上 下
22 / 24

22 恋愛音痴

しおりを挟む
授業が終了する合図の鐘が鳴り、板書を写す手を止めた。
生徒達のお喋りが始まり、一気に教室内に騒めきが広がる。

事件の後処理などがあり、またもや休学を余儀なくされていた私達だが、漸く全ての処理が済んだので学園に通い始めた。

休学中も自邸での学習は続けていたので、授業には問題無く付いて行く事が出来ている。

しかし、私と違って、休学中、とても忙しかったレイモンドは、おそらく勉強をする時間は無かったに違いない。
ちゃんと授業に付いて行けているのだろうか?
学年が違うので様子が分からず、少し心配だ。
まあ、彼は私よりもずっと頭が良いので、余計な心配なのかも知れないけれど。



「ねえ、悪いけど、この教材を職員室に運んでおいて頂けないかしら?
この後すぐに、職員会議に出なくてはいけなくて・・・」

焦った様子の女性教員に呼び止められて、雑用を頼まれた。
男子生徒の方が適任では?と思って、周囲を見回すが、次の授業は移動教室なので、既にこの場に残っている生徒は少ない。

(まあ、私でもなんとか持てそうか。
片付けてからでも、移動は間に合いそうだし・・・)

「良いですよ」

「ごめんなさいね。有難う」

見た目よりもズッシリと重い教材を両腕に抱えて、私は教室を出た。


「凄い荷物ですね」

廊下を歩いていると、一人の男子生徒に声を掛けられた。
今迄話した事は無かったけど、人の良さそうな顔にはなんとなく見覚えがある。
確か、隣のクラスの人だ。

「半分持ちましょう」

そう言いながら、答えを待たずに、重そうな物ばかりをヒョイヒョイと私の腕の中から取り除いていく。

「有難うございます。
思ったより重たくて、ちょっと困っていたので助かります」

お礼を言うと、微かに照れた様な笑顔になった。

「メルヴィル様の事は以前から気になっていて、是非一度お話ししてみたいと思っていたんです。
良かったらお友達になってくれませんか?
僕の名前は・・・」

「姉上、何をしているんですか?」

話を遮る様に投げ掛けられた声に振り返ると、顔に感情の読めない笑みを貼り付けたレイモンドが居た。

「ああ、レイモンド。
さっき先生に教材の片付けを頼まれて・・・」

「そちらの方は?」

レイが、私の隣の彼にチラリと視線を向ける。

「お隣のクラスの方なの。
重そうだからって手伝ってくださったのよ」

「そうなんですか。
姉を助けて下さって、有難うございます。
姉に急ぎの話がありますので、ここからは僕が代わりに持ちましょう」

有無を言わさず彼から教材の束を受け取ると、ニコリと微笑んで、さっさと歩き出してしまった。

「あ、あの。
本当に、有難うございました」

手伝ってくれた彼にペコリと頭を下げて、レイの背中を小走りで追い掛ける。
職員室に教材を届け終わるまで、二人とも無言だった。
なんとなく、話しかけ難い空気が漂っていたから。

頼まれた雑用を済ませ、戻る途中でレイが徐に口を開いた。

「・・・・・・さっきの彼とは、仲が良いのですか?」

レイが私の交友関係に口を出すのは初めてだ。
少々不機嫌な様にも見えるのだが、気のせいだろうか?

「さっき初めて話したのよ。
でも、お友達になりたいって言ってくれて・・・」

「へぇ・・・」

「レイ、何か怒ってる?」

「いや、怒っては居ないです。
ですが、彼がなりたいのは『友達』では無いと思いますよ。
気を付けて下さいね。
貴女、今、王太子殿下と婚約を破棄したばっかりで、男性達の注目を集めているのですから」

下心を持って私に近付く者を警戒していたのか。
だが、ちょっと心配し過ぎなのではないだろうか。

「えー?考え過ぎよぉ」

「いいえ。
姉上は、恋愛に関してはポンコツなのですから、自覚して下さい」

「普通に失礼ね」

まさかのポンコツ呼ばわり!
確かに、恋愛事には疎いかも知れないけど、そこまで言われる程では無いと思うの。

思わず不満顔になってしまった私に、レイは胡乱な目を向ける。

「はぁ・・・・・・。
義弟という立場は厄介ですね。
どんなに必死にアピールしても、全く本気にしてもらえない」

「急になんの話?」

「なんでもありません。
・・・・・・ところで、義父上に釣書を渡されたそうですが、どうするつもりですか?」

先程レイが隣のクラスの男子に言っていた『姉に急ぎの話』とは、私の縁談の件なのだろうか?
特に緊急性は感じられないけれど。

「お父様は、『自分の幸せだけを考えて決めろ』って仰るのだけれど、私には、まだ良く分からなくて・・・。
取り敢えず、いつまでもお返事しない訳にもいかないから、一旦全てお断りしようかと思っているの」

「そうですか、それは良かった」

良かったとは、どう言う意味なのだろうか?
今日のレイは謎の発言が多い。

「姉上、今日、邸に帰ったら、大事なお話があります。
お時間頂けますか?」

「別に構わないけど・・・」

「では、また後ほど」

いつの間にか上機嫌になっていたレイは、颯爽と去って行った。

(なんだったのかしら?)

私は彼の背中をボンヤリと見送った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「距離を置こう」と言われた氷鉄令嬢は、本当は溺愛されている

ミズメ
恋愛
 感情表現が乏しいせいで""氷鉄令嬢""と呼ばれている侯爵令嬢のフェリシアは、婚約者のアーサー殿下に唐突に距離を置くことを告げられる。  これは婚約破棄の危機――そう思ったフェリシアは色々と自分磨きに励むけれど、なぜだか上手くいかない。  とある夜会で、アーサーの隣に見知らぬ金髪の令嬢がいたという話を聞いてしまって……!?  重すぎる愛が故に婚約者に接近することができないアーサーと、なんとしても距離を縮めたいフェリシアの接近禁止の婚約騒動。 ○カクヨム、小説家になろうさまにも掲載/全部書き終えてます

「おまえを愛している」と言い続けていたはずの夫を略奪された途端、バツイチ子持ちの新国王から「とりあえず結婚しようか?」と結婚請求された件

ぽんた
恋愛
「わからないかしら? フィリップは、もうわたしのもの。わたしが彼の妻になるの。つまり、あなたから彼をいただいたわけ。だから、あなたはもう必要なくなったの。王子妃でなくなったということよ」  その日、「おまえを愛している」と言い続けていた夫を略奪した略奪レディからそう宣言された。  そして、わたしは負け犬となったはずだった。  しかし、「とりあえず、おれと結婚しないか?」とバツイチの新国王にプロポーズされてしまった。 夫を略奪され、負け犬認定されて王宮から追い出されたたった数日の後に。 ああ、浮気者のクズな夫からやっと解放され、自由気ままな生活を送るつもりだったのに……。 今度は王妃に?  有能な夫だけでなく、尊い息子までついてきた。 ※ハッピーエンド。微ざまぁあり。タイトルそのままです。ゆるゆる設定はご容赦願います。

運命の番?棄てたのは貴方です

ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。 番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。 ※自己設定満載ですので気を付けてください。 ※性描写はないですが、一線を越える個所もあります ※多少の残酷表現あります。 以上2点からセルフレイティング

婚儀で夫の婚約者を名乗るレディに平手打ちを食らうスキャンダルを提供したのは、間違いなく私です~私を嫌う夫に離縁宣告されるまで妻を満喫します~

ぽんた
恋愛
小国の王女であるがゆえに幼少より人質同然として諸国をたらいまわしされているエリ・サンダーソン。今回、彼女はフォード王国の王家の命により、スタンリー・レッドフォード公爵に嫁ぐことになった。その婚儀中、乱入してきたスタンリーの婚約者を名乗る美貌のレディに平手打ちを食らわされる。どうやらスタンリーは彼女を愛しているらしい。しばらくすると、エリは彼に離縁され、彼は元婚約者を妻にするらしい。 婚儀中に立った離縁フラグ。エリは、覚悟を決める。「それならそれで、いまこのときを楽しもう」と。そして、離縁決定の愛のない夫婦生活が始まる……。 ※ハッピーエンド確約。「間違いなく私」シリーズ(勝手に命名)です。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。

【完結】あなただけが特別ではない

仲村 嘉高
恋愛
お飾りの王妃が自室の窓から飛び降りた。 目覚めたら、死を選んだ原因の王子と初めて会ったお茶会の日だった。 王子との婚約を回避しようと頑張るが、なぜか周りの様子が前回と違い……?

【完結】愛しい人、妹が好きなら私は身を引きます。

王冠
恋愛
幼馴染のリュダールと八年前に婚約したティアラ。 友達の延長線だと思っていたけど、それは恋に変化した。 仲睦まじく過ごし、未来を描いて日々幸せに暮らしていた矢先、リュダールと妹のアリーシャの密会現場を発見してしまい…。 書きながらなので、亀更新です。 どうにか完結に持って行きたい。 ゆるふわ設定につき、我慢がならない場合はそっとページをお閉じ下さい。

いじめられ続けた挙げ句、三回も婚約破棄された悪役令嬢は微笑みながら言った「女神の顔も三度まで」と

鳳ナナ
恋愛
伯爵令嬢アムネジアはいじめられていた。 令嬢から。子息から。婚約者の王子から。 それでも彼女はただ微笑を浮かべて、一切の抵抗をしなかった。 そんなある日、三回目の婚約破棄を宣言されたアムネジアは、閉じていた目を見開いて言った。 「――女神の顔も三度まで、という言葉をご存知ですか?」 その言葉を皮切りに、ついにアムネジアは本性を現し、夜会は女達の修羅場と化した。 「ああ、気持ち悪い」 「お黙りなさい! この泥棒猫が!」 「言いましたよね? 助けてやる代わりに、友達料金を払えって」 飛び交う罵倒に乱れ飛ぶワイングラス。 謀略渦巻く宮廷の中で、咲き誇るは一輪の悪の華。 ――出てくる令嬢、全員悪人。 ※小説家になろう様でも掲載しております。

大事なのは

gacchi
恋愛
幼いころから婚約していた侯爵令息リヒド様は学園に入学してから変わってしまった。いつもそばにいるのは平民のユミール。婚約者である辺境伯令嬢の私との約束はないがしろにされていた。卒業したらさすがに離れるだろうと思っていたのに、リヒド様が向かう砦にユミールも一緒に行くと聞かされ、我慢の限界が来てしまった。リヒド様、あなたが大事なのは誰ですか?

処理中です...