3 / 7
3
しおりを挟む
【マリー視点】
「エルノー子爵令嬢、ちょっとよろしいかしら?」
考え事をしながら教室までの廊下を歩いていたら、数人の御令嬢達に囲まれてしまった。
人気の無い裏庭に連れて行かれ、壁際に追い詰められる。
ああ、なんてありがちな展開。
「あなたみたいな人が婚約者だなんて、図々しいと思わないのですか?」
「全く釣り合ってないのに、気付いて無いのかしら?」
いや、気付いてますって。
嫌って程に。
あなた方に嫌味を言われなくても、既に今日の私のメンタルはボロボロなのだ。
しかし、私が釣り合わないと言うのは尤もだが、彼女達は自分ならば釣り合うとでも思っているのか?
他人を貶める事でしか自分の矜持を保てないような人間が、アランに相応しいとはとても思えない。
「アラン様はお優しくて言えないのでしょうけど、きっとあなたの事を足手纏いだと思ってらっしゃるわ。
彼の気持ちを考えて、ご自分から身を引くべきよ」
これだけは、聞き捨てならない。
背筋を伸ばし、その令嬢の目を射抜くように真っ直ぐ見る。
「それは私だけでなくアランへの侮辱ではないですか。
アランは確かに優しいですが、自分や家にとって不利益になる存在を切り捨てずに放置するほど、判断力や覚悟が欠如しているわけではありません」
伯爵家の当主になるのだから、時には冷酷な決断をも下すのは当然だ。
私だって見た目はこんなだけど、婚約が解消出来なければ伯爵夫人にならなければいけないのだから、それなりに勉学に励み、ふさわしい所作についても学んできた。
足手纏い呼ばわりされる筋合いはない。
しかし失礼な発言をした御令嬢は、私に反論されたのが気に入らなかったようで怒りに震えている。
「子爵令嬢風情が!」
私の髪を掴もうと手を伸ばして来た。
不味いな。身体が小さいので暴力に訴えられると勝ち目は無い。
ーーーその時。
「先生、こっちです!」
男の子の声がした。嫌がらせに気づいた誰かが先生を呼んでくれたのかな?
「逃げるわよっ」
御令嬢達は蜘蛛の子を散らす様に去って行った。
素早いね。令嬢って意外と足速いんだね。
「大丈夫?」
建物の影から出て来たのは、小柄でメガネの男子生徒。
確か同じクラスの・・・ロドルフ・タリーニ様だったっけ。
「ええ。ありがとうございます。先生は?」
「ああ、あれは嘘。そう言えばアイツら逃げると思って。
もっとカッコ良く助けられたら良かったんだけど、そういうの得意じゃないんだよね」
タリーニ様は自嘲気味に笑った。
「ううん。とても助かりました。ありがとう」
お礼を言って微笑むと、彼は照れたのかほんのり頬を染めた。
ちびっ子の私が言うのもなんだけど、かわいい。癒し系だ。
「こういうの、よくあるの?セネヴィル殿は知ってる?」
「それほど頻繁ではありませんので大丈夫です。
アランには言わないでください。心配かけたく無いので。
それに・・・・・・本当は、彼女達の気持ちも分からなくは無いんです・・・」
「いや、そこは分かっちゃダメでしょ。
ちょっと話聞こえちゃったけど、釣り合うとか釣り合わないとか、他人が決める事じゃないから」
「ふふっ。タリーニ様は優しいですね」
慰められて少しだけ気持ちが浮上した。
「エルノー子爵令嬢、ちょっとよろしいかしら?」
考え事をしながら教室までの廊下を歩いていたら、数人の御令嬢達に囲まれてしまった。
人気の無い裏庭に連れて行かれ、壁際に追い詰められる。
ああ、なんてありがちな展開。
「あなたみたいな人が婚約者だなんて、図々しいと思わないのですか?」
「全く釣り合ってないのに、気付いて無いのかしら?」
いや、気付いてますって。
嫌って程に。
あなた方に嫌味を言われなくても、既に今日の私のメンタルはボロボロなのだ。
しかし、私が釣り合わないと言うのは尤もだが、彼女達は自分ならば釣り合うとでも思っているのか?
