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13 立ち聞き?

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翌朝、アンジェリーナもまた、重苦しい気持ちを抱えて学園に登校した。
昨夜、夜会の帰りの馬車の中で、エルヴィーノは殆ど口を開かずに窓の外をジッと見詰めていた。

(気付かない内に、何か怒らせる様な事をしてしまったのかしら?)

理由を尋ねて、自分が悪い部分は謝ろうと考えていたのだが、エルヴィーノは今朝早く王宮に出仕してしまったらしく、まだ仲直りが出来ていない。
思わず溜息をついたアンジェリーナの顔を、マリエッタが心配そうに覗き込んだ。

「何かあった?」

「・・・・・・うん・・・。
お昼休みに話すわ」



その日の昼は学食でテイクアウトのサンドイッチボックスを購入し、校舎裏の小さな庭園で食べる事にした。
裏の庭園は日当たりが良くて暖かく、手入れもしっかりされているのだが、華やかな印象の中庭と比べると地味なので人気が無い。

今も離れたベンチにポツポツと三人ほどの学生がいるくらいで、学園内とは思えない程の静寂に包まれていた。

アンジェリーナ達は、通路の真ん中に背中合わせに設置された二台の長いベンチの片方に腰を下ろし、食事をしながら話し始めた。


「良いじゃ無いの、仲直りしなくても。
本気で婚約を解消したいのなら、貴女達、少しは距離を置くべきよ」

落ち込んでいる理由について問い質したマリエッタは、事も無気にそう言った。

「だけど・・・」

「だけどじゃないわよ。
どうせ、婚活も進んでいないのでしょう?」

「うん。やっぱり難しい。
失恋を忘れる為には次の恋をするのが一番だと思っていたけど、新しい婚約者を探して婚約を解消するより、一人で生きて行くのを考えた方が現実的な気がして来た」

強過ぎる魔力を持ったアンジェリーナはなかなか魔力制御が上手くいかず、魔術の習得に思ったより時間がかかっている。
しかし、遅くとも学園の卒業迄には攻撃も防御もある程度は身につくだろうと言われており、そうなれば婚家に守って貰う必要はなくなる。
また、アンジェリーナの投資は相変わらず順調で、金銭面においても一人で生きて行くのに問題は無い。

「確かに、最近は結婚をしない女性も増えて来たけれど・・・・・・。
アンジーはそれで良いの?
貴女、やっぱりまだ・・・・・・」

「面白い話をしているね」

マリエッタの台詞を遮る様に、背後のベンチから声が掛けられて、二人はビクッと肩を震わせた。
背もたれに隠れて見えなかったが、背中合わせのベンチの裏側で昼寝をしていた人物が居たらしく、気付かなかった二人が反対側に座って話し始めてしまったのだ。

恐る恐る振り返った二人には、ニコニコと微笑む赤い瞳が向けられていた。

「カルロス皇子、殿下・・・・・・」

「アンジェリーナ王女の婚約は、王女を守る為のフェイクだって噂は本当なんだね」

「あの、殿下、そのお話は・・・」

「分かってる。
言いふらしたりはしないから、心配しないで。
ごめんね、立ち聞きするつもりじゃなかったんだけど・・・」

「いいえ」

気まずそうに笑うカルロスに、アンジェリーナは首を横に振った。

(私達の方が、勝手に近くに座って話し始めたのだから、カルロス殿下は寧ろ被害者よね。
・・・・・・ところで、これも立ち聞きって言うのかしら?
立ってないわよね?横たわっていたわよね?)

寝転んだ姿勢から少し体を起こした状態のカルロスを見ながら、アンジェリーナは明後日の方向に思考を巡らせていた。

「ところで、そちらのレディを紹介してくれる?」

麗しの皇子殿下に頬を染めていたマリエッタを紹介し、二人は挨拶を済ませた。


「カルロス殿下は、何故こちらに?」

「学園の魔術の授業の視察に来ていて、ちょっと休憩中」

「でも、帝国ではギルランダ王国よりもずっと魔術は盛んですよね?」

「ああ。だが、義務教育では教えていないんだ。
帝国民は他の国の民よりも魔力量が多い。
だからこそ、魔術の基本教育は家庭で行われる物なんだよ。
魔術師を目指す者向けの専門学校はあるが、義務教育のカリキュラムに魔術は含まれていないんだ。
だけど、最近は家庭での教育を疎かにする親が多くてね。
若者が魔力を暴走させる事例が増えているんだ」

「ああ、それで帝国でも魔術の授業を行おうとしているんですね」

「そう。だから視察を。
ところで、アンジェリーナ王女の婚約の件に話を戻すけど・・・・・・」

(それはもう忘れて良いのにっっ!!)

せっかく話を逸らす事に成功したと思ったのに、デリケートな話題を蒸し返されたアンジェリーナは、遠い目になった。
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