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16 互いの想い
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よく晴れた休日の午後。
ある決意を胸に、アンジェリーナはエルヴィーノをお茶に誘った。
『納得出来るまでぶつからなければ後悔する』
あの日のカルロスの言葉は、アンジェリーナの心を大きく揺さぶっていた。
エルヴィーノを解放してあげたいという思いも嘘では無い。
だけど、結局は決定的な拒絶を受けるのが怖くて、ずっと逃げていただけなのだという事実に、改めて気付かされた。
(そうよ。ダメで元々だわ。
どうせ逃げるのなら、完全に玉砕してから逃げれば良いじゃない)
帝国に渡ると決めた訳ではないのだが、カルロスの言う様に他国に嫁ぐと言う選択肢もあるのだと思えば、少しだけ気持ちが楽になった。
だが、いざ庭園のテーブルに着いた二人の間には、どことなく普段と違う緊張感が漂っている。
アンジェリーナだけでなくエルヴィーノも、何故か思い詰めた様な表情をしているのだ。
どう切り出そうか悩んでいる間に、口火を切ったのはエルヴィーノの方だった。
「アンジーの方からお茶に誘ってくれるなんて、珍しいね。
何か大事な話があるのかな?
例えば・・・、誰かにプロポーズされたとか」
「・・・・・・っっ!?」
プロポーズという言葉に、先日カルロスから持ち掛けられた求婚紛いの提案を思い出してしまい、アンジェリーナは動揺を隠せなかった。
勿論、今日エルヴィーノをお茶に誘った目的は、求婚された事を相談する為では無いのだが。
「図星か」
そう呟いたエルヴィーノは心なしか悲しそうに見えた。
「アンジーはカルロス殿下の事をどう思っているの?
二人は想い合っている?」
相手が誰かまで予想が当たっている事に、更に動揺してしまう。
一体どこから情報を得ているのか?
完全にエルヴィーノのペースで話が進んでいる。
ここからどうやって告白に持っていけば良いのか分からなくなってしまったアンジェリーナは、取り敢えず問われるがままに答えた。
「・・・・・・カルロス殿下は誠実な方に見えるけど、今の時点ではお互いに特別な感情は無い・・・と、思う。
まだ知り合ったばかりだから、今後の事は分からない」
エルヴィーノは納得した様に小さく頷く。
その表情は、微かに安堵している様にも見えた。
「じゃあ、これ以上、彼との交流を深めないでくれないか」
「えっ?」
エルヴィーノの言葉の真意が分からず、アンジェリーナの頭の中に沢山の疑問符が浮かんだ。
「・・・・・・もしも君が、彼を好きになってしまったのだとしたら、辛くても諦めるべきだと思っていたんだ。
元はと言えば、俺が煮え切らない態度を取り続けていたのが悪いんだから。
でも、まだ間に合うなら彼を・・・・・・
・・・いや、彼だけじゃなくて、俺以外の男を好きにならないで欲しい」
アンジェリーナの瞳が、驚愕に見開かれる。
(今のが愛の告白に聞こえてしまうのは、私の願望のせいなのかしら?)
淡く胸に広がる期待に頬が熱を持ち、鼓動が恐ろしいほどに早くなり始める。
「アンジェリーナ、好きだ」
その瞬間、時が止まった様な気がした。
間違いようも無くはっきりと告げられた言葉を噛み締めて、アンジェリーナの頬に一筋の涙が伝った。
それを親指で優しく拭いながら、エルヴィーノは更に言葉を紡ぐ。
「諦められると思ったけど、無理だった。
これからも婚約者として、妻として、ずっと俺の隣にいて欲しい。
俺はきっと、アンジェリーナじゃないと、ダメなんだ」
都合の良い夢みたいだ。
喜びよりも、まだ戸惑いの気持ちの方が大きい。
「嘘・・・、どうして・・・?