他人を貶める事でしか自分の矜持を保てないような人間が、アランに相応しいとはとても思えない。
「アラン様はお優しくて言えないのでしょうけど、きっとあなたの事を足手纏いだと思ってらっしゃるわ。
彼の気持ちを考えて、ご自分から身を引くべきよ」
これだけは、聞き捨てならない。
背筋を伸ばし、その令嬢の目を射抜くように真っ直ぐ見る。
「それは私だけでなくアランへの侮辱ではないですか。
アランは確かに優しいですが、自分や家にとって不利益になる存在を切り捨てずに放置するほど、判断力や覚悟が欠如しているわけではありません」
伯爵家の当主になるのだから、時には冷酷な決断をも下すのは当然だ。
私だって見た目はこんなだけど、婚約が解消出来なければ伯爵夫人にならなければいけないのだから、それなりに勉学に励み、ふさわしい所作についても学んできた。
足手纏い呼ばわりされる筋合いはない。
しかし失礼な発言をした御令嬢は、私に反論されたのが気に入らなかったようで怒りに震えている。
「子爵令嬢風情が!」
私の髪を掴もうと手を伸ばして来た。
不味いな。身体が小さいので暴力に訴えられると勝ち目は無い。
ーーーその時。
「先生、こっちです!」
男の子の声がした。嫌がらせに気づいた誰かが先生を呼んでくれたのかな?
「逃げるわよっ」
御令嬢達は蜘蛛の子を散らす様に去って行った。
素早いね。令嬢って意外と足速いんだね。
「大丈夫?」
建物の影から出て来たのは、小柄でメガネの男子生徒。
確か同じクラスの・・・ロドルフ・タリーニ様だったっけ。
「ええ。ありがとうございます。先生は?」
「ああ、あれは嘘。そう言えばアイツら逃げると思って。
もっとカッコ良く助けられたら良かったんだけど、そういうの得意じゃないんだよね」
タリーニ様は自嘲気味に笑った。
「ううん。とても助かりました。ありがとう」
お礼を言って微笑むと、彼は照れたのかほんのり頬を染めた。
ちびっ子の私が言うのもなんだけど、かわいい。癒し系だ。
「こういうの、よくあるの?セネヴィル殿は知ってる?」
「それほど頻繁ではありませんので大丈夫です。
アランには言わないでください。心配かけたく無いので。
それに・・・・・・本当は、彼女達の気持ちも分からなくは無いんです・・・」
「いや、そこは分かっちゃダメでしょ。
ちょっと話聞こえちゃったけど、釣り合うとか釣り合わないとか、他人が決める事じゃないから」
「ふふっ。タリーニ様は優しいですね」
慰められて少しだけ気持ちが浮上した。
109
お気に入りに追加
503
あなたにおすすめの小説
婚約破棄でみんな幸せ!~嫌われ令嬢の円満婚約解消術~
春野こもも
恋愛
わたくしの名前はエルザ=フォーゲル、16才でございます。
6才の時に初めて顔をあわせた婚約者のレオンハルト殿下に「こんな醜女と結婚するなんて嫌だ! 僕は大きくなったら好きな人と結婚したい!」と言われてしまいました。そんな殿下に憤慨する家族と使用人。
14歳の春、学園に転入してきた男爵令嬢と2人で、人目もはばからず仲良く歩くレオンハルト殿下。再び憤慨するわたくしの愛する家族や使用人の心の安寧のために、エルザは円満な婚約解消を目指します。そのために作成したのは「婚約破棄承諾書」。殿下と男爵令嬢、お二人に愛を育んでいただくためにも、後はレオンハルト殿下の署名さえいただければみんな幸せ婚約破棄が成立します!
