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23 打ち明け話
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フィルに横抱きにされたまま、馬車まで運ばれた。
御者に頼んで、このまま二人とも早退すると学園側に伝えてもらった。
私は自分が思っていた以上に恐怖を感じていたらしく、暫く体の震えが止まらなかった。
フィルは私が落ち着くまでずっと、心配そうに私の手や肩をさすってくれた。
「ごめんね、ディア。
学園内だからって油断してた。
もう二度と、アイツを君に近付かせない。
指一本触れさせない。
だから、もう大丈夫だよ」
繰り返される謝罪の言葉に、少しづつ落ち着きを取り戻して行く。
「ありがとう、フィル。
いつもご迷惑ばかりおかけして、ごめんなさい」
「ディアが謝る事は無い。
だけど・・・、そうだな。
そろそろ、全ての事情を話してくれないか?
さっきの君達の様子は尋常じゃ無かった。
アイツの表情からは、君への強い執着がハッキリと感じられたし、君も必要以上に怯えている様に見えた。
何か理由があるのだろう?」
これ以上、誤魔化せない。
いや、誤魔化したく無い。
私の事を本気で心配して、護ろうとしてくれるこの人に、嘘をついたり隠し事をしたく無いと思った。
例え、私の頭がおかしいと思われても。
「・・・・・・実は私、一度死んで、時を遡ったのです」
「はあぁ!?」
私はフィルに、今迄の経緯をザックリと説明した。
最初の人生で、十三歳の時にバークレイ侯爵家のゴリ押しにより、無理矢理マーティン様と婚約させられた事。
お飾りの妻として四年近くを過ごし、婚姻無効の申請をしようとしていた事。
突然押しかけて来たマーティン様に突き飛ばされて、階段から落ちた事。
意識を失って、死んだのだと思ったのに、目を覚ましたら子爵家のベッドの上だった事。
マーティン様と婚約をする一月前まで時間が戻っていた事。
私の馬鹿みたいな話を、フィルは相槌一つ打たずに、ジッと真面目な顔で聞いていた。
「───と、言う事なんですけど・・・。
やっぱり、私の気が触れてるのだと思いますか?」
黙ったままのフィルの様子に不安になって、上目遣いで問うと、そっと優しく手を握られた。
「・・・・・・いや。
正直、余りに突拍子も無い話だったから、すぐに全てを信じ切る事は難しいが・・・。
ディアがおかしくなったなんて思わない。
それに、その話が事実だとした方が、辻褄が合う事が多い。
侯爵家からの縁談を君が事前に知ってた事とか、ウチの領地の橋の件や、その後本当に来た大型台風の事。
マーティン殿の君への執着も。
子爵令嬢の君が、その身分に釣り合わない様な所作や教養を身につけている事も。
だから、ただの作り話とか妄想だとかは思えないんだ」
彼の言葉を聞いている内に、次から次へと涙が溢れ出した。
(ああ、こんな馬鹿な話を真剣に聞いてくれる人がいるなんて・・・・・・)
フィルはハンカチを取り出すと、私の頬を優しく拭った。
「ディア、泣かないで。
ずっと、独りで辛かったね。
もう大丈夫。僕がいるよ」
その言葉に、益々涙が溢れた事は言うまでも無い。
気が付くと、馬車は既に子爵家の前に着いていた。
もしかすると随分前に到着して、私が泣き止むのを待っていたのかもしれない。
私は涙を止めて、呼吸を整えてから、フィルのエスコートで馬車を降りた。
すると、門の辺りから何やら言い争う声が聞こえて来た。
「お願いします。
一目だけでいいんです、こちらの家のお嬢様に会わせてください!」
「無理に決まってるだろう!
サッサと帰れ!」
馬車の影からヒョイっと顔を出すと、門兵と揉めていた女性と目が合った。
その女性が、嬉しそうに叫ぶ。
「若奥様っっ!!」
「えっ?リリー!?
なんでこんな所にいるの?」
御者に頼んで、このまま二人とも早退すると学園側に伝えてもらった。
私は自分が思っていた以上に恐怖を感じていたらしく、暫く体の震えが止まらなかった。
フィルは私が落ち着くまでずっと、心配そうに私の手や肩をさすってくれた。
「ごめんね、ディア。
学園内だからって油断してた。
もう二度と、アイツを君に近付かせない。
指一本触れさせない。
だから、もう大丈夫だよ」
繰り返される謝罪の言葉に、少しづつ落ち着きを取り戻して行く。
「ありがとう、フィル。
いつもご迷惑ばかりおかけして、ごめんなさい」
「ディアが謝る事は無い。
だけど・・・、そうだな。
そろそろ、全ての事情を話してくれないか?
さっきの君達の様子は尋常じゃ無かった。
アイツの表情からは、君への強い執着がハッキリと感じられたし、君も必要以上に怯えている様に見えた。
何か理由があるのだろう?」
これ以上、誤魔化せない。
いや、誤魔化したく無い。
私の事を本気で心配して、護ろうとしてくれるこの人に、嘘をついたり隠し事をしたく無いと思った。
例え、私の頭がおかしいと思われても。
「・・・・・・実は私、一度死んで、時を遡ったのです」
「はあぁ!?」
私はフィルに、今迄の経緯をザックリと説明した。
最初の人生で、十三歳の時にバークレイ侯爵家のゴリ押しにより、無理矢理マーティン様と婚約させられた事。
お飾りの妻として四年近くを過ごし、婚姻無効の申請をしようとしていた事。
突然押しかけて来たマーティン様に突き飛ばされて、階段から落ちた事。
意識を失って、死んだのだと思ったのに、目を覚ましたら子爵家のベッドの上だった事。
マーティン様と婚約をする一月前まで時間が戻っていた事。
私の馬鹿みたいな話を、フィルは相槌一つ打たずに、ジッと真面目な顔で聞いていた。
「───と、言う事なんですけど・・・。
やっぱり、私の気が触れてるのだと思いますか?」
黙ったままのフィルの様子に不安になって、上目遣いで問うと、そっと優しく手を握られた。
「・・・・・・いや。
正直、余りに突拍子も無い話だったから、すぐに全てを信じ切る事は難しいが・・・。
ディアがおかしくなったなんて思わない。
それに、その話が事実だとした方が、辻褄が合う事が多い。
侯爵家からの縁談を君が事前に知ってた事とか、ウチの領地の橋の件や、その後本当に来た大型台風の事。
マーティン殿の君への執着も。
子爵令嬢の君が、その身分に釣り合わない様な所作や教養を身につけている事も。
だから、ただの作り話とか妄想だとかは思えないんだ」
彼の言葉を聞いている内に、次から次へと涙が溢れ出した。
(ああ、こんな馬鹿な話を真剣に聞いてくれる人がいるなんて・・・・・・)
フィルはハンカチを取り出すと、私の頬を優しく拭った。
「ディア、泣かないで。
ずっと、独りで辛かったね。
もう大丈夫。僕がいるよ」
その言葉に、益々涙が溢れた事は言うまでも無い。
気が付くと、馬車は既に子爵家の前に着いていた。
もしかすると随分前に到着して、私が泣き止むのを待っていたのかもしれない。
私は涙を止めて、呼吸を整えてから、フィルのエスコートで馬車を降りた。
すると、門の辺りから何やら言い争う声が聞こえて来た。
「お願いします。
一目だけでいいんです、こちらの家のお嬢様に会わせてください!」
「無理に決まってるだろう!
サッサと帰れ!」
馬車の影からヒョイっと顔を出すと、門兵と揉めていた女性と目が合った。
その女性が、嬉しそうに叫ぶ。
「若奥様っっ!!」
「えっ?リリー!?
なんでこんな所にいるの?」
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