26 / 32
26 意外な捜査責任者
しおりを挟む
次の週末。
私はフィルに連れられて、王宮を訪れていた。
警備の騎士に案内されて、足を踏み入れたのは、王族の居住区にある応接室。
信じられないくらいフカフカのソファーに腰を下ろした私は、緊張して落ち着きなく視線を彷徨わせる。
王族の血が流れているフィルは、この場所にも頻繁に訪れているのか、ゆったりと脚を組んで、自分の家の様にリラックスした様子だった。
素晴らしい香りの紅茶を頂きながら、暫く待っていると、ガチャリと扉が開く音がした。
「やあ、フィリップもディアナ嬢も、よく来たね。
待たせてしまったかな?」
私は咄嗟に立ち上がって礼を取ろうとするが、フィルに止められた。
「今はプライベートだから、畏まらなくて良い」
「それは、私の台詞だろうが」
苦笑いでフィルを窘めながら、私達の向いの席に着いたのは、第三王子、ジョシュア殿下だ。
「ディアナ嬢と挨拶をするのは初めてだね」
「はい。
初めまして、ディアナ・エイヴォリーと申します」
「ローズと仲良くしてくれているんだって?
彼女は、いつも楽しそうに君の話をしている。
これからも、宜しく頼む」
殿下は人の良さそうな笑みを浮かべる。
王子殿下に婚約者を宜しく頼むと言われるなんて、恐れ多くて手が震える。
「こちらこそ、ローズ様にはいつもお世話になっております」
「で?
今日は詐欺集団に関して、情報提供があるんだって?」
私達は、先日リリーから齎された情報をジョシュア殿下にお話しした。
勿論、時間を巻き戻った部分は伏せた状態で。
フィルに聞いたのだが、ジョシュア殿下はなんとこの若さで、組織犯罪の捜査を指揮しているらしい。
王子である彼が、何故その様な危険な事をしているのかと言うと、その切っ掛けは一年ほど前の国内で起きた大事件にあるという。
一部の馬鹿な貴族達が、王太子殿下を害して第二王子殿下を祭り上げようとしたのだ。
王太子殿下は清廉潔白な人物で、数々の不正を正して来た。
それを脅威に感じた後ろ暗い人物達の謀略であった。
この国の三人の王子達は皆んな仲が良く、第二王子殿下は、勿論王位の簒奪などは望んでいない。
私利私欲に走った者達の暴走だ。
そして、いち早くその謀略に気付いて、愚か者達の罪を次々と暴いて行ったのは、当時十七歳だった第三王子ジョシュア殿下だったのだ。
その時の経験にやり甲斐を感じた殿下は、犯罪捜査に携わる事を希望。
陛下も、彼にその才があることを認め、捜査を指揮する事を許した。
ただ、これはごく一部の人間しか知らない機密事項である。
フィルにこの話を聞いた時には、只の子爵令嬢である私が知っていいのか?とガクブルした。
フィルは『良いの良いの』と簡単に言っていたけど・・・。
「成る程ね。
バークレイ侯爵家は黒だったみたいだな」
ジョシュア殿下は、私たちの話を聞いて眉根を寄せた。
殿下の元には、絵画の贋作を売りつけられた貴族が沢山いるらしいと言う情報は入っていたみたい。
でも、贋作を掴まされたと言う事は、審美眼が無かったと言う事なので、貴族にとっては恥である。
だから、被害者はなかなか証言したがらない。
漸く幾つかの証言を得る事が出来ても、手掛けた画廊も騙されて贋作と気付かずに売ってしまったという可能性もあり、なかなか捜査が進まない。
美術品詐欺とは、その全容を解明しにくい、なかなか厄介な犯罪なのだ。
贋作を扱っていた幾つかの画廊の中に、バークレイ侯爵家の画廊も入っていたらしく、目を付けてはいたそうなのだが。
「でも、まだ具体的な証拠が無いんだよなぁ。
客を装って画廊に潜入捜査をかけるのが一番簡単なんだけど、適した人材が居なくてね。
出来れば、絵画にある程度詳しいが、一見するとそうは見えない者が良いんだけど・・・。
私の手駒の中で美術品に詳しい者は、皆んな見るからに鑑定士っぽい奴ばかりなんだよ」
困り顔のジョシュア殿下に、私はおずおずと控え目に手を挙げた。
「あのー、それでしたら・・・・・・ムグッ」
最後まで発言させまいと、大きな手が私の口元を覆う。
「駄目だよディア」
「フィリップ、手を離せ。
ディアナ嬢、続きを」
「断る」
「フィリップ、命令だ」
ジョシュア殿下に呆れた視線を向けられて、フィルは渋々私の口元から手を離した。
