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14 与えられた逃げ道
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「さっきの会話から推察すると、アンジェリーナ王女は婚約者殿の事が好きなんだよね?」
「・・・・・・」
「あー、なんかごめん。
貴女の心に無理矢理土足で踏み込むつもりは無いんだけど、偶然話を聞いてしまったのも何かの縁かと思って」
不躾な質問過ぎたかと反省して眉を下げるカルロスに、小さな溜息を漏らしたアンジェリーナは瞳を伏せて口を開いた。
「・・・私は、もうずっと前に振られているのです」
「ずっと前って事は、子供の頃って事なのかな?
だとすれば、その頃は恋愛感情が持てなかったとしても、今は違うかもしれないよ」
「私も再三そう言っているんですがねぇ」
カルロスの言葉に、マリエッタもウンウンと深く頷く。
アンジェリーナだって、そう考えた事が無い訳ではないのだが。
「でも、期待してそれが裏切られるのを想像すると・・・、怖くて」
振られた相手に懲りずにアタック出来るほど、アンジェリーナはアグレッシブなタイプではないのだ。
「いやいや、昨日の夜会で私と貴女がダンスをしている時の、彼の顔を見た?
視線だけで殺されるんじゃ無いかと思ったよ」
「あの人は過保護なんですよ」
「あれは保護者の範疇を超えてると思うんだけど。
うーん・・・・・・、お互いにだいぶ拗らせてるんだな」
苦笑するカルロスに、マリエッタが再び深く頷く。
少し考え込む様子を見せたカルロスは、徐に口を開いた。
「だけど・・・・・・、諦めるにしても、納得出来るまでぶつかって玉砕しなければ、きっと貴女も後悔するんじゃないかな」
カルロスのどこか憂いを帯びた様な表情が、アンジェリーナの胸を突いた。
この自信たっぷりに見える男にも、報われない恋に嘆いた過去があるのかもしれない。
「それは、経験談かしら?」
「・・・さあね。
じゃあ、こういうのはどうかな?
婚約者殿に告白して、もしも振られてしまったら、私が貴女を帝国に攫ってあげよう。
そうすれば、告白によって関係が拗れても顔を合わせなくて済むだろう?」
カルロスはつい先程までの憂いを綺麗に消し去って、名案だとばかりに笑みを深める。
その提案にアンジェリーナは首を傾げた。
「私を帝国に連れ帰るのですか?
何の為に?」
「・・・そう来たか。
アンジェリーナ王女は鈍いんだな。
妃にする為に決まってるだろう?」
「妃?」
「そう」
「私が?」
「そう」
「カルロス殿下の?」
「他に誰がいるの?」
思いもよらなかった提案に、アンジェリーナの頭は混乱を極めた。
「・・・え、でも、あの、それって何かカルロス殿下に利点がありますか?」
「私も周囲から、そろそろ結婚しろってうるさく言われてるんだよね。
異国の美姫を連れて帰れば喜ばれるだろう」
(美姫?・・・では、ないと思うのだけど。
それに・・・・・・)
「カルロス殿下は、私に不名誉なあだ名がある事はご存知ですか?」
「ああ、あの胸糞悪い呼び名か?」
カルロスは不快そうに眉根を寄せた。
どうやらアンジェリーナが『お荷物』と言われている事は知っている様だ。
「気にする事はない。
王国を出てしまえば、貴女の美しいペリドットの瞳を悪く言う者などいないのだから。
それに、昨日ダンスを踊って思ったんだけど、貴女の魔力の波動は私にとって心地良い」
アンジェリーナにはまだよく分からないが、魔術を極めると他人の魔力の波動を感じられると言う話は聞いた事があった。
魔術師の中には、それによって自分と他者との相性を判断する者もいるらしい。
アンジェリーナの波動がカルロスにとって心地良いと言うのならば、即ち二人の相性が良いと言う事だ。
「・・・・・・それは、光栄ですが・・・」
「急な話で戸惑っているだろうから、直ぐには答えを求めない。
ゆっくり考えてみて」
爽やかに手を振って去って行くカルロスを呆然と見送ったアンジェリーナは、独り言の様にポツリと呟く。
「・・・・・・今の話って、もしかして半分くらい求婚だった?」
「もしかしなくても、八割くらい求婚だったと思うわよ。
良いんじゃない?カルロス殿下。
噂に違わぬ美しい方だったし、ヘタレなエルヴィーノ様よりも良いかも」
マリエッタはニヤニヤしながら答えた。
「エル兄様は、ヘタレじゃないもん」
「・・・恋は盲目ね」
呆れを含んで小さく零れたマリエッタの言葉は、アンジェリーナの耳には入らなかった。
「・・・・・・」
「あー、なんかごめん。
貴女の心に無理矢理土足で踏み込むつもりは無いんだけど、偶然話を聞いてしまったのも何かの縁かと思って」
不躾な質問過ぎたかと反省して眉を下げるカルロスに、小さな溜息を漏らしたアンジェリーナは瞳を伏せて口を開いた。
「・・・私は、もうずっと前に振られているのです」
「ずっと前って事は、子供の頃って事なのかな?
だとすれば、その頃は恋愛感情が持てなかったとしても、今は違うかもしれないよ」
「私も再三そう言っているんですがねぇ」
カルロスの言葉に、マリエッタもウンウンと深く頷く。
アンジェリーナだって、そう考えた事が無い訳ではないのだが。
「でも、期待してそれが裏切られるのを想像すると・・・、怖くて」
振られた相手に懲りずにアタック出来るほど、アンジェリーナはアグレッシブなタイプではないのだ。
「いやいや、昨日の夜会で私と貴女がダンスをしている時の、彼の顔を見た?
視線だけで殺されるんじゃ無いかと思ったよ」
「あの人は過保護なんですよ」
「あれは保護者の範疇を超えてると思うんだけど。
うーん・・・・・・、お互いにだいぶ拗らせてるんだな」
苦笑するカルロスに、マリエッタが再び深く頷く。
少し考え込む様子を見せたカルロスは、徐に口を開いた。
「だけど・・・・・・、諦めるにしても、納得出来るまでぶつかって玉砕しなければ、きっと貴女も後悔するんじゃないかな」
カルロスのどこか憂いを帯びた様な表情が、アンジェリーナの胸を突いた。
この自信たっぷりに見える男にも、報われない恋に嘆いた過去があるのかもしれない。
「それは、経験談かしら?」
「・・・さあね。
じゃあ、こういうのはどうかな?
婚約者殿に告白して、もしも振られてしまったら、私が貴女を帝国に攫ってあげよう。
そうすれば、告白によって関係が拗れても顔を合わせなくて済むだろう?」
カルロスはつい先程までの憂いを綺麗に消し去って、名案だとばかりに笑みを深める。
その提案にアンジェリーナは首を傾げた。
「私を帝国に連れ帰るのですか?
何の為に?」
「・・・そう来たか。
アンジェリーナ王女は鈍いんだな。
妃にする為に決まってるだろう?」
「妃?」
「そう」
「私が?」
「そう」
「カルロス殿下の?」
「他に誰がいるの?」
思いもよらなかった提案に、アンジェリーナの頭は混乱を極めた。
「・・・え、でも、あの、それって何かカルロス殿下に利点がありますか?」
「私も周囲から、そろそろ結婚しろってうるさく言われてるんだよね。
異国の美姫を連れて帰れば喜ばれるだろう」
(美姫?・・・では、ないと思うのだけど。
それに・・・・・・)
「カルロス殿下は、私に不名誉なあだ名がある事はご存知ですか?」
「ああ、あの胸糞悪い呼び名か?」
カルロスは不快そうに眉根を寄せた。
どうやらアンジェリーナが『お荷物』と言われている事は知っている様だ。
「気にする事はない。
王国を出てしまえば、貴女の美しいペリドットの瞳を悪く言う者などいないのだから。
それに、昨日ダンスを踊って思ったんだけど、貴女の魔力の波動は私にとって心地良い」
アンジェリーナにはまだよく分からないが、魔術を極めると他人の魔力の波動を感じられると言う話は聞いた事があった。
魔術師の中には、それによって自分と他者との相性を判断する者もいるらしい。
アンジェリーナの波動がカルロスにとって心地良いと言うのならば、即ち二人の相性が良いと言う事だ。
「・・・・・・それは、光栄ですが・・・」
「急な話で戸惑っているだろうから、直ぐには答えを求めない。
ゆっくり考えてみて」
爽やかに手を振って去って行くカルロスを呆然と見送ったアンジェリーナは、独り言の様にポツリと呟く。
「・・・・・・今の話って、もしかして半分くらい求婚だった?」
「もしかしなくても、八割くらい求婚だったと思うわよ。
良いんじゃない?カルロス殿下。
噂に違わぬ美しい方だったし、ヘタレなエルヴィーノ様よりも良いかも」
マリエッタはニヤニヤしながら答えた。
「エル兄様は、ヘタレじゃないもん」
「・・・恋は盲目ね」
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