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49 それを愛と呼ぶのなら

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 フゥッと小さく息を吐いて、私は彼の間違いを正す為に口を開いた。

「私が貴方との別れを決めたのは、クラリス王女との関係を疑ったせいなどではありません。
 もっと、根本的な問題なのです」

「根本的な、問題?」

「ええ。貴方への愛と信頼を失ったからですよ」

 私だって貴族の家に生まれたのだから、政略結婚は当たり前だと思っていた。
 そこに愛が生まれなかったとしても、仕方が無い事なのだろうと覚悟をしていたのだ。
 だから愛情を無くしたからと言って、それが直ぐに別れには繋がらない。
 だけど、せめて愛が無くとも信頼出来る相手と共にありたいと願うのは、贅沢な事では無いはずだ。

 恋心が消えた時、改めて客観的にジェフリーのそれまでの対応を思い返した私は、彼を不誠実な人だと思った。
 そんな人を信頼する事など出来ない。共に生きる事など出来ない。

「……何故?
 君は、僕を愛していると言ってくれていたじゃ無いか。
 僕もずっと君を愛してきたのに……」

 私を愛していたと言うの?
 あの態度で?

「そう……。貴方にとって、あれは愛だったのね」

 大きな溜息が出そうになるのを押し殺す。
 私にはとても理解し難いけれど、考え方は人それぞれという事なのだろう。


「確かに、貴方は私に優しかったわ。
 私が傷付いた時は、いつも慰めてくれた」

「それじゃあ……っ」

「でも、それだけだったでしょう?
 貴方が、私を守ろうとしてくれた事は、一度も無かった」

 ジェフリーを好きだった頃も、ずっと心に何かが引っ掛かっていた。
 朧げだったその気持ちの正体は、ウィルと恋をして彼に大切に扱われる度に、どんどんハッキリと姿を現した。


 私を愛していると言うのなら、私に向けられた理不尽な悪意に怒って欲しいと、ずっと心の何処かで思っていたのだ。
 影で私を慰めるだけじゃなくて、ちゃんと怒って、私が大事なのだと周囲にも私自身にも、ハッキリと示して欲しかった。

 ウィルが、そうしてくれた様に。

 そう思うのは、我儘なのだろうか?
 もしかしたら、ジェフリーにとってはアレが愛情表現だったのかもしれないけれど……

 それが愛なら、私は要らない。


「それなら…、守って欲しいと思っていたのなら、そう言ってくれれば僕だって……」

「ええ、『庇って欲しい』『守って欲しい』と、私がお願いしたのなら、お優しい貴方はそうしてくれたのかもしれませんね。
 でも、それではダメなのです。
 私が望むからでは無く、貴方が望んでそうしてくれるのでなければ全く何の意味も無い。
 私が欲しかったのは、私を守りたいと、傷付いて欲しくないと、願ってくれる気持ちなのですから」


 私の言葉に戸惑い、目を泳がせている彼は、まるで迷子の子供みたいだった。

「別に貴方の愛情表現の方法を否定するつもりはありませんよ。
 愛情の形なんて人それぞれですから、間違っているとか、間違ってないとか、一概には言えないと思うのです。
 貴方の愛の形を望んでくれる女性もどこかに居るのかもしれませんし。
 ただ……、私とは、合わなかった」

 そう、ただ、それだけの事───。

「だから、どうぞ、貴方の愛し方を受け入れてくれる誰かを見つけて下さい」

「君は、今、幸せなの?」

 消え入りそうな声で問い掛ける彼に、心からの笑みで答える。

「ええ。とても。
 夫と出会えた事が、私の人生で最大の幸運でした」

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