王子殿下に『命令』と言われれば、いくらフィルでも逆らう事など出来ない。
私はフィルに連れられて、王宮を訪れていた。
警備の騎士に案内されて、足を踏み入れたのは、王族の居住区にある応接室。
信じられないくらいフカフカのソファーに腰を下ろした私は、緊張して落ち着きなく視線を彷徨わせる。
王族の血が流れているフィルは、この場所にも頻繁に訪れているのか、ゆったりと脚を組んで、自分の家の様にリラックスした様子だった。
素晴らしい香りの紅茶を頂きながら、暫く待っていると、ガチャリと扉が開く音がした。
「やあ、フィリップもディアナ嬢も、よく来たね。
待たせてしまったかな?」
私は咄嗟に立ち上がって礼を取ろうとするが、フィルに止められた。
「今はプライベートだから、畏まらなくて良い」
「それは、私の台詞だろうが」
苦笑いでフィルを窘めながら、私達の向いの席に着いたのは、第三王子、ジョシュア殿下だ。
「ディアナ嬢と挨拶をするのは初めてだね」
「はい。
初めまして、ディアナ・エイヴォリーと申します」
「ローズと仲良くしてくれているんだって?
彼女は、いつも楽しそうに君の話をしている。
これからも、宜しく頼む」
殿下は人の良さそうな笑みを浮かべる。
王子殿下に婚約者を宜しく頼むと言われるなんて、恐れ多くて手が震える。
「こちらこそ、ローズ様にはいつもお世話になっております」
「で?
今日は詐欺集団に関して、情報提供があるんだって?」
私達は、先日リリーから齎された情報をジョシュア殿下にお話しした。
勿論、時間を巻き戻った部分は伏せた状態で。
フィルに聞いたのだが、ジョシュア殿下はなんとこの若さで、組織犯罪の捜査を指揮しているらしい。
王子である彼が、何故その様な危険な事をしているのかと言うと、その切っ掛けは一年ほど前の国内で起きた大事件にあるという。
一部の馬鹿な貴族達が、王太子殿下を害して第二王子殿下を祭り上げようとしたのだ。
王太子殿下は清廉潔白な人物で、数々の不正を正して来た。
それを脅威に感じた後ろ暗い人物達の謀略であった。
この国の三人の王子達は皆んな仲が良く、第二王子殿下は、勿論王位の簒奪などは望んでいない。
私利私欲に走った者達の暴走だ。
そして、いち早くその謀略に気付いて、愚か者達の罪を次々と暴いて行ったのは、当時十七歳だった第三王子ジョシュア殿下だったのだ。
その時の経験にやり甲斐を感じた殿下は、犯罪捜査に携わる事を希望。
陛下も、彼にその才があることを認め、捜査を指揮する事を許した。
ただ、これはごく一部の人間しか知らない機密事項である。
フィルにこの話を聞いた時には、只の子爵令嬢である私が知っていいのか?とガクブルした。
フィルは『良いの良いの』と簡単に言っていたけど・・・。
「成る程ね。
バークレイ侯爵家は黒だったみたいだな」
ジョシュア殿下は、私たちの話を聞いて眉根を寄せた。
殿下の元には、絵画の贋作を売りつけられた貴族が沢山いるらしいと言う情報は入っていたみたい。
でも、贋作を掴まされたと言う事は、審美眼が無かったと言う事なので、貴族にとっては恥である。
だから、被害者はなかなか証言したがらない。
漸く幾つかの証言を得る事が出来ても、手掛けた画廊も騙されて贋作と気付かずに売ってしまったという可能性もあり、なかなか捜査が進まない。
美術品詐欺とは、その全容を解明しにくい、なかなか厄介な犯罪なのだ。
贋作を扱っていた幾つかの画廊の中に、バークレイ侯爵家の画廊も入っていたらしく、目を付けてはいたそうなのだが。
「でも、まだ具体的な証拠が無いんだよなぁ。
客を装って画廊に潜入捜査をかけるのが一番簡単なんだけど、適した人材が居なくてね。
出来れば、絵画にある程度詳しいが、一見するとそうは見えない者が良いんだけど・・・。
私の手駒の中で美術品に詳しい者は、皆んな見るからに鑑定士っぽい奴ばかりなんだよ」
困り顔のジョシュア殿下に、私はおずおずと控え目に手を挙げた。
「あのー、それでしたら・・・・・・ムグッ」
最後まで発言させまいと、大きな手が私の口元を覆う。
「駄目だよディア」
「フィリップ、手を離せ。
ディアナ嬢、続きを」
「断る」
「フィリップ、命令だ」