エル兄様は、私の事を妹だと思っていたんじゃ・・・・・・」
「・・・妹・・・・・・」
エルヴィーノが苦悶の表情を浮かべる。
「確かに、赤ん坊の頃からずっと、アンジェリーナは俺の可愛い妹だった。
でも、いつの間にか、俺自身も気付かない内に、君を女性として見る様になってしまったんだ。
ゴメン・・・。気持ち悪いよな。
兄みたいな立場だったはずの俺が、君に恋愛感情を持っている、なんて・・・・・・」
(違う。違うよ、気持ち悪くなんかない。
だって、私はずっと────)
「私もっ・・・エル兄様が、好き」
ある決意を胸に、アンジェリーナはエルヴィーノをお茶に誘った。
『納得出来るまでぶつからなければ後悔する』
あの日のカルロスの言葉は、アンジェリーナの心を大きく揺さぶっていた。
エルヴィーノを解放してあげたいという思いも嘘では無い。
だけど、結局は決定的な拒絶を受けるのが怖くて、ずっと逃げていただけなのだという事実に、改めて気付かされた。
(そうよ。ダメで元々だわ。
どうせ逃げるのなら、完全に玉砕してから逃げれば良いじゃない)
帝国に渡ると決めた訳ではないのだが、カルロスの言う様に他国に嫁ぐと言う選択肢もあるのだと思えば、少しだけ気持ちが楽になった。
だが、いざ庭園のテーブルに着いた二人の間には、どことなく普段と違う緊張感が漂っている。
アンジェリーナだけでなくエルヴィーノも、何故か思い詰めた様な表情をしているのだ。
どう切り出そうか悩んでいる間に、口火を切ったのはエルヴィーノの方だった。
「アンジーの方からお茶に誘ってくれるなんて、珍しいね。
何か大事な話があるのかな?
例えば・・・、誰かにプロポーズされたとか」
「・・・・・・っっ!?」
プロポーズという言葉に、先日カルロスから持ち掛けられた求婚紛いの提案を思い出してしまい、アンジェリーナは動揺を隠せなかった。
勿論、今日エルヴィーノをお茶に誘った目的は、求婚された事を相談する為では無いのだが。
「図星か」
そう呟いたエルヴィーノは心なしか悲しそうに見えた。
「アンジーはカルロス殿下の事をどう思っているの?
二人は想い合っている?」
相手が誰かまで予想が当たっている事に、更に動揺してしまう。
一体どこから情報を得ているのか?
完全にエルヴィーノのペースで話が進んでいる。
ここからどうやって告白に持っていけば良いのか分からなくなってしまったアンジェリーナは、取り敢えず問われるがままに答えた。
「・・・・・・カルロス殿下は誠実な方に見えるけど、今の時点ではお互いに特別な感情は無い・・・と、思う。
まだ知り合ったばかりだから、今後の事は分からない」
エルヴィーノは納得した様に小さく頷く。
その表情は、微かに安堵している様にも見えた。
「じゃあ、これ以上、彼との交流を深めないでくれないか」
「えっ?」
エルヴィーノの言葉の真意が分からず、アンジェリーナの頭の中に沢山の疑問符が浮かんだ。
「・・・・・・もしも君が、彼を好きになってしまったのだとしたら、辛くても諦めるべきだと思っていたんだ。
元はと言えば、俺が煮え切らない態度を取り続けていたのが悪いんだから。
でも、まだ間に合うなら彼を・・・・・・
・・・いや、彼だけじゃなくて、俺以外の男を好きにならないで欲しい」
アンジェリーナの瞳が、驚愕に見開かれる。
(今のが愛の告白に聞こえてしまうのは、私の願望のせいなのかしら?)
淡く胸に広がる期待に頬が熱を持ち、鼓動が恐ろしいほどに早くなり始める。
「アンジェリーナ、好きだ」
その瞬間、時が止まった様な気がした。
間違いようも無くはっきりと告げられた言葉を噛み締めて、アンジェリーナの頬に一筋の涙が伝った。
それを親指で優しく拭いながら、エルヴィーノは更に言葉を紡ぐ。
「諦められると思ったけど、無理だった。
これからも婚約者として、妻として、ずっと俺の隣にいて欲しい。
俺はきっと、アンジェリーナじゃないと、ダメなんだ」
都合の良い夢みたいだ。
喜びよりも、まだ戸惑いの気持ちの方が大きい。
「嘘・・・、どうして・・・?
エル兄様は、私の事を妹だと思っていたんじゃ・・・・・・」
「・・・妹・・・・・・」
エルヴィーノが苦悶の表情を浮かべる。
「確かに、赤ん坊の頃からずっと、アンジェリーナは俺の可愛い妹だった。
でも、いつの間にか、俺自身も気付かない内に、君を女性として見る様になってしまったんだ。
ゴメン・・・。気持ち悪いよな。
兄みたいな立場だったはずの俺が、君に恋愛感情を持っている、なんて・・・・・・」
(違う。違うよ、気持ち悪くなんかない。
だって、私はずっと────)
「私もっ・・・エル兄様が、好き」
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