前編・後編の全2話です。残酷描写は保険です。
【小説家になろうデイリーランキング1位いただきました――2019/6/17】
婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました
Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。
順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。
特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。
そんなアメリアに対し、オスカーは…
とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。
【完結】夫もメイドも嘘ばかり
横居花琉
恋愛
真夜中に使用人の部屋から男女の睦み合うような声が聞こえていた。
サブリナはそのことを気に留めないようにしたが、ふと夫が浮気していたのではないかという疑念に駆られる。
そしてメイドから衝撃的なことを打ち明けられた。
夫のアランが無理矢理関係を迫ったというものだった。
❲完結❳傷物の私は高貴な公爵子息の婚約者になりました
四つ葉菫
恋愛
彼は私を愛していない。
ただ『責任』から私を婚約者にしただけ――。
しがない貧しい男爵令嬢の『エレン・レヴィンズ』と王都警備騎士団長にして突出した家柄の『フェリシアン・サンストレーム』。
幼い頃出会ったきっかけによって、ずっと淡い恋心をフェリシアンに抱き続けているエレン。
彼は人気者で、地位、家柄、容姿含め何もかも完璧なひと。
でも私は、誇れるものがなにもない人間。大勢いる貴族令嬢の中でも、きっと特に。
この恋は決して叶わない。
そう思っていたのに――。
ある日、王都を取り締まり中のフェリシアンを犯罪者から庇ったことで、背中に大きな傷を負ってしまうエレン。
その出来事によって、ふたりは婚約者となり――。
全てにおいて完璧だが恋には不器用なヒーローと、ずっとその彼を想って一途な恋心を胸に秘めているヒロイン。
――ふたりの道が今、交差し始めた。
✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢
前半ヒロイン目線、後半ヒーロー目線です。
中編から長編に変更します。
世界観は作者オリジナルです。
この世界の貴族の概念、規則、行動は実際の中世・近世の貴族に則っていません。あしからず。
緩めの設定です。細かいところはあまり気にしないでください。
✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢
【完結】婚約から始まる恋愛結婚
水仙あきら
恋愛
「婚約を解消しましょう。私ではあなたの奥方にはなれそうもありませんから」
貧乏貴族のセレスティアにはものすごく横柄な婚約者がいる。そんな彼も最近ではずいぶん優しくなってきたと思ったら、ある日伯爵令嬢との浮気が発覚。そこでセレスティアは自ら身を引こうとするのだが…?前向き娘とツンデレ男のすれ違い恋物語。
聞き分けよくしていたら婚約者が妹にばかり構うので、困らせてみることにした
今川幸乃
恋愛
カレン・ブライスとクライン・ガスターはどちらも公爵家の生まれで政略結婚のために婚約したが、お互い愛し合っていた……はずだった。
二人は貴族が通う学園の同級生で、クラスメイトたちにもその仲の良さは知られていた。
しかし、昨年クラインの妹、レイラが貴族が学園に入学してから状況が変わった。
元々人のいいところがあるクラインは、甘えがちな妹にばかり構う。
そのたびにカレンは聞き分けよく我慢せざるをえなかった。
が、ある日クラインがレイラのためにデートをすっぽかしてからカレンは決心する。
このまま聞き分けのいい婚約者をしていたところで状況は悪くなるだけだ、と。
※ざまぁというよりは改心系です。
※4/5【レイラ視点】【リーアム視点】の間に、入れ忘れていた【女友達視点】の話を追加しました。申し訳ありません。
溺愛されていると信じておりました──が。もう、どうでもいいです。
ふまさ
恋愛
いつものように屋敷まで迎えにきてくれた、幼馴染みであり、婚約者でもある伯爵令息──ミックに、フィオナが微笑む。
「おはよう、ミック。毎朝迎えに来なくても、学園ですぐに会えるのに」
「駄目だよ。もし学園に向かう途中できみに何かあったら、ぼくは悔やんでも悔やみきれない。傍にいれば、いつでも守ってあげられるからね」
ミックがフィオナを抱き締める。それはそれは、愛おしそうに。その様子に、フィオナの両親が見守るように穏やかに笑う。
──対して。
傍に控える使用人たちに、笑顔はなかった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる