嫌われ者の令嬢~心の綺麗な者しか好かれない精霊と友達になる~

黒塔真実
恋愛
公爵令嬢カリーナは幼い頃から後妻と義妹によって悪者にされ孤独に育ってきた。15歳になり入学した王立学園でも、悪知恵の働く義妹とカリーナの婚約者でありながら義妹に洗脳されている第二王子の働きにより、学園中の嫌われ者になってしまう。しかも再会した初恋の第一王子にまで軽蔑されてしまい、さらに止めの一撃のように第二王子に「性悪」を理由に婚約破棄を宣言されて……!? 恋愛&悪が報いを受ける「ざまぁ」もの!! ※※※主人公は最終的にチート能力に目覚めます※※※アルファポリスオンリー※※※皆様の応援のおかげで第14回恋愛大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございます※※※ すみません、すっきりざまぁ終了したのでいったん完結します→※書籍化予定部分=【本編】を引き下げます。【番外編】追加予定→ルシアン視点追加→最新のディー視点の番外編は書籍化関連のページにて、アンケートに答えると読めます!!

強すぎる力を隠し苦悩していた令嬢に転生したので、その力を使ってやり返します

天宮有
恋愛
 私は魔法が使える世界に転生して、伯爵令嬢のシンディ・リーイスになっていた。  その際にシンディの記憶が全て入ってきて、彼女が苦悩していたことを知る。  シンディは強すぎる魔力を持っていて、危険過ぎるからとその力を隠して生きてきた。  その結果、婚約者のオリドスに婚約破棄を言い渡されて、友人のヨハンに迷惑がかかると考えたようだ。  それなら――この強すぎる力で、全て解決すればいいだけだ。  私は今まで酷い扱いをシンディにしてきた元婚約者オリドスにやり返し、ヨハンを守ろうと決意していた。

処理中です...