ジョシュア殿下に呆れた視線を向けられて、フィルは渋々私の口元から手を離した。
王子殿下に『命令』と言われれば、いくらフィルでも逆らう事など出来ない。
161
お気に入りに追加
4,802
あなたにおすすめの小説
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
旦那様に離婚を突きつけられて身を引きましたが妊娠していました。
ゆらゆらぎ
恋愛
ある日、平民出身である侯爵夫人カトリーナは辺境へ行って二ヶ月間会っていない夫、ランドロフから執事を通して離縁届を突きつけられる。元の身分の差を考え気持ちを残しながらも大人しく身を引いたカトリーナ。
実家に戻り、兄の隣国行きについていくことになったが隣国アスファルタ王国に向かう旅の途中、急激に体調を崩したカトリーナは医師の診察を受けることに。
嫌われ者の側妃はのんびり暮らしたい
風見ゆうみ
恋愛
「オレのタイプじゃないんだよ。地味過ぎて顔も見たくない。だから、お前は側妃だ」
顔だけは良い皇帝陛下は、自らが正妃にしたいと希望した私を側妃にして別宮に送り、正妃は私の妹にすると言う。
裏表のあるの妹のお世話はもううんざり!
側妃は私以外にもいるし、面倒なことは任せて、私はのんびり自由に暮らすわ!
そう思っていたのに、別宮には皇帝陛下の腹違いの弟や、他の側妃とのトラブルはあるし、それだけでなく皇帝陛下は私を妹の毒見役に指定してきて――
それって側妃がやることじゃないでしょう!?
※のんびり暮らしたかった側妃がなんだかんだあって、のんびりできなかったけれど幸せにはなるお話です。
【完結】どうかその想いが実りますように
おもち。
恋愛
婚約者が私ではない別の女性を愛しているのは知っている。お互い恋愛感情はないけど信頼関係は築けていると思っていたのは私の独りよがりだったみたい。
学園では『愛し合う恋人の仲を引き裂くお飾りの婚約者』と陰で言われているのは分かってる。
いつまでも貴方を私に縛り付けていては可哀想だわ、だから私から貴方を解放します。
貴方のその想いが実りますように……
もう私には願う事しかできないから。
※ざまぁは薄味となっております。(当社比)もしかしたらざまぁですらないかもしれません。汗
お読みいただく際ご注意くださいませ。
※完結保証。全10話+番外編1話です。
※番外編2話追加しました。
※こちらの作品は「小説家になろう」、「カクヨム」にも掲載しています。
たとえ番でないとしても
豆狸
恋愛
「ディアナ王女、私が君を愛することはない。私の番は彼女、サギニなのだから」
「違います!」
私は叫ばずにはいられませんでした。
「その方ではありません! 竜王ニコラオス陛下の番は私です!」
──番だと叫ぶ言葉を聞いてもらえなかった花嫁の話です。
※1/4、短編→長編に変更しました。
そんなにその方が気になるなら、どうぞずっと一緒にいて下さい。私は二度とあなたとは関わりませんので……。
しげむろ ゆうき
恋愛
男爵令嬢と仲良くする婚約者に、何度注意しても聞いてくれない
そして、ある日、婚約者のある言葉を聞き、私はつい言ってしまうのだった
全五話
※ホラー無し
【完結】愛に裏切られた私と、愛を諦めなかった元夫
紫崎 藍華
恋愛
政略結婚だったにも関わらず、スティーヴンはイルマに浮気し、妻のミシェルを捨てた。
スティーヴンは政略結婚の重要性を理解できていなかった。
そのような男の愛が許されるはずないのだが、彼は愛を貫いた。
捨てられたミシェルも貴族という立場に翻弄されつつも、一つの答えを見出した。
旦那様は離縁をお望みでしょうか
村上かおり
恋愛
ルーベンス子爵家の三女、バーバラはアルトワイス伯爵家の次男であるリカルドと22歳の時に結婚した。
けれど最初の顔合わせの時から、リカルドは不機嫌丸出しで、王都に来てもバーバラを家に一人残して帰ってくる事もなかった。
バーバラは行き遅れと言われていた自分との政略結婚が気に入らないだろうと思いつつも、いずれはリカルドともいい関係を築けるのではないかと待ち続けていたが。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる