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【マリー視点】



「エルノー子爵令嬢、ちょっとよろしいかしら?」

考え事をしながら教室までの廊下を歩いていたら、数人の御令嬢達に囲まれてしまった。
人気の無い裏庭に連れて行かれ、壁際に追い詰められる。

ああ、なんてありがちな展開。

「あなたみたいな人が婚約者だなんて、図々しいと思わないのですか?」

「全く釣り合ってないのに、気付いて無いのかしら?」

いや、気付いてますって。
嫌って程に。
あなた方に嫌味を言われなくても、既に今日の私のメンタルはボロボロなのだ。

しかし、私が釣り合わないと言うのは尤もだが、彼女達は自分ならば釣り合うとでも思っているのか?
他人を貶める事でしか自分の矜持を保てないような人間が、アランに相応しいとはとても思えない。


「アラン様はお優しくて言えないのでしょうけど、きっとあなたの事を足手纏いだと思ってらっしゃるわ。
彼の気持ちを考えて、ご自分から身を引くべきよ」

これだけは、聞き捨てならない。

背筋を伸ばし、その令嬢の目を射抜くように真っ直ぐ見る。

「それは私だけでなくアランへの侮辱ではないですか。
アランは確かに優しいですが、自分や家にとって不利益になる存在を切り捨てずに放置するほど、判断力や覚悟が欠如しているわけではありません」

伯爵家の当主になるのだから、時には冷酷な決断をも下すのは当然だ。

私だって見た目はこんなだけど、婚約が解消出来なければ伯爵夫人にならなければいけないのだから、それなりに勉学に励み、ふさわしい所作についても学んできた。
足手纏い呼ばわりされる筋合いはない。


しかし失礼な発言をした御令嬢は、私に反論されたのが気に入らなかったようで怒りに震えている。

「子爵令嬢風情が!」

私の髪を掴もうと手を伸ばして来た。
不味いな。身体が小さいので暴力に訴えられると勝ち目は無い。

ーーーその時。
「先生、こっちです!」

男の子の声がした。嫌がらせに気づいた誰かが先生を呼んでくれたのかな?

「逃げるわよっ」

御令嬢達は蜘蛛の子を散らす様に去って行った。
素早いね。令嬢って意外と足速いんだね。

「大丈夫?」

建物の影から出て来たのは、小柄でメガネの男子生徒。
確か同じクラスの・・・ロドルフ・タリーニ様だったっけ。

「ええ。ありがとうございます。先生は?」

「ああ、あれは嘘。そう言えばアイツら逃げると思って。
もっとカッコ良く助けられたら良かったんだけど、そういうの得意じゃないんだよね」

タリーニ様は自嘲気味に笑った。

「ううん。とても助かりました。ありがとう」

お礼を言って微笑むと、彼は照れたのかほんのり頬を染めた。
ちびっ子の私が言うのもなんだけど、かわいい。癒し系だ。

「こういうの、よくあるの?セネヴィル殿は知ってる?」

「それほど頻繁ではありませんので大丈夫です。
アランには言わないでください。心配かけたく無いので。
それに・・・・・・本当は、彼女達の気持ちも分からなくは無いんです・・・」

「いや、そこは分かっちゃダメでしょ。
ちょっと話聞こえちゃったけど、釣り合うとか釣り合わないとか、他人が決める事じゃないから」

「ふふっ。タリーニ様は優しいですね」

慰められて少しだけ気持ちが浮上した